艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 舞鶴を発って数時間後。
闇が支配する海の上で、ついにル級と対面する。
主人公の心が危険を察知し、警報をあげた時だった。


その8「まるゆをください。できれば大盛りで」

 舞鶴を出発してから数時間。

 

 窓から見える外の景色は夕焼けから真っ暗へと変わり、出発してから時折見えていた鳥の姿も今では確認することができない。

 

 壁にかけてある時計の針は日付が変わる少し前を指し、そろそろ屋代島近くに着く予定時刻に迫っていた。

 

「さて……そろそろだけど準備は大丈夫かな、先生?」

 

「ええ。ここまで来て、できていませんとは言えませんからね」

 

「はは……そりゃそうだよね」

 

 クスリと笑った元帥はソファから立ち上がり、艦長室の中心奥にある大きな机の椅子に座る。

 

 机の上には数枚の書類とペン立て、真っ黒のマイクが置かれていた。

 

『第一艦隊旗艦並びに、連合艦隊旗艦の高雄から入電』

 

 艦長室の天井角に取り付けてあるスピーカーから通信士の声が部屋中に響き渡ると、元帥はすぐにマイクの横に取り付けてあるスイッチをオンにする。

 

「通信を通して」

 

『了解』

 

 通信士が返事をすると、すぐに小さなノイズ音が数秒聞こえ、その後バリバリと大きめの音が鳴ってから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

『高雄より連絡いたします。

 目視にて屋代島を発見。付近に深海棲艦の姿は、今のところ発見できません』

 

「了解。予定通り、ポイントBに向かって低速進行で向かう。各艦は電探とソナーをフル稼働し、付近の警戒を強めるように」

 

『了解いたしました』

 

 高雄の返事が聞こえた後、ブツンと通信が切れるノイズが鳴った。

 

 マイクのスイッチをオフにした元帥は、小さく息を吐きながら俺の顔を見る。

 

「さて、それじゃあそろそろ行こうか」

 

「はい。了解です」

 

 ソファから立ち上がった俺は、元帥に向かって敬礼をする。

 

 元帥も同じように俺に敬礼を返し、俺達は艦長室から甲板へと向かった。

 

 

 

 

 

 闇。

 

 俺の視界に写るのを一言で表せば、この言葉しかない。

 

 艦娘達も、ぷかぷか丸も、全ての明かりを消灯させて、闇に紛れた状態で停止していた。

 

 今、俺の目に映るのは、月夜の光でうっすらと見えるぷかぷか丸シルエットと、遠くに見える本土の明かり。

 

 そして、本当に目を懲らさなければ分からないくらいの島影が、艦首の先の方に見える。

 

 あれが、ル級が待ち合わせに選んだ屋代島。

 

 手紙に書かれていたことが本当であれば、ル級も近くにいるはずなのだが……

 

「まぁ、見える訳はないよなぁ……」

 

 島より小さな深海棲艦を電探も無しに目視だけで、この闇の中から探し出せというのは無茶な話しであり、ただの人である俺には到底無理だ。

 

 夕張から貰った工具セットの中にコンパクトな双眼鏡が入っていたけれど、覗き込んで見ても真っ暗でサッパリ分からなかった。

 

「時間は……そろそろだね」

 

 元帥は左腕の腕時計に目をやり、時間を調べてそう言った。針と数字はうっすらと光っていて、どうやら夜光処理をしているようである。

 

 そして右手には、小さな黒い箱状の物――無線機を持っていた。

 

「相手が交渉を望むのなら、そろそろ何か反応があるはずなんだけど……」

 

 そう言った元帥は、右手を顔に近づけて無線機を使おうとする。

 

 

 

 ガガッ……

 

 

 

「おっと、僕が言おうとする前に通信を寄越すなんて……高雄らしいよね」

 

 俺に苦笑を向けた元帥は、無線機のスイッチを押して通信を開始した。

 

『高雄です。通信を求めます』

 

「こちら元帥。通信は良好。何かあったのかな?」

 

『屋代島付近を偵察していた艦が目標を発見しました』

 

 高雄の淡々とした言葉が無線機を通して、俺の耳にも聞こえてくる。

 

 そして目標発見という言葉に、俺の胸が跳ね上がるように高鳴りをあげた。

 

「目標以外に反応はあるかな?」

 

『いえ、電探に反応はありません。ただ……』

 

「ただ……なんだい?」

 

『先に目標が私達のことを察知し、コンタクトを取ってきましたので……』

 

 申し訳なさそうに言った高雄の言葉に、元帥は一瞬言葉を詰まらせたものの、

 

「それじゃあ向こうが同意すれば、そのままここまで連れて来てくれ」

 

『了解しました。最新の注意を払ってエスコートして差し上げますわ』

 

 ――と、最後にちょっとしたお茶目な部分を見せた高雄が通信を切る。

 

 元帥は鼻で少しばかり笑い、にやけた顔を浮かべながら通信機のスイッチを切った。

 

「だってさ……先生」

 

「ふぅ……了解です。ここからは、俺の出番……ですね」

 

 俺の言葉に元帥はコクリと頷き、真面目な表情に戻す。

 

 後はこれが罠でないことを祈るのみ。

 

 ル級が餌となって俺達を誘いだそうとするのなら、この作戦は完全に終わる。

 

 そして、まず間違いなく、俺が乗船しているぷかぷか丸は真っ先に攻撃されるだろう。

 

 そうならないように、俺は心の中で強く念じ、

 

 ぶっつけ本番でいくしかないと、大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 ぷかぷか丸の周囲には、辺りを警戒する艦娘達が真剣な表情で待機している。

 

 そして、甲板の上に俺のほかに、複数の人影があった。

 

 その中の一人は真っ白な軍服に身を包んだ元帥で、月明かりに照らされ、あたかも光っているかのように見える。

 

 元帥の近く、斜め後ろで立っているのが俺である。だが元帥とは対照的に、服装は黒で統一されて、周りからは非常に見難いかもしれないだろう。

 

 元帥を挟んで反対側には、長髪で金剛と似た感じの巫女装束に身を包み、大きな艤装が特徴的な艦娘――扶桑の姿があった。

 

 そして、俺達に向かい合って立っている姿こそ――

 

 俺が海底で出会い、今回の作戦の切っ掛けとなった手紙を寄越した、深海棲艦ル級が立っている。

 

 高雄にエスコートされ、単身ぷかぷか丸に乗り込んできたル級。

 

 何を考えているのか全く分からない、無表情といえるその顔に、俺の心が落ち着くことを許さない。

 

 スラッとした身体は、パリで活躍する一流モデルに匹敵するように見え、その身体に似つかわしくない艤装が身体中に取り付けられており、暗闇であってもル級が深海棲艦であることを改めて認知させられる。

 

 そして、ル級の後ろに立ち、砲身を背中に向けたまま微動だにしない高雄が険しい表情で睨みつけていた。

 

 一歩間違えば……いや、指を一つでも間違って動かそうものなら、すぐにでも撃つと言わんばかりに、神経を尖らしているように見える。

 

「………………」

 

 そんな状況を良く思わないのは当たり前なのだが、こうなることをル級は予想していたのだろう。両手をあげて戦う意思は無いことをアピールし、艤装をゴトン……と、ぶっきらぼうに甲板の上へと落とした。

 

「コレナラ納得デキルカ……?」

 

「……少しでも変な動きをすれば、躊躇無く撃ちますわよ?」

 

 真剣な高雄の表情に、低く気迫のある声。

 

 これでメガネをかけていたら、元傭兵のどこぞのメイドさんじゃないかと思ってしまったのだが、今はそんなことを考えている暇は無い。

 

「ソノ気ハ無イ……ト言イタイトコロダガ、何セ相手ガ相手ナノデナ」

 

「……?」

 

 高雄は一瞬何を言っているのか分からないような表情を浮かべたが、すぐに元に戻してル級を睨みつける。

 

 だが、ル級は気にしない風に一歩、ニ歩と前に進み、俺達の方へと歩み寄ってきた。

 

「……っ、止まりなさいっ!」

 

「いや……良いよ、高雄」

 

 元帥は高雄に向かって手をあげて制止させた。しかし高雄は表情を崩さずに、砲身をル級に向けたまま小さく頷いた。

 

「ヤレヤレ……融通ガ利カナイト言ウノモ考エモノダナ……」

 

「彼女はいつも真面目でね。それが良いことでもあって、悪いことでもあるんだけど……許してやってくれないかな?」

 

「別ニ怒ッテイル訳デハ無イ。ムシロ、コウシテ来テクレル可能性ガ低イト思ッテイタダケニ、正直ニ驚イテイル……」

 

「それは奇遇だね。僕も同じ意見だけれど……その礼は、ここにいる先生に言ってくれるかな?」

 

 元帥はそう言って、俺に手を向けた。

 

 ル級はその仕種で俺の顔を見て、ニヤリ……と不適な笑みを浮かべる。

 

 その瞬間、ゾクリと背筋に冷たいモノが走り、

 

 俺は顔を強張らせた。

 

 この笑みは……海底で何度も向けられた顔。

 

 そして、あの目は……完全に……

 

 

 

 やばいモノだと、心が警報を上げた。

 

 

 

 ル級の口がゆっくりと開く。

 

 それがまるで、スローモーションのように見え、

 

 あたかも、この瞬間に命の危機が迫っているような感覚だと認識させる。

 

 手紙は嘘だったのか。

 

 完全に罠にハマってしまったのか。

 

 そんな思いが俺の頭に過ぎる中、ル級がゆっくりと口を開いた。

 

「久シブリダナ。元気ニシテイタカ、従僕」

 

「「「………………」」」

 

 空気が凍りついた。

 

 それはもう、見事なまでに。

 

 言うなれば、体感温度でマイナス3度ほど。

 

 暫く沈黙が続き、

 

 そして向けられる、白い目の数々。

 

 もちろん、周りの艦娘達や元帥の目。

 

 完璧に俺の顔面直撃コースでホールインワン。

 

 とりあえず、言おう。

 

 

 

 どうしてこうなったーーーっ!?

 

 

 

 いや、とにかく今は言い返さなければヤバいだろうと、俺は急いで口を開く。

 

「いつどこで俺が従僕になったんだよっ!?」

 

 うむ、見事なツッコミだ。

 

 ――というか、完全に本心の叫びなんだけど。

 

「ソレモソウダナ。ムシロ私ガ傷モノニサレタノダカラ、立場ハ逆。オ待タセシ過ギタナ、ゴ主人様」

 

「立場が入れ代わっても、敬っている気が全くしないんだけどっ!? それに傷物にされたって言ったけど、意味合いが全く違うからっ! お前が飛び掛かってきたから、寝転がってハイキックかましただけだからねっ!」

 

「ソウトモ言ウナ。ダガ、何モカモガ懐カシク、昨日ノコトニ思エテクル……」

 

「ここにきて悟るのかよっ! 何かの境地にたどり着いたのかっ!?」

 

「主ニSトMノドチラカニ……ダナ」

 

「どっちにしても変態だからねっ! つーか、開口一番に漫才開始って洒落になんないんだけどさぁっ!」

 

「フフフ……嫌イデハ無イ癖ニ……」

 

 言って、顔を少し背けながら、頬を赤く染めるル級。

 

 だからなんで、そんな誤解するような仕種までするのかなっ!?

 

「お前の言い方は、周りに誤解を与えまくるんだよっ! それに、しみじみ語っていたけど、皆に対する俺の印象が急降下だかんねっ!」

 

「……マ、マサカ……ソンナコトガ」

 

 いや、なんでここにきて驚いた表情をするんだ……?

 

 目茶苦茶たじろいで、額に汗まで浮かべているんだけど……

 

「先生ニ、信用トイウモノガアッタナンテ……」

 

「どこまで俺のことを馬鹿にするんだーーーっ!?」

 

 憤怒する俺を余所に、今度はケラケラと笑うル級。

 

 ――そして、そんな俺とル級を見てジト目を向ける元帥と高雄、その他艦娘達。

 

 いや、どちらかと言えば、完全に呆れられているよね……これは。

 

 その中で、扶桑だけは「もしかして先生って、私や山城より……不幸なのかしら……?」と、捨てられた子犬を可哀想に見下ろすような目を浮かべながら呟いていた。

 

 

 

 ――正解ですっ!

 

 

 

 

 

 本日、知り得たこと。

 

 俺のステータスで、運の数値は3くらいじゃないかな。

 

 ………………

 

 

 

 誰か、まるゆを5艦くらい近代化改装でお願いしますっ!

 

 

 

 いや、やらないし、できないし、全く足りないけどね……

 

 

 

 しくしくしく…………

 

 




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次回予告

 やっぱりル級はル級だった。
悲しくも、罠で無かった事に一安心する主人公。
そして、ル級との話し合いが開始する。

 艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その9「アクタン・ゼロ」

 乞うご期待!

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