スピンオフ第二弾の一つ目は……青葉ですっ!
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再開を喜ぶ二名。そして不安がる者多数。
だけど大丈夫……。いや、多分大丈夫。
約束を胸に、先生は呉へと向かう。
しかし、先生は真夜中の海を甘く見ていたのだった。
「久シブリダネ、レ級ッ!」
「レレレッ、レーレレッ!」
甲板の上でじゃれあう二人の小さな深海棲艦。一人はお馴染みのヲ級であり、もう一人は海底でヲ級と一緒に居たレ級だった。
レ級は、俺がヲ級を海底から連れて帰る際に色々と手助けをしてくれた後、北方の基地へと向かうル級と一緒に去って行った。レ級自身はヲ級と同じように俺についていきたいと言ってくれたのだが、様々な理由があって断念し、別れることになったのだ。それ以来連絡する方法は無く、偶然青葉から知らされた写真で無事なことの確認はできていたけれど、音信不通の状態だった。
――と、そんな感じで考えてはいるが、そもそも深海棲艦と連絡をとれる段階で変なんだけれど。取れたら取れたで、憲兵さんに尋問されてしまうことが確定な状況になりそうだ。
「ソレデ、レ級ハドウシテココニ? モシカシテ、ル級カラ何カ聞イテキタノカナ?」
「レッ、ソノトーリッ!」
大きく両手をあげたレ級は元気よく答え、俺の顔を指差した。
「ヲ級ノオ兄チャン……先生ヲ案内スルヨウニ、言ワレタッ! バッチリ、レ級ニ任セテ、オッケー!」
そう言って、俺を指差した手――ではなく、腕ごとグルグルと勢いよく回している。
うむむ……元気そうでなによりなんだが、あまりのテンションに周りの皆は若干引き気味だぞ。
それと、いつの間にかレ級が言葉を喋れるようになっているんだが、ちょっぴり嬉しかったりしちゃうんだよね。
まるで卒業していった生徒が数年後に会いに来てくれて、成長した様を見せてくれた感じ――と言いたいところだが、俺はまだ先生として一年ちょっとしか経験していないので、余り分からないけれど。
まぁ、どちらにしても、久しぶりに会えたのは嬉しかったりするし、その気持ちに変わりは無い。
だけどそれとは逆に、レ級が俺を案内することについてはどうなのだろう。確かに子供とは思えない腕っ節を持ったレ級ではあるが、俺やヲ級を元中将にばれないように呉鎮守府内に潜入させるとなると……
「あ、あのさ……先生……」
「は、はい。なんでしょうか、元帥?」
「この子に任せて……大丈夫?」
「た、たぶん大丈夫だと思います……」
そう答えたものの、元帥の言った通り俺の内心は、ぶっちゃけて心配しまくりである。
とはいえ、ここまできて止めますとも言えない。
それにレ級は子供であるとはいえ、呉鎮守府内部のことを俺達よりは知っているはずだ。
そうでなければ、ル級がここにレ級を寄こすはずがないだろう。もしかすると、何か別の考えがあってのこともかもしれないし。
「ソレジャア、早速行コウゼ、カモンッ!」
「ラジャーーーッ!」
レ級の声に反応したヲ級が腕を振りあげる。
「「海底防衛隊ッ、出発進行ーッ!」」
なんでここだけ流暢に喋るんだよレ級は……
息がピッタリなのは付き合いが長かったからだと納得はできるけれど、元気一杯過ぎて空回りするのは避けて欲しい。
しかし、通常のレ級は微妙に片言だったような気がするんだけど、なぜなのだろうか。
金剛とは違う、何かこう……深夜番組的な要素を感じてしまうんだけれど……もしかして、ル級の仕業じゃないだろうな……?
あいつならやりかねない……が、今はそんなことを考えている暇は無い。夜が明ける前に呉鎮守府に潜入して北方棲姫を見つけ出さないと、ぷかぷか丸や艦隊の皆が見つかってしまうのだ。
そうなってしまえば、確実に戦闘に突入となってしまう。それだけは絶対に避けたいからこそ、俺はヲ級と共に潜入すると決めたのだ。
「ソレジャア、オ先ニ下リルヨ、オ兄チャン」
言って、レ級とヲ級はそのまま海へと飛び込んだ。
ドボンッ! ――と、大きな音が聞こえ、海面に漂う二人は俺に手招きをする。
「それじゃあ……いってきます」
皆の方へと振り向かずに俺は言い、マスクを被って息ができるか確認した。
「ああ、気をつけてね……」
小さく聞こえた元帥の声に頷いた俺は、真っ暗な海へとダイブする。落下していく感覚に身を震わせながら、冷たい海中に入った。
「先生っ、絶対……絶対帰ってこいよなっ!」
身体を慣らすために海面に浮かぶ俺の耳に、船の方から天龍の叫ぶ声が聞こえ、次々に子供達の声が続いてきた。
ああ、必ず帰ってくる。
まだ死ぬ気なんて全くない。やりたいことは数え切れないからな。
俺は笑顔を浮かべながら海の中に顔をつける。
そして――俺とヲ級、そしてレ級の三人による、呉鎮守府潜入作戦が開始された。
夜の海。
呉鎮守府までの距離は遠いけれど、辺りを偵察している深海棲艦が居ないとも限らないので、明かりは一切付けずに泳いでいる。
ル級に仲間への伝達は頼んでおいたけれど、どこまで伝わっているかは分からない。下手をすれば、出会った瞬間攻撃される可能性もあるのならば、この方法は当たり前だと言えるだろう。
「し、しかし……何も見えないぞ……」
先導して泳ぐレ級の姿すら殆ど見えない中、俺はヲ級だけが頼りだと、手をしっかり握っていた。
ちなみに足ヒレはつけているのだけれど、ヲ級の泳ぐ速度が半端無く速いので、泳いでいるよりも引っぱられているという表現の方が正しかったりする。
いくら酸素ボンベを背負っているとはいえ、兄として情けなくなってしまうが、やはり深海棲艦と言ったところだろうか。それに、スキューバの経験も殆どないし……って、言い訳ばかりなのは良くないな。
「オ兄チャン、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
マスクを被っているから、前のように会話ができない訳じゃない。ただ、どうやってヲ級が喋っているのかは、正直分からないけれど。
「レッ! コノママ真ッスグ進メバ、スグニ着クヨッ!」
「しかし大丈夫なのか? 二人は深海棲艦だから偵察に発見されても怪しまれないかもしれないけれど、俺が見つかったら完全にアウトだぞ?」
「ソノ辺ニツイテハ、チャント考エテアルッ! 泥舟ニ乗ッタツモリデ、安心シテ良イヨッ!」
いや、絶対安心できないぞ……それ……
しかし、ここまで来て帰る訳にもいかないし、俺達には時間が無い。ぶっつけ本番でいくことになったとしても、なんとかして作戦を成功させなければならないのだ。
「分かった……宜しく頼むぞ、レ級」
「レッ! レ級、全力デ頑張ルヨッ!」
そう聞こえた瞬間、ヲ級の引っぱる強さが早くなり、スピードが増した。
真っ暗な海の中だから感覚がよく分からないけれど、この調子だとレ級の言った通りすぐに着くんじゃないかと思った俺は、強く目を閉じながら気合を入れた。
「静カニ……コノママ、ユックリ沈ンデ……待ッテテ……」
「ラ、ラジャー……」
それから10分ほど引っぱられたところでレ級が急に止まり、ヲ級も慌てて停止した。よく目を凝らしてみると前方に小さな光が見え、レ級がヲ級に指示をしているところだった。
「オ兄チャン、僕ガ引ッパルカラ、絶対ニ動カナイデネ」
その言葉に俺は頷くと、ヲ級はそのまま海の底へと向かって素早く潜って行く。ヲ級の手を握った俺も、その動きに合わせて暗い海の底へと沈んで行くのだが、余りに何も見えない空間に、背筋にゾクリとしたモノが走る感覚に襲われた。
「な、なんだよ……これ……」
ヲ級の手を掴む以外の、身体の感覚がまったく分からない。
視界は完全に閉ざされたように、何も見えないのだ。
泳いでいたときは海面からそれほど深くないところだったので、手を繋ぐヲ級の姿はなんとか見えた。しかし、俺が居る場所ではヲ級の手どころか、自分の身体すら見えないのだ。
そして今は、敵かもしれない者が近くに居る恐怖が俺達の心に不安を呼び、蝕んでいく。ここでもし、ヲ級の手が無かったら――俺は今すぐ叫びながら暴れ出していたのかもしれない。
それくらい、夜の海の底は恐ろしく、何も無いと感じる場所だった。願わくは、二度と来たくは無い。そんな思いが心の中を埋め尽くす。
ル級やレ級やイ級、そしてヲ級と出会った海底の場所とは違い、余りにも人が居られないであろうと思える空間。こんなところに、なぜ深海棲艦は居られるのだろうか。怖くないのだろうか。叫びたくならないのだろうか。
そんな思いが頭の中を駆け巡り、俺はただじっと、ヲ級の手を握り続けていた。
「………………」
自分の呼吸の音だけが聞こえ、闇に溶けていく。
冷静になればなるほど、恐怖が俺の身体を包み込む。
もし、ここで敵に見つかったのならば、まず間違いなく生き残れない。
逃げることもできぬまま、あのときのようにパクリと食べられてしまうかもしれない。
そんな考えが頭の中に過ぎったとき、小さな声が聞こえてきた。
「モウ、大丈夫。向コウハコッチニ気ヅカナカッタミタイダヨ」
レ級の声が聞こえ、俺は安堵のあまりヲ級の手を握る力を弱めてしまった。
「……っ!?」
その瞬間、急に海流が変わったかのように身体が揺さぶられ、握っていた手の感覚が無くなってしまう。
「ちょっ、マジかっ!?」
慌てて手を握ったが、ヲ級の手の感覚は伝わってこない。辺りの視界は変わらぬまま、何も見ることができないのだ。
「う、ウソだろっ!? ヲ級ッ! レ級ッ!」
俺はパニックになって、周りに大きく叫び声をあげた。海の中ではどこまで声が伝わるか分からないけれど、無我夢中で叫び続けた。
もしかすると、こちらに気づかなかった深海棲艦に気づかれてしまうかもしれない。だけど、それ以上に真っ暗な空間に取り残されてしまったという恐怖が俺を襲い、激しく身体を動かし続ける。
もしこのままヲ級とレ級に会えなければ、俺はどうなるのだろう。これだけ暗い海の中では、海面がどちらなのかも分からない。力を抜いて浮上しようとするのだが、全く感覚が分からずに、動いているかどうかですら不明なのだ。
「頼むっ、頼むから……俺を見つけてくれぇっ!」
そう叫んだ瞬間、マスクのレンズにぺたりと何かが貼りついた。
「オ兄チャン、見ーツケタッ」
それは、ヲ級の手の平だった。闇の中で微かに白く見えるソレは、まるで天使の羽根ように見え、俺は必死に両手で握る。
「ワワッ! ド、ドウシタノ、オ兄チャンッ!?」
「よ、良かった……本当に……良かった……っ!」
あまりの嬉しさに俺は涙を流し、ヲ級の身体をギュッと抱きしめた。ウエットスーツの上から感じるヲ級の身体は、海中の冷たさを忘れるくらい温かく、俺を安心させてくれた。
「オ、オ兄チャン……」
そんな俺を気遣うかのように、優しく頭を撫でてくれる――かと思いきや、
「ソンナコトヲサレタラ、我慢ノ限界ジャーーーッ!」
そう――叫んだヲ級は、急に俺のマスクの上から唇を何度も押しつけてくる。
「ちょっ、お前はいきなり何をやってるんだっ!?」
「コンナニ激シイハグナンカサレチャッタラ、興奮スルニ決マッテイルデショッ!」
「そ、そんなつもりは全く無いっ! 気持ち悪いからさっさと離れろっ!」
「サッキマデハアンナニ震エテイタノニ、利用スルダケ利用シテ……コノ鬼畜兄ィッ!」
「人聞きの悪いことを言うんじゃねぇっ!」
俺は真っ暗な海の中でもがきながら、必死でヲ級を引きはがしにかかる。
言われてみれば確かにその通りなのだけれど、それにしたってこれはやり過ぎである。まず場所を弁えろ――って、よく考えたら真っ暗だから大丈夫なのか。
いやいやいや、そういうことじゃねーよ……
ここは光の届かない深き海の中。殆ど見えないとはいえ、弟に発情されて襲われる気は毛頭ないし、そもそもそんなことをしている暇なんて無いのだが……
「レレ……ッ、コレガ……人間ノ愛情表現ナノカ……」
「いやいやっ、絶対違うからねっ! ヲ級が特殊過ぎるかつ、勝手にやっているだけだからねっ!」
何処からともなく聞こえてきたレ級にツッコミつつ、俺は必死でもがき続ける。
それと、ヲ級は一応元人間であって、今は深海棲艦だけど……むむ、ややこしいぞ全く……
そんなことを考えながら、俺はなんとかヲ級を引きはがして冷静にさせようと、奮起することになってしまったのだった。
地上でも海中でもまったく変わらないって……どういうことなんだろうな……
※第二回リクエストの結果を活動報告で発表してますっ!
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次回予告
ヲ級はやっぱりヲ級だった。
色々と疲れたものの、三人は呉への潜入を開始する。
もちろんその方法は、誰もが予想できるアレだった。
ただし――その効果は別の意味で凄いのだが。
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その15「最凶のアイテム」
乞うご期待!
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