https://ryurontei.booth.pm/items/69110
書籍サンプルの方も更新してたりします。
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仕事で帰宅が遅れ、更新が遅くなりました。すみませんっ!(><)
裏口は基本。ただし罠に注意。
内部に潜入出来た3人だが、予想通りカメラがあった。
どうにかして通りぬけようとするが、思わぬヤツが現れる……!?
「むぅぅ……」
段ボール箱についた取っ手部分の穴から外を見ていた俺は、しかめっ面をしながら呟いていた。傍にはヲ級とレ級が立っているが、俺が心配しているのはそこじゃない。
俺達は警戒が全くされていなかった裏口から庁舎内に侵入し、ヲ級の感覚を頼りに通路を歩いていた。そこで俺が危惧していたモノを見つけ、慌てて止まった訳である。
「アソコニ、カメラガアルネ……」
ヲ級が触手で指した通路の天井部分に、監視カメラが取り付けられていた。更に厄介なのは、ゆっくりな動きではあるものの、カメラの向きが左右に繰り返し動き続けていて、死角になる部分が少ないのだ。
「この通路を通るのは難しそうだな……」
これが深海棲艦の見張りならば、今までと同じようにレ級の荷物を運ぶためだと言って通り抜ける方法が取れただろうが、相手が物言わぬカメラである以上、映像は鮮明に撮られてしまう。レ級とヲ級は深海棲艦の子供ということでなんとかなるかもしれないが、段ボール箱が独りでに動いているのをモニター越しの相手が見れば、不信感を抱いてしまうだろう。
「北方棲姫の気配は上からするんだよな?」
「ウン。間違イナク、上カラ感ジルヨ」
触手を天井へと向けたヲ級は、コクリと頷いた。
「レ級、この通路の奥にある階段以外にも、上に行く手段は無いのかな?」
「アルケド、ココカラダト結構遠イカナ……」
「そうか……」
できるならば、庁舎の中を動き回ることは避けておきたい。しかし、監視カメラがあるこの通路を通り抜けるのもまた難しい。更に言えば、ここを上手く通り抜けられても、他にカメラが無いという保証は無いのだ。
「急がば回れと言うけれど……か……」
独り言を呟いた俺は、段ボール箱の中で考え込む。どちらの方法を取るべきか悩み、できる限り安全に行きたい……と思っていたのだが……
ガチャ……ッ
「……っ!?」
扉が開くような音が聞こえ、俺は慌てて段ボールの中で180度反転した。穴の部分から人影らしきモノが見え、慌てて口を閉じて動きを止める。
「おやぁ……?」
気づけば、近くにあった扉が開いていた。このタイミングでそれは無いよ――と叫びたくなるが、起きてしまったことは仕方が無い。それよりも問題なのは、明らかに人影がこちらの方に気づいたということである。
「ぐふっ、どうして子供なんかがこんなところに居るのかなぁ?」
独り言を呟きながら向かってきた人影の足音が徐々に大きくなり、俺の心臓の音がバクバクと高鳴りをあげる。額に汗がにじみ、タラリとこぼれ落ちていく感触に息を飲んだ。
「レッ!?」
「ヲヲッ!?」
声に気づき、ビクリと身体を震わせたレ級とヲ級が声をあげて振り向いたようだ。しかし俺には小さな穴から見える部分しか分からず、声の様子で理解するしかない。
くそっ、こんなに簡単に近寄られてしまうなんて……っ!
だが、今動いてしまったら全てが水の泡になる。俺は必死で動き出したくなる衝動を押さえながら、俺は外の声や音を聞き逃さないように耳を澄ます。
「おやおや、そんなに驚かなくても良いんだなぁ。別に取って食おうなんて考えていないからねぇ……ぐふっ、ぐふふっ……」
あれ……? この声、どこかで聞いたことがある気がするんだが……
それに、低く籠ったような声は明らかに男性の声だ。つまり人影は深海棲艦ではなく人間であると同時に、なぜこの場所で自由に動き回れているのだろうという疑問が、俺の頭の中に過ぎる。
「ア、アノッ……レ級ハコノ荷物ヲ、ル級ニ……」
「ル級……?」
「ソウソウ。アノ変態ノ、ル級デス」
ヲ級が相槌を打つように答えたが、本人が聞くと怒りそうだよなぁ。
「ああ、なるほどねぇ。あのおかしな深海棲艦のことだねぇ……ぐふふっ」
この、口癖のように繰り返す「ぐふっ」という言葉……やはり過去に聞いたことがある。
もしかして、元中将と一緒に査問会にいた、鼻をほじりまくっていた太っちょ提督か……っ!?
「そうかそうかぁ……君達は小さいながらも、お手伝いをしているってことだねぇ……ぐふふ……」
「ヲッ。ソレホドデモアルカナッ!」
「ぐふ、ぐふふっ。その返しは面白いねぇ……さすが平凡な人間の子供とは違って、ユーモアがあるってことかなぁ」
ヲ級の発言に一瞬焦ったが、どうやら子供というのが幸いしたようだ。口調の感じから怪しまれているような雰囲気は無いし、このまま通り過ぎてくれれば何とかなるのだが……
「しかし、どうしてこんなところで立ち止まっていたんだろうねぇ?」
その言葉を聞いて、俺は一気に汗が引いた。
カメラが邪魔で通れませんでしたと言える訳が無いし、この場で俺が二人に助言すると聞こえてしまう可能性が高い。小さな穴からジェスチャーをすることも難しく、全てはレ級とヲ級の判断による返事にかかっているのだが、これはマジでやばすぎる……っ!
「ソ、ソレハ……」
レ級の言葉が詰まり、一瞬の沈黙が流れた。
それは不信感となり、あらぬ疑いを持たれてしまう。
疑い自体はありまくりなんだけれど……って、そんなことを思っている場合ではない。
何とかして二人に伝える方法がないかと考えるが、変に動けばその時点でばれるだろうと、俺は歯を食いしばった。
「それは……どうしたのかなぁ?」
頼む……ヲ級、何とか良い返事をしてくれ……
「マァ、単純ニ道ニ迷ッタダケナンダケドネ」
「ソ、ソウソウッ。レ級、アンマリココニ、来タコトナイカラ……」
そう言って、二人はコクコクと頷いているようだった。
「………………」
しかし男は何も答えない。雰囲気から察するに、レ級とヲ級をジッと睨んでいるようだ。
ヲ級の返し自体は悪くなかった。ただそれが、納得させられたかどうかなんだけれど……
「ぐふ……っ」
「……ヲッ?」
「そりゃあ、そうだろうねぇ。ここに君達がきたのは数日前だし、ましてや子供ならば、覚えるのも大変だろうなぁ……」
「ソウナンダヨネ。最近ボケテキチャッタミタイデサ……」
それはちょっと、言い過ぎな感じがするんだけどっ!?
「ぐふふっ、君は面白いねぇ。良かったら今度、部屋に遊びに来ないかい?」
「僕ヲ口説ク気ナラ、チョットヤソットノモノジャア、難シイカモヨ?」
「ぐふっ、ぐふふふっ! 口説くときたかぁ……本当に、面白いねぇ……ぐふふっ」
……どうやら、言葉のニュアンス的には大丈夫そうだ。しかし油断はできないと、俺は引き続き注意深く耳を済ませる。
「それじゃあ、次に会ったとき暇だったら、エスコートしようかねぇ……」」
「魅力的ナプレゼントヲ、宜シクネー」
「了解した……ぐふふっ……」
そう言った男は移動を開始したのか、通路を歩く足跡がコツコツと俺の横を通り過ぎ、遠ざかって行った。
ふぅ……どうやら何とかなったみたいだ。
よくやってくれたよ……ヲ級……
「ヲヲ……サスガニ疲レタ……」
「オ疲レダネ……」
二人はそう言って大きなため息を吐き、俺が被っている段ボール箱をバシバシと叩いた。
「お、おいおい、何をするんだよっ!?」
「オ兄チャンモチョットクライ、サポートシテヨネッ!」
「イヤ、サスガニ動イタラ、怪シマレルヨ?」
「そ、そうだっ、レ級の言う通りだぞっ!」
「アノ男、僕ニ色目使ッテキタンダヨッ! 凄ク寒気ガシチャッタノニ、頑張ッタンダヨッ!」
「そ、それは……良くやってくれたとは思うけどさ……」
「ダカラ、ゴ褒美的ナ何カヲ、後デ所望スルッ!」
所望って……やけに回りくどいと言うか、難しい言葉で言うよな……
でもまぁ、確かに頑張ってくれたから、後で労ってやっても良いだろう。
ただし海中でのこともあるので、現状ややプラスって感じだけど。
「分かった分かった。無事に帰ったら、そのときに何かプレゼントしてやるよ」
「約束ダヨ、オ兄チャンッ!」
「レレッ! レ級モ頑張ルカラ、プレゼント欲シイッ!」
「ああ、それじゃあ二人共、何か用意するよ」
「「ヤッターッ!」」
ガッツポーズをして喜ぶレ級とヲ級。
正直に言えば、こんなところで気を抜き過ぎだと言われてしまうかもしれないが、ここまで喜んでいる二人を咎めるのもまた難しい。しかし、目的である北方棲姫の居場所はまだ発見できていないのだからと二人に言い、再び捜索に戻ろうとしたときだった。
「……っ! 二人とも、足音だっ!」
再び聞こえてきた通路を歩く音に、俺は小さな声で伝えてから息を潜めた。
足音はどんどん大きくなり、ほんのすぐそこまで近づいてきたと思った瞬間、急に声がかけられた。
「ぐふっ、言い忘れていたんだけどさ……そこの通路の奥の階段を上った先にある、三階の総司令官室の隣の部屋には行かない方が良いからねぇ」
「ヲ……ヲヲッ? ソコニ行クト、ダメナノカナ?」
「中しょ……じゃなくて、君らの提督が怒っちゃうからねぇ。子供と言えども、あの人は容赦しないからさぁ」
「ソ、ソウダネ……アノ人、怖イカラ……」
「ぐふっ、聞きわけが良い子は賢いねぇ。それじゃあ、気をつけてお使いするんだよぉ」
そう言って、足音は遠ざかって行く。
どうやらレ級とヲ級に注意をしてくれたようだが、査問会のときとは別人だと思えてしまうような心づかいだよなぁ。
もしかして、全く違う人物なのではないのだろうか――と、ヲ級に男の風貌を聞いてみたのだが、
「凄イ太ッチョデ、喋ッテイル間、ズット鼻ヲホジッテイタケド……」
まず間違いなく、査問会のときに同席していた、あの鼻ほじり中佐と同じ感じだった。
そして、それは同時に、俺の頭の中に一つの答えが導き出される。
雪風が語った、呉鎮守府が襲撃されたときのこと。
急に襲ってきた深海棲艦の戦闘機。そして始まる砲雷撃戦。
その中で、明らかに不可思議だった現象。
通信の遮断――つまりは、妨害電波の存在。
そしてそれは、内部の者の工作だと元帥は言った。
つまり、この呉鎮守府の中にある官庁の内部で、自由に動き回れている鼻ほじり中佐が――
「元中将の工作員……ということか……」
レ級とヲ級に聞こえないように呟いた俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
己の取った行動で、数多くの艦娘や呉鎮守府の人達に危害を加えた。それを、鼻ほじり中佐は分かっていなかったはずでは無いだろう。
もし万が一、元中将に騙されたりして分かっていなかった場合、レ級やヲ級と先程のような言葉を交わすことなど、できるはずがない。
元中将と同じ、鼻ほじり中佐は人間を裏切った。例えどんな理由があったとしても、それは許されることではない。
怒りが徐々に湧き上がってくる感覚を押さえつつ、俺は冷静になるようにとため息を吐く。
俺達の目的は、北方棲姫の居場所を突き止めること。そして、そのヒントは俺達の手にあるのだ。
「よし……それじゃあ、行こうか」
「オッケー。モチロン、サッキ聞イタトコロダヨネ?」
「ソウダネッ!」
レ級とヲ級、そして俺は同時に頷く。
向かう先は通路の奥。階段を上って三階に行き、総司令官室の隣にある部屋へと。
そこに、俺の考えが間違っていなければ――
北方棲姫は捕われているのだろう。
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次回予告
北方棲姫の居場所が分かった。
主人公達は三階に向かい、鍵の掛った扉の前に立つ。
最後の試練とばかりに立ちふさがる壁に、新たな特技を発揮する……?
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その18「大怪盗の末裔?」
乞うご期待!
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