https://ryurontei.booth.pm/items/69110
書籍サンプルの方も更新してたりします。
-----------------
呉での戦いが終わった。
主人公は自分自身の思いを通し抜き、全てが終わった――かに見えた。
そう――これではまだ、終われない?
※今回後書きが長くなっておりますが、裏話や小ネタなどをお送りしておりますので、宜しければご覧くださいませ。
舞鶴鎮守府の指令室の中。
今、俺が置かれている状況は、ヲ級を海底から連れ帰ったときと同じような感じであり、多少違いがあるとすれば、人数の違いであると言えるだろう。
以前と同じように、俺は部屋の中心で立っていて、その隣にはヲ級が居る。向かい合っているのは椅子に座った元帥と、その隣に立つ秘書艦の高雄。元帥を挟んで愛宕が立ち、見た目は両手に花――なんだけれど、内情をよく知っている俺は、苦笑を浮かべそうになるのを堪えるので精一杯だ。
そして、部屋を出入りする唯一の扉のすぐ傍には、ぷかぷか丸でル級と対面する際に護衛として居てくれていた、扶桑が立っている。
ここまでであれば、以前よりも人数が少ないと思ってしまうかもしれない。しかし、まだ数えていない人物が居る。
はたして人物と言って良いのかは分からないけれど、今回の騒動で大きく力を貸してくれた、深海棲艦であるル級とレ級、そして救出することができた北方棲姫の三人が、俺とヲ級のすぐ傍に立っていた。
「まずは……みんな、お疲れ様」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様……でした」
「お疲れ様でした~」
「オ疲レ~」
「乙カレー」
「オッツカレ~」
「……お疲れ様でした」
頭を小さく下げた元帥に向かって、皆は口々に返事をした。
突っ込みたいのはやまやまなんだけど、話の流れを遮ってしまうので我慢しておく。
ちなみに順を言うと、元帥、高雄、扶桑、愛宕、ヲ級、ル級、レ級、俺である。
一人だけ明らかにおかしかったりするけれど……って、突っ込まないと決めた傍からこれだよ……
「今回の騒動において、本当に良くやってくれた。正直に言って無理だと思っていただけに、感謝してもしきれないよね」
「本当ですわ。遂に元帥も年貢の納め時……と、思っていたのですけれど、しぶとさだけは一人前以上なんですから……」
「ここはもうちょっと、喜べる方向でお願いしたいんだけどさぁ……」
「無茶な作戦を立てた挙句に、先生とヲ級ちゃんが危険な地に向かうのを止めなかった本人に対する罰ですわ」
「む……それを言われちゃったら、返せないんだよなぁ……」
苦笑を浮かべた元帥は、もう一度俺達に頭を下げた。
仮にもこの鎮守府の最高司令官なのだから……と、思ってしまうけれど、こういうときにちゃんと頭を下げられるからこそ、ついてきてくれる人が居るのだろう。
だからこそ元帥であり、だからこその高雄なのだ――と、勝手に納得する俺だった。
「それで……だ。約束通り、呉鎮守府を明け渡してくれたことも確認できたし、これで協力関係は終わったことになるんだけれど……」
言葉の語尾を濁すようにしながら、元帥はル級の顔を見る。
「アア、ソウダナ。先生ノオカゲデ、北方棲姫様ヲ助ケ出スコトガデキタ。ソシテ約束通リ、呉ノ仲間ヲ全員撤退サセタガ……」
元帥と同じように言葉を濁したル級は、北方棲姫の顔を見た。
すると北方棲姫はニッコリと微笑み、大きく頭を頷かせる。それを見たル級も頷き、再び元帥へと向き直った。
「私達ハ仲間ト話シ合イ、一ツノ結論ヲ導キ出シタ。ソノ話ヲ、ココデシタイ」
返事をしたときとは打って変わって真剣な表情のル級に、元帥は姿勢を正しながら頷いた。
「うん、それじゃあ――聞かせてくれるかな?」
薄く笑みを浮かべた元帥はル級に言う。
こうして、俺の理想が現実に……と思った途端、やっぱりと言ってしまえる程のル級らしさが表に出てしまう。
「イイトモー!」
「良かねぇよっ!」
俺は叫びながら問答無用で放った上段回し蹴りを、見事に屈んで避けるル級。
「ア、危ナイダロウッ!」
「ボケにツッコミは必要なんだよっ!」
「ダッテ……真面目ナ空気ハ苦手デ……」
「時と場合を考えろぉっ!」
絶叫にも似た俺の声が部屋中に響き渡る中、元帥と高雄は苦笑いを浮かべ、愛宕は若干引きつった笑顔で見つめながら、ヲ級とル級は腹を抱えて笑い出し、なぜか北方棲姫はキラキラと目を輝かせながら俺を見て、そして……
「やっぱり先生って……私や山城よりも不幸よね……」
――と、見事にオチをつけてくれたのであった。
その後――
頑張りながら真面目になったル級の話により、北方棲姫と港湾棲姫率いる深海棲艦の一団と停戦を結ぶことになった。
ぷかぷか丸でル級が話していたが、どうやらこの一団は戦いを好む者が少ないらしく、安息できる場所を提供してくれるならばという条件で、話が纏まったのだと言う。
本来ならば、呉鎮守府に大きな被害が出たことによって、大本営が停戦を受け入れない――と、思われていたものの、思いがけない後押しによって話はスムーズに進むことになった。
その理由は、呉鎮守府で被害を受けた本人達……つまり、職員や艦娘達の話であった。元中将の奇襲によって傷を受けた彼らだが、ル級を初めとする深海棲艦の仲間達は、捕虜にするという名目で元中将の目が届かない場所に運び、傷の手当を行ったのだ。いきなり攻撃されたと思ったら傷の手当を受けたという、全く持って何が何だか分からないといった状況に混乱していた彼らだが、元中将のことを深海棲艦から聞いて理由を知り、手当をしながら謝るその姿に心を許したらしい。
その結果、俺の報告も合わせて鼻ほじり中佐の身柄をすぐに確保し、呉鎮守府の復旧作業を進める手筈になっているそうだ。
ここまで話が揃えば、障害は無い。むしろ、戦いが少なくなると両手をあげて喜んだ大本営は、停戦のゴーサインを出した。これが、呉鎮守府が解放されて数時間で纏まったのだから驚愕である。
そうして元帥は、少し前に遠足で行った孤島周辺を深海棲艦に提供するという提案を提示した。あの孤島は舞鶴鎮守府が所有する場所であり、近辺には漁船も立ち入り禁止区域になっている。正にうってつけであると共に、地下資源の採掘や漁業資源の確保を行える仲間が居るというル級の言葉を聞き、停戦どころか交易もできるかもしれないという期待を持ちながら、両方が納得するに至った。
そして細かな約束事を決めるべく、もう一度交渉の場を設ける約束をしてから、俺達は解散することになった。
ここに戻ってくる際にぷかぷか丸の中で休んだとはいえ、まだ体力が回復しきっていない俺にとっては非常に助かる話であり、喜びながら部屋を出ようとしたときだった。
「あ……っと、先生。良かったらちょっとだけ、残ってくれないかな?」
「え、あ、はい。分かりました」
正直に言えばすぐにでも戻りたいところだけれど、無下に元帥の命は断れない。俺はヲ級に先に寮に戻っているようにと言い、皆が去ってから元帥の方を見る。
部屋の中には元帥と秘書艦の高雄、そして俺が居る。
高雄はいつもと同じように澄ました顔――では無く、何やら少し呆れたような表情で立っている。そして元帥の表情は少し曇り、何だか気まずそうにも見えた。
もしかして何か厄介事があるんじゃないかと思った俺は、ゴクリと唾を飲み込んでから元帥に問う。
「それで……いったい何の用なんですか?」
「……えっと、もしかして忘れちゃっているのかな?」
「忘れている……ですか?」
そう言いながら、俺は何かあったかな……と思い返す。
ぶっちゃけてしまえば、元中将との戦いで心底疲れている俺にとって記憶はあやふやで、思い返すと言ってもなかなか出てこないのだけれど。
というか、顔面は腫れ上がっているし、腹部の打ち身も酷いです。早いところ本格的な治療を受けに、鎮守府内にある診療所に向かいたいんだけどさ……
「その顔……完全に忘れちゃっているよね……」
「あ……いや、その……」
しどろもどろになりながらも思い返してみたけれど、やっぱり何も浮かんでこない。
「ぷかぷか丸で、あんなに真面目に話し合ったのになぁ……」
「ぷかぷか……丸で……あっ!」
――そうだ。思い出した。
ぷかぷか丸に乗船した際、元帥と二人きりで話し、約束したこと。
無事に帰ってきたら、一発殴っていいですかって……言っちゃってたじゃん俺っ!
完全に忘れちゃってたよっ! つーか、殴り合いをしまくった性で、そんな気分じゃないんだけどねっ!
「男同士の友情って感じだったのになー……」
「そ、そりゃあ確かに、忘れちゃってはいましたけど……」
正直に言えば、元帥にとって俺が忘れていた方が良かったと思うんだけど……もしかしてマゾなんですかね?
それとも俺に一発殴らせといて、反逆罪で始末するとか……そんなことを考えているんじゃないだろうなっ!?
もしそうだったら、殴った時点で終了じゃんっ! 完全に元帥の罠だよっ!
「先生、私から一言助言を差し上げますわ」
「え……?」
内心焦りながらどうしようかと考えている俺に、大きなため息吐いてから高雄が声をかけた。
「思いっ切りぶん殴って下さい。ただし、脇腹の辺りを」
「ちょっ、高雄っ!?」
あわてふためく元帥は、椅子から立ち上がって高雄に叫ぶ。
「元帥は殴られる前にヘルメットを被る気でいますので、頭部は止めた方が良いでしょう。みぞおちの辺りは分厚い電話帳でガードしていますから、効き目は薄いです。ですから、ここは脇腹がベストですわ」
元帥の声に全く気にする素振りを見せない高雄は、スラスラと俺に言ってから、もう一度ため息を吐いた。
「………………」
それを聞き終えた俺は、元帥に向かって冷たい視線を送る。
「………………」
冷や汗を額にびっしりと浮かべながら、気付かない素振りで口笛を吹くフリをする元帥。
つまり、準備は万端だった――と、言う訳らしい。
ただ、ここで問題だったのは、それを知っていた高雄が俺に全てばらしてくれたことであり、
男の友情は消え去り、むしろ怒りを増幅してしまう結果となった……とまぁ、そういうことである。
「ふぅ……」
俺は大きくため息を吐き、元帥はビクリと身体を震わせる。
「だ、だだだっ、だってさぁ! 痛いのは誰だって嫌でしょっ!?」
聞いてもいないことを叫ぶ元帥は、もはや子供と変わらない。
よくもまぁ、これで元帥をやっていけてるよなぁと思ってしまうけれど、それに付き合っている俺や高雄も同じであり、
二人して、再度大きくため息を吐いてから、元帥に言う。
「そうですわね。誰でも、痛いのは嫌ですわ」
「ええ。でも、俺は元中将と殴り合いをしてきましたからね……」
「下の者が頑張ってきたのですから、上の者も頑張らないといけませんわ」
「い、いやいやっ、その理屈はどうなのかなっ!?」
「そうですねー。確かに理不尽に取れちゃうかもしれませんけど……」
「だ、だよねっ! 先生も話が分かって……」
「ただ、ここまで準備をしていたら、気分的に……ねぇ……」
言って、俺はニッコリと笑みを浮かべて元帥を見た。
もちろん、笑っているのは表情だけで、できる限りの殺意を込めながら。
「ひ、ひぃぃぃぃっ!」
「元帥は先生に、友人として接して欲しいとおっしゃっていましたから……どうぞ存分に」
「なななっ、なんでそのことを高雄が知ってるのっ!?」
「私の諜報能力を軽視なさっては困りますわね」
そう言った高雄の顔を見て、もしかすると青葉が今まで無事な理由って……と、不吉な予感が頭に過ぎる。
だが、それを確かめるのは少し怖い気がするので、気にしない方向で進めていこう。
「それでは先生……レッツパーリィィィィッ!」
「イエス……って、それどこの大統領っ!? それとも戦国武将っ!?」
「どちらにしても、大惨事……でございますわ」
「いやいやいや、殺す気満々で元帥は殴れないよっ!?」
「あら、良い曲……」
「話の脈絡吹っ飛んだ挙げ句に、それ別の艦娘の台詞ーーーっ!」
――とまぁ、疲れきった身体に鞭打ってやったのは、突っ込みだけだったという悲しい事実でしたとさ。
ちなみに元帥には「元中将を殴りまくったんで、もう飽きちゃいました」と伝え、貸しにしておくことで話がついた。
まぁ、元から殴る気なんて無かったんだけどね。
ただ単に、自分の命を軽視し過ぎだと伝えたかっただけだから――さ。
◆ ◆ ◆
あれから一週間が経った。
停戦の話は順調に進み、ほとんど問題もなく交渉は成立した。こうして北方棲姫率いる深海棲艦の一団は、舞鶴鎮守府の管轄下に置かれるという形で、話は纏まった。
とは言え、ややこしい話は元帥や高雄がすることだし、俺には俺のやることがある。呉鎮守府の騒動が終結したことにより第二種戦闘配置は解除され、艦娘幼稚園も再開されることになった。
ぷかぷか丸に忍び込んでついて来ていた子供達も、怪我一つ無くここに戻った。本当に何事も無くて良かったとは思うのだけれど、元中将との殴り合いで怪我をしてしまった俺は、まだ本調子とは言い難い。
とはいえ、ずっと休んでいる訳にもいかないし、何より身体が鈍ってしまうのは避けておきたい。以前と比べてしおいも先生として加わってくれているのだから、随分楽になる――と思っていたのだけれど……
どうやら、都合の良い話では済まないようだ。
「おはようございま~す」
「「「おはようございま~す」」」
いつものように、朝の朝礼が始まった。
愛宕の挨拶に子供達が返し、皆はキラキラと笑顔を浮かべている。そんな表情を見て、しおいも同じように笑顔を浮かべている……と、言いたかったのだが、残念ながらそういう訳にもいかなかったらしい。
その理由は、朝のスタッフルームで聞かされたことによるものなんだけれど、正直に言って、正気の佐多とは思えないというのがしおいの本音だそうだ。
ちなみに、俺の意見は正反対で、嬉しいことこの上ない。
もうね、笑みがこぼれまくって仕方がないんですよ。
「今日から幼稚園が再開することになりましたが、皆さん元気にしていましたか~?」
「「「はーいっ!」」」
元気良く答えた子供達は、思い思いに手をあげる。
その中にはヲ級の姿もあるのだが、完全に浮かれた表情だった。
「うんうん、大丈夫そうなのでとっても嬉しいです~。それじゃあ、今日も一日よろしくお願いします~」
「「「お願いしま~す!」」」
お辞儀し合う皆に合わせて、俺も同じようにする。
そして、子供達が授業に割り当てられた部屋に行こうと動き出す寸前に、愛宕がわざとらしく声をあげた。
「……と、その前にですね~。皆さんにお知らせがあります~」
右手の人差し指をピンと立てて、満面の笑みを浮かべる愛宕。その様子を今までに何度も見てきた子供達は、驚いた表情を浮かべてから歓喜をあげた。
「もしかして、また新しい仲間が増えるのかっ!?」
「は~い。天龍ちゃんの言う通りで~す」
愛宕の答えに、更に騒ぎ出す子供達。
「ワーオッ! それはとってもハッピーネー!」
「今度は一体、どんな人なのかしら~?」
「すごく……楽しみだね……っ」
「この前はしおい先生とあきつ丸ちゃんだったから、今度はメンチと同じっぽい?」
いや、ペットはメンチだけで充分なんだけどなぁ。
「順番ずつかどうかは分からないけれど、どちらにしたって仲間が増えるのは嬉しいよね」
時雨の言葉にウンウンと頷く子供達。
ちなみに、未だにしおいは俯いたままです。
まぁ……経験がある以上、その気持ちも分からなくは無いんだけど……さ。
「盛り上がってきたところで、そろそろ入場してもらいましょう~」
パンパンと両手を叩いた愛宕は、扉の方に視線を向けた。子供達も同じように顔を向け、ゴクリと唾を飲み込みながら誰が入ってくるのかと集中する。
もちろん、愛宕や俺にしおい、ついでにヲ級は知っているので驚くことは無いのだけれど、確実に一部の子供達はビックリするだろう。
主に、元は通常の艦娘だった、比叡と霧島あたりが。
ガラガラガラ……
そうこう考えている間に、扉が開く音がする。
続けて、部屋の中に入ってくる姿が三つ。そのうち二つは子供達と同じ大きさで、真っ白と真っ黒の対照的な色合いが目を引いた。そしてもう一つの姿は愛宕よりも頭一つ背が高く、額にある角と両手が大きな爪のような特徴があり、全体を通して白い服装のように見えた。
それらの姿を見た子供達の表情は豊かに変化し、歓声があがると同時に――
「ヒエーーーッ!?」
部屋中に大きな絶叫が響き渡った。
うん、まぁ……分かっていたんだけどさ。
「な、なななっ、なななななな……っ!」
驚いて声をあげた比叡とは対照的に、指差す手だけではなく、身体全体をワナワナと震わせる霧島が噛みまくり、
「はぁ……やだやだ……信じられない……」
しおいは大きくため息を吐いて、愚痴っていた。
「ヲ級、来タヨッ!」
「待ッテタヨッ!」
真っ黒のフードのようなモノを着た子供が両手を上げながら笑みを浮かべ、ヲ級も答えるように右手を上げた。
「せ、せせせっ、戦闘準備を……むぐぅっ!?」
俺は慌てふためく霧島の口を手で塞ぎ、ニッコリと微笑んであげる。
大丈夫。心配ないから……と、目で訴えたんだけれど、良く考えてみればこの状況はあまり良くない気がする。
傍から見れば、幼女をかどわかそうとする不審者のような……
「浮気はイケマセーンッ!」
「ごげっふぅぅぅっ!?」
ヤバいと思った時点で時すでに遅し。金剛の高速タックルを横っ腹に受けた俺は吹き飛ばされ、ゴロゴロと床に転がりまくる。
「私の目の黒いウチハ、Noなんだカラネーッ!」
プンプンと擬音が頭の上に浮かぶような怒り方をしながら言った金剛を見て、部屋に入ってきた真っ白の子供が冷や汗を垂らす。
「コ、コノ艦娘……チョット怖イ……」
「大丈夫ですよ~。これは愛情表現ですから~」
「ソ、ソウナノ……?」
「フム……人間ト艦娘ノ間柄ハ、コンナ感ジナノカ……」
真っ白な子供と大きな爪の女性は、感心しながら俺と金剛を見比べていた。
……って、初っ端から間違った情報を流さないで下さいよ愛宕先生っ!
ただでさえ、初めての試みなんですからさぁっ!
――そう。人間にとっても、艦娘にとっても初めての経験。
もちろんそれは、深海棲艦にとっても同じことであり……
「それでは皆さんに、ご紹介しますね~。
今日から新たに幼稚園に通うことになった、レ級ちゃんとほっぽちゃんです~」
「ヨロシクネ、ミンナッ!」
「ヨ、ヨロシク、オ願イシマス……」
「「「よろしくねーっ!」」」
元気一杯のレ級と若干脅え気味の北方棲姫の挨拶に、比叡と霧島を除いた子供達は元気良く挨拶を返した。
「そしてもう一人は、新しく先生として幼稚園に来てもらうことになりました、港湾棲姫さんで~す」
「今後トモ、ヨロシク」
「「「俺様オ前、丸カジリーッ!」」」
なんでそのチョイスをするんだよーーーっ!?
息ピッタシで返す言葉じゃないしっ! 完璧過ぎて、比叡と霧島がガタガタ震えているぞっ!
五月雨に至っては泡吹いて倒れているし……介抱してやらないと……
「うんうん、皆さん元気一杯ですね~。それじゃあ、今日も一日頑張りましょう~」
「「「はーいっ!」」」
子供達は満面の笑みを浮かべて挨拶をする。
新たに加わった深海棲艦の三人も、思い思いに笑顔を浮かべる。
一部の子供としおいは未だに納得できていないだろうけれど、
それでも、なんとかやっていけるだろうと、俺は確信する。
海底でも何とかやってこれた。
なら、ここだったら問題ないだろう?
元気一杯の子供達に、完全無欠の愛宕が居る。他にも問題はたくさんあるかもしれないけれど、良き理解者は多いのだから。
これから始まる生活は、人間にとって、艦娘にとって、深海棲艦にとって、大きな大きな一歩となる筈だ。
それは、俺が待ち望んでいた未来であり、平和に進む大きな道。
ならば、俺は精一杯歩くのみ。
どんな苦悩が待ち構えていようとも、どんなに高い壁が立ち塞がろうとも、俺は乗り越えて見せる。
それが――俺の夢なんだから。
「ところで……愛宕先生」
子供達が部屋に向かう中、俺は愛宕に声をかけた。
「はい、どうしたんですか~、先生?」
振り向いた愛宕が俺に問う。
正直に言えば、今から言う言葉は恥ずかしいけれど……聞いておきたいことなのだ。
「あのときのこと……覚えていますか?」
「あのときのこと……ですか?」
口元に人差し指をあてて、考え込んだ仕草をする愛宕。
もしかすると恍けているだけかもしれない……と、俺は続けて問いただす。
「俺が呉鎮守府に潜入する前に、伝えたいことがあるって……言っていましたよね?」
「ん~、そうでしたかねぇ~」
「……わ、忘れてらっしゃいます?」
「んふふ~、どうでしょうか~」
悪戯をするような笑みで、愛宕は言う。
予想はしていたけれど、やっぱり……こうなっちゃうんだよね……
「まぁまぁ、めげないで下さいよ……せ~んせっ」
「まぁ……良いですけど……って、えええっ!?」
しょげる俺に近づいてきた愛宕は、おもむろに顔を近づける。
「んふふっ」
「あ、あの……っ!」
「ちょっとしたサービスですから……ね」
「は、はぁ……」
「ではでは、お仕事に参りましょう~」
「りょ、了解です」
頭の中が沸騰してしまいそうになりながら、俺は愛宕に返事をする。
そして愛宕が部屋の外に出ていくのを見てから、俺は独り言を呟いた。
「……ほっぺに……か。まぁ、俺にはお似合いかもしれないのかな……」
残念なのか、そうでないのかは正直に言って分からない。
だけど、これもちょっとは進んだってことで良いんじゃないかな?
そんな風に前向きに考えて、俺は足を前に出す。
さぁ、これからも頑張ろう。
子供達と、そして愛宕との仲をより深めるために。
そして、俺の夢のために。
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~
及び、艦娘幼稚園 第一部 完
長く続いた今章をお読みいただきまして、誠にありがとうございます。
気づけば本が1冊できちゃう文字数に驚きでしたが、艦娘幼稚園を書くに至って決めていた大筋をやっと書き終える事ができました。
これも各話ごとに感想を下さっている皆様や、多くの閲覧して下さっている皆様のおかげであります。
深く感謝致します。
さて、以前にお伝えいたしました通り、今章が艦娘幼稚園の一部が完結となります。
ですがこれで終わりと言う訳では無く、まだネタは沢山ありますので引き続き執筆していきたいと思います。
もし宜しければ、これからもお付き合いの程宜しくお願い致します。
続きまして、次章からはリクエストに応じたキャラクターによるスピンオフシリーズが始まります。
こちらもお伝えしておりましたが、6月予定のイベントに向けた同人誌の執筆作業と艦これ新規小説の執筆を進めるため、少しではありますが更新速度を遅らせて頂きたく思います。
現状は1日おきの更新でしたが、次章から2~3日おきのペースでと考えております。
まだ予定の問題上どうなるかは分かりませんが、できる限り早く元のペースに戻したいと思いますので、暫くはこれにてご了解いただけますようお願い致します。
さて――今章における裏話をちょっぴり。
●部屋から逃げ去った元中将のその後
元中将は何とか呉から逃げ出そうと、小さな船を奪って海に出た。
地上から逃げるという考えもあったが、周りに検問が敷かれている可能性があると判断し、仕方無く海に出たのだ。
ただし、最後の復讐をしようと一丁のライフルを持っていた。
これで建物から出ようとした先生を撃ち殺す。最後に笑うのは私だと、元中将はスコープを覗き込んだ。
移りこむ呉の景色。しかしそれはすぐに真っ白なモノに埋め尽くされる。
スコープから目を離した元中将の目の前には、港湾棲姫が海面に立っていた。
「ホッポヲ拉致シタ罪ノ重サ……海底デ知ルガ良イ……」
元中将の乗った小船は大きな爆発を起こし、海底へと沈んでいった。
(余談ではありますが、実際に先生が元中将に撃たれてしまうという終わり方も考えましたが……いくらなんでも酷過ぎるんで、即止め致しました)
このような感じのシーンは考えておりましたが、艦娘幼稚園において死人を出したくないという制限を設けていた為にカット致しました。
と言う事は……元中将はまだ生きている……のかもしれません。はたしてどうなるかは、今後の展開次第ですかねー。
ちなみにではありますが、呉に潜入した「その15」でも書き換えたシーンがあります。
先に梯子を上がって安全かどうか確かめたレ級。下に居る先生やヲ級に知らせるために投げたモノは……人の手足だった。
これらも制限に引っ掛かる為に止めました。
この場合、呉鎮守府に死人が出ちゃってて、停戦という点も崩れてしまいますからね……
実は今章の終わり方は最初の予定とは違っていたりするんですが、それは後々に使おうと思っています。
まだ描き足りないネタは沢山ありますし、出していない艦娘も多数おりますので……これからもお付き合い頂けると幸いであります。
さてはて、長々と後書きを書かせていただきましたが、ここまで読んで頂きありがとうございます。
そこでちょっとしたサプライズ? では無いかもしれませんが、新規に執筆中の艦これ小説の小ネタを少し。
・全体を通してですが、戦闘シーンが多々あります。
・後半かなりグロくなる可能性が高いです。R-15は確定かもです。
・提督や大本営に所属するオリジナルキャラ(人間)が出ますが、メインは艦娘です。
・違和感がある文章で書いていますが、あえてその手法を取っています。
・艦娘幼稚園の一人称による書き方ではなく、三人称で執筆しております。
・登場艦娘(予定)
榛名、摩耶、鳥海、千歳、潮、漣、天龍、龍田、暁、響、雷、電……その他多数
現在はこの様な感じになっております。
進み具合は約40%。おおよそ今章と同じかもう少し長いくらいで、連載作品での予定です。
それでは以上を持ちまして、後書きを終わらさせて頂きます。
宜しければ、これからも艦娘幼稚園や新規艦これ小説等をお楽しみ頂けると幸いです。
それではまた、次章のスピンオフ作品にて、お会いしましょう!
リュウ@立月己田
次回予告
第二回リクエストでまさかの1位となった青葉がスピンオフで登場!
主人公に抜擢された青葉が、とある噂を聞きつけて色んなところへ駆け回るっ!
幼稚園児は少ししか出てこないけれど、ちっちゃい子供が新たに現るっ!?
あの艦娘が、はたまたあの人物が!
艦娘幼稚園で出てきたキャラクターが大暴れ? しまくるスピンオフ青葉編っ!
まさかの長編でお送りいたしますっ!
艦娘幼稚園 スピンオフシリーズ『青葉の取材遠征日記』
乞うご期待!
感想、評価、励みになってます!
お気軽に宜しくお願いしますっ!
最新情報はツイッターで随時更新してます。
たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
是非フォロー宜しくですー。