艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 悶絶レベルの指圧を食らった後の事なんですが、またもや青葉に危機が迫ってきましたっ!

 なんと今度はかどわかしっ!?
青葉はいったい、どこに連れて行かれるんですかーーーっ!



その5「呑み勝負は致しませんっ!」

 明石が居た部屋から出てきた青葉は、通路を歩きながらどんな仕返しをするかを考えていました。

 

「ちっちゃい榛名が大好きみたいでしたが、先生と同じ感じには思えないんですよね……」

 

 ちょっぴり集中し過ぎちゃってブツブツ呟いていますけど、怪しい艦娘ではないのであしからずです。

 

「やっぱり、部屋の奥に隠してあった衣服関連で攻めるべきでしょうか。でも、周知の事実だったらあんまり意味が無いですしねぇ……」

 

 明石が居た部屋の奥には煌びやかな衣服類がいくつもハンガーに掛けられていましたけど、良く探さないと分からない風になっていたんですよねー。

 

 隠してあったという事は、後ろめたい気持ちがあるんでしょうけど……勘だけで決めちゃうはジャーナリストとして二流です。

 

 ここは少し情報収集をした方が良いんでしょうが、那珂の身体の件もありますから余り道草というのも問題ありです。

 

 結局佐世保に来たのに重要な手掛かりは見つからなかったんですから、完全な無駄足になっていますからねー。

 

 このままだと那珂や神通どころか、元帥にも合わせる顔が無くなっちゃいます。ここはなんとしても、ヒントくらいは見つけないと……

 

「あら、貴方は……」

 

「……はい?」

 

 考えながら通路を歩いていた青葉に、ふと声がかけられたので振り向いてみると、そこには見覚えのある艦娘が驚いたような表情を浮かべていました。

 

「あぁ、ビスマルクさんじゃないですか」

 

「ええ、そうよ。そういう貴方は……えーっと……」

 

「そう言えば自己紹介はしていなかったですよね。舞鶴鎮守府所属の青葉です。宜しくお願いします」

 

「そうそう、思い出したわ。榛名ちゃん達を舞鶴に連れて行った際に……」

 

 そこまで話した瞬間、ビスマルクの眉間がキュッと締まったんですけど……これって、嫌な予感が……

 

「あの時の飲み勝負にしゃしゃり出てきた艦娘よね……Ich habe es entdeckt!(発見したわ!)」

 

「え、あっ、ちょっ!?」

 

 な、なんで急に脇に抱えられて運ばれちゃっているんですかっ!?

 

「び、ビスマルク……さんっ! は、離して下さいっ!」

 

「いいからいいから、ちょっとだけ付き合いなさい」

 

「滅茶苦茶ヤバい気がしますっ! 誰か助けてーーーっ!」

 

「あまり騒ぐと38cm連装砲をぶちかますわよ?」

 

「即座に口を塞ぐ所存でありますっ!」

 

「Gut(Good)」

 

 頷いたビスマルクは青葉を抱えたまま、すました顔でズンズンと通路を歩いて行きます。

 

 うぅ……青葉はいったい、どこに連れて行かれるんでしょうか……

 

 

 

 

 

「ぷはーーーっ、Lecker!(ウマイ!)」

 

「いや、前とまったく同じなんですけど……」

 

「……何の事かしら?」

 

「まぁ、別に良いんですけどね……」

 

 青葉が連れてこられたのは、佐世保鎮守府内にある食堂でした。舞鶴にある鳳翔さんの食堂よりも大きく、おおよそ倍くらいの広さがありますねー。

 

 働いている艦娘の数も多そうですし、妖精さん達も厨房で忙しなく動いています。

 

「ほらほら、コップが空いちゃっているわよ。青葉も早く飲みなさいよ」

 

「お、おっとっと……いきなり注がないで下さいよ……」

 

 用事が済んでない挙句に拉致られた側としては呑気にお酒を飲んでいる訳にもいかないんですけど、折角なんで断る訳にもいかないですし、注いで貰ったビールをゴクゴクと飲んじゃいます。

 

「んぐ……んぐ……っ、ウマイッ!」

 

「そうでしょう。これは私の国のビールなの。無理を言って仕入れて貰っているから、是非飲んで欲しかったのよね」

 

「そうだったんですかー。いやはや、口当たりが初めての感じだったのですけど、これは美味しいですねー」

 

「ふふ……青葉も結構いける口みたいね。良いわ。どんどん飲みなさいっ!」

 

「いっただっきまーすっ!」

 

 グラスをコツンと当てて笑みを浮かべてから、残りのビールを一気に飲み干しました。

 

 肴もなかなか美味しいですし、おかわりしたビールもどんどん進んじゃいます。ですが、あまり飲みすぎちゃうと帰りが大変なので、ペースを守って飲まないといけませんねー。

 

「ところで……青葉にお願いがあるんだけど、良いかしら?」

 

「お願いですか?」

 

 気分良くビールを飲んでいたビスマルクが急に真剣な表情で青葉の顔を見つめてきたので、思わず姿勢を正しちゃいました。

 

「実は……その、少し小耳に挟んだんだけど……」

 

 少しばかり小声になったビスマルクが、机に身を乗り出して青葉に近づいてきましたが、酔っているという感じには見えない頬の赤らみが見えるんですが。

 

 あ、あの……これって、どういう状況ですか?

 

 青葉はその……そういう趣味は無いんですけど……

 

 も、もしかして、戦艦の力によって青葉はこのまま手籠めにされちゃうのでしょうかっ!? しかもこんな人や艦娘が多い場所でなんて、公開処刑と変わりませんよっ!?

 

「ビ、ビビビッ、ビスマルクさんっ!?」

 

「……何を慌てているのか知らないけれど、なんだか変な想像をしていないかしら?」

 

 頭を傾げて眉間に皺を寄せたビスマルクでしたが、勘違いさせるような動作をするからですよ――と、大声で叫びたいです。

 

 しかし、こんな場所で注目を浴びちゃうはちょっと避けたいので、止めておきますけどね。

 

「私が青葉にお願いしたいのは、その……舞鶴に居る先生の写真が欲しいのよ……」

 

「写真……ですか?」

 

「ええ。青葉は舞鶴の艦娘だけではなく、提督や元帥、先生の写真まで取り扱っていると聞いたんだけどね」

 

「まぁ……そうですね。確かに写真屋さんまがいな事もやっていますけど……」

 

 そう言いながら、青葉は考えます。

 

 まず一つ目に、佐世保に居るビスマルクにまで青葉の写真屋さんの事が知られちゃっています。一応お客さんには内密にと言っていますが、完璧に塞げるとは思っていませんでした。けれど……いくらなんでも広がり過ぎです。

 

 もう一つは、ビスマルクに先生の写真を販売するかどうかですね。この前の飲み勝負を考えれば分かる通り、先生の事を気になっているのは明白です。

 

 つまりは、青葉と同じ思いを秘めている……って、これはちょっと恥ずかしいですね。

 

 でも、青葉は一歩も引く気はありません。だからと言って、写真を譲らないというのもあり得ませんが。

 

 何だかんだと言っても好きなモノを欲しがるのは当たり前ですし、それを独占するのは不公平でしょう。

 

 その辺は正々堂々としつつ――ですが、断ったら無理矢理にでも奪われてしまいそうという恐怖もありますからねー。

 

「ちなみにですけど、どういった写真が欲しいんですか?」

 

「あー……えっと……その……」

 

 考えがまとまったのでビスマルクに聞いてみたところ、先程と同じように頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに視線を逸らし――って、なんですかコレは。

 

 外見に似合わず可愛さ満点じゃないですかっ! さすがは大きな暁と呼ばれるだけはありますねっ!

 

「ほらほら、ハッキリ言ってくれないと全然分からないですよー。それとも、言うのが恥ずかしくなるような写真がお望みなんですか?」

 

「なっ……! そ、それは……むむ……」

 

 更に顔が真っ赤になるビスマルクの反応を見て、あながち間違っていないようだと確信しちゃいました。

 

「なるほどなるほど。そういう事なら、こんな写真があるんですけど……」

 

 そう言って、青葉は懐から数枚の写真をビスマルクに見えるように取り出します。

 

「……っ!?」

 

 その瞬間ビスマルクの目は大きく見開かれ、口がパクパクと開閉を繰り返します。

 

「な、な、な……」

 

「ふっふーん。これは青葉の『特に』お気に入りの数枚なんですよねー」

 

「そ、それを……それを私に譲ってくれないかしらっ!」

 

「んー……どうしましょうかねぇ……。一応この写真は、非売品なんですけど……」

 

「私にできることなら何だってするわよっ! だから、お願いっ!」

 

 ほほう……これはまた大胆な事を言いますねー。

 

 ここまで慕われちゃう先生ですから、早いところ手を打たないといけない気もしますけど……その前に、誰かに刺されそうな気がしませんか?

 

 まるで元帥の幼き頃を見ている様な……って、実際に見た訳じゃないんですけどね。

 

「本当にお願いっ! 後生だからその写真を……っ!」

 

「そうですね……分かりました。その代わり、いくつか聞きたい事があるんですけど……」

 

「私が知っている事なら何でも答えるわよっ! 祖国の機密だって漏らしちゃうんだからっ!」

 

 いやいやいや、それはさすがにダメでしょう……

 

 しかし、その意気は青葉にとって非常に都合が良いですから、ビスマルクが冷静に戻るまでに質問しちゃいましょう。

 

「それじゃあまず一つなんですが、どうして青葉の写真について知っているんですか?」

 

「それは舞鶴に居る元帥の秘書艦……高雄から聞いたわ。情報収集に長けた青葉なら、先生の写真くらい持っているだろうって……」

 

 あー……なるほど。それなら納得です。

 

 何だかんだと言って、高雄秘書艦には色々とお世話になっていますし、裏で手を回して貰ったりしていますから……って、げふんげふん。

 

 今の話は聞かなかった事にしておいて下さい。そうじゃないと、色々と不味いのですよー。

 

「ではではもう一つ。子供化した艦娘を治す方法って知らないですか?」

 

「それって……比叡や霧島の事かしら?」

 

「ええ、そうです。実は舞鶴に居る艦娘も、同じような症状に陥ってしまったようで……」

 

「それは災難ね……。残念だけど、それについて私は何も分からないわ」

 

「そう……ですか。それなら仕方が無いですね」

 

 小さくため息を吐きながら肩を落とす青葉を見て、ビスマルクは焦ったような表情を浮かべていました。

 

「あ、あの……それで、先生の写真は……」

 

「知りたい情報のうち一つは分かりませんでしたから、無料と言う訳にはいきませんけれど……構いませんよ?」

 

 そう言って、青葉は指で価格を表示します。

 

「Danke! 今すぐ払うわっ!」

 

 ビスマルクは満面の笑みを浮かべながら、ポケットから財布を取り出してコインをテーブルに置きました。

 

 躊躇なさ過ぎですけど、ここまで喜んでもらえるとこっちとしても嬉しいですねー。

 

「ではでは、取引成立ですねー」

 

「ふふふ……これを枕の下に敷いて……」

 

 ありゃ……すでに目がおかしくなっている気がするんですけど……

 

「それじゃあ、もう一度飲み直しちゃいましょうかー」

 

「もちろんっ! 今日の私はテンションマックスよーっ!」

 

「ではもう一度……かんぱーいっ!」

 

「Prost!(乾杯!)」

 

 グラスがぶつかる音が食堂に響き渡り、青葉とビスマルクはビールをゴクゴクと飲み干していきました。

 

 結局この後、ベロンベロンに酔ってしまった青葉は舞鶴に戻る事ができず、酔いが醒めるまでお休み状態になっちゃいました。

 

 まぁ、元帥にはいつまでに遠征から帰るとは言っていなかったので、たぶん大丈夫でしょう。

 

 たまにはこういう日もあったって良いですよねー。

 

 あははははー。

 

 ………………

 

 バレない……ですよね……?

 




次回予告

 結局呑みまくって二日酔い状態の青葉……ですが、そろそろ舞鶴に帰らないと怒られてしまうかもという事で、帰路に着きます。

 すんなり帰れれば良かったんですが、トラブルに巻き込まれるのはいつもの事。
何やら怪しい雰囲気を察知したんですけど……

 艦娘幼稚園 スピンオフシリーズ『青葉の取材遠征日記』
 その6「色んな意味でDANGER!?」


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