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妄想し過ぎてポカをする。見事なり先生。
だけど、へこんでばかりもいられない。ビスマルク包囲網を完成させるべく、主人公は頑張るのだ――と、気合いを入れようとしたかったのに……。
「むぐぐ……、やっちまった……」
スタッフルームにあるソファーに座りながら、ガックリと肩を落としてへこむ俺。
妄想しまくった挙げ句に変な言葉を叫んでしまい、レーベとマックスに不信感を抱かせてしまったのだから仕方がないのではあるが。
ビスマルクをおとしめる気はなくとも、少しは見直してほしいという思いがあるのに、その段階に行く前から計画が破綻してしまいそうである。
しかし、ここで悔やんでいても始まらない。自分が起こした失敗を修復するべく、新たな手段を考えなければならないのだ。
「とはいえ、どうするかなぁ……」
子供たちの考え方を正す方法には、俺に対する信頼度が必要だ。先程の発言で大幅に下落した可能性は高いが、全く話を聞いてくれないということはないだろう。
発言した内容を伝えて弁解する方法もあるが、信頼の回復と同時に再び責めてくる恐れもある。
何だかんだと言って、あの妄想はかなり危険なモノがあったからね。
「……ん、ということは、今のままがちょうど良いのかもしれないな」
少し距離を開け、恋愛ではなくしっかりとした教育論を教え込む。それを目的としているのなら、今の状態は悪くはないのかもしれない。
信頼度が低いままだというのと、2人が若干引き気味なのは悲しくもあるが、目的のためなら仕方がないだろう。
ここは涙を飲んでビスマルクを一端の教育者に仕立て上げることに専念し、俺が居なくても佐世保幼稚園を潤滑に運営できるようになってほしい。
Mな男性が自分好みのSを作り上げるため、自らの身体を差し出しつつも快楽を得る。なんだかそれと同じように思える……って、この思考はマジで止めないといけないんだけど。
つーか、なんでそんなことを知っているのかとか聞かないように。
まぁ、ネタばらしをすると、そういう趣味を持った友人が居ただけである。
学生時代の、数少ない友人の1人であるが……。
………………。
思い出しただけでへこんできたので、気分転換がてらに缶コーヒーでも買ってくるべきか。
スタッフルーム内にはコーヒーメーカーがある。一時期流行ったカプセル式の物なのだが、どうやらビスマルクの私物らしく、勝手に使うと後が怖い気がするのだ。
「あら、私の物を勝手に使うだなんて……、教育が必要ね」
こんなことを言いながら、教育と称した調教を……。
………………。
だーがーらー、この思考はマジで止めろって思ってたのにー。
ダメだ。完全に毒されている。完全に頭を切り替えないと、無限ループの出来上がりだ。
授業の合間の休憩時間はもう少しあるので、幼稚園の近くにある自動販売機で缶コーヒーを買いに行こうと、俺はスタッフルームを出た。
「……おや?」
自動販売機から缶コーヒーを買って幼稚園へと戻ってきたところで、玄関近くの通路で話している3人の子供たちが見えた。
「レーベとマックス、それにユーか……」
いつも仲良し3人組。プリンツとも仲が良いが、この3人はセットで居ることが多い。
「――それでね、先生は他の人たちとも仲良くなった方が良いって教えてくれたんだ」
「郷に入っては郷に従え……です」
「ユーは難しい言葉を知っているのね」
マックスは感心したような顔を浮かべ、ユーの頭を優しく撫でていた。
「え、えへへ……。ユー、褒められた……。Danke」
嬉しそうにニッコリと微笑むユー。
うむ。
滅茶苦茶可愛い。
3人まとめてお持ち帰りしたい。
ひたすら頭を撫でて笑顔にしてから、3人が好きな料理をふるまって、ニコニコしながらまったりしたい。
……って、別にお持ち帰りしなくても、幼稚園の中ですれば良いだけなんだけれど。
疾しい気持ちは全くないので問題ない。そういうことにしておいてくれ。
そうじゃないと、また厄介なドSが現れちゃうからね。
………………。
全く気分転換できてないんですけど。
「だけど、ちょっと心配なところもあるんだよね」
「……え、ど、どうしたのかな?
レーベの呟きにユーが心配そうな顔をしていた。
もちろん、通路を覗きこむ俺もなんだけど。
「僕は……その、あまりこの国の言葉が上手く使えていない気がするんだ……」
「そ、そう……かな? ちゃんと話せていると思うけど……」
「そうね。たまに詰まったりするところはあるけれど、普通に会話はできているわ」
「Danke……じゃなくて、ありがとね。2人がそう言ってくれると、心強いよ」
小さく息を吐きながら、レーベは緊張を解すように笑みを浮かべた。
……ふむ。
確かに、そのことについて気になってはいた。
この幼稚園に居る子供たち、それにビスマルクも、この国の生まれではない。
かなり勉強をしてきたようだが、時折祖国の言葉が出てくるのはあたりまえなのだ。
しかし、レーベはそれを勉強不足と感じ取っているのではないのだろうか。
そんなことを言ってしまえば、舞鶴にはもっとややこしい喋り方をする子も居るし、この国内でも方言があるのだから気にする必要はないと思うんだけどなぁ……。
特にこっちに居る独特なシルエットの艦娘とかは、イントネーションも微妙に変だし。
それでも伝われば問題ない。むしろ気になるのなら、どんどん話して経験を積んだ方が早いのだが……。
「一歩を踏み出す勇気……か」
俺にも経験があるのだから分かる気がする。
何ごとも、一つ目が肝心なのだ。
そして、それには大きな勇気が必要なときもある。
「何か、俺にできることがあれば良いんだけど……」
レーベが悩んでいるのは、元は俺が言いだしたことが原因だ。子供たちにとって後々役に立つと思ったからだが、心配を取り除いてあげるのは教育者として当然だろう。
「……でも、ちょっとだけ祖国が……懐かしく思っちゃうかな」
苦笑を浮かべたレーベが呟くと、マックスもユーも少しだけ悲しそうな顔をしていた。
………………。
今度はホームシック……だろうか。
俺も過去の事件から家族と別れることになり、自宅を離れて親戚筋を転々としたことを覚えている。
その際、同じような気持ちになったことはあまりなかったが、それ以上の悲しみがあったので分からなかったのかもしれない。
「……少し、考えてみるか」
ここで子供たちの前に出て行って慰める手もあるが、どうせならちゃんと準備をしてからしてあげたい。
俺は色々と頭の中でどうするかを考え、子供たちに気づかれないように反対側の通路からスタッフルームへと戻った。
「あら、お帰りなさい」
スタッフルームに入ると、ビスマルクが俺の姿に気づいて声をかけてくれた。
ちなみにマグカップを持った状態のビスマルクだが、部屋に漂う香りからコーヒーであることが分かる。
……缶コーヒーを買いに行ったのは早計だったのだろうか。
だが、ビスマルクがコーヒーを飲むかどうかは分からなかったし、勝手にコーヒーメーカーを使うことは許されない。見つかったら最後、調教ENDへまっしぐらだ。
「ただいまです」
「休憩時間にいったい、どこに行っていたのかしら?」
「これを買いに行ってたんだけどね」
俺はそう言いながら買ってきた缶コーヒーを見せると、ビスマルクは不思議そうに首を傾げていた。
「わざわざ自動販売機に買いに行かなくても、ここにコーヒーメーカーがあるじゃない」
「いやまぁ、そうなんだけどさ……」
勝手に使って恐ろしい目に会うのは勘弁したいから……と、言う訳にもいかず、俺は言葉を濁しながら先程のことを思い出してビスマルクに問う。
「ところで話は変わるんだけど……」
「ダメよ。まだこっちの話が終わっていないわ」
却下されました。
どれだけ自己中心的なんだと突っ込みたいが、後が怖いので止めておく。
藪をつつくようなことはしないで良いのだ。
「つまりあなたはここにコーヒーメーカーがあることを知っているにもかかわらず、わざわざ幼稚園の外にある缶コーヒーを買いに行った。そういうことよね?」
「そ、そうだけど、それに何か問題が……?」
「ええ、大ありよ。これが問題でなければ、海が真っ二つに裂けてしまうわ」
なんでモーゼなんだよ。
たかが缶コーヒーひとつで海が割れたら、至る所で天変地異が起こりまくるだろうに。
「い、いや、いくらなんでもそれは……」
「どうしてそう言えるのかしら?」
そう言って腕を組みながら胸を張るビスマルク。
むしろ、そこまで自信たっぷりに言えるのが恐ろしい。
「じゃ、じゃあ、あの自動販売機に何か問題でもあるとでも……」
「いいえ、そんなことはないわ。あれは何の変哲もない自動販売機よ」
「それじゃあいったい……」
「まだ分からないのかしら?」
分からないから聞いているんですが――と、思うんだが、そうとも言えずに俺は黙り込む。
一言間違っただけで、ヤバい感じがするんだよなぁ。
早いところこの会話を切り上げて、俺の目的を済ませたいんだけれど……
「仕方がないわね。大サービスで教えてあげるわ」
深いため息を吐いたビスマルクは組んでいた腕を解き、コーヒーメーカーの近くを指差した。
「アレが見えるかしら?」
「アレって……、コーヒーメーカーだよな?」
「そうじゃないわ。その隣にある、小さな瓶の方よ」
ビスマルクが言ったように、コーヒーメーカーのすぐ横に白い粉が入った瓶がある。
「……砂糖の入った瓶があるな」
「それは違うわね。アレはL●Dという、ある薬よ」
「………………は?」
いったいビスマルクは何を言っているんでしょうか?
そんなのがコーヒーメーカーの横に置かれていたら、謝ってコーヒーに入れて飲んじゃいますよね?
つーかそもそも、L●Dって何なんだ……っ!?
「いやいやいや、なんでこんなところに怪しげなモノがあるのっ!?」
「知り合いの憲兵から譲ってもらっただけよ」
「憲兵、何やってんのっ!?」
弾幕が薄いとかいうレベルではない。
「そ、それで……、その薬はいったい何に使うやつなんだ……?」
「……知らないで怒るとはいい度胸ね」
「知らない相手に飲ませようとするのも、どうかと思うんですがっ!?」
「ふふ……。それじゃあおあいこってことで良いじゃない」
全く良くないんですけどねっ!
「まぁ良いわ。折角だからあなたの質問に答えてあげる」
言って、ビスマルクは自分の唇を人挿し指の腹で拭ってから、投げキッスを俺によこしてきた。
むむ……、何やら妖艶な感じに見えて嫌ではないんですが。
「L●Dは、幻覚系向精神薬の一種ね。主に洗脳に使用するために……」
「何つーモノを置いてるんですかーーーっ!」
誤って飲んで良いレベルじゃない! 完全にアカンやつやっ!
そもそもそんなモノを、いったい何に使うつもりだったんだよぉっ!?
「それはもちろん、あなたを調教するためよ」
「勝手に心の中を読んでから発言しないでくれぇぇぇっ!」
完全にガチじゃねえかっ! 一寸先は闇だよっ!
やだあぁぁぁっ! 今すぐ舞鶴に帰るぅぅぅっ!
不能のままは嫌だけど、命には代えられないんだからさあっっっ!
「……とまぁ、全部嘘だけどね」
「性質が悪過ぎる冗談は禁止っ!」
「実は本当」
「どっちなのか分かんないっ!」
「ぶっちゃけた話、私も分からないわ」
「収拾をつけるのが不可能になりましたーーーっ!」
絶叫に続く絶叫をあげる俺を見たビスマルクは、お腹を抱えながら大笑いをしていた。
全くもって洒落になっていないのだが、本当に瓶に入っている白い粉が危ない薬なのか砂糖なのかが分からず、俺は絶対にここでコーヒーを飲むものかと心に誓うのであった。
そして、ふと思い出す。
ここに初めてやってきたとき、ビスマルクからコーヒーを受け取って飲んだことを。
………………。
あ、あのときは何ともなかったから、全て冗談だったってことで良いんだよね……?
それに、俺に薬を飲ませようとするのなら、わざわざバラしたりしないだろうし……。
ほ、本当に……大丈夫だよね……?
何度も頭の中で考えてみるが答えは出ず、肝心のビスマルクは床に転げまわりながら大笑いをしまくっていた。
俺はその間にばれないよう、ビスマルクのコーヒーに少しだけ白い粉を入れてみたのだが、
「あら、さっきより甘いけど……どうしたのかしら?」
そう言って、笑い疲れたビスマルクがグビグビとコーヒーを飲み干すのを見て、全て冗談だったことに気づいたのだった。
まさに、踏んだり蹴ったりである――が、
白い粉が薬だった場合、それはそれで問題になると思えばこれで良かったのだろう。
まさか、薬が効いたビスマルクに何かをするなんてことは……ないと思うからね。
………………。
……チッ、残念。
あ、いや、冗談ですよ?
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次回予告
本当に冗談だったのかはさておいて。
EDになっても相変わらずビスマルクに振り回される主人公だが、めげずに包囲網を完成させるべく、今度はユーとプリンツの授業をするのだが……。
艦娘幼稚園 第二部 第三章
~佐世保鎮守府幼稚園の子供たち 教育編~ その3「どこもかしこも包囲網」
乞うご期待!
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