そうして始まった、幽霊の噂の相談会。
主人公が取るべき手段は何なのか?
潮ちゃんがちょっと大変です?
艦娘幼稚園 ~幽霊の噂と視線の謎~ その3
結局主人公はエロいってことでまとまりそうだよっ。
「なるほど、それで僕を呼んだんだね」
夕立が連れてきた人というのは、以前にも色々と相談をして世話になった時雨だった。知識力もさることながら、推理力も高く、相談するにはうってつけの人物と言える。
まぁ、予想していたのは幼稚園の中からではなく、宿舎に居る艦娘だろうと思っていただけに、少しばかりビックリしてしまったのだけれど、それを言っては夕立と時雨に失礼だろう。
「確かに、先生が来る前にも何度か幽霊の噂が流れたことがあったね。それも、幼稚園だけじゃなくて、宿舎にいるお姉さんたちにも流れてたから、信憑性は高いと思うんだけど……」
少し考え込む仕草を見せた時雨は、ぶつぶつと呟いていた。おそらく、頭の中で過去の噂を整理しているのだろうが、あまりにも似合いすぎているそのポーズが、大人びているという雰囲気をすでに通り越し、貫禄さえ見せてしまうのは如何なものだろう。
いやまぁ、いいんだけどさ。
先生としての貫禄は、すでにどっかにいっちゃってるしねー。
「うーん、だけど……先生にずっと視線を送っているという幽霊については、聞いたことがないかな……」
「新手の新作っぽい?」
「いや、幽霊に新作って言うのは、なんか違う気がするけどな」
「まぁ、そう言われればそうなんだけど、噂が立つ度に幽霊の種類は違うものばかりだというのも確かなんだよね。今までに聞いたことがあるのは――夜な夜なドック内をさまよう青白い人影に、宿舎に流れる鎮魂歌、あとは――開発地下倉庫のうめき声に、幼稚園のラップ音だったかな」
「ふム、最後のが一番気になりマスねー」
「私が聞いた音がラップ音なら、当てはまるわね~」
「でも、やっぱり視線は今までにないっぽい」
「とりあえず、片っ端から調べていけばいいんじゃないか?」
「あら~、それじゃあ天龍ちゃんに全部お任せしようかしら~」
「なっ、なんで俺が全部やらなきゃならないんだよっ!?」
「あれあれ~、やっぱり天龍ちゃんったら怖いんだ~」
「べっ、別にぜんぜん怖くねぇし! そ、そんなに言うんだったら、俺一人でやってやるぜぇっ!」
大声で言い放つ天龍だが、膝から下がガクガクと大きく震えていた。
「いやいや、さすがにそれはストップだ。お前たちに危ない目はあわせられないよ」
俺はそう言いながら、子どもたちに向けて首を左右に振る。それを見た天龍が、ほっと胸をなで下ろすような仕草をしたが、すぐに周りを見渡して口を開いた。
「せ、先生だけじゃ心細いだろうし、た、助けてやっても良いんだぜ?」
「その気持ちは嬉しいけど……ん、待てよ?」
時雨から聞いた噂の内容を思い返してみる。ドック内をさまよう青白い人影に、宿舎に流れる鎮魂歌、開発地下倉庫のうめき声に、幼稚園のラップ音。ドックと開発地下倉庫に関しては元帥に許可を得れば入ることは出来るだろうし、幼稚園内は問題なく移動できる。――だけど、宿舎には艦娘以外に立ち入ることは、指揮官である人物しか入ることが出来なかったはずだ。
「うーん、宿舎に俺が入ることは出来ないから……どうするかなぁ」
「そ、それなら俺が、調べてやるぜ!」
そう言って胸を叩く天龍だが、武者震いは止まるどころか更に強くなっているみたいだった。
「それについてだけど、調べる必要はないと思うよ」
「ん、そうなのか、時雨?」
「うん。戦艦のお姉さんたちから聞いた話なんだけど、どうやら鎮魂歌を歌っていたのは山城さんと扶桑さんだってことらしいんだ。自らの不幸を嘆くあまり、開運オリジナルソングを作りあって、少しでも幸福になろうとしたらしいんだよ」
その結果、幽霊騒ぎになるところが不幸艦らしいよね――と、時雨は付け加えながら苦笑を浮かべた。周りの子どもたちも呆れ顔や苦笑を浮かべて頷いている。
「それじゃあやっぱり、幼稚園のラップ音が第一候補っぽい?」
「そうだね。龍田ちゃんが聞いた音というのがそれならば、先生に向けられている視線にも関係してくるかもしれないね」
「実は気のせいだったりして~」
「自意識過剰っぽい?」
「いやいや、さすがにそれはない。音に関しては聞いてないけど、視線は間違いなくあるはずだぞ」
「ウーン、それならやっぱり、新しい幽霊みたいデスねー」
子どもたちと相談しながら辺りを見回してみる。一人で居るときよりは感じが薄いような気もするが、やっぱり視線らしきものが感じられる。
ただ、それが幽霊かどうかなのかは、今の俺にはさっぱりと言っていいほど、分からないんだけれど。
「まぁ、とりあえず今日の夜にでも幼稚園の中を見回ってみることにするよ。ここなら目をつぶっていても大丈夫だし、仮にラップ音ってのがあったとしても、音だけならそんなに被害がでるって感じでもなさそうだからな」
「そう……なのかな。ラップ音が出るってことは、ポルターガイスト現象になるから……危ない気もするんだけど」
「え、そうなの?」
「さっき私が説明したデース。ラップ音と一緒に、コップが飛んできたりして怪我をすることもありマース!」
「む、それは……怖いけど、実際に経験した人っているのか?」
「そ、それは……どうなのデスか?」
金剛が周りのみんなを見渡しながら聞いてみるが、全員首を横に振って、知らないと答えた。
「つまり、あくまで噂ってことだよな。それなら俺一人だけでも大丈夫だろう」
「火が無いところに煙は立たぬ――って、言うわよね~」
「いや、ここでやる気をそがれてもだな……」
「あら~、別にそんな気は全然ないのよ~。ただ、先生がちょっと心配なだけ~」
「た、龍田……」
そこまで俺のことを心配してくれてるのかと、かなり嬉しく思っていたところ、
「夜の見回りで窓とか割っちゃいそうで、後始末が大変よね~。それでなくても、先生としてまだまだなんだから~」
グサリと刃物のように龍田の言葉が俺の胸に突き刺さり、画面が真っ赤になるくらいのダメージを受けてしまった。
このままだと俺が幽霊になって、噂の原因になりそうである。
「と、とにかく、今日の夜に見回りをしてみることにするから、それで何かあったらまた相談ってことでいいだろう」
「そうデスねー。でも、危険なことは出来るだけしちゃダメなんだからネー!」
「ああ、分かってるよ、金剛。心配してくれてありがとな」
「どういたしましてデース! 先生が先に逝くなんて、許さないんだからネー!」
いや、ここにきて『逝く』と言う言葉は使わないで欲しいんだけどね。
「と、とと、とにかく、何かあったら俺を呼べよ先生!」
うん、とりあえず天龍はもう少し落ち着いてからしゃべろうな。
「うふふ~、天龍ちゃんをからかうネタがまた一つ増えたわ~」
そして、龍田はもう少し自重するように。
「先生、頑張るっぽい!」
応援サンキューな、夕立。
「僕も、色々と調べてみることにするよ、先生」
あぁ、時雨の知識力には期待しているよ。
「う、うぅぅ……」
そして、潮はと言うと、
「ご、ごめん……なさい……先生……」
今までの会話で我慢できなくなっていたのか、立ったままお漏らしをしてしまっていた。
それも、勢いよくジョバーって感じで。
「だ、大丈夫か……潮……。とりあえず、トイレと洗濯室に行こうな……」
「う、うん……うわぁぁ……ん……」
「な、泣くんじゃねーよ潮っ! 俺がついてるから大丈夫だぞ!」
足をガクガクと震わせた天龍の頼りない言葉を聞きながら、俺は泣きじゃくる潮の手を引いてトイレへと向かう。そんな俺の背中に突き刺さる感じの視線がずっと後をついてくる気がして、ぞくりと背筋が凍りつく。
「なにも……起こらないよ……な?」
俺は、潮の鳴き声にかき消されるくらいの小さな声で、祈るように何度も何度も、誰もいない通路の先に呟いた。
本日の業務を一通り終了させた俺は、スタッフルームでいつもの一杯を飲み干し、愛宕に見回りをするということを伝えていた。
「見回り……ですか~?」
「ええ、最近ちょっと変な出来事がありまして……。子どもたちの安全のためにも、少しやっておいたほうがいいかなぁと思ったんですけど……」
物は言い様であるけれど、愛宕に嘘をつくのはどうにも気が引ける。実際には俺に対する視線を解明する為なのだから、子どもたちの安全に直接関係がない。だけど、さすがに本当のことを話すのには少し気が引けるのだ。
子どもたちにばれてしまったけれど、これ以上心配してもらう人を増やしたくはないし、差別する訳ではないのだが、たくさんの恩がある愛宕に、これ以上心配をかけたくないのだ。
「そういった報告などは聞いてませんけど……何かあったんでしょうか?」
「あ、いや……えっとですね……」
やはり、いきなり見回りをすると言い出せば、気になるのも当たり前だろう。
「最近、子どもたちの中で幼稚園内に幽霊が出るんじゃないかって噂が立ってまして……」
「………………」
「それで……その、えっと……愛宕……さん?」
表情を固めた愛宕が、無言のまま立ち尽くしているのに気づいた俺は、恐る恐る声をかける。
もしかして、愛宕にこの話は禁句だったのだろうか?
それとも、嘘がばれてしまったのかもしれない。
「あ、すみません~。ちょっと考えごとをしていたんですよ~」
「考えごと……ですか?」
「ええ~。でも、おかしいですねぇ~」
ホッとしたのもつかの間、愛宕が言ったその言葉に俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「おかしい?」
「いえいえ~。ただ、ここ最近そんな噂が立ったなんて知らなかったものですから~」
「ん、え、えっと、本当につい最近らしいですよ。子どもたちが噂をしだしたのは……」
「そうなんですか~。ちなみに、どんな感じの噂なんですか~?」
「えっと……確か、背後からずっと見られているような感じがする……とか、ラップ音みたいなのが聞こえるらしいです」
「視線に……ラップ音……ですか~」
「あ、でも、聞いたことがあるって子も少ないみたいですし……か、考えすぎですかね、あ、あははは……」
俺は焦りながら笑い声をあげたが、愛宕は神妙な顔つきで考え込んだままだった。
「う~ん、それなら見回りをした方が良いかもしれませんねぇ~。申し訳ないですけど、お願いできますでしょうか、先生?」
「え、あ、はいっ! それじゃあ今晩から早速やってみます!」
まさか今の話の流れでOKが出るとは思わなかった俺は、張り切って返事をした。
これで愛宕からちゃんと許可も出たのだから、堂々と幼稚園内を見回りすることが出来る。
いや、別にやましいことをするわけじゃないのだから、そこまで気にする必要はないのだけれど。
でも、やっぱり嘘をつくって言うのは、気持ちがスッキリとしない。
だけどこの嘘は、心配させないようにという気持ちなのだからと、自分に言い聞かせた。
「こちらの方でも、色々と調べてみますので……これは見回りの道具です」
愛宕はそう言って、胸の谷間から懐中電灯と防犯ブザーを取り出して俺に手渡してくれた。
いや、準備早すぎじゃないっスか?
あと、ほんのり暖かいんですけどっ! すげえ嬉しいよっ! 興奮しちゃうよっ!
「自重はしてくださいね~」
「あ、いや……って、心の中を読まれたっ!?」
「あらあら~、危ないことはしないでって意味だったんですけど、何を考えていたんでしょう~」
「な、ななな、ナンデモナイデスヨ?」
「うふふ~、そう言うことにしておきましょうか~」
満面の笑みを浮かべる愛宕に少し後ずさりながら、預かった道具をポケットにしまい込んだ。
うーむ、愛宕の前では変なことを口走れない……。
いや、今のは俺が暴走しすぎただけなんだけどね。
「それじゃあ、宜しくお願いしますね、先生」
「は、はいっ」
「では今日はこれで。お疲れさまでした~」
「お疲れさまでした」
頭を下げて部屋から出る愛宕に手を振って、俺はもう一度唾を飲み込んだ。
べ、別に変な意味じゃないよ?
「うーむ……」
ポケットの中に手を突っ込む俺。その中には、懐中電灯と防犯ブザーがある。
「まだ、ほんのり暖かい……」
だから、自重しろって話である。
「あ、そうそう~」
「は、はひっ!?」
いつの間にやら部屋に戻ってきた愛宕の声に驚き、俺はすぐにポケットから手を出した。
「見回りの後、戸締まりはしっかりとお願いしますね~」
「わ、わかりましたっ!」
「それでは、お疲れさまです~」
「お、お疲れさまでした……」
もう一度手を振って、愛宕は通路を歩いていった。
ふぅ……ちょっと、いや、結構やばかったかもしれない。
自重しろって言われたばかりなのにね。俺ってば、本当にバカである。
「あー、もうっ! 気を取り直して、準備に戻るか!」
どちらにしても、見回りは夜である。
夕食をとってから自室で休んでからでも十分に時間はある。まずは休息を取る方が良いだろう。
そうと決まれば善は急げ。早速いつもの鳳翔さん食堂へと足を向ける。
「見回りもあることだし、今日はガッツリ食べるぞ!」
さすがにブラックホールコンビや腹ぺこには叶わないけどね――と、心の中でツッコミながら、通路を歩いていく。
その時の俺が正常な思考をしていたのならば、気づいたのかもしれない。
背中に突き刺さる視線が、しばらくの間、まったく感じられなかったことに。
次回予告
夜の見回りを決めた主人公。
しかし、幼稚園に向かう際に出会った艦娘の会話から、またもや事実が発覚する?
見回りの最中にも、もちろんトラブルは降ってきて……
明日も連日更新予定です。
お楽しみにお待ちくださいませー。
感想、評価宜しくお願いしますっ!