艦娘幼稚園 第二部 本日より開始ですっ!
今回も先生が踏んだり蹴ったりになりながら、ラノベの主人公宜しくモテモテになっちゃうのか……それとも……っ!?
いつものようにスタッフルームで会議をしていた主人公。
自分の仕事が割り振られず、何故か指令室に出頭命令が。
もしかして、俺、クビになっちゃうんですかっ!?
その1「舞鶴鎮守府 艦娘幼稚園の皆様へ」
舞鶴鎮守府 艦娘幼稚園の皆様へ
みなさん元気でお過ごしでしょうか。
俺は1ヶ月程前からこちらで働くことになりましたが、何とかやっていけています。
初めの頃はどうしてこんなことになったのかと苦悩していましたが、少しずつその理由が分かってきました。
誰が悪い訳でもなく、むしろ俺じゃなければダメだったのではと思い始めてきましたが、慢心することなく頑張っていこうと思います。
担当していたクラスの子たちがどうしているか少し心配ですが、俺が居なくても大丈夫でしょうか?
この思いが無駄であれば良いのですが、みんなのことだから上手くやっていけているでしょう。まぁ、正直に言えば寂しくもありますが……
そちらに帰るのはもう少し先になるかと思います。ですが、順調にいけばそれ程遠くはないでしょう。その間、他の先生方にはご迷惑をおかけ致しますが、なにとぞよろしくお願いします。
お体に気をつけて病気などなされぬよう……って、みなさんならば大丈夫ですよね。
むしろ俺の胃がやばいことになりそうですが、そこはまぁ、めげずに頑張っていきます。
では今回はこれくらいで。また手紙を送ります。
追伸
ヲ級が変なことをしていないでしょうか?
もししていましたら、ゲンコツでも落としてやって下さい。
あ、それと別に電話かけてくれても良いですよ。むしろかけて下さい。愛宕先生だとすんごい嬉しいです。泣いて喜びますのでお願いします。絶対絶対お願いします。なかったら毎晩涙で枕を濡らします。
……ごほん。話がちょっと逸れそうになりました。すみません。
◆ ◆ ◆
呉での騒動が終わり、深海棲艦の一団と停戦を締結してから約半年が経った。その間、問題らしいことは起きず、新たに幼稚園に通うことになったレ級やほっぽ、港湾棲姫も騒動になることなく舞鶴鎮守府内で暮らしている。
普通に考えればそれはそれでおかしいのだろうけれど、そこは優秀な秘書艦である高雄の腕が冴え渡ったのだろう。艦娘や鎮守府内にいる人たちにしっかりと情報は伝わり、恐れていた混乱もなくフレンドリーに付き合っているようだ。
その対応にほっぽたちも気を良くしたのか、幼稚園以外でも友達ができたらしい。少し前まで戦っていた艦娘と深海棲艦が仲良くしている光景は、本当に嬉しく思う。
これで、俺の望む夢にも一歩どころじゃないくらい近づいた。
――そう、思っていた矢先のことだったんだよね。
キーンコーンカーンコーン……
幼稚園の建物内に終業のチャイムが鳴り響き、終礼を終えた子供たちは寮へと戻っていった。
そして、俺たちはスタッフルームで集まって、明日の予定について話し合っていたのである。
「……と、言うことで、しおい先生と港湾先生は明日の朝に準備の方をお願いしますね~」
「分っかりました。しおいに任せて下さいっ!」
「了解シタ。明日ハイツモヨリ少シ早メニ、出勤ダネ」
しおいと港湾は大きく頷きながら、コーヒーカップに口をつけている。だが、愛宕が説明した内容に、俺の明日の予定は含まれていなかった。
「あ、あの……、愛宕先生。俺は明日の朝に何か準備などを……」
「いえいえ。先生はこれから、指令室の方にいって欲しいんですよ~」
「え……っと、指令室……ですか?」
「はい、そうです~。元帥がいつも居るところですけど、先生は何度かいったことがありますから、場所は分かりますよね?」
「あ、はい。大丈夫です」
俺はそう答えたけれど、なぜいきなり指令室に行かなければならないのだろうか?
問題を起こした覚えはないし、呼出しを受ける理由も思いつかない。そうなると、あとは嫌な予感しかないんだけれど、元中将の関係者はすでに居ないはずだから、仕組まれた査問会もない……と、思う。
少しばかり不安な感じにさせられてしまうが、やましいことは何もないので大丈夫だろう。
そう――自分に言い聞かせた俺は愛宕に向かって頷き、カップに入ったコーヒーを飲み干してから指令室に向かった。
そして、現在俺は指令室の中に居る。
部屋の中心より少し奥にある大きな机には、両肘をついて指を組んだ元帥が座っていて、どこぞの補完計画を企む司令官のように目をキラリと光らせていた。
まぁ、実際にこの鎮守府で一番偉い人なんだから、そういった動作も必要なのかもしれないんだけれど。
そのすぐ隣には、秘書艦である高雄が澄ました顔で立っている。
いや、澄ましたよりかは、呆れたといった方があっているのかもしれない。
その理由は、元帥のポーズにあるんだろう。さては昨日辺りに、アニメのDVDでも見たんじゃないのかな。
色んな影響を受けまくるのが元帥である。したがって、今回のそのポーズも新世紀的なアニメの影響と見て間違いないだろう。
「そ、それで……、俺はどうしてここに呼び出されたんでしょうか……?」
不安半分、呆れ半分といった感じで、元帥に問う。すると、高雄が懐から一枚の紙を取り出して、俺に渡してくれた。
A4のプリント用紙。そこには明朝体のフォントで、ハッキリと書かれていた。
『転勤命令』
「………………へ?」
その文字を見た瞬間、俺の頭は完全に停止する。
転勤……、転勤って何だ?
俺は幼稚園でも鎮守府内でも、問題らしいことは何一つ起こしていないよねっ!?
「ど、どういうことなんですかっ!?」
慌てて元帥に問う俺に、元帥はなぜかニッコリと笑みを浮かべていた。
なぜ笑うのか。
正直、俺にとって笑えるような話ではない。
つまりそれは、元帥にとって嬉しいことであって、俺にとっては嬉しくないことなのだ。
もしかして……俺が最近、愛宕と良い感じになっているのを妬んで……!?
「お、お願いしますっ! 理由を……、理由を聞かせて下さいっ!」
「まぁ……、そうだねぇ……」
勿体ぶるように呟いた元帥は、不敵な笑みを俺に見せる。
まず、間違いない。
これは……俺をおとしめようとしている目だっ!
元帥、貴様嘘をついているなっ!
「いい加減にして下さいっ!」
「げふっ!?」
あ、今の台詞は俺じゃないよ?
元帥の横に居た高雄が、いつものように元帥の後頭部を強打しただけですから。
………………。
うん。いつか元帥、死ぬ気がする。
「そうやって何度も先生を困らせるようなことをして、何が楽しいのですか?」
「そ、それは悪かったけど……、後頭部はマジで洒落にならないよ……」
「自業自得です」
痛がる元帥を尻目に、ふん……と、鼻を鳴らしながら高雄は顔を背けた。
まぁ、相変わらずと言えばそうなんだけどね。
「あ、あの……それで、俺の転勤についてなんですけど……」
ただ、完全に俺のことを忘れ去られてしまいそうだったので、ここはしっかりと問いただしておく。
「原因が俺にあるのなら謝ります。厳罰や給与の査定なら涙を飲みますが、いきなり転勤だなんていくらなんでも酷いじゃないですか。せっかく幼稚園にも慣れ親しんで、子供たちとも上手くやっていけているんです。それなのにここで別れてしまうなんて、俺には耐えられそうにありません……」
幼稚園の危機から子供たちを守るために、元中将と対立して身体を張った。
鎮守府が阿鼻叫喚になったときも、俺は子供たちと共に原因である猫を見つけ出した。
俺を助けてくれた者のために呉まで行き、元中将との戦いに決着をつけた。
それを盾にする気はないけれど、この仕打ちはあまりにも酷過ぎる。
子供たちと別れたくない。愛宕とも別れたくない。
もっと言えば、元帥や高雄だって別れたくないんだ。
俺はこの舞鶴鎮守府が大好きだし、第二の故郷だと思っている。そりゃあ、小さい頃から親戚筋を転々としてきたけれど、今一番落ち着くところはこの場所なんだ。
しっかりと元帥の目を真っすぐ見つめる俺に、高雄が小さくため息を吐いてから口を開く。
「先生は勘違いなさっているようなので、私からき、ち、ん、と……ご説明します」
高雄の強調した言葉に耳が痛いのか、元帥は苦笑を浮かべながら肩をすくめている。
「実はある鎮守府から助けて欲しいと、先生を指名してきたのです」
「え……っ、お、俺をですか?」
「はい。ちゃんと先生を名指しで。絶対に先生でないと困るから……と」
「は、はぁ……」
全く意味が分からない。俺はこの舞鶴鎮守府以外に知り合いが多い訳ではなく、恩を売った記憶はない。呉での一件もル級を助ける意味合いが強かったので、鎮守府に捕われていた艦娘や作業員たちとはほとんど会うことはなかったし、お礼の言葉も元帥や高雄を通じて受け取ったものばかりだった。
つまり、そこまでして俺を指名する理由は思いつかないのだけれど、向こうがそう言っているのだから嘘ではないのだろう。まさか、呉の絡みで恨みを持った元中将の関係者が俺を罠にはめようとしているのなら話は別なのだが、それなら先に高雄が対処してくれるだろう。
まさかとは思うけれど、俺のことが邪魔になったから厄介払いとして、わざと罠に放り込むなんてことは……ないと思いたいのだが。
元帥は見事に後頭部を殴られていたし、それが演技でないことは今までの経験上充分に分かっている。だからこそ見破れなかった……とは思えないんだけれど。
「そういうことだから、悪いんだけど少しの間だけ向こうに行って欲しいんだよね」
「そ、それで……、転勤命令ってことですか……」
コクリと頷く元帥に、俺はどうしようかと頭を傾げる。
罠ではないと思う。いや、思いたい。
今まで俺は幼稚園に尽くしてきたし、元帥や高雄とも仲良くしてきたはずだ。それが本人たちにとってどんな評価をされているかは分からないけれど、決して悪いものではない……と、思っていたとき、高雄が若干辛そうな顔で呟いた。
「それと、先生を指名した相手なのですが……」
俺はごくりとツバを飲み込み、高雄の言葉を待つ。元帥よりも勿体ぶるような間が俺の心をざわつかせ、もうそろそろ耐えきれなくなると思われた瞬間、
「佐世保に居る、ビスマルクの願いなんです……」
その答えに俺は唖然とし、高雄が大きなため息を吐いた。
――と、言うことで。
佐世保への転勤は確定事項となりました。
次回予告
指令室で転勤命令を受けた次の日。
俺は舞鶴鎮守府を出て、佐世保鎮守府へとやってきた。
そこで出会う人物たちに、何か違和感を覚えつつ……
艦娘幼稚園 第二部
~流されて佐世保鎮守府~ その2「不可抗力と自業自得」
乞うご期待!
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