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※今話は殴り合うシーンがあります。
暴力等が苦手な方はご注意ください。
ついに北方棲姫を見つける事ができた主人公達。
安心したのも束の間、ついに元中将と対面する。
逃げ場を失った主人公は最後の戦いへと挑むのだが……
目の前にある旅行鞄の中に、小さな寝息を起てて眠る子供の姿がある。
その名は北方棲姫。見た目とは裏腹に、深海棲艦の中でも絶大な能力を持つと言われ、数々の提督と艦娘達を絶望へと陥れたと聞く。
今回はル級に頼まれた俺達が、元中将が占拠した呉鎮守府に潜入して、居場所を突き止めるミッションの目標となる存在なのだが……
「グッスリと言うか……爆睡しているな……」
そう呟いた俺の言葉に、ヲ級とレ級は無言で頷く。
ちなみに、先程から何度か頬をペチペチと優しく叩いているのだが、起きる気配は全くない。確かに、外は完全に闇が支配する真夜中なのではあるが、ヲ級やレ級を見る限り夜が苦手――という感じには見えないのだけれど。
「北方棲姫様……ナンダカ、眠ッテイルト言ウヨリ、眠ラサレテイルッポイ……」
レ級は北方棲姫の顔を覗き込みながら、そう言った。
なぜ夕立っぽいのかはさておいて、その言葉に俺は眉をひそめながらも、北方棲姫の身体を鞄から外に出してあげることにする。
いくら小さい身体であっても、鞄の中に閉じ込めておくのは可哀相だ。
――そう、思いながら北方棲姫の身体を抱き抱えた瞬間だった。
「……ッ! オ兄チャン、離レテッ!」
「え……うわっ!?」
急にヲ級が服の裾を引っ張ったので、俺はバランスを崩しそうになる。しかし何とか踏ん張って、北方棲姫を抱えながらヲ級へと振り向いた。
「い、行きなり何を……」
「早ク、鞄カラ離レテッ!」
「……え?」
戸惑う俺に構うことなくヲ級は再度服の裾を引っ張って、鞄の近くから離れるように場所を移動させた。
「レレッ、何カ……出テル……?」
「ウン。アレデ多分、眠ラセテイルンダト思ウヨ」
レ級とヲ級の会話を聞いた俺は、ハッとなって開いた鞄を見た。すると、うっすらと白い煙りのようなモノが、鞄の中から溢れ出しているようだ。
「まさか……北方棲姫を眠らせるために、ガスを使っていたのか……?」
「成分ガ分カラナイカラ、ハッキリトハ言エナイケド……ネ」
そう言ったヲ級は、ひとまず自分達に害が無かったことに安堵して、肩を落としながらため息を吐いた。
もし、ヲ級がガスに気づかずにいたら……俺も眠らされていたかもしれない。
こんな場所で眠りこけてしまえば、ほぼ確実にアウトである。まさに九死に一生を得た……と思い、同じようにため息を吐こうとした瞬間だった。
バターーーンッ!
「……っ!?」
急に入口の扉が行き追いよく開き、大きな音が部屋中に鳴り響いた。
その瞬間、過去の記憶がフラッシュバックする。
元中将に殴られかけたあの状況で、俺を助けるために声をあげた元帥の姿。
だが、あのときと全く違うのは、
現れた人物が、逆の立場の人間であったということだろう。
「何をしている……?」
聞き覚えのある声。
いや、忘れようもない声。
俺の顔面に何度も拳を叩きつけ、胸倉を掴み、よくわからない奥義を繰り出そうとした人物。
深海棲艦に取り入り、呉鎮守府を占拠し、俺達がここに来る羽目になった張本人。
元中将――現、深海提督の姿が、そこにあった。
「誰だ……貴様は」
鬼のような形相で元中将が問う。
俺の腕には眠ったままの北方棲姫。左右にはヲ級とレ級が怯えたような表情で立っている。
「………………」
俺は答えない。いや、答えられない。
入口は元中将に押さえられてしまった。この部屋に出入りできる場所は窓しか無いけれど、三階の高さを飛び降りて無事でいられるとは思えない。
可能性に賭けるならば、窓を開けて大声でル級を呼ぶという方法があるが、下手をすれば元中将の仲間も呼び寄せるだろう。
運よくル級が来てくれたとしても、ほぼ間違いなく乱戦は必死。そんな状況に、ヲ級やル級を巻き込みたくはない。
「もう一度聞く……と言いたいところだが、その顔は……なるほど……」
言って、元中将は急に静かに笑い出した。
低く篭ったような声。まるでそれは、地の底からマグマが吹きしそうな、怒りと歓喜が混じった声。
「くくく……そうか、そうか……っ! わざわざ私に会いに来てくれたということかぁっ!」
右手で顔を覆うようにしながら、腹を抱えるように笑い声をあげる。その仕種が余りにも恐ろしく感じ、ヲ級とル級の手が俺の服の裾をギュッと握った。
「これで一つ目の恨みを果たすことができる……くくっ、くくく……はははははははっ!」
両手を広げて喜びに胸を踊らせる元中将。だが、俺達の心の中は正反対の気持ちでいっぱいだ。
どうにかして、ここから逃げ出さないといけない。できれば、元中将の大きな声に気づいたル級が、ここに駆けつけてくれれば言うことは無いのだが……
「やるしか……無いか……っ!」
俺は北方棲姫の身体を床に置き、ヲ級とレ級の顔を見て頷いた。
「オ、オ兄チャン……」
「大丈夫だ。昔とは違って、アイツが上司って訳じゃあないからな」
そう言って、俺はヲ級の頭をポンと叩く。ヲ級は俺がいったい何を言っているのだろうと不思議そうな表情を一瞬浮かべたものの、状況を即座に判断し、北方棲姫の身体を元中将から隠すように移動した。
「レッ……セ、先生、頑張ッテ……」
「ああ、任せていろ!」
ヲ級と同じようにレ級の頭を軽く叩き、自らを鼓舞するように声をあげる。
考え方を変えれば良い。
ここで元中将を倒せば、全てが終わる。
後はル級から深海棲艦達に、北方棲姫の無事を知らせれば良いだけなのだ。
それで万事解決。
それに以前とは違い、階級を気にすることもない。
元中将は今や海軍だけではなく、多数の深海棲艦にとっても敵なのだ。
少しくらいの仲間はいるかもしれないが、俺の方にもヲ級やレ級、そしてル級がいる。
ここで、俺が頑張れば良いだけなのだ。
――そう、俺は心の強く念じ、構えを取った。
「ふん……どうやら、以前のようなど素人という感じでも無さそうだが……私に敵うと思っているのか?」
ニヤリ……と笑みを浮かべた元中将も、大きく腕を振り上げて構えを取る。
それは、査問会で俺を殴ろうとしたときと同じ、よく分からない構え。
だが、以前のときとは違う。
俺には今、元中将に対して反撃することを遮るモノは何一つとして無い。
ここで、全力を出せるのだから……と、拳を振り上げながらステップを刻んだ。
「ぐふっ!」
「くううっ!」
拳が顔面に突き刺さる。
拳が腹部に減り込んでいく。
膝が鼻っ面を捕らえ、
踵が横っ腹に叩き込まれた。
「ここまで……やるとは、思わなかったぞ……」
「はぁ……はぁ……あんたこそ、さっさと倒れれば……良いものを……」
俺は肩で息をしながら、口元を拭う。
ベッタリと腕に鮮血がつくが、そんなことはどうでもいいと、俺は地面を蹴る。
距離を縮め、左足で床をしっかりと踏み締める。
すでにスムーズな体重移動などできるはずもなく、勢いのまま正拳突きのように右の拳を突き出した。
「甘いわぁっ!」
それを待っていたかのように元中将は左の膝を突き上げ、その上に左肘を突き立てた。
「ぐあああっ!?」
「マ、マサカッ!?」
俺とヲ級の声が同時にあがる。痛みに耐え兼ねた俺は悲鳴をあげ、ヨロヨロと後退してしまう。
「アノ場面デ、ハサミ受ケナンテ……有リ得ナイッ!」
「ほう……深海棲艦の……しかも子供風情がこの技を知っているとはなぁ……」
言って、元中将は両手をプラプラと脱力させながら俺に近づいてきた。
「だが、知っていても……もう遅いよなぁ?」
「ぐうっ!」
床に崩れ落ちそうになっていた俺の髪の毛を、元中将は左手で引っ張りながら無理矢理立たせた。更なる痛みを与えられた俺は、苦痛に歪んだ顔で元中将を睨みつける。
「この目……あのときから忘れたことは無かった……ぞおっ!」
言い終える瞬間に元中将の拳が俺の顔面に突き刺さり、真っ暗な視界の後に火花が散った。
「あぐ……う……ぅ……」
「オ兄チャンッ!」
「先生ッ!」
床に吹き飛ばされた俺に、ヲ級とレ級が叫ぶ。しかし元中将は気にせずに、倒れた俺の腹部に何度も蹴りを入れた。
「あれから私は……貴様のせいで……っ!」
「ぐふっ!」
「私の経歴が……私の野望が……っ!」
「げふあっ!」
爪先が腹部に減り込み、口の中に鉄錆の香りが充満する。何度も蹴られた腹部が焼かれたように熱を持ち、必死に庇おうと両手でブロックしようとした。
「そんなもので……防げると思ったかあっ!」
「がぁ……っ!」
腹部を守ったせいで、がら空きになった顔面を思いっ切り蹴飛ばされた。床の上をスライドするように飛ばされた俺は、ファイル用ロッカーに叩きつけられて停止する。
「モ、モウ止メロッ!」
叫び声と共に、レ級が元中将の方へと走り出す。涙をいっぱいに両目に溜め、両手をグルグルと回しながら殴りにかかる。
「レ級……っ、や、止めるんだっ!」
「ふんっ!」
元中将はつまらなさそうにレ級を足蹴りし、ヲ級の元へと弾き返した。
「アウ……ッ!」
「レ、レ級……っ!」
ピヨピヨとヒヨコが頭の周りを飛び回るように、頭を揺らすレ級。
心配したヲ級はレ級を抱き抱え、大丈夫かと声をかけていた。
「これも、貴様が悪いのだぞ?」
言って、元中将は悪意を持った笑みで俺を睨みつけた。
「あのときもそうだ。貴様を殴っている最中に、ガキどもは声をあげて私の邪魔をした。力が無いにも関わらず、キャンキャンと吠えるしか脳が無い子犬のような存在に、虫酸が走るようだったわっ!」
「それ……でも……、皆は……俺を、助けようと……して……っ!」
力を振り絞って、俺は立ち上がる。
今ここで引いたら、全てが無駄になる。
今ここで引いたら、助けてくれた子供達に顔合わせができない。
「それがどうした? その結果がこれでは、全くもって意味が無いだろうっ!」
言って、元中将はゆっくりと俺に近づいて来る。
とどめを刺そうと、力を込めた拳を振り上げて。
だけどそれは、余りにもゆっくりで。
俺の姿がボロボロだったからこそ、油断してしまったのかもしれない。
だけど、俺にはもう力は殆ど残っていなくて。
避けるという動作じゃなかったのだけれど、ふらついてしまったおかげなのか、
偶然にも、元中将の拳を避けることができた。
ガッシャーーーンッ!
「ぐう……っ!?」
元中将の拳はファイル用ロッカーのガラス部分を突き破り、割れた破片が拳や腕を切り刻んだ。
辺りには鮮血が飛び散り、元中将が痛みで苦悶の表情を浮かべている。
今がチャンスと思った俺は、何とか力を振り絞って拳を握り込んだ――のだが、
「糞がぁぁぁっ!」
それよりも先に、元中将は傷ついていない左の拳で俺の胸を殴りつけた。
「ぐあぁっ!」
またもや俺の身体は吹き飛んでしまい、床にゴロゴロと転がっていく。
痛みは身体中に纏わり付くように広がり、意識が朦朧としてしまう。
「ほぅ……」
そんな俺を見るかのように、元中将は声を漏らし、
「ア……ッ!」
ヲ級の大きな声が部屋中に響き渡った。
「………………?」
俺はその理由を確かめようと、顔を上げる。
膝をついて、床からなんとか立ち上がろうとする。
その間、元中将からの攻撃は無く、
まるで、俺を待っているかのよう状況に、
俺は一抹の不安を覚えながら、真っ直ぐ前を見た。
「くくく……」
目に映るのは、勝ち誇った笑みを浮かべた元中将。
「ソ、ソンナ……」
少し離れた位置から悲壮な声をあげるヲ級。
そして、元中将の左手には、
俺の懐に入っていた、9mm拳銃が握られていた。
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次回予告
元中将が主人公に向けて拳銃を構える。
まさに絶体絶命の時、何を思い、何を語るのか。
呉鎮守府での決戦が――ついに終わる。
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その20「命の重さ」
乞うご期待!
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