艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 変態作業員から逃げた青葉ですが、肝心の情報はゲットできず。
しかし、翌日にある噂を聞きつけて、早速突撃する事にしちゃいましたっ!

 そしてまさかの現象に……暴走が止まりませんっ!


その2「那珂ちゃんのファンやりますっ!」

 変態作業員から逃げた青葉は色々な場所に行って話を聞いてきたのですが、ドック絡みの話は一向に聞く事ができませんでした。

 

 そして次の日の朝。

 

 いつものように鳳翔さんの食堂で朝食を取っている際にひょんな噂を聞いたので、その真相を確かめるべく艦娘寮のとある部屋の前に立っていました。

 

「……ここですね。名札の方も間違いないです」

 

 扉の横に誰の部屋か分かるようプレートを差し込める様になっているんですが、上から順に川内、神通、那珂の3枚が入っていました。

 

「よし、それではノックをしてみましょう」

 

 コンコン……と、扉をノックすると、間をおいてから扉が少しだけ開きました。

 

「どちら様……ですか?」

 

 隙間から外の様子を窺うようにして話しかけてきたのは神通でした。いつもの雰囲気と同じ様に若干おどおどした感じはあるんですが、なんだかそれだけでは無い気がしますねぇ。

 

 やはりこれは、噂が本当だったという事でしょうか。

 

「どもー、青葉です。実はこの部屋のお一人が大変な目にあったと聞いたんですけど……」

 

 回りくどく聞くのも手なんですが、神通の性格を考えると単刀直入の方が良と判断しました。

 

「も、もうそんな噂が……」

 

 表情を暗くした神通は俯きながら呟きます。この瞬間、噂は完全に本当であると確信しました。

 

「それで、青葉に何かお手伝いできないかなー……と、思ったんですけど」

 

「そ、それは……ありがとうございます。でも……本人がどう言うか……」

 

「良かったら話だけでも聞かせてくれませんか? ご迷惑はおかけしませんのでっ!」

 

 そう言うと、神通は迷うような表情を浮かべてから「少しお待ちください……」と言って、一度扉を閉めました。

 

 うーん……これで上手くいくと良いんですけど、ダメだったら手が無くなっちゃいますよね……

 

 最悪は外壁から窓を伝って中を窺う手がありますけど、ここは三階だからちょっと怖いんですよねー。

 

 そんな事を考えていると、先ほどよりも扉が大きく開き、神通の姿が一望できました。

 

「そ、その……誰にも言わないという約束でなら、大丈夫です……」

 

「了解です! それじゃあ失礼しますねっ!」

 

「あ、あの……できればもう少し声を小さめに……」

 

「あっ、これはすみません。ついついテンションが……」

 

 神通に向かって苦笑を浮かべながら部屋に入いり、中の様子を窺います。

 

 内装はどこの部屋も同じ白を基調とした壁紙で、小さな本棚や化粧台がいくつか置かれているシンプルな部屋でした。部屋の四隅のうち三カ所にベッドがあるんですが、そのうち二つが使用されているようで、布団がこんもりと盛り上がっていました。

 

 目の前に居る神通は起きているんですから、寝ているのは川内と那珂なんでしょう。

 

 今の時間を考えれば、川内はまだ眠っていることが考えられます。出撃や演習があるときは頑張って起きているみたいですけど。

 

 となると、もう一人の那珂が噂の艦娘……と、なるんでしょう。

 

「那珂ちゃん……青葉さんが来てくれましたよ」

 

「うー……那珂ちゃんは布団から出ないんだもん……」

 

 籠った声が聞こえてきますが、何だか変な感じがしました。

 

 何やら少し、声が高い気がするんですけど……

 

「でもさっき、他の人に言わないなら大丈夫って言ったじゃないですか」

 

「やっぱり那珂ちゃん恥ずかしいのっ!」

 

 まるで駄々をこねる子供が布団に包まっていて、慰めるお母さんが困り果てているように見えるんですよね。

 

「えっと、取り敢えずそのままでも良いのでお話ししても良いですか?」

 

「す、すみません……そうして頂けると助かります……」

 

 深々と神通は頭を下げましたけど、那珂の気持ちを考えると出てこない事も理解できますからね。

 

 それでは確認と言うか、誘導尋問と言うか……ちょっとばかり卑怯な気がしなくもないですけど、話を進めてみましょう。

 

 

 

 

 

「青葉が仕入れてきた情報ですが、昨日の午前中に出撃した水雷戦隊の1人である那珂が、戦闘中に敵の雷撃によって大破したんですよね?」

 

「ええ、その通りです。敵空母の艦載機に気を取られてしまった那珂ちゃんは、対空砲撃を行っている際に魚雷を受けてしまいました……」

 

 那珂が包まっている布団の横に座った神通は、青葉の言葉に頷きながら返事をしてくれました。

 

 ちなみにその間、布団が大きく揺れたり呻き声の様な声が聞こえてきたりするんですが……気にしないでおきましょう。

 

「それで慌てて帰還した艦隊は、急いで那珂をドックに搬入した。ここまでは間違っていないですよね?」

 

 無言のまま神通が頷き、青葉は続けて口を開きます。

 

「そこで高速修復材を使用すれば問題ない……と、思われていたんですが、何やら問題が発生した。どうやら轟沈寸前だった事が原因らしいと聞いていますけど……」

 

 ここまでが食堂で聞いた噂話です。ですが、これ以上知っているという感じで話しておかないと、先に進む事ができなさそうなんですよね。

 

「はい……那珂ちゃんの被害は大きく、轟沈しなかったのが奇跡だと言われました。ドックに入っても修復が上手くいかず、高速修復材も効果がありませんでした……」

 

「それで……どうしたんですか?」

 

「周りの人達が諦めそうになっていく中、私はある艦娘から聞いた方法を思い出して川内姉さんにお願いしたんです。元帥にお願いして、応急修理女神を使わせて欲しいと……」

 

「……そ、それで元帥は許可を出した……と?」

 

「はい。大事な部下のためならば――と、言って下さいました。そうしてドックに持ってきてもらった応急修理女神を那珂ちゃんに強制使用したんですが……」

 

 言って、神通は視線を布団の塊へと向けました。中に居る那珂が震えているのか、大きく揺れる布団に嫌な感じを覚え、ゴクリと唾を飲み込みました。

 

 結果的に那珂は助かったという事は分かります。噂ではここまでしか分からず、那珂がどうなってしまったのかを知りたいために青葉はここまで来たんですが……

 

「まさか……那珂ちゃんがこんな風に……」

 

 そこまで言って、神通は言葉を詰まらせました。部屋の空気が重くなり、息をするのもしんどいような気分になった時、布団の一部が少しだけ浮きました。

 

「……あ、あのね。青葉ちゃんは……那珂ちゃんの事を……助けてくれるんだよね……?」

 

「え、あ……そうですよ。青葉はできる限り力になりたいと思って……」

 

「それじゃあ、その……笑わないで……くれるかな?」

 

「そ、それは、大丈夫……ですけど……」

 

 なぜそんな事を聞くんでしょう……と、思いながら青葉は頷きました。すると、布団がゆっくりと中から捲られ……

 

 

 

 予想もしていなかった姿が現れました。

 

 

 

「え……?」

 

「うぅ……そんなにジロジロと見ないでよぅ……」

 

 ベッドの上で立ち尽くした那珂は、恥ずかしそうに頬を真っ赤に染めました。

 

 いや……なんと言うかですね……

 

 ………………

 

 完全に子供化しちゃっていますよっ!?

 

 え、何これっ! 新手の宗教活動ですかっ!?

 

 それともアイドルとして売り出す為の新手の手法とかっ!?

 

 青葉、とっても気になりますっ!

 

「ううぅぅぅっ! やっぱり那珂ちゃん恥ずかしいっ!」

 

 視線に耐えられなくなったのか、那珂は布団に包まって元の様に丸くなっちゃいました。

 

「な、那珂ちゃん……大丈夫だから、ね」

 

「やーだーっ! 那珂ちゃんこんな身体はアイドルじゃないから、やぁぁぁだぁぁぁっ!」

 

「だけど、小さい子供のアイドルもいなくは……」

 

「那珂ちゃんはそんなイロモノ系アイドルじゃないもんっ!」

 

 いや、その発言は一部のファンに対して酷い気もするんですけど……

 

 ですが、このままでは話が進まなさそうなので、ちょっとばかりヨイショをしちゃいましょうか。

 

「でも、那珂ちゃんが小さくなった事で、凄く魅力がアップした感じがしますよねー」

 

「そ、そんな事……っ」

 

「可愛らしさがアップしたって言うんですかねー。ですよね、神通……ちゃん?」

 

「え、あ、う、うん。そ、そうですよ、那珂ちゃん」

 

 いきなり青葉からちゃん付けされた神通は焦りつつも、話を合わせるように那珂に声をかけました。

 

「ほ……本当に……?」

 

「本当ですよー。更なる那珂ちゃんのパワーアーップですっ!」

 

「そ、そうそう。那珂ちゃんは更に可愛くなったわよ」

 

「本当に本当に本当にっ!?」

 

 ガバァッ! ――と、布団を勢いよく捲り上げた那珂は、目をキラキラさせながら神通と青葉の顔を交互に見ました。

 

 よし……計算通り……

 

 ――って、これだと完全に青葉は悪人だと思われちゃいますけど、そんな事は無いですよー。

 

 せいぜい高校生同士が騙し合いをしている程度です。死神とかノートとか全然関係無いですからねー。

 

 これも那珂や神通を思ってのこと。涙を飲んで取材……ではなくて、協力しているんですっ!

 

 それになんと言うか……可愛いってのは本当なんですよねー。

 

 ちっちゃい身体につぶらな瞳。ほんのりと赤く染まった頬がなんとも言えぬ……ジュルリ。

 

 はて……今、変な音が聞こえたような……

 

 湿ったような音は青葉じゃないです。神に誓っても違いますよ?

 

「な、那珂ちゃん……可愛い……」

 

 ほら、ここにこうやって目をキラキラさせて舌なめずりをしているお方が……

 

「あ、あれ……神通ちゃんがちょっと変……」

 

「き、気のせいよ。那珂ちゃん」

 

「そ、そうなのかな……?」

 

 いいえ。気のせいじゃないですよ、それ。

 

 そして、どちらかと言うと青葉も同じ意見でして……

 

「あ、あの……青葉ちゃんも神通ちゃんも……なんで那珂ちゃんの傍に寄ってきているのかな……?」

 

「アイドルである那珂ちゃんの傍に寄りたい気分なんですよ……ハァハァ……」

 

「そうそう。青葉さんの言う通りですよ……ハァハァ……」

 

「な、那珂ちゃんもしかして大ピンチッ!?」

 

 逃げようとする那珂ですが、肩をガッチリと両手で掴んだ神通によって動きを遮られ、身動きする事ができなくなり……

 

「だ、誰か那珂ちゃんを助けてっ!」

 

「そんな人聞きの悪い事を言わないでよー」

 

「そうよ、那珂ちゃん。ちょっとだけ良い子良い子してあげるだけだから……」

 

 両手を構えてワキワキと指を動かす青葉と神通に、涙目を浮かる那珂。

 

「せ、川内ちゃん! 寝てないで助けてようっ!」

 

「うぅ……ん。まだ夜戦の時間じゃない……」

 

「こ、この人でなし……わわわわわっ!?」

 

 川内に叫ぶ那珂の隙をついた青葉はほっぺたをくっつけてスリスリしちゃいますっ。

 

 うわぁぁぁ……プニプニでスベスベで……めっちゃっ可愛いですよぉっ!

 

「では反対側は私が……」

 

「ひゃああああっ! 青葉ちゃんも神通ちゃんも……やめてぇぇぇっ!」

 

「うりうりー、うりうりー」

 

「ぷにぷにで……たまりません……っ!」

 

「誰か那珂ちゃんを助けてーーーっ!」

 

 それから暫く、那珂ちゃんの声が部屋中に響き渡ったのは言うまでもありませんでした。

 

 

 

 あはは……青葉、ちょっとやり過ぎちゃいましたかねー。

 




 次回予告

 ちっちゃい那珂ちゃんいじくりプレイ……ではなく、ちょっとじゃれあった後の事です。
那珂ちゃんの希望によって元に戻る方法を探す事になった青葉は、まず一番にお願いをしなければならない方が居る場所へと向かったのですが……


 艦娘幼稚園 スピンオフシリーズ『青葉の取材遠征日記』
 その3「許可申請の代償?」


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