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狂ってしまった歯車は戻らない。
いや、そもそも元からなのかもしれないが。
ビスマルクを正気に戻すことができた主人公は、改めて子供たちと挨拶をする。
そして、幼稚園の業務をこなそうとするのだが……
その後、ビスマルクをなんとか正気に戻すことができた俺は、子供たちに改めて自己紹介をする。
「ということで、舞鶴鎮守府にある艦娘幼稚園で働いていた先生だ。みんなとは初めて会うけれど、気軽に接してくれるとありがたいかな」
「僕の名前はレーベレヒト・マース。よろしくね、先生」
「私はマックス・シュルツよ。よろしく」
「U-511……、えっと、ユーです。よろしくお願いします……」
「ああ、よろしくね」
少し離れて座っていた3人は立ち上がり、丁寧な口調で挨拶を返してくれた。
礼儀正しいレ―べ。落ち着いた感じのマックス。少しおどおどしたユー。3人はいずれも俺の記憶にはない名前だが、どうやらビスマルクと同じ国からやってきたらしい。
ユーのおどおどした感じが舞鶴の潮に似ている気がするが、どこにでも同じような子は居るのだろう。問題は、天龍のように引っぱってくれる子が居れば良いんだけれど、その辺は追々考えていくことにしよう。
「………………」
そしてもう1人の子供。挨拶代わりにタックルをかましてくれたプリンツは、挨拶を返さずに俺の顔をジッと睨みつけていた。
「あー、えっと……。よろしくね、プリンツ」
「私の名を気易く呼ばないで下さい。呼んで良いのは、ビスマルク姉さまと……」
ゴンッ!
「ふにゃっ!?」
俺から顔をプイッと背けてそう言った瞬間、ビスマルクの容赦ないゲンコツがプリンツの頭頂部に突き刺さっていた。
「プリンツ……、私がさっき注意したことを、忘れたとは言わさないわよ?」
「で、ですけど……」
「先生をけなすようなことをするなら、今後一切私の傍に近寄らせないわよ?」
「そ、そんなっ! ビスマルク姉さまに嫌われちゃうっ!?」
プリンツは驚愕した顔を浮かべ、大慌てで俺の方へと向き直り、
「私はプリンツ・オイゲンです! よろしくお願いしますっ!」
そう言って大きく頭を下げてから、なぜか俺の傍に近づいてきた。
何やら伝えたいことがあるような表情に、俺はプリンツと視線を合わせようと屈みこんだのだが、
「……ですが、ビスマルク姉さまを娶るのは私です。邪魔をしたら、ふぁいやぁーですからね」
――と、親の仇のを見るような目で睨みつけられながら言われ、俺の背筋に急激な寒気を引き起こす。
か、完全に猫被りをしてやがる……っ!
これは比叡達が初めて舞鶴に来たときに似ているかもしれないが、俺は別にビスマルクの彼氏なんかじゃないんだけどなぁ。
しかしそれを説明しようとすると、ビスマルクの機嫌が悪くなるのは目に見えている。ただでさえ厄介な状況だと思っていたのに、更に面倒な事案があがってしまうとは……さすが俺の不幸体質は全開バリバリだぜっ!
………………。
格好良く言ってみたが、ぶっちゃけ号泣したいです。マジ勘弁してくれないでしょうか。
まぁ、無理だと分かっているんだけどね。
そんなこんなで、俺の佐世保幼稚園勤務1日目が始まった。
挨拶を済ませたことで、子供たちの顔と名前は覚えておいた。建物の構造などは舞鶴と同じなのでやり易いし、設備も殆ど変わらない。プリンツとの関係さえ上手くできれば、それほど苦労しない……と、思っていたんだけれど。
ことは、授業の合間に始まった。
「お腹が空いたわね……。ちょっと甘いモノを食べたい気分よ」
「あっ、ビスマルク姉さまの案に賛成です! 私、シュトーレンが食べたいですっ!」
「良いね。僕も食べたくなってきたよ」
「ふうん……。まぁ、少しお腹が減ってきたわね」
「ゆ、ユーも……食べたいです」
「……は?」
授業中にもかかわらず、いきなり無茶を言いだすビスマルクと賛同する子供たち。
「いやいやいやっ! せめて休み時間になってからにしようよっ!」
「この渇きを癒すにはビールしかないのよっ!」
「さっき甘いモノって言ってなかったっ!?」
「うるさいわねっ! あんまり文句ばっかり言ってると、蒼い紐を先生の身体に巻きつけるわよっ!」
「いったいどこに巻いちゃうのっ!? そんなことをしても誰も喜ばないよっ!」
「私が喜ぶわっ!」
「いーーーやーーーっ!」
……と、先生として全く自覚がない恐ろしさは、まさに想定外だったのだ。
更に他にも……
「そろそろ夕方ね。今日のところはこのくらいで良いんじゃないかしら?」
「まだ終業時間まで1時間ほど残ってるんですけどっ!?」
「細かい男は好きではないって、前にも言ったと思うのだけれど?」
「それとこれとは話が別でしょう! ビスマルクは責任者なんだから、もうちょっとちゃんとして下さいっ!」
「えー……、もう私、疲れちゃったー」
「ただのおっきい暁じゃねえかっ!」
「ビスマルク姉さまの駄々をこねる姿……、可愛過ぎですっ!」
「ふうん……。そうなのかしら、レ―べ?」
「ど、どうかな……。僕にはそう……思えないけれど……」
「ユーも部屋に戻って……、ゴロゴロしたい……です」
……と、暁には申し訳ない発言をしてしまったのもこれ然り。
完全に佐世保幼稚園は無法地帯と化しており、俺の手には全く負えないレベルになっていた。
こんな状況になるまで放っておいた……と、いうよりかは、完全に責任者の選出が悪いのだと思った俺は、いったい誰がビスマルクに幼稚園を任せたのだと、終業時間後に安西提督に聞きに行ったのだが、
「あぁ、それは明石に任せてあるのですよ」
あっけらかに言われ、俺は唖然とした顔を浮かべていた。
「しかし、ああ見えてもビスマルクはちゃんとやりますので、しっかりサポートをしてあげて下さいね」
安西提督はそう言ったのだが、俺の前で働いているビスマルクは、とてもじゃないがちゃんとしていない。
まさか、ビスマルクって他のところでは猫を被りまくってるんじゃないだろうな……?
もしそうだったのなら、プリンツの行動もそれを真似て……?
それこそまさに前途多難。2人同時に矯正しないと、安静の日々を過ごせる気がしない。
今からダッシュで舞鶴に帰りたいが、それでは仕事を投げ出すことになる。いくら環境が悪いといっても、改善しようと動かぬうちに逃げ出すのは、格好が悪いだろう。
それに、ビスマルクもプリンツも、根が悪いとは思えないし。
色々な人間関係が彼女たちをそうさせているのかもしれない。その原因が、俺だということも……分かっている。
本音は分かりたくないけれど、これも経験と思って頑張っていくことにしよう。
そして、成長した俺を……舞鶴に居るみんなに見せたいと思う。
◆ ◆ ◆
(手紙の追伸 続き)
とまぁ、現状はこんな感じです。
追伸が長くなり過ぎましたが、この辺りで止めておきましょう。
正直に言えばまだ書き足りないですけど、会ったときに喋りたいと思います。
問題は山積みですが、舞鶴で幼稚園を設立するときには愛宕先生も大変だったんでしょう。
俺も負けじと、精一杯の力で頑張るつもりです。
それでは、長くなりましたが今回の手紙はこれにて。少し寂しかったりもしますが、次に会える日まで我慢することにします。
それでは近いうちにまた。
佐世保鎮守府より、舞鶴のみなさんに愛をこめて。
……って、なんだかこの文、恥ずかしいですよね(笑)
「……こんなところね~」
舞鶴幼稚園のスタッフルーム。
愛宕、しおい、港湾の先生3人衆は、コーヒーを飲みながら先生の手紙を読んでいた。
「なるほどなるほど。先生も大変そうですね~」
「人間ニハ、色々トヤルコトガ、アルンダナ」
「艦娘も同じと言えば同じですけどねー」
「ソウナノカ、シオイ先生?」
「しおいが艦隊に居た友達も、この前まで大変だったんですよー」
「フム……。私ハアマリ、ソウ言ッタコトハナカッタケドネ……」
そう言った港湾はコーヒーを啜ってから、ふぅ……と、息を吐いた。
「ところで愛宕先生。先生の手紙に書いてあった、ここの幼稚園を設立するときって……そんなに大変だったんですか?」
「いえいえ~。そんなことは全くなかったですよ~。全て順調で、子供たちもしっかりと言うことを聞いてくれましたから~」
愛宕の言葉を聞いたしおいと港湾は、やっぱり……と、いった感じの顔を浮かべていた。
「や、やっぱり、先生って……」
「純粋ニ、不運ナノダナ……」
「ですよね~」
大きくため息を吐いたしおいと港湾。そして、いつものようにニッコリと笑みを浮かべた愛宕は、ズズズ……と、持っていたコーヒーを楽しみながら会話に花を咲かせていたのだった。
哀れなり、佐世保の先生――である。
~流されて佐世保鎮守府~ 完
※6月21日、インテックス大阪で開催される我、夜戦に突入す!3【獄炎】の4号館B37aにて、時雨のスピンオフ同人誌を新刊を頒布予定でありますっ!
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これにて第二部の第一章は終了です。
もうなんというか……ビスマルクがどうしようもなくなったので後には引けぬ状態。
仕方ないので、更に悪化させていただくことになりました(マテ
温かい目で見てくれると嬉しいです。
次回予告
踏んだり蹴ったりなのはいつものこと。
それでもがんばる主人公。だけどそろそろ心が持たない!?
ならば、ここは矯正するべきだ……と、佐世保鎮守府幼稚園の改革に乗り出すことに。
しかし、そんな主人公の頑張りをあざ笑うかのように、暴走した艦娘たちは……
艦娘幼稚園 第二部 第二章
~明石という名の艦娘~ その1「一歩間違えば完全アウト」
乞うご期待!
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