艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 北方棲姫の居場所が分かった。
主人公達は三階に向かい、鍵の掛った扉の前に立つ。

 最後の試練とばかりに立ちふさがる壁に、新たな特技を発揮する……?


その18「大怪盗の末裔?」

 

 通路近辺に気配を感じなくなったのを見計らい、俺達三人は監視カメラの動きをしっかりと見極めた。左右に動くことで通路の広範囲を撮影しているのだが、カメラの真下部分は完全に死角となるのを発見した俺達は、上手くタイミングを合わせて乗り切ることに成功した。

 

 そしてそのまま階段を上がった俺達は、鼻ほじり中佐から聞いた総司令官室の隣にある部屋の扉の前に立っている。

 

「ここで間違いないよな?」

 

「ウン。今マデデ一番、気配ヲ感ジルヨ」

 

「父サン、妖気デスッ!」

 

「いや、ボケはいらないんだけどさ……」

 

 残念……といった風に肩を落とすレ級。

 

 ネタの古さから言っても、間違いなくル級の影響が色濃いと思われるので、一度本当にレ級を教育し直した方が良いのかもしれない。

 

 まぁ、そんな機会は……難しいと思うけどさ。

 

「ソレジャア、ル級姉ェニ知ラセナイトイケナイヨネ」

 

「……いや、できれば北方棲姫を確認しておいた方が良いだろう。お前の『チカラ』を疑う気は無いんだが、もし万が一違っていたり、元中将が罠を仕掛けていないとも限らないからな」

 

「ナルホドネ。ソノ可能性ハ、低クナイノカモシレナイネ……」

 

 納得したようにヲ級はそう答えたが、俺としてはヲ級の言った通りにしたかった。

 

 隣の部屋は総司令官室であり、元中将が居る可能性が高く、この場に留まって居るのは非常に危険である。できるだけ早く北方棲姫を見つけて助けだし、危険な場所からおさらばしたいのが本音なのだ。

 

 だが、俺が先程ヲ級に言ったように、ル級をここに呼び出して部屋の中を捜索し、何も出なかった場合、気まずい程度では済まされない。この行動が元中将に露見してしまえば、潜入している俺達に危険が及ぶばかりか、ル級が深海棲艦を裏切ったと決めつけられるのは明白で、逃げ出すことに失敗してしまえば確実に処刑されてしまうだろう。

 

 元中将が呉鎮守府を落とすために使った方法を考えれば、たとえ子供のヲ級やレ級であっても見逃すとは思えない。もちろんル級に至ってもそうだけれど、何より元中将にとって俺という存在は、復讐したい人間ナンバーワンの可能性が高いのだ。

 

 舞鶴鎮守府から左遷された切っ掛けを作った俺という存在を目にしたとき、元中将は間違いなく喜びながら、苦痛を与えようとするだろう。もちろんむざむざとやられる気は無いけれど、周りには味方は殆どおらずに敵だらけのこの場所で、たいした反撃ができるとは思えない。

 

 ならばやはり最初に考えた通り、北方棲姫を救い出してル級に知らせ、元中将が孤立するのが望ましい。

 

 そのためにも、目の前にある扉を開けて中に入らないといけないのだが……

 

「鍵ガ……掛カッテイルネ……」

 

「まぁ、普通はそうだよなぁ……」

 

 さすがに裏口と同じようにはいかないだろうと思っていたが、逆に考えればここに大事なモノが隠されているということが分かる。とはいえ、どこにこの扉の鍵があるのかが分からない以上、変に動くこともできないので、やはりこの手しかなさそうなのだが……

 

「よし。ヲ級は左側を、レ級は右側を警戒しておいてくれるか?」

 

「ソレハ良イケド、オ兄チャンハ、ドウスルツモリナノカナ?」

 

「経験は全くないんだが、こういうモノを持っていてな」

 

 そう言って俺が取り出したのは、舞鶴鎮守府の整備室で夕張から受け取っていた工具セットのポシェットだ。この中にはドライバーや小型のモンキーなど、役に立ちそうなモノがたくさん入っている。

 

 その中から先の尖ったフックと平べったい金属の棒を両手に持った俺は、扉の鍵穴に差し込んでグリグリと動かしていく。

 

 カチャカチャと金属音が静かな通路に鳴り響き、誰かに気づかれてしまうのではないかとヒヤヒヤしながら作業を続けていく。額には大粒の汗が浮きだし、ポタポタと床に流れ落ちていった。

 

「くそ……っ、見よう見まねだと……上手くはいかないか……」

 

 ピッキングの経験も無ければ、説明書なども見たことがない。言わば、完全にゲームやアニメ、映画でやっている感じを真似ているだけなのだから、上手くいく方がどうかしているのかもしれない。

 

 しかし、鍵を探すという危険を冒すことを考えれば、やってみるのも一つの手だと俺は考えたのだ。小さな音が鳴ってはしまうけれど、見張りを立てておけば咄嗟の事態に段ボール箱を被ることもできる。

 

 ただ、問題は成功するかしないかなのだが……正直これはぶっつけ本番でしかなく、案の定というか予想通りというか……全くもって鍵は開かなかった。

 

「オ兄チャン、チョット貸シテミ?」

 

 すると、いつのまにか俺の近くに立っていたヲ級が、手を広げて工具を要求してきた。

 

 見張りはどうした見張りは。

 

 こうしている間に誰かが来たらヤバいだろうがと言いたくなったが、ここで大きな声を出す訳にもいかない。

 

「……いや、なんでそんな言い方なのかが気になるけど、やったことあんの?」

 

「マァ……見テテヨネ」

 

 言って、ヲ級は俺の手から工具を受け取って鍵穴に差し込んだ。代わりに見張りをしておくべきだと思った俺は、段ボールを被って離れようとしたのだが……

 

 

 

 カチャ……ッ

 

 

 

「……は?」

 

 小さな金属音が鳴ったのを聞き、俺は呆気に取られたように振り返る。触手で器用にVサインをしていたヲ級が、ドヤ顔で俺の顔を見上げていた。

 

 ……ちょっとばかり、ウザい顔なんですが。

 

 いや、というか、マジで鍵開いちゃったの?

 

 俺はすぐさま扉のノブを握って捻ってみたが、何の抵抗もなくクルリと回った。少し体重をかけてみると、扉は奥へと動いて開いていく。

 

「マジ……かよ……」

 

 俺は汗を浮かばせながら分からないなりに頑張っていたのに、ヲ級は工具を受け取ってからホンの数秒で……開けちゃったというのかっ!?

 

 もしかして経験アリだというのか……って、ちょっと待てよ。

 

「……この技術、どこで習った?」

 

「黙秘権ヲ行使シマス」

 

 口笛を拭くような仕種をしながら、目を逸らすヲ級。

 

 明らかに疚しいことがありまくりじゃねぇかっ!

 

「凄イネ、ヲ級ッ!」

 

「フッフッフッ……僕ニハ、色々ナ特技ガアルノダヨ」

 

「コノ技ッテ、ル級カラ?」

 

「イヤイヤ、コレハ青……ゲフンゲフン。何デモナイヨ」

 

 ………………

 

 ここにきて、またあいつかよっ!

 

 幼稚園児に何を教えてるんだ青葉はっ!

 

 こんな技を覚えちまったら、俺のプライバシーが無くなっちまうじゃねぇかよぉぉぉっ!

 

「デモ、コレデ中ニ入レルカラ、結果オーライダヨネー」

 

「ぐっ……た、確かに……その通りだ……」

 

 ツッコミと説教をしたくて堪らないが、今はその時間も惜しい。

 

「よし、それじゃあ中に入るが……周りに誰も居ないよな?」

 

 そう言って俺達は辺りを見回しながら警戒し、誰も居ないことを確認してから部屋の中に入った。

 

 

 

 

 

 部屋の中に入った俺は、ポシェットからLEDライトを取り出してスイッチを入れ、内部をぐるっと見回してみる。

 

 鍵付きのファイル用ロッカーがいくつも並び、部屋の隅には無造作に段ボール箱が積まれている。床にも何に使うか分からないような資材が置かれている――というよりかは捨てられているといった感じで、明らかに手入れはされていないように見えた。部屋の奥にある窓にはカーテンが閉じられていて外の景色は見えないが、ライトの光が外に漏れない分、こちらにとって好都合だ。

 

 一通り見てみたが、どうやらここは物置部屋――という感じに見える。ファイル用ロッカーの鍵も開いているところから重要性は低いと見るが、それならなぜ入口の扉に鍵が掛かっていたのだろうと考えてみれば、やはり怪しさを感じてくる。

 

「ヲ級、北方棲姫の気配はどうだ?」

 

「本当ニスグ近クダヨ。多分、目ト鼻ノ先ニ……」

 

 言って、ヲ級は乱雑した部屋の中心に立ちながら、目を閉じて意識を集中させた。

 

「僕ノ……スグ、右ノ方……ニ……」

 

 ヲ級の触手がゆっくりと場所を指し示す。そこには、この部屋には若干不釣り合いな、大きめの旅行用鞄が置かれていた。

 

「これか……?」

 

 俺はその鞄の辺りを注視して見た。

 

 周りにある資材には薄い埃が被っているが、この鞄はあまり汚れていない。更に怪しいのは、ジッパーを開ける持ち手部分に、明らかに不釣り合いに見える大きな南京錠が取り付けられていた。

 

「怪しさ満点だよな……」

 

 俺はそう言いながらポシェットの中にある糸ノコギリを取り出して、南京錠のフック部分を切ろうとする。

 

「オ兄チャン、ソレハ非常ニマドロッコシイカラ、僕ニドライバーヲ貸シテミ?」

 

 いや、だからなんでそんな喋り方なんだ……?

 

 とはいえ、さっきの鍵開けの件もあるので――と、俺はヲ級から言われた通りドライバーを手渡した。

 

「コウイウ鞄ノジッパーハネ、イトモ簡単ニ……」

 

 そう言って、ヲ級はドライバーの先をジッパー部分に押し当てると、グリグリと力を込めて押し始めた。

 

 

 

 グリグリ……グリグリ……ブツッ!

 

 

 

 ……マジか。

 

 ジッパーが力に負けてパックリと開いたんだけど……これって鍵、全く意味無くね?

 

 後は、内部に刺さったドライバーをスライドさせ、見事に全開状態になってしまったのだった。

 

「フフフ……コレデゴ褒美ハ、更ニ増エタネッ」

 

「そういうのは、自分から言わない方が良いと思うんだけどなー」

 

「露骨ニ要求スルノモ、戦術ナンダヨネー」

 

 それをばらしたら全く意味が無いと思うのだが……まぁ、ヲ級だから仕方が無いか。

 

 こいつの場合、昔から大事なのはその場のノリって感じで喋るからなぁ。

 

「ヲ級ハモシカシテ、大盗賊ノ末裔ダッタリスルノカナ?」

 

「ソウソウ。オジイチャンガ、怪盗デス」

 

「ヤッパリッ!」

 

 驚きの表情を浮かべながら喜んでいるレ級なんだけど、さすがにそれは嘘だからね。

 

 俺の親も祖父も祖母も少しばかり裕福なだけで、至って普通の家庭で生まれ育ったのだ……って、よく考えたらヲ級と俺の親は違うから、ハッキリとは分かんないんだよなぁ。

 

 とはいえ、さすがにまさか、そんなことは無いと思う。

 

 思うんだけど……マジで無いよね?

 

「ソレデ、鞄ノ中ナンダケド……」

 

「あ、あぁ、そうだな」

 

 ヲ級は俺にドライバーを返し、中を見るようにジェスチャーをする。

 

 開けたついでにヲ級が中を見れば済むのだが、そこは俺に任せようという気持ちだろうか。

 

 潜入することを言い出した俺への気遣いか、はたまた、何かしらの罠が仕掛けられている可能性があるかもしれないので、人柱になれと言っているのか……

 

 だが、どちらにしても中が気になるし、見なくてはならない。そうしなければ、元中将に占領されてしまった呉鎮守府に危険を承知して潜入した意味が無くなってしまう。

 

 俺は覚悟を決めて息を飲み、LEDライトを口に咥え、開いたジッパーを広げるべく両手を使う。ゆっくりと開いた鞄の中に、ライトの光が当たった瞬間だった。

 

「……アッ!」

 

 レ級が大きな声をあげ、慌てて両手で口を塞ぐ。

 

 しかし、その気持ちは分からなくはない。

 

 俺達の目に映り込んだソレを見れば、レ級が驚いてもおかしくないのだろう。

 

 やっと探し当てた目標は、

 

 鞄の中にスッポリと入り込み、

 

 模型のような戦闘機を両手で大事そうに抱え、

 

 純真無垢な子供のようにスヤスヤと寝息を立てるその姿。

 

 真っ白な肌に、真っ白な服装。

 

 それは紛れもなく、ぷかぷか丸で元帥やル級から聞いた、

 

 

 

 北方棲姫――そのものだった。

 

 





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次回予告

 ついに北方棲姫を見つける事ができた主人公達。
安心したのも束の間、ついに元中将と対面する。

 逃げ場を失った主人公は最後の戦いへと挑むのだが……


 艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その19「戦いの行方」


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