艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 指令室で転勤命令を受けた次の日。
俺は舞鶴鎮守府を出て、佐世保鎮守府へとやってきた。
そこで出会う人物たちに、何か違和感を覚えつつ……


その2「不可抗力と自業自得」

 

 指令室で転勤命令を受けた次の日。

 

 俺は早朝に舞鶴鎮守府を出発し、特急列車を使って新幹線の駅まで移動した。久しぶりの大階段を見ることなくホームを変え、新幹線に乗って九州に到着。それからまた別の路線を使って特急に乗り、6時間半かけて佐世保鎮守府の門前に到着した。

 

 以前にもここに来る予定はあったものの、小型の輸送船に乗っていたところを深海棲艦の襲撃に遭って頓挫した。そのおかげで弟の生まれ変わりであるヲ級に出会えたのだが、そのことについては以前に語ったので置いておくことにしよう。

 

 それらを踏まえた上で、今回は陸路を取った。といっても、特急や新幹線の切符は高雄が用意してくれたのだから、準備は俺の荷物だけだったので苦労することはなかった。

 

 さすがは元帥の秘書艦、高雄様々である。

 

「見た目はそんなに変わらないんだな……」

 

 目の前にある佐世保鎮守府の門は、舞鶴のそれとあまり変わらない。門柱にある看板がなければ、目隠しをされて連れてこられた場合、判断がつかないかもしれない。

 

「しっかし、どうしてビスマルクは俺なんかを呼んだんだろ……?」

 

 ビスマルクとは時折電話をする仲である。用事があればそうすれば良いのに、わざわざ元帥を通す必要はないと思うのだが、それと合わせて転勤の言葉が引っかかる。

 

 つまり、この佐世保鎮守府で俺の力が必要になる案件が発生した。そう考えるのが妥当なのだが……

 

「まさか呉みたいなことが起きた……なんてことはないよなぁ……」

 

 もしそんな状況ならば、門のすぐそばで立っている門衛は何をしているんだと突っ込まざるをえない。どこからどう見ても、舞鶴鎮守府の普段と変わらないような光景である。

 

 ちなみに、元帥や高雄に転勤理由とビスマルクの願いについて聞いてみたのだが、行けば分かるの、一点張りだった。

 

 どう考えても騙されているというか、何かを隠している感じが俺の心を不安にさせてしまうのだけれど、ビスマルクに対して恩があるのも事実なのだ。ヲ級を連れて帰ることになった、出張の失敗を尻拭いさせた礼と考えた上で、俺は命令を素直に受け取った。

 

 すでに目の前に佐世保鎮守府があるのだから、後は中に入るだけである。鬼が出るか蛇が出るか。はたまた虎の穴なのかもしれないけれど、取って食われるとも思えないし、なるようになるだろう。

 

 俺は自分の両頬をパシンと叩き、少しばかり気合を入れて門をくぐろうと足を進め――ようとした途端、門衛が大きな声を上げた。

 

「動くなっ! 止まれ! フリーズ!」

 

 ……三段活用にならない連呼だな……って、おいっ!?

 

 なんでいきなり拳銃を向けられているんですかーーーっ!? どっかで見た光景(3回目)ですよーーーっ!

 

「さっきからジロジロとこっちを見ているようだが、何をしようとしているんだっ! ことと場合によってはこの場で射殺するぞっ!」

 

「むやみやたらに拳銃振りかざすのが門衛のスキルかよっ! それとも俺には門衛に嫌われる属性でもついているのかっ!?」

 

 俺は慌てて転勤命令書を取りだそうと鞄に手を突っ込もうとするが、

 

「なっ! う、動くなと言っているだろうが! その鞄から取り出そうとしているのは……拳銃か!? それともチャカか!? ガンなのかっ!?」

 

「だからなんであんたは同じ意味の言葉を3回も言うんだよっ!?」

 

「これは私の癖だっ!」

 

「癖と分かっているなら直せよっ! そしてなんで今のは1回しか言わないんだよっ!?」

 

「言われると思ったから直したまでだっ!」

 

「そこまで予想できたんなら、最初から言うんじゃねぇっ!」

 

 俺は渾身の突っ込みをしながら、鞄から命令書を取り出して門衛に渡す。ちなみにその間に撃たれる心配もあったが、門衛が構える拳銃がやたら震えていたので根性がないと判断したのだ。

 

 ……まぁ、誤射の可能性がないとは言えないけどさ。

 

 元中将との対決で、俺にも多少根性がついたということだろうか。

 

「……なるほど、あんたが舞鶴から来る先生だったか」

 

「予定を聞かされていたんだったら、いきなり拳銃を向けるのはどうかと思うんだが」

 

「悪いがそれも癖だ。ついでに言うと、親の教えだから仕方がない」

 

「……は?」

 

「我が家の家訓は、怪しい者は撃て……だからな」

 

 あんたの家って物騒過ぎじゃないっ!?

 

 つーか、この国でそんなに危ないことってあんまりないよっ!

 

「ところで一つ質問なのだが」

 

「あー、はい。なんですかね?」

 

「舞鶴に居る、私の従兄弟は元気にしているだろうか?」

 

「い、従兄弟……?」

 

「ああ、そうだ。舞鶴鎮守府で私と同じように門衛をしているんだが……」

 

 俺はこの瞬間、2人ともいつか呪うと心に決めました。

 

 扶桑と山城と一緒に、丑の刻参りだこの野郎っ!

 

 

 

 

 

 門衛を心の中で睨みつけながら鎮守府内に入った俺は、元帥や高雄から聞いていた人物に会いに向かった。

 

 その人はこの鎮守府でもかなり上の方の階級であり、艦娘や他の人からも信頼は厚く、長年提督として頑張っているらしい。

 

 いわゆる古参なのだろうが、元帥が一目置いていると言われると気になってしまう。まさかとは思うが、元帥以上のスケコマシな訳はないと思うのだが。

 

 ともあれ、暫くはここで厄介になるのだから、味方を作っておくにこしたことはない。まずはきちんと挨拶をして、顔合わせをするのは当たり前だろう。元帥から連絡もいっているはずだから、門前払いはないだろう。

 

「ここだな……」

 

 鎮守府の中心に位置する大きめの建物の中。そこの最上階にある指令室の前に俺は立っている。

 

 コンコン……

 

 まずはノックをして暫く待つ。返事があれば入室して挨拶だ。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 返事がない。どうやらただのしかばねのようだ。

 

 ……いやいや、さすがにそれはないだろう。

 

 まさか指令室の中で提督が死んでいる――なんてことがあれば、それはもう大事件。更にこの鎮守府に来たばかりの俺という存在は、怪し過ぎると言って過言ではない。

 

 コンコン……、コンコン……

 

 再度ノックをして返事を待つ。しかし一向に反応はなく、マジで大事件が起こっているんじゃないかと焦ってくる。

 

「到着予定時刻から大きくずれてもいないし、元帥から連絡入っているはずだから問題ないと思うんだけど……」

 

 そう――呟いてみても、返事がないのは変わらない。もしかすると急用ができたとかで部屋に居ないのではないかと思って扉のノブを回してみたが、鍵はかかっていなかった。

 

 これが顔見知りの相手であれば、気になったから入ってみましたで許されるかもしれない。しかし、俺は今さっきここに初めて来たのだから、そんな理由で入室するには理由として弱い可能性がある。もし、万が一俺の考えていたような事件が起こっていたのなら、まず間違いなく容疑者リストのトップに載ってしまうだろう。

 

 そんなことになってしまえば、元帥や高雄に迷惑がかかってしまう。いや、もしかするとそれこそが元帥の策略かもしれない。やはり、愛宕と良い関係になってきたのをねたんで、俺をこの世から抹殺しようとしているのではないだろうか。

 

 つまり、この転勤命令は罠だったのだ。まんまとかかってしまった俺ではあるが、こうなったら反撃するしかないだろう。

 

 俺はブツブツと呟きながら、頭の中でどうするべきかと考える。

 

「ここから舞鶴に戻るとしたら、ちょうど夜か……。夜襲にはもってこいだろうが、すんなり鎮守府に入れるとは思えない……」

 

「おや、どうかしましたか?」

 

「しかし、せめて元帥に一太刀返さなければ、死んでも死にきれない……」

 

「ふむ。何やら物騒なことを呟いていますが……」

 

「くそっ……、どうにかして元帥に泡を吹かせる方法は……」

 

「ほほう。元帥と言うと、舞鶴のですかな?」

 

「ええ、そうです。女ったらしでどうしようもない、あの元帥です……って、あれ?」

 

 何やら言葉をかけられているような感じがして頭を上げると、俺のすぐ後ろに真っ白な軍服に身を包んだ恰幅の良い中年男性が立っていた。

 

「なるほどなるほど。彼は確かに女性にだらしないですから、敵は多いでしょう。しかし、そんなことをしなくても、彼はそれほど脅威にはなりませんよ?」

 

「……と、言うと?」

 

「彼を殺すには秘書艦を使え。最近の情報ではこれで対処できると聞いています。ですが……」

 

 そう言うと、男性はゴホンと咳払いをする。

 

「彼には色々と付き合いがありますので、許してやってはいただけませんか?」

 

「あ、えっと……、その……」

 

 全く知らない人にいきなりお願いされてもどうすれば良いのだろう……と、思ったのだが、そもそもなぜこんなことになったのだろうか。

 

 扉の中で誰かが死んでいるという確認を取った訳でもなく、俺の勝手な思い込みで始まってしまった良く分からない思考は、男性の声で正常へと戻っていた。

 

 そして、目の前に居る男性は明らかに元帥と同じような服を着ていることから……

 

「ああ、そう言えば申し遅れました。私、この鎮守府で提督をしております、安西という者です」

 

 そう――。俺が会いにきた人物とは、この人だったのだ。

 

 俺のやば過ぎる発言を聞いても不審な顔を一つもせず、優しげに笑いながら頭を下げる。本来ならばこちらから挨拶をするべきなのに、先手を取られた形になってしまった。

 

 つまりそれは、俺の第一印象を著しく損なうことになり、

 

 更には、要注意人物と見なされてもおかしくない発言を聞かれてしまったのだ。

 

 結果、俺の味方を増やそうとする思いは、完全に初っ端から頓挫してしまった訳である。

 

 

 

 自業自得による完全な自動左遷状態になってしまったってことで、ファイナルアンサー?

 




次回予告

 第一印象から大問題勃発!?
しかし、安西提督は非常にいい人だった。

 そしてその後、ビスマルクの元へと向かう主人公にとある艦娘が……


 艦娘幼稚園 第二部
 ~流されて佐世保鎮守府~ その3「佐世保の噂」

 乞うご期待!

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