艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 まな板えもん……ではなく、龍驤と別れた主人公。
なんとか明石の元に辿り着いたのだが、ビスマルクとはまた違った厄介な艦娘であった。



その6「絶対絶命先生」(完)

 

 その後、通りかかった艦娘から話を聞いて明石の居場所を知ることができた俺は、ドックや整備室がある建物の中へとやってきた。その際、やっぱりという感じで艦娘が俺の名札と顔をチラチラと見ていたけれど、すぐさま「根も葉もない噂とは違うからね」と、念を押しておいたおかげで、何とかことなきを得た。

 

 龍驤を泣かしてしまったことが新たな噂にならないことを祈るばかりではあるが、アレは完全に俺の落ち度だから仕方がない。問題はビスマルクの耳にその噂が入ってしまい、俺を調教するとか言い出さないと良いんだけれど。

 

 そんなこんなで、明石が居ると聞いた部屋の前にやってきた。龍驤から気をつけろと言われているので、緊張感を持ったままドアをノックする。

 

「はいはーい。開いてますよー」

 

 許可が出たので、俺は扉をゆっくりと開けて中に入る。すると、明石と思われし艦娘は椅子に座りながら、机の上にあるバインダーとにらめっこをしていた。

 

「……失礼します」

 

「はーい、今日はどうされたのです……って、おや?」

 

 俺の顔を見た明石はピタリと止まり、慌てて別のバインダーを手に取った。

 

「お客さん、見ない顔だけど……学生さん?」

 

「いやいや、鎮守府内に学生って……普通は居ないよね?」

 

「うーん、突っ込みは標準……っと」

 

 そう言いながらメモを取る明石……って、何のチェックなんだ?

 

「それで、先生はどうして明石のところに来たのかな?」

 

「な、なんで俺のことを……って、名札を見れば分かりますか」

 

「まぁそうなんだけど、他にも理由はあったりするんだよねー」

 

「……それって噂の?」

 

「違うよー。ちょっと知り合いから先生の写真を見せてもらったからねー」

 

 言って、なにやら不適な笑みを浮かべる明石。明らかに何かしらの意図を感じるのだが、そもそも俺の写真をどこから入手したのだろうか?

 

 普通に考えればビスマルク辺りからだろうが、写真といえば青葉の顔が即座に浮かんでくる。ただ、どちらにしても写真の思い出はあまり良いものではないので、そこの部分は触れないようにしておこう。

 

「結局のところ、先生がここに来た理由って?」

 

「そのことなんですが、ビスマルクについて少々……」

 

「えっ、なになに、妊娠させちゃったとか?」

 

「ぶふぅーーーっ!?」

 

「いやー、いくら明石は工作艦だったとしても、お産の経験はないんだよねー」

 

「なんでそうなるのーーーっ!?」

 

「えっ……、だって先生はビスマルクの彼氏なんでしょ?」

 

「噂に振りまわされてる可能性はあるかもって思ってたけど、いくらなんでも話が飛び過ぎているっ!」

 

「えー、違うのー? つまんないなぁ……」

 

「なんでがっかりされてるんだーーーっ!」

 

 やばい……っ、青葉以上に性質が悪いぞ……っ!

 

「そっかそっか……。つまり先生はDT……と」

 

「何勝手にメモしてるんですかーーーっ!」

 

「情報は大切だからねー」

 

「青葉と一緒のことを言ってても、対処できる予感が全くしないっ!」

 

「やだなー、青葉ちゃんと一緒にしたらダメだよー。明石は工作艦であって、ゴシップライターじゃないんだからー」

 

 な、何気に酷いことを言ってるぞ……。

 

 別の鎮守府に居る明石にゴシップライターと認識される青葉って、いったいどれだけ顔が広くて、どれだけ迷惑をかけまくってるんだ……?

 

 しかし、龍驤から気をつけろと言われていたのにもかかわらず、完全に明石から口で押し込まれてしまっている俺。警戒をしていたのに情けない話ではあるが、正直に言って勝てるとは思えないぞ……。

 

 まぁ、勝つ気なんてないけどさ。

 

「と、とにかく、ビスマルクについて聞きたいことがあるんですけど良いですか?」

 

「うん、良いよー。初対面の掴みはバッチリだし、ストレス発散にもなったから」

 

 おい……。

 

 よりにもよって、これがストレス発散なのかよ。

 

 しかし、これに対して突っ込みを入れたら明石の思うつぼだろう。俺は話を正常に戻すべく我慢をして、ビスマルクについて聞くことにした。

 

「まず、ビスマルクが艦隊に所属していた頃の話を聞かせて下さい」

 

「その辺は安西提督に聞いた方が早いと思うんだけどー」

 

 いきなり否定されたが、明石の言うことはもっともである。艦隊に所属していたのなら、提督に話を聞くのが一番だ。

 

 まぁ、ビスマルクの上官が安西提督であったという確認ができただけでも良しとするか。

 

「でもまぁ、安西提督も忙しいからねー。明石が知っていることなら話してあげなくもないよー」

 

 話をまとめたと思った途端にこれだよ。

 

 明石は単純に、話している相手を怒らせる技術でも持っているのだろうか。

 

 しかし、ここは我慢だ。

 

「それならお願いします……と、言いたいところなんですが」

 

「んっ、どうしたのかな?」

 

 聞いてきた明石の顔は、明らかに何かを企んでいる。

 

 こいつはヤバいと、俺の直感が囁いている。少佐なら確実に私のゴースト……と、言っているだろう。

 

 俺も色んな艦娘や上官と渡り合ってきたのだ。危険察知くらいできなければ、朝日を拝むことはできないのである。

 

 ………………。

 

 いやまぁ、冗談だけどね。

 

「その顔は嘘をついている……ではなく、何かを企んでいますね?」

 

「んっふっふー。やっぱり分かっちゃいます?」

 

 あんたはどこぞの田舎の刑事かよ……。

 

 もしかして、打ち上げ場所を決めるための麻雀大会とかに参加させる気じゃないだろうな?

 

 ビリになったらバニーさんやブルマばっかりのお店で全額払わなければいけないなんていうルールには賛同しねえぞっ!

 

 もちろん興味がないとは言っていないがなっ!

 

「ちょっと先生にお願いしたいことがあるんだよねー」

 

「こ、ことと場合によりけりだけど……」

 

「そんなに構えなくても大丈夫だよー。ちょっとだけ実験台になってくれれば良いんですから」

 

「じ、実験台……っ!?」

 

 その瞬間、この部屋には俺と明石しかいないはずなのに、まわりから「ざわ……ざわ……」と、複数の声が聞こえた気がした。

 

 もちろん俺の顎は尖っていないし、ギャンブルに狂っている訳でもないのだが。

 

「実験台……って、いったい何をする気なんですか……?」

 

「ちょっとしたツボの実験なんだけどねー」

 

「……ツボ?」

 

 意味が分からなくて、俺は首を傾げる。

 

 ツボと聞くと、真っ先に浮かんでくるのはタコ壺だが……、今から漁にでも出かけるのだろうか?

 

「明石は工作艦だから、修理と一緒にツボ押しとか整体もやってるんだよねー」

 

「あ、あぁ……。そのツボね」

 

 俺はなるほど……と、手を叩く。

 

「最近新しい書籍を手に入れたんだけど、疲労回復や身体に良いと言われるツボがたくさん載っていたから、ぜひ試したいと思っていたところなんだよー」

 

「ふむ……」

 

 ニコニコと笑う明石の顔が、如何せん怪しいと思う。だが、俺の身体はビスマルクやプリンツの言動によって疲労困憊となっているのも、また事実なのだ。

 

 上手くいけば渡りに船。しかし、失敗という恐れもないとは言えない。

 

 なので、俺は明石にいくつか質問することにした。

 

「まず……、そのツボ押しの実験台になったら、俺の聞きたいことに答えてくれるかな?」

 

「もちろん、明石の知っていることならなんでも答えてあげるし、今後のケアもサービスしちゃうよー」

 

「今後のケア……?」

 

「明石は艦娘の修理が専門だけど、提督や作業員相手に整骨院サービスも行っているんだよねー。もし先生が実験の手伝いをしてくれるなら、週1ペースのケアを無料でサービスサービス~♪」

 

「……なるほど」

 

 最後の語尾が若干気になったが、そこはまぁ置いといて。

 

 提督や作業員相手に実績があるというのなら、非常に助かる話ではある。もちろん実験台というからには多少危険な恐れもあるかもしれないが、書籍に参考にして行うのならそれほど危険も少ないのではないのだろうか。

 

 もちろん絶対という保証はないだろうし、先程の明石の笑みも気になるところだけれど……

 

「分かりました。受けることにします」

 

 俺は明石にハッキリと頷き、誘いを受けることにした。

 

 

 

 

 

 ベッドにうつ伏せになった俺は、明石から薄手のバスタオルを背中にかけられ、少し緊張した顔を浮かべていた。

 

「それじゃあ始めるけど、ガチガチに緊張していたら筋肉が硬くなっちゃうから、リラックスしてねー」

 

「りょ、了解です」

 

 生まれて一度も整体やツボ押しを経験したことがないだけに、どんな痛みが襲ってくるか分からない。テレビで足ツボマッサージの罰ゲームを受けている場面を見たことがあるが、あそこまでの絶叫はさすがにやらせだと思うのだ。

 

 身体を癒すのだから、痛みを与えてどうするんだ……と、いうのが俺の持論である。もちろん経験したことがないだけに、俺の想像なんだけど。

 

 まぁ、さすがに命までは取られはしないだろう……と、思っていると、

 

「それじゃあまずは、このア●バ流北と……げふんげふん」

 

 ………………は?

 

 今何か、凄く聞き逃してはいけない声が聞こえた気がするんですが。

 

「俺は天才だー」とか言っちゃう、クズ人間の技術を使う気なんかないですよねっ!?

 

「ではでは、開始しますねー」

 

「ちょっ、ちょっと待ってっ! やっぱり今日は……」

 

「問答無用の切り捨て御免ー」

 

 

 

 ごりゅっ

 

 

 

「………………」

 

「んっんー、どうかなー?」

 

「………………」

 

「反応がない。ただのしかばねのようだ」

 

「………………」

 

「それじゃあ実験にならないから……気付けっ!」

 

 

 

 めきゃっ

 

 

 

「ひゃぎゃうごぎぇぇぇっ!?」

 

「うーん、ナイス悲鳴。やっぱこれだねー」

 

 どっかのお菓子CMみたいな……って、言ってる場合じゃなくてっ!

 

「ちょっ、マジでストップッ!」

 

「聞く耳持ちませんー」

 

「嘘ーーーっ!?」

 

「実験台になるって約束したんだから、ちょっとくらい我慢してよねー」

 

「ちょっとってレベルじゃないくらい痛いんですがっ!」

 

「男の子だから我慢しなさいっ」

 

「性別とか関係なしに痛いんですってばーーーっ!」

 

「もうー。五月蝿い先生には……これっ!」

 

 

 

 ぷすっ

 

 

 

「んぎぃぃぃっ!?」

 

「……あれ? なんだか変な反応が……」

 

「あ、あがが……あがががが……」

 

「おっかしいなぁー。このツボは静かにさせるだけなのに……」

 

「かぺ……かぺぺぺ……」

 

「うーん……、なにやら先生の下腹部が凄く痙攣しているような……」

 

「も、もう……無理……」

 

 その言葉を残して、俺の意識は完全に闇へと落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 いきなり話は飛ぶが、今の状況は端から見れば非常に危うい。

 

 なぜかと言うと、明石の服装は中破以上の乱れっぷりである。

 

 もちろん、俺がどうこうした訳ではなく、明石が自ら服をはだけさせたのだ。それにはちゃんとした理由があり、その原因は俺にある。

 

 ――とは言っても、元々の原因は明石なのだが。

 

「ありゃー……」

 

 明石は、俺の身体を見ながら気まずそうな顔を浮かべ、大きくため息を吐いていた。だが正直に言って、ため息を吐きたいのはこちらの方である。

 

「……どうしてくれるんですか?」

 

「いやぁ……、本当にどうしましょう……」

 

「笑ってごまかせられる状況じゃないんですよ?」

 

「やっぱり……そうだよねぇ……」

 

 言って、俺の顔から視線を逸らす明石の頭を、俺はしっかり掴んでこちらへと向かせた。

 

「治してください」

 

「そ、そうしたいのはやまやまなんだけど……」

 

「早く治してください」

 

「だ、だから……治したくても方法が分からないというか……」

 

「どうにかして治してくださいよぉぉぉっ!」

 

 俺は絶叫に似た声を明石に浴びせ、大粒の涙をボロボロと零す。気分は――そう、波紋を帯びた糸で腕を斬り落とされた柱の男のように、「あァんまりだァ~」と、泣いてから精神を落ち着かせる感じである。

 

 まぁそれで治るならいくらでもやってみるが、明石の顔色を見る限り無駄なのだろう。

 

「と、とにかく、できるだけ早く治す方法を探してみるからっ!」

 

「本気でお願いしますよっ!」

 

 俺は明石にそう言って、大きく肩をすくめた。

 

 まさか、明石のツボ押しによって、

 

 

 

 俺の……アレが、使い物にならなくなるなんて……

 

 

 

 思ってもいなかったのである。

 

 マジでどうすんだよ……これ……。

 

 

 

 

 

 ――と、いうことで、俺は若くして不能と相成りました。

 

 使う予定がなかったといえば聞こえは良いかもしれないが、それはそれで問題あり。いや、そういう意味じゃなかったとしても、精神的疲労は常時俺を襲っている。

 

 しかし、それが原因で幼稚園を休む訳にもいかず、そもそも気軽に口外できるような症状でもない。俺は引き続きビスマルクへの対処法を考えながら、幼稚園の先生としての業務を行っていた。

 

 結局のところ、ビスマルクが艦隊に居たときのことはあまり分からず、俺は仕方なく路線を変更することにする。

 

 本命が難しいなら外堀を埋めろ。

 

 まずは、レーベとマックス、そしてユーを教育することに決めたのだ。

 

 レーベとマックスは俺に好意を向けてくれているのだから、やり方を間違わなければ上手くいくと思う。

 

 そして、2人の口添えによってユーも籠絡……ではなく、ただしく教育するつもりなのだ。

 

 もちろん、龍驤と話していたときのようなことではなく、幼稚園に通う子供をしっかりと正しい艦娘にするという目的で。

 

 まかり違っても、変なことをするつもりはない。

 

 せいぜいお持ち帰りをして、ベットで一緒にゴロゴロするだけだ。

 

 ………………。

 

 も、もちろん冗談だけどね。

 

 それにどっちにしろ使い物にならないし。

 

 ………………。

 

 だから冗談だってば。

 

 そして早速、ビスマルクに分担で授業を持つことで効率を高めようと提案し、まずはレーベとマックスの授業を固定で受け持つことになった。

 

予定通りちゃんとした教育によって、艦娘としてどこに出しても恥ずかしくないようにするのはもちろんのこと、ビスマルクの不条理な言動に対して反論できるようにするつもりである。

 

 それにはまず常識をここでの教え、艦娘としての活動をしっかりと叩き込む。もちろん幼稚園の本目的である、元気良くスクスクと育てる環境を潰す気はない。

 

 舞鶴で学んだ経験を生かし、最終的には俺が居なくても佐世保幼稚園が円滑に回るようにする。それが、俺がここに呼ばれた目的なのだ――と、自分に言い聞かせることにした。

 

 それに、明石が俺の身体を治してくれるまで、佐世保からは離れられないと思うからね。

 

 ここで舞鶴に帰還命令が出たらマジでどうしようかと思ってしまうが、それまでの間に全てを済ませてしまわなければならない。

 

 教育はなんとかするつもりだけれど、明石の方は……俺ではどうしようもないからね。

 

 まぁ、それでも何かしらの方法がないかと調べてみるつもりだが……。

 

 嘆いていても前には進まない。今やれることをやっていこう。

 

 それは、もう一度自分に言い聞かせて両方の頬をパシンと叩く。

 

 少しばかり力が入り過ぎて、涙目になったのは痛みのせいだろう。

 

 

 

 決して、不能になったからでは……ないと、思う。

 

 

 

 まさに、号泣。

 

 

 

 

 

 ~明石という名の艦娘~ 完

 





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 今章はここで終了……ですが、どうしてこうなった。
まさかの主人公、DTのままEDとなる。
ということは、ハーレムルートはこれで突入不可……?
それとも……まだまだ続いちゃうよっ!



次回予告

 EDになっても教育者としての仕事は辞めない主人公。
明石が治してくれるすべを探してくれるまで、ビスマルクへの対処を進めていく。

 でも結局、やってることは同じなのかもしれないです(ぇ


 艦娘幼稚園 第二部 第三章
 ~佐世保鎮守府幼稚園の子供たち 教育編~ その1「父親の心境」

 乞うご期待!

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