すんなり帰れれば良かったんですが、トラブルに巻き込まれるのはいつもの事。
何やら怪しい雰囲気を察知したんですけど……
「うぅー……頭が痛い……」
佐世保の食堂でビスマルクと呑み交わした次の日の朝。既に青葉は舞鶴へ戻ろうと海を駆けているんですが、さすがに昨日は飲み過ぎたみたいで頭の中にラスト一周半の打鐘音が鳴り響きまくっています。
……って、例えがマニアック過ぎましたね。どうにも調子が出ませんけど、考え事をしようとすると頭痛が酷いので無心で航行に集中した方が良いみたいです。
………………
…………
……
いやいやいや、確かに作者はそれで楽かもしれませんけど、読んで下さっている読者の皆さんに何にも伝わらないですよっ!?
これって完全に手抜きじゃないですかっ! いったい何を考えているんですかっ!
………………
色々と気が回る青葉ってエライ……と、内心思っちゃったりしますけど、これって色んな意味で崩壊しちゃっているって事ですよね?
うむむ、これは困りました。あまりやり過ぎると、完全に見捨てられちゃいます。
作者に変わって青葉が土下座しますっ! 航行中なので土下座しながらスライドですっ!
傍から見たら恐ろしい光景かもしれませんけど、背に腹は代えられませんっ!
………………
いや、だから青葉ったら何をやっているんでしょう……
これはアレです。二日酔いのせいなんです。
どうせなら自転車じゃなくてボートにしろって感じです。まだその方が、関連性があるって話ですよ。
………………
いや、だからなんでそっち方面になっちゃいますかね……
多分、殆どの読者さんがついてこられていないと思うので、そろそろこの話は切り上げましょう。
それに早く帰った方が、青葉の身の安全の為でもありますし。
無理が出ない速度で突っ走っちゃいましょーっ!
「……おや?」
それから暫く航行し、舞鶴の近くまで帰って来たところで辺りの異変に気付きました。
「なんだか波が少し荒れている様な……」
この辺りは小さな島がいくつかありますから、若干海流が複雑だったりしますけど……これは変ですよね。
「なんだか嫌な予感がしますけど、電探に反応は……ん?」
すると、青葉の頭にキュピーンと閃くような感じがきちゃいました。もちろん、新しいタイプとかそういうやつじゃないですよ?
これは俗に言う電探の反応です。反応は小さいですから、漁業関連の小型船とかだと思うんですけど……見当たらないですね。
「ふむ……水上電探に小さな反応が合って、そちらの方向に何も見えない。これって、深海棲艦が水中から急に出てくる感じと良く似ていますねー」
いやいや、ここは鎮守府からそう遠くない場所ですし、すでにこの海域は深海棲艦から解放済みです。たまーに、はぐれ駆逐艦が目撃されたりしますけど、すぐに逃げ去るのが関の山……
ガバァッ!
「………………」
「………………」
今、目の前に大きな水柱が立ちました。
「………………」
「………………」
ついでにその中から、真っ黒な身体に大きな艤装がついた戦艦クラスの深海棲艦が目の前に……
「ちょっと深入りってし過ぎたって感じじゃないですーーーっ!?」
なんでこんな所に戦艦クラスが出てくるんですかっ!? 迷い込んできて、たまたま鉢合わせとか洒落にならないですよぉっ!
「ムッ……貴様ハ……」
「ひいっ! お、お助けーーーっ!」
一対一ですけど、状況が悪すぎますっ! ここは一度退避して、体勢を取り戻さないと……
「確カ舞鶴ノ艦娘ダナ。先生カラ聞イタ事ガアル風貌ダ」
「え……?」
い、今……何て言いましたかね……?
先生とか聞こえたんですけど、空耳じゃ……ないですよね?
「……モノ凄ク曖昧ナ表情ヲシテイルガ、コノ場所ノ事ヲ知ラナイノカ?」
「こ、この場所って……あっ……」
「ココハ現在、舞鶴ト停戦合意シテ許可ヲ貰ッタ深海棲艦ガ暮ラス島ノ範囲ダ。マサカ通達ガ無カッタトハ思エンガ……」
「い、いやいや。これは青葉のミスです。完全に忘れちゃってましたっ!」
「……潔イノハ好感ガ持テルガ、上ニ怒ラレン様ニナ」
「あ、あはは……ありがとうございます……」
深海棲艦に諭される青葉って……色んな意味で大丈夫なんでしょうか……
「ソレデハ、私ハソロソロ島ニ戻ルノデ……」
「あ、その……ちょっと良いですか?」
「何ダ?」
「今さっき、先生って言いませんでしたっけ?」
「アア、言ッタゾ。私ハ彼ニ大キナ借リガアルカラナ」
「それじゃあ、貴方はやっぱり……」
目の前に居る深海棲艦を良く見れば、少し前に写真で見た事がある風貌に青葉の頭にキュピーン……って、これは電探じゃない方ですね。
「ヤッパリト言ウ意味ガ分カリカネルガ……」
少し困惑したような表情を浮かべた深海棲艦に、青葉はズビシッ! と指をさしながら倒れそうなポーズをとって言い放ちますっ!
「貴方は先生の初めての相手ですねっ!」
ズキューンッ――と、そんな効果音が鳴りそうな決めポーズなんですが……
「………………」
「あれ……違いました……?」
急に漂う重い空気に、少々気まずさが……
「ソウデス。私ガ先生ノ下僕デス」
「発見しちゃいましたーーーっ!」
「冗談ダケドナ?」
「違ったーーーっ!?」
「シカシ、付キ合イガ無イ訳デハナイ」
「合っているのか違っているのか分かりませんーーーっ!」
「マァ取リ敢エズ、ココデ立チ話モナンダカラ島ニ来ルカ?」
「ふむ……そうですね……」
深海棲艦が沢山居そうで少し怖いですけど、先生の事や新たな発見が色々あるかもしれませんねー。
これは大きな取材のチャンス……ここで引いたらジャーナリストじゃありませんっ!
「それじゃあちょっとだけ、お邪魔しちゃって宜しいでしょうか?」
「イイトモー」
「ちゃっちゃーちゃらららーん、ちゃーん♪ って、ノリが良過ぎですっ!」
「フフフ……オ前モナー」
そう言いながら親指を立ててニヒルに笑う深海棲艦を見て、青葉は思いました。
こやつ……デキる……っ!
◆ ◆ ◆
という事で、青葉は深海棲艦の後を追ってます。
「ところでちょっと宜しいです?」
「ナンダ?」
「まずは自己紹介をしておいた方が良いかな――と、思いまして。私は舞鶴鎮守府に所属している青葉ですけど、貴方って戦艦ル級で間違いないですよね?」
「ソノ通リダ。チナミニ私ノ方モ、貴様ノ事ハ先生カラ色々ト聞イテイル」
「そ、それって……どんな感じですかね……」
多分、ある事ない事言われちゃっている気がするんですよねー。
まぁ、自業自得だってのも分かっているんですけど、身体が勝手に動いちゃうのは仕方ないんですよー。
「………………」
「あ、あれ……どうして黙っちゃうんですか?」
「世ノ中ニハ、知ラナイ方ガ良イ事ガ沢山アッテダナ……」
「お気遣いは嬉しいですけど、それはそれでグサッときちゃいます……」
「聞クニ耐エラレナイ事、コノ上ナイ……」
「思っていた以上にザックリ斬られて、心が折れちゃいましたーーーっ!」
一体全体、先生はこのル級に何を吹きこんだんですかっ! さすがに青葉も凹み倒しちゃいますよっ!
「マァ……人生ハマダマダコレカラダ……気ニシナクテモ良イ……」
そう言ったル級は、振り返りながら青葉の顔を悲しげに見つめて……一粒の涙を流してました。
いや、本当に凹みまくっちゃうんですけど。
「ソンナニ気ヲ落トスナ。島ニ戻ッタラ、獲レタ魚デモ焼イテヤロウ」
「うぅ……ありがとうございます……」
大きめの網を手に持ったル級が誇らしげに青葉に見せたんですが、中には沢山のお魚が入っていました。
海中から出てきたのって……漁業資源の確保でもしていたんでしょうか?
………………
……え、ル級って仮にも戦艦ですよね?
働かざる者、喰うべからず……なんでしょうか?
でもそれだったら……青葉に御馳走してくれるって……ちょっと待って下さいっ。
その場合、もしかすると食事前に島で強制労働させられちゃうとか……そういう事ですかっ!?
大きい手押しのグルグル回すヤツを泣きながら押すとか、自転車を漕ぎまくって電気を起こすとか、ツルハシ持って山を削って鉱山資源を確保するとか……過酷すぎますっ!
「あ、あの……べ、別に、あ、青葉は……」
「ドウシタ、顔色ガ良クナイゾ?」
「い、いや……ちょっと体調があまり良くないので……」
「ムッ、ソレハイカンナ。ナラバスグニデモ、島ニ戻ッテ治療シナケレバナランナ」
「い、いやいやっ! そこまでお世話になる訳には……っ!」
両手を突き出してワタワタと振りながら遠慮する青葉なんですが……
「気ニスルナ。困ッタ時ハ、オ互イ様ダ」
ガッチリと青葉の腕を掴んだル級は、更にスピードを上げて青葉を曳航しちゃいました……って、助けて下さいーーーっ!
「いーーーやーーーっ! さらわれちゃいますーーーっ!」
「アマリ喋ルト舌ヲ噛ムゾ。ココハ海流ガ複雑ダカラ……ヘブッ!?」
「当の本人が噛んでいます……って、んぎゅっ!」
「ダカラ言ワンコッチャ……ングッ!」
涙目で青葉を見るル級なんですけど、口からダラダラと血が流れて……猟奇的ですーーーっ!
こんな状態のル級に連れ去られる状態って、もはや異質だとしか思えませんっ!
誰か助けてお願いぷりぃぃぃずっっっ!
「………………」
「ドウシタ、早ク入ルガ良イ」
「は、はぁ……」
殆ど強制連行に近い状態で島に連れてこられた青葉ですが、なんと言うかその……色々とツッコミどころが満載です。
通されたのは島の中心部にある森の中の建物なんですが、この場所は昔に慰安旅行とかで来た事があるんですよね。
至って普通の二階建てコンクリートなんですが、その内部には……
「オヤ、コレハ珍シイ来客ダナ。ヨウコソ、我々ノ島ヘ」
「あ、ありがとうございます……」
こういった風にフレンドリーな深海棲艦が、私達艦娘と同じ様に過ごしていました。
今まで戦ってきた深海棲艦は何だったんだろうと思ってしまうくらい普通で、敵意も全く見てとれません。停戦したのがつい最近の事なのに、艦娘である青葉が来ても気にしない素振りさえ感じてしまいました。
「ル級、オカエリ。狩リノ成果ハドウダッタノカナ?」
「ウム。ヤハリコノ辺リノ海域ニハ、マダマダ漁業資源ガ多ソウダ。コノ分ダト我々ノ食事ドコロカ、交易ノ一部トシテ充分過ギルト思ワレルゾ」
「ソレハアリガタイ。海中ノ採掘資源モ良イ報告ヲ受ケテイルカラ、当分ハ何モ心配シナクテ良サソウダナ」
――と、こんな風に仕事の話までしちゃっています。既に地上の社会とまったく変わりがありません。
このままだと私達艦娘の方が地上で取り残されてしまいそうで、何だか肩身の狭い思いがしちゃうんですけど……
「トコロデスマナイガ、舞鶴カラノ来客ヲモテナス為ニ、食事ヲ頼メナイカ?」
「ヨシ、任セテクレ。腕ニ縒リヲ掛ケテ、美味イ食事ヲツクロウゾッ!」
そう言って、ル級から魚が沢山入った網を受け取ったホ級が張り切って調理場の方へと向かって行きました。
い、色んな意味でパナイです……ここ……
「ソレデハ食事ガデキルマデノ間、先程ノ話ニ戻ロウデハナイカ」
「あ、はい。そうですね……」
「ムッ……ソウ言エバ、体調ガ優レナイト言ッテイタナ……」
「い、いえいえっ、大丈夫です。休憩したら落ち着きましたからっ!」
「ソウカ……? ナラ良イノダガ、調子ガ悪クナッタラ気ニセズニ言ッテクレ」
「ありがとうございます」
うむむ……来客のもてなしまで完璧過ぎるので、もはやネタになるとかそういうんじゃなくなっちゃっているんですよね……
これはこれで凄いんですけど、色んな意味で期待外れと言いますか……
こう……産卵部屋みたいなのがあって、映画のワンシーンの様なのを期待しちゃっていたんですけどねぇ……
「デハ、ソコノ席ニデモ座ッテクレ」
「はい。どうもです」
ル級が指差した長机に備え付けてある椅子に座り、ホッと一息ついたのですが……
「ドウゾ、粗茶デス」
「あ……ありがとです……」
間髪いれずに湯呑を持ってきてくれたリ級に、青葉は汗を垂らしながらお礼を言ったのでした。
や、やっぱり……居辛いですよ……ここ……
次回予告
深海棲艦がおもてなしっ!
ビックリ仰天な青葉ですが、更なる恐ろしさが現れるっ!?
出てきた料理に驚き、逃げる方法を思いつきながら……更に悪化っ!?
はたして青葉は無事にこの島から脱出する事が出来るのかっ!
そして、那珂の身体の解決法はどうなるのかっ!
次回も大暴走ですっ!
艦娘幼稚園 スピンオフシリーズ『青葉の取材遠征日記』
その7「暖簾に腕押しですっ!」
乞うご期待!
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