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大暴走のビスマルクを止めることができず、心の中で泣きまくる主人公。
しかしこのままでは前に進まないのでと、幼稚園の中を案内してもらうことになる。
そして、子供たちの前に立ったとき、またもやデジャヴが襲い来る……?
心の中で泣きまくったおかげで、俺は何とか落ち着くことができた。しかし、ビスマルクの方は未だ興奮冷めやらぬといった感じであり、俺は何とかしようと言葉巧みに話を逸らしてから、幼稚園における仕事の件に戻した。
「俺がここに呼ばれた理由ってのは大体分かったんだけど、肝心の子供たちについては何も理解してないから、色々と教えてくれないかな?」
「そうね。確かにそのことも大事だから、しっかりと話さないといけないわね」
納得したように頷いたビスマルクを見て、俺はひと安心だと思いながら肩の力を抜く。
というか、ここまでの話をするのに脇道へ逸れまくりなんだよな……。
そのうちいくつかは俺の言葉が原因なだけに、あまり突っ込めないところなんだけれど。
「ここの幼稚園には、それほど多くの子供たちは居ないわ。ただ、先生の経験を持つ者が居なかったから、あなたを呼び寄せたのよ」
「なるほど……。確かにその理由なら分かるんだけれど、それ以外の理由が混ざっている訳じゃないよね?」
「あら、それをもう一度聞きたいと?」
「いえ、聞かなかったことにして下さい」
せっかく落ち着いたのに、ぶり返してどうするんだよ。
考えてみれば、舞鶴で先生をしているのは俺を含めて4人だけれど、幼稚園の主力である愛宕が居なくなる訳にはいかないだろうし、しおいでは力不足かもしれない。ましてや港湾棲姫では、別の問題も起こってしまうだろう。
舞鶴では停戦の認識をしっかりしているから問題は起こっていないが、佐世保でそれを期待するのは難しいだろう。時間をかければ大丈夫だとは思うけれど、ビスマルクは即戦力を期待しているのだから、残った俺に白羽の矢が立ったのは充分に理解できる。
……まぁ、別の目論見があることも分かったんだけど、その辺りはできる限り意識を集中させて回避していかなければならないだろう。
俺には舞鶴に残してきた、愛宕と言う最愛の女性が……
「今、なんだか嫌な気配を感じたんだけれど?」
「ビスマルクはエスパーか……?」
「それはもちろん、あなたのことなら何でも分かるつもりよ?」
「面と言われたら、これはこれで恥ずかしいっ!」
愛宕とは違った積極さ……というか、ここまで押してくる相手も珍しい。もし愛宕と出会う前だったら、俺は完全にビスマルクに転んでいたのかもしれない。
その場合、ほぼ間違いなく首輪をつけられているんだろうが。
場合によっては衣服すらないのかもしれない。
いや、黒い革製のきわどいやつの可能性も。
……うむ。完全にR-18の世界である。
………………。
考えていたら、ちょっとは興味がわいて……こないからね?
俺は赤く染まってしまったかもしれない頬を手の甲で擦りながら、再び仕事内容へと話を戻す。
「それで、ここの幼稚園に子供たちは何人くらい居るんだ?」
「ああ、そう言えばまだ話していなかったわね。百聞は一見にしかずよ。ついてきなさい」
そう言って、ビスマルクは俺の返事を待たずにスタッフルームから出る。強引な感じに思えるが、見方を変えれば引率力が高いのだろう。ビスマルクとの付き合いはそれほど長くないけれど、愛宕とは違った良い先生になれるのかもしれない――と、俺の直感が囁いている。
俗にいうシックスセンスというやつだ。もしくはセブンセンシズかもしれない。
………………。
いやまぁ、冗談だけど。
そんな能力に目覚めるくらいなら、不幸体質をどうにかしたいです。
「先生、何をしているの? 早くついてきなさいっ!」
「は、はい、ただいまっ!」
俺は慌てて思考を振り払い、ビスマルクの後に続いてスタッフルームを出る。
返事の仕方がお転婆お嬢様に仕える新人執事みたいな感じに聞こえたかもしれないが、これは気のせいだったということにしておこう。
そうじゃないと、完全にビスマルクの手の平で踊っている……みたいなことになりかねないからね。
「へぇ……。何というか、そっくりだよな……」
「さすがは先生ね。そう――あなたが思っている通り、舞鶴の幼稚園を参考にさせてもらったわ」
ビスマルクが言ったように、ここの幼稚園は舞鶴のそれと似通っている。いや、そっくりと言っても過言でないかもしれない。壁や天井の色合いは施設の特色から似るかもしれないが、絨毯の材質で同じだとは夢にも思わなかった。
「いやはや、1度来ただけで良く覚えていたよね」
「まぁ、完全に覚えた訳ではないのよ。それに、舞鶴の元帥にそちらの幼稚園を参考にしたいと言ったら、建築図面のデータを快く渡してくれたわ」
「あぁ、なるほどね」
そういうことなら納得できる。元帥と安西提督は昔から付き合いがあるし、データの受け渡しも問題なかったのだろう。これが一個人であれば難しかったかもしれないが、鎮守府間の情報交換と思えばごく当たり前のことかもしれない。
それに、やろうとしていることが同じであれば、建物も同じであった方が色々と楽なんだろうな。
だからこそ、俺がここに呼ばれたんだろうし。
「ついたわよ」
「了解……って、ここまで同じとはなぁ……」
先導していたビスマルクが立ち止まったのは、遊戯室の扉の前だった。俺が舞鶴の幼稚園に初めて来たときも、子供たちに会ったのは遊戯室だった気がする。
あっ、でも……、良く考えてみればあのときは夕立が愛宕を呼びに、スタッフルームに駆け込んで来なかったっけ?
まぁ、些細なことはおいて置くことにしよう。俺は過去を振り返らない男なのだ。
………………。
嘘です。めっちゃ振り返ります。そして後悔しまくります。
ちょっとだけ格好をつけたかっただけです。
「……何だか、すごく曖昧な表情ね?」
「あー、いや。ちょっと昔のことを思い出していただけだから、別に気にしなくて良いよ」
「……そう。でも、過去に捕われる男は格好良くないわよ?」
「……肝に免じておきます」
「あら、素直ね。そういうのって、嫌いじゃないわ」
ビスマルクに褒められた。
ちょっとだけ嬉しかったりするが、今は喜ぶよりも子供たちを見ておきたい。
それと、一言褒められただけで喜んでしまう俺って……、すでに調教されちゃってないか?
もしくは洗脳……いや、この考えは止そう。
それに何となくなんだけれど、ビスマルクとは別の嫌な予感がしているんだよなぁ……。
「それじゃあ、中に入るわね」
「了解です」
ビスマルクは俺が頷くのを見て、ひと呼吸置いてから扉を開けた。
「みんな、注目しなさい」
遊戯室に入ったビスマルクが声をあげると、部屋の中にいた子供たちの視線が一斉に集まった。
子供の数は4人。
しかし、どの子も俺の記憶にはない外見をしている。
「この前に話してた先生を、舞鶴から連れてきたわよ」
胸を張ったビスマルクは自慢げに子供たちに言う。
直接舞鶴にビスマルクが俺を呼びに来たのではないのだから、言葉が少し違う気もするんだけれど、細かいことを言うつもりはない。せっかくいい気分で話しているんだから、ここは黙っておくのが吉だろう。
それに、もし突っ込みを入れたら、後々大変かもしれないし。
まさかとは思うが、調教と称して拉致監禁――。更にはとんでもないことまでされてしまうかもしれないのだ。
そうなれば最後、俺は日の目を拝むことができなくなるかもしれない。
いや、ビスマルクのことだから命を取るようなことはしないかもしれないが、どちらにしても正常な精神状態ではなくなってしまうだろう。
俺の勝手な想像なのに、なぜかその状況が明確に浮かんでしまう。
うむむ、これはかなりまずい。毒されてしまっている。
「さぁ、先生。子供たちに挨拶をお願いするわ」
「あ、はい。了解です」
俺はビスマルクに頷いて子供たちを見る。
「「「………………」」」
そんな俺の顔を、不審者を見るような目で子供たちが見つめている。
むうう……、なんというやり難さだよ……。
だが、俺も幼稚園の先生になって短くない。こんなことでしょげてしまう男じゃないのだ。
ここはビシッと決まった挨拶をして、格好良いところを見せるべきだ。そうすればビスマルクも俺のことを見直すかもしれない。
やればできる男。調教なんかさせるものか。
「や、やぁ。俺は舞鶴にある艦娘幼稚園からやってきた先生だ。それなりに経験は積んでいるから、困ったことがあったら……」
そこまで話したところで、4人の子供たちの中で一回り大きい身体をした艦娘が床から立ち上がった。
「……ん、どうかしたのかな?」
挨拶を途中で中断するのもどうかと思ったが、その子供は急に屈み込んで片膝と両手を床につく。
「………………?」
なんだか見覚えのある体勢に、俺は首を傾げる。
これは……、クラウチングスタートか?
しかし、なんでこのタイミングで……?
そして、急に背筋に襲いくるゾクリとした感覚。
ま、まさか……これは……っ!?
「ふぁいやぁーーーっ!」
「ごげふっ!?」
やっぱりそうだったーーーっ!
完全に舞鶴と同じじゃんっ!
――と、内心叫びながら床の上をもんどり打つ俺。
下腹部に襲い掛かった鈍痛と身体中に響く衝撃は、紛れもなく金剛が放った『バーニングミキサー』と、うり二つだった。
だがしかし、俺は何度も金剛の必殺技を喰らい続けた訳ではない。回避こそ上手くいかなかったものの、床を転がりつつ受け身を取って、素早く体勢を取り戻した。
「い、いきなり何を……」
俺は下腹部をさすりながらタックルをした子に声をかける。すると、その子はもの凄く不機嫌な顔を浮かべながら、俺の顔を睨みつけていた。
俺はこの子に何もやっていないはずなんだが、なんでこんなに怒っているんだ……?
いきなり怒る訳にもいかず、どう対応して良いのか分かなかった俺を横目に、ビスマルクが憤怒の表情を浮かべて……って、あれ?
「………………っ!」
ちょっ、半端じゃない顔なんですけどっ! 拳をワナワナと震わせて、悪鬼羅刹な感じに見えちゃうんですけどっ!?
ビスマルクの背中に『ゴゴゴゴゴ……』って、文字が見えちゃってるんですがーーーっ!
やばい! このままだと艤装じゃなくて背後霊を呼びだしそうだよっ!
もしかして、ここでオラオラですかーーーっ!?
「プ、リ、ン、ツ……ッ!」
「……は、はひっ!?」
「あなたが今やったこと……、どういう意味か分かっているのかしら……っ!?」
「だ、だって私……、ビスマルク姉さまの……」
俺にタックルをした子供は、怯えながらも自分の正当性を主張しようとするのだが……
「黙りなさいっ! 私の大切な人を攻撃するなんて……、いくらプリンツでも許せないわっ!」
ビスマルクは問答無用と言わんばかりに大きく腕を横に払う。
ブオンッ! と、大きく風を切り裂くような音が鳴って、プリンツと呼ばれた子供は身体を大きく震わせた。
良かった……。これで音が『ガオンッ!』だったらどうしようかと思ったよ。まさかビスマルクが空間を削り取る……じゃなくてっ!
「ちょっ、ビスマルクッ!? 大丈夫、俺は大丈夫だからっ!」
「あなたは黙ってて! こういうのは癖になったら……」
そう言いかけた途端、なぜかビスマルクの身体がピタリと止まる。
ついでに表情が崩れまくって……って、何これ?
「ビ、ビスマルク……?」
「ビスマルク……姉さま……?」
「い、今……」
「「今……?」」
「私、先生のことを……あなたって……。うふ、うふふ……」
「「………………」」
完全に固まる俺とプリンツ。
「いやいやいやっ、スタッフルームでも同じことを言ってたよねっ!?」
「あれとこれとは別よ……。だって、さっきのは……あ、な、た……うふふ……」
身体をクネクネと動かしながら、頬を赤く染めて妄想にふけるビスマルク。
こ、これは……、夢に出そうだぞ……。
「ビ、ビスマルク姉さまが……、壊れた……」
後ずさりながら額に汗をダラダラと流し続けるプリンツ。
うん、俺も同じ気持ちだから分からなくもない。
だけど、こうなってしまったビスマルクにかける言葉も浮かんでこず、俺とプリンツは似たもの同士のように大きくため息を吐いてしまう。
そして、そんな光景を見ていた他の3人の子供たちが、小さな声でボソボソと話していた。
「あぁ……、またビスマルクのおかしなとこが始まっちゃったよ、マックス……」
「ふうん……。まぁ、いつものことだから仕方ないわね」
「あ、あはは……。確かにそうだけどさ……」
そう言って、同じ服装をした2人の子供がため息を吐く。紺色の大きな帽子に同色のセーラー服。そしてスカートは………………あれ?
こ、これは……どうなっているんだ……?
ま、まさかとは思うが、穿いてない……だと……っ!?
……って、良く考えたら呉に居た雪風と同じだから問題ないね。うん。
「レ、レーベ……マックス……。ビスマルク姉さんって……、いつも……そうなの?」
そんな、ちょっぴり不埒かもしれないことを考えていると、2人の近くにいたもう1人の子が問い掛けていた。
「いいえ、たまに……よ。ユー」
「そう、なんだ……。ユー、分かった」
奥で床に座っていた3人の子供たちは小さな声で話し終えると、ビスマルクと俺の姿を何度も見ながら、深いため息を吐いていた。
※6月21日、インテックス大阪で開催される我、夜戦に突入す!3【獄炎】の4号館B37aにて、時雨のスピンオフ同人誌を新刊を頒布予定でありますっ!
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次回予告
狂ってしまった歯車は戻らない。
いや、そもそも元からなのかもしれないが。
ビスマルクを正気に戻すことができた主人公は、改めて子供たちと挨拶をする。
そして、幼稚園の業務をこなそうとするのだが……
艦娘幼稚園 第二部
~流されて佐世保鎮守府~ その7「手に余る光景の果てに」(完)
乞うご期待!
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