艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 芸人にとって、面白い人と言われるのは生き甲斐なのです。

 そんな冗談はさておいて、感動? の再開を済ませたヲ級とル級。
北方棲姫を探し出すため、ル級はヲ級に『チカラ』を使ってくれと頼むのだが……


その12「ヲ級と先生の目覚め」

 

「それで、これからのことなんだけど……」

 

 高雄の顔色を伺いながら、元帥はル級に話しかけた。ヲ級がここに居る以上、ル級の期待する『チカラ』とやらを使用すれば、呉の状況を打開できるかもしれない。

 

 そうなれば、俺達は無謀な戦いに行かなくて済む。子供達だけではなく、艦娘やぷかぷか丸の作業員だって危険な目に合わないのだ。俺は淡い期待を胸に秘めながら、ル級に注目する。

 

「ソウダナ。私ノ望ミデアルヲ級ハココニ居ル」

 

 言って、ヲ級の前に立ったル級は、真剣な眼差しで問い掛けた。

 

「北方棲姫様ガ捕ワレタ話ハ、聞イテイタカ?」

 

 ル級の言葉に、ヲ級はコクリと頷く。

 

「ナラバ、北方棲姫様ヲ助ケルタメ、スマナイガ『チカラ』ヲ貸シテ欲シイ」

 

 頭を下げたル級はヲ級に願う。

 

 しかしヲ級は戸惑った風にキョロキョロと辺りを見渡してから、俺の顔をジッと見つめてきた。

 

 ヲ級の眼が俺に、構わないのか――と、問い掛ける。

 

 今できる方法はこれしかない。後は玉砕覚悟の突撃だけだ。もしかすると成功するかもしれないけれど、こちらの被害も大きいだろう。

 

 だがヲ級が『チカラ』を使えば、最良の結果が望めるかもしれない。その願いを込めて、俺はゆっくりと頭を下げて頷いた。

 

 それを見たヲ級は、ル級の顔を見上げてもう一度コクリと頷く。

 

「ソウカ……助カル……」

 

 安堵の表情を浮かべたル級だったが、ここでヲ級がボソリと呟いた。

 

「ダケド『チカラ』ナンテモノノ使イ方ナンテ、全然分カラナインダケド……」

 

 ヲ級の声が聞こえた瞬間、目の前にいたル級は元より、俺も、元帥も、高雄ですらも……完全に目が点状態だった。

 

 いや、ル級……お前が固まっていたら話にならないんだけれど。

 

「ソ、ソウ言エバ……ソウダナ。イキナリ『チカラ』ヲ使エト言ワレテモ、分カラナイノガ当タリ前カ……」

 

 額から流れ落ちていく汗を拭き取りながら、ル級は苦笑いを浮かべてそう言った。

 

 いや、ぶっちゃけて洒落にならない展開なんですけど。

 

「ソレデハマズ、頭ノ中ニ北方棲姫様ヲ思イ浮カベナガラダナ……」

 

 ル級はヲ級に手取り足取りといった風に、ジェスチャーを交えながら説明し、ヲ級の『チカラ』を引き出しにかかった。

 

 

 

 

 

「コレガ……コレガ……近代化……ジャナクテ、補給……デモナクテ、僕ノ『チカラ』……」

 

 ……とりあえず色々突っ込みたいのだが、状況説明からしておこう。

 

 ル級から10分ほど教えを受けたヲ級は、目を閉じて精神を集中し始めた。すると、いきなりヲ級は身体の周りに薄っすらとした光を纏いだしたのだ。

 

 これには俺や元帥だけではなく、高雄や扶桑、子供達までビックリした表情でヲ級を見つめていた。

 

 その中で一人、凄く微妙な表情だったのは……

 

「な、なんでかな……大きくなったら……私が言おうと思っていた……感じがする……」

 

 ――と、潮が呟いていたので、それは間違っていないよと優しく頭を撫でてあげた。

 

「ウム。コレデ北方棲姫様ノ居場所ヲ、感知スルコトガデキルハズ。名付ケテ、純粋デ優シイ心ヲ持ッタ深海棲艦ガ、激シイ怒リガ切ッ掛ケデ目覚メチャッタパワー……ダ」

 

「僕ハ怒ッタゾ、フ●ーザーーーッ」

 

 いや、待てよお前ら。

 

 完全にパクリじゃねぇかっ! それだったら、超深海棲艦とかで良いんじゃねっ!?

 

 つーか、あんまりやり過ぎると高雄が怖いから、マジで止めやがれこんちくしょうっ!

 

「……トマァ、冗談ハヨシ子サンデダナ」

 

 そして久しぶりに聞いたけれど、やっぱりムカつくな……

 

「ヲ級ヨ、北方棲姫様ノ気配ヲ……感ジルカ……?」」

 

 そう――ル級がヲ級に聞いた途端、元帥が急に手を上げて、口を開いた。

 

「ちょっと、待ってくれないかな」

 

「……ナンダ?」

 

「ヲ級ちゃんが、君の頼みごとの為に頑張るのは構わない。だけど、その後……北方棲姫を助け出せた後の話が済んでいないんだよね」

 

「……確カニ、話シテイナカッタナ」

 

 ル級はそう言ってため息を吐き、あまり興味が無いような表情で頷いた。

 

 そんなル級を見た高雄が、カチンときた風に表情を曇らせる。しかしここで声を荒らげては元帥の立つ瀬が無いと、言葉を飲み込んだようだった。

 

 さすがは秘書艦……と、言いたいけれど、それ以前にヤバいことをやりまくっているんだよね。

 

「我々ハ、北方棲姫様ヲ救イ出スコトガデキレバ、後ハ何モ欲スルコトハ無イ。奴ニ報イヲ与エタ後ハ、スグニアノ基地カラ撤退シ、解放スルコトヲ誓オウ」

 

「その言葉に二言は無いよね?」

 

「ドウセ、アソコニ居座ッタトコロデ、補給ラインガ無イ。取ルダケ無駄ダト、何度モ進言シタノダガ……奴ハ復讐ノタメダト言ッテ聞カナカッタ」

 

「「……っ」」

 

 ル級の言った『復讐』の言葉を聞き、俺と元帥は息を飲む。

 

 俺に対する元中将の復讐とは、査問会でのことだろう。そして、その責任を負って左遷させられたことにより、俺だけではなく元帥にまで復讐の心が強くなってしまった。

 

 だけど、ことの切っ掛けは俺であることに変わりは無いと思っている。

 

 だからこそ、俺はこうしてここまでやってきた。元中将がこんなことを起こしてしまった償いと、ル級を助けるために。

 

「ソレニ、我々ノ大半ハ戦イヲ好ンデイル訳デハナイ。デキルナラバ、静カニ海デ暮ラシタイト思ッテイル者モ、少ナクナイノダ……」

 

 どこか遠くを見つめているような眼で、ル級は言った。

 

 それを聞いた皆は、黙ったままル級を見つめる。

 

 ル級と会話をして何度も、自分達と深海棲艦は変わらないのではないかと、思うことがあったはず。もしかすると、戦っていること自体が間違いではないかと考え始めてしまうほどに。

 

 だけど、立場上それを言うことはできない。言えば、自分以外を巻き込んでしまう。

 

 ここにはそれ程の権力を持っていたり、胸に秘めた思いを持っていた者達が居る。

 

 そこに、一つの切っ掛けが与えられたとするのなら……それは俺が望む世界への希望になるかもしれないのだ。

 

 だけど、今はル級の願いを聞き入れて、北方棲姫を見つけ出さなければならない。これが失敗してしまえば最後の手段として、呉鎮守府に攻め入らなければならなくなる。

 

 もちろん子供達がこの艦に居るのだから、俺は何が何でも反論するけれど、元帥の立場と気持ちを知っている以上、どう転ぶかは分からない。

 

 もし、このまま攻め入ることになれば、俺達は無事で済まないだろう。それに結果がどうであれ、深海棲艦は本土を占拠した敵として、大衆から完全に受け入れられぬ存在になってしまう。

 

 いや、実際に占拠されてしまったのだから、情報が流れれば俺の思いは水泡と帰す。だが、今のうちに全てを終わらせれば、情報が流れる可能性は低いかもしれない。この国にとって非常に大きな事件ではあるけれど、大衆への影響や面子のことを考えれば、大本営がもみ消しにかかるだろう。

 

 だからこそ、ル級の言葉は元帥に取って、非常に嬉しいはず。

 

 表沙汰にならないとはいえ、呉鎮守府を奪回することができれば、責任を問われるばかりか褒められる可能性だってある。

 

 ただし、ル級が言ったことが本当ならば――だが。

 

「信用シロト言ウ方ガ、無茶ナ話デハアルガ……」

 

 当のル級も、そう考えるとは分かっていたのだろう。だからこそ、うやむやのままヲ級の力を引きだし、北方棲姫の位場所を知ろうとしたのかもしれない。

 

 卑怯と取れるかもしれないが、信用を短期間で手に入れられるほど、人間や艦娘達と深海棲艦との間の溝は深いモノなのだ。もし俺が海底に沈み、ル級やヲ級と出会っていなかったら、交渉の場に立とうとは絶対に思わなかっただろう。

 

 だからこそ、ル級の取った方法は理解できる。だけど、俺達にとって見逃せないことであるにも関わらず……

 

「いや……信じるよ」

 

 元帥はニッコリと笑い、ル級に手を差し出した。

 

「………………」

 

 ル級は少しだけ口を開けたまま、元帥の顔と開かれた手を交互に見つめる。そして薄い笑みを浮かべ、小さく息を吐き、その手を握った。

 

「甘イ……ト言ワレテモ、不思議デハ無イノダゾ?」

 

「そうだろうね。でも、何故か信用する気になっちゃったんだよ」

 

 その様子を見ていた秘書艦である高雄と、護衛である扶桑は、呆れた表情を浮かべながらも小さく笑みを作る。

 

 やっぱりそうなっちゃったか……と、言わんばかりなのに、結果を喜ぶかのように二人を見つめ、

 

 俺の願う未来がすぐそこまでやってきているような感覚が、胸の中いっぱいに広がっていた。

 

 

 

 

 

「ソレデ、北方棲姫様ガドコニ捕ワレテイルカ、分カルダロウカ?」

 

 協力することを互いが認め合ったことにより、俺達の望みはヲ級に托されることとなった。

 

 先ほど『チカラ』を使用できるようになったヲ級が、ル級の声に合わせて目を閉じて集中力を高め、北方棲姫を見つけだそうとする。

 

「気配ヲ……感ジル……」

 

「……ッ、ソレハ、ドコ……ダ!?」

 

「ソレホド……遠ク……ナイ……」

 

 ヲ級の言葉を聞き逃さぬようにと、全員が息を飲みながら集中する。

 

 するとヲ級は閉じていた眼を急に開け、触手と手を同じ方向へと向けた。

 

「アッチノ……方ニ……感ジル。ココカラ、島ヲ越エテ……更ニ海モ越エテ……」

 

 ヲ級はまるで、神様からお告げを伝える巫女のように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

「ソシテ……地上ニアル……建物ノ……中……。

 辺リハ……破壊……サレテイル……ケド、ソノ中ニ……ヒトツダケ……大キク……無事ナ……」

 

「何……ダトッ!?」

 

 ル級がいきなり大きな声を上げ、周りの皆がビックリした表情を浮かべた。しかしル級は気にすることなく、ワナワナと肩を震わせて怒りをあらわにしていた。

 

「マサカ……灯台モト暗シトハ……コノコトカ……ッ!」

 

「そ、それじゃあ……っ!?」

 

 元帥がル級の様子から察知するように、ヲ級が指した遠方を眺めた。遠目でもうっすらと空に明かりが見えるその場所は、あろうことかル級達が占領していた――呉鎮守府がある地点だった。

 

「奴ハ……元カラ北方棲姫様ヲ目ノ届ク場所ニ……ッ!」

 

「い、いや、だからと言っても、呉鎮守府の敷地は結構広い」

 

「シカシ、ヒトツダケノ大キナ建物ナラバ……」

 

「それでも完全に居場所が分からない以上、迂闊に行動したら元中将にばれる可能性が高いだろう?」

 

「クッ……ソレハ、ソウダガ……」

 

 元帥の言葉に言葉を詰まらせたル級は、歯ぎしりをしながら呉鎮守府の方を睨みつけた。

 

「もう少し詳しい場所までは、分からないのか?」

 

「ココカラダト……遠過ギテチョット厳シイネ……」

 

「そうか……ありがとな、ヲ級」

 

 頑張ってくれたご褒美として、俺はヲ級の頭を優しく撫でる。

 

 嬉しそうに撫でられながら、俺の顔を見上げるヲ級。いつもは羨ましそうに愚痴をこぼす子供達も、今は何も言わずに俺達のことを見守っていた。

 

「それじゃあもう一つ……聞いていいか?」

 

「ン……? 何カナ、オ兄チャン」

 

「どこまで近づけば、北方棲姫の居場所が分かる?」

 

 そう言った瞬間、周りにいた全ての皆が、俺の顔を見て大きく眼を見開いた。

 

「ソ、ソレハ……多分、近ヅケバ近ヅクホド、正確ニ分カルト思ウケド……」

 

「それなら、内部まで入り込めば……大丈夫だよな?」

 

 ――そう。

 

 遠いのなら近づけば良い。

 

 分かる場所まで近づけば、北方棲姫の居場所は分かる。

 

 何てことは無い。単純明快な、答がここにある。

 

 ならば、行けば良いだけだと心で言い、俺は呉鎮守府の方向を見つめる。

 

 

 

 全てを終わらせるために――

 

 




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次回予告

 先生は決意する。
自らの責任を取るために。
それは、必要が無い事かも知れない。だけど、やろうと決めたのだ。

 みんなに別れを言った先生は、ヲ級と二人で呉に向かおうとした矢先、
高雄が何かを察知して、大きな声をあげた。


 艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その13「別れと出会い」


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