艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

171 / 382

 第一印象から大問題勃発!?
しかし、安西提督は非常にいい人だった。

 そしてその後、ビスマルクの元へと向かう主人公にとある艦娘が……


その3「佐世保の噂」

 

「どうぞ、そちらのソファにおかけください」

 

 安西提督に進められるがまま指令室に入った俺だったが、ここで素直に座る訳にはいかない。

 

 もし普通に挨拶ができていれば、少し緊張しつつも座っていただろうが、第一印象は最悪だったのだ。ここはいきなりだけれど、最後の手段にでるしかない。

 

 俺はソファの横で膝を下ろし、両手と一緒に頭を床に擦りつける。

 

「すみませんでしたーーーっ!」

 

 謝罪究極奥義……土、下、座!

 

 マンタン王国ではやってはいけないが、この国なら問題ない。謝罪の態度は一級品なのだ。

 

「な、何をしているのですか……っ! 早く頭をおあげなさい!」

 

「いいえ、俺が悪いんですっ! 勘違いした揚句に上官である元帥を怪しみ、あまつさえ反撃しようなどとおいそれた考えを持ってしまったことはまさに鬼畜の所業! 本来ならば許されるようなことではありませんが、今の俺の気持ちを表すには、もうこれしか……っ!」

 

「まぁ確かに、先程の独り言は褒められたものではありませんでしたが……」

 

「ですので、こうする他は……っ!」

 

「反省するつもりがあるのならそれで良いでしょう。それに、彼の行動を知っていれば、あれくらいのことを思う者などいくらでも居るでしょうからね」

 

「……へ?」

 

「あなたも彼に意中の人を盗られた……。そう言うことなのでしょう?」

 

「え、えっと……」

 

 俺は土下座姿勢のまま顔を少し上げて安西提督を見ると、苦笑を浮かべながらため息を吐いていた。

 

「彼の行動は正直に言って問題が多過ぎます。ですが、その一方で多大な功績を上げているからこそ、あの地位まで上り詰めたのです」

 

 メガネを外した安西提督は、空いた方の指で目尻を押さえながら、ギュッとまぶたを閉じた。

 

「偉業を成し遂げる者に必要なモノは好色である――と、言った人物も居ます。ですが、我々は組織の一員である以上、度が過ぎた行動は目に余る……」

 

「た、確かに……」

 

 ウンウンと、頷く俺。もちろん土下座のままだ。

 

「ですから、あなたが思ったことは決して悪いことではありません。ですが、それは頭の中で留めておく方が良いでしょうね」

 

「そ、それはもちろんですっ! それに、勘違いということも分かりましたので……」

 

「勘違い……ですか。先程から何度か言っていましたが……、まずはソファに座りませんか?」

 

「よ、宜しいのでしょうか?」

 

「ええ、もちろんですよ、先生」

 

 ニッコリと笑みを浮かべた安西提督の顔を見て、俺はホッと胸を撫で下ろす。

 

 そして、見事なまでに俺のことを知っていたようだ。

 

 焦って脱兎の如く逃げなくて良かったと思う、今日この頃である。

 

 

 

「なるほど……、そういうことでしたか……」

 

 俺が元帥の罠だと勘違いした経緯を説明すると、安西提督は納得した面持ちで何度も頷いていた。

 

「いやはや、少しトイレに行っていたため部屋を留守にしておりましたが、これは私の方にも責任がありましたね。申し訳ありません」

 

「い、いえいえっ! 俺が勝手に勘違いしただけなんで、謝らないで下さい!」

 

「ですが、あなたは自らの非を認めた上で土下座までしたのです。私の立場上それは難しいですが……いや、今は秘書艦もいませんから別に問題はないですね」

 

 そう言って安西提督は席を立ち、床に膝をつこうと……

 

「ちょっ、待って下さいっ! そんなことをしては色々と問題が……っ!」

 

「用がない限りここには誰も来ませんから、大丈夫ですよ」

 

「それって言い換えたら、誰か来たときは大問題ってことですよねっ!?」

 

「ふむ……、確かにその通りです。その場合は……あなたが確実に消されてしまいますね」

 

 思い止まるように机に手をついた安西提督は、苦笑を浮かべていたんだけど、

 

 それって洒落にならないんですけどねーーーっ!

 

 上官を土下座させた時点で大問題だけど、それが殺されちゃうことになるのは納得がいかねえっ!

 

 それこそ見せしめに相違なし。ここまで元帥が仕組んでいたんだとしたら、完全に孔明の罠だよっ!

 

「そうですね……。それでは少々心苦しいですが、頭を下げるということで……」

 

「ですから、それも必要ないんですよっ!」

 

 俺はなんとか安西提督を説得し、納得してもらうことができたのはそれから10分が過ぎた頃だった。

 

 そして、やっとここでの滞在についての話を始める。

 

「先生が佐世保鎮守府で寝泊まりする場所として、作業員寮のひと部屋を確保してあります。冷暖房や家財道具は備え付けされていますから、問題はないでしょう」

 

「それは非常に助かります」

 

「もし必要な物があるようでしたら、私か秘書艦に伝えて下さい。できるだけ早く用意させますので」

 

 ありがとうございます――と、頭を下げて、再度お礼を言う。いたせりつくせりな待遇に思わず笑みがこぼれそうになってしまうが、肝心なことはまだ聞けていない。

 

「ところで……、一つ宜しいでしょうか?」

 

「はい、なんでしょう」

 

「俺が佐世保に呼ばれた理由についてなんですが……」

 

「ああ、そのことですか……」

 

 言って、安西提督は椅子の腰掛けに体重を乗せて、顎の辺りを触り始めた。何かを考えているような素振りに見えるのだが、そんなに言い難いことなのだろうか?

 

 しかし、無言のままではまずいと思ったのだろう。安西提督は一度目を閉じた後、俺の顔を見ながら口を開いた。

 

「それについてなのですが、直接ビスマルクに尋ねてもらえると助かります」

 

「そう……ですか」

 

 元帥や高雄に聞いたときと同じ答えに、俺は落胆して肩を落とす。するとそんな俺を見た安西提督は、小さく笑みを作りながら声をかけてくれた。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。あなたは充分に強い。そろそろ自分を信じていい頃ですよ……」

 

「は、はぁ……」

 

 今日会ったばかりの人にここまで言われてしまうと、なんだかなぁ……と、思うはずなのに、なぜか納得できてしまうのだ。

 

 これが安西提督の慕われる理由なのかもしれないが、それ以外の何かが関係している気がする。

 

 こう……もっと、その……なんだ。

 

 バスケがしたい気分なんだよね。

 

 

 

 

 

 

 安西提督からビスマルクの居場所を聞いて、俺はそちらへ向かうことにした。

 

 色々な会話の際に元帥を恨む理由について聞かれたのだが、そもそも俺はあの人に対して個人的にそういった気持ちはない。

 

 独り言で危ないことを呟いてはいたが、罠にかけられてしまったと思いこんだ上での言葉だし、安西提督が言っていたように意中の人を盗られた訳でもない。どちらかと言えば俺の方が盗った側になるのだが、それを話した途端、安西提督は大きく目を見開いて「彼を越える人物とは……、私の目も狂ったな……」と、呟いていた。

 

 なんだか誤解を与えてしまった気もするが、また土下座をされそうになるのも避けておきたいので聞こえない振りをしておいた。まぁ、大丈夫だろう……と、思いたい。

 

 そんなことを考えながら、安西提督が居た指令室のある建物から外に出た俺だったのだが、ふとなぜか妙な違和感を覚えた。門の方から建物に向かう際にも少しばかり気にはなっていたのだが、そのときよりも強さが増している気がする。

 

 そしてそれは、いつぞやの出来事で感じたモノと同じ。

 

 青葉が俺をつけ回していたときの視線に似ているのだ。

 

 しかし、今俺が居る場所は舞鶴ではなく佐世保なのだ。ここに知り合いはほとんど居ないので、青葉のようにつけ回される心配はない――はずなのだが。

 

「うーん……、間違いなく感じるよなぁ……」

 

 明らかに感じる視線。しかもそれは一つではなく、複数あるように感じられる。

 

 舞鶴では子供たちが幽霊の仕業ではないかと疑ったりしていたが、これ程の視線を当時に感じていたら、俺もそのように考えてしまったかもしれない。

 

 だが、その心配もすぐに杞憂となる。

 

 目的地に向かう際にすれ違う艦娘たちが、俺の顔をジロジロと見てくるのだ。

 

 それはもう、不審者を見るような目つきで……と、言うには少し違って、物珍しそうな感じに思えてくる。

 

 確かに俺はここにきたのがついさっきなのだから、不審者として見られる可能性があるのは分かっていた。だからこそ俺の右胸には名札を付け、怪しい人物ではないとアピールしているのだが……

 

 めっちゃ見てるし。名札をガン見した後に、俺の顔まで一直線だし。

 

 なんだこれ。俺自身に変な噂でも立っているかのように思えるんだが。

 

 もしかして、呉での一件が噂となって出回っているのだろうか。あれについては元帥に頼んで情報統制をしてもらったから、俺が関係したことはごく一部の人しか知らないはずだ。

 

 しかし、どんなに口を塞げと言ってもそこは人の性。やるなと言われれば余計にやってしまいたくなるモノである。

 

 もちろん俺は武勇伝を語って良い気になろうとは思っていない。そんなことをすれば、多少は褒めてもらったりすることもあるだろう。しかし、それと同時に妬みを買うこともあるだろうから、結果的に嫌な思いをするのは分かっているのだ。

 

 小さい頃、俺が深海棲艦に沈められた旅客船から生き残った事件。あのときに多くの取材を受け、様々な人から声をかけられた。その中には俺のことを心配し、励ましてくれる人も多かったが、それと同じくらい嫌な思いもしたのである。奇異な目で見る者。一躍時の人になった俺をねたむ者。そして、そんな俺を金蔓と見て強要する親戚……だ。

 

 あんな思いはもうしたくない。だからこそ、元帥に俺がかかわったことを隠してほしいと頼んだのだ。

 

 しかし結果は無残にも、今のような状況である。すれ違う艦娘は俺の顔を見ると、なぜか頷いたり、ため息を吐いたり、ときには頬を染めたりしているのだ。

 

 余りにも謎。見るところまでは一緒なのに、そのあとの行動がバラバラなのだ。

 

「いったい俺が、何をしたんだというんだ……?」

 

 思いは口を伝い、不満の言葉となって外に吐き出される。そんなことを繰り返しながらしばらく歩いていると、一人の艦娘が道を塞ぐように立っていた。

 

「えーっと、キミが……噂の先生かいな?」

 

 陰陽師のような服装に、襟元に赤い勾玉が光る。背丈は小さく、幼稚園にいる子供たちと比べてもそれ程変わらない。その独特なシルエットを見た俺は、目の前の艦娘が軽空母の龍驤であることはすぐに分かった。

 





次回予告

 急に艦娘からかけられた言葉。
そこには、一つ気になることがある。
『噂』という言葉が。

 そう――。とんでもない、噂が。


 艦娘幼稚園 第二部
 ~流されて佐世保鎮守府~ その4「関西弁講座」

 乞うご期待!

 感想、評価、励みになってます!
 お気軽に宜しくお願いしますっ!

 最新情報はツイッターで随時更新してます。
 たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
 書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
 是非フォロー宜しくですー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。