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またもや二人の漫才に巻き込まれてしまった主人公。
昼食もろくに食えないまま、出発の時刻がやってくる。
そこで、またもや驚愕の事実を知ることに……
空が真っ赤に染まり、ウミネコが鳴きながら空を翔ける。
朝に高雄から聞いた時刻の10分前に、待ち合わせ場所である第一埠頭に立っていた。
そこには、遠足で乗船したぷかぷか丸が相変わらずの存在感を出しており、すでに準備を済ませて出発するのを待っている艦娘や作業員達の姿も見える。
皆は一様に真剣な表情で、すでに気迫は充分といった感じだった。もちろん俺も、寮に戻って着替えをし、夕張から受けとった装備で身を包んでいる。
心残りがあるとすれば、結局食堂で食事を取ることができず、泣く泣く売店で購入したパンで昼食を終えてしまったことである。しかも、朝と同じあんパンしか残っていなかったので、まさかの朝と全く同じモノだっただけに、残念で仕方が無い。
事情を説明したにも関わらず、千歳は怒ったまま許してくれなかったし、周りからも白い目で見られたままで、本当に踏んだり蹴ったりだ。
何だか朝からずっと調子が悪いので、不安になって仕方がない。まさかとは思うが、映画とかでよくあるフラグじゃないよな……と、気になってしまうのだ。
ここまでくると、むしろフラグを立てた方が良いのかもしれないと、変な思考まで降ってくる始末。この際「俺、作戦が終わったら愛宕に告白するんだ……」なんてことを、言っちゃっても良いのではないだろうか。
その場合、本当に帰ってこられない可能性があるから、やんないけどさ。
「ふむ。どうやら皆、揃っているみたいだね」
気づけば俺のすぐ後ろに、元帥と高雄が立っていた。俺は慌てて振り返り、一歩下がって敬礼をしてから元帥の目を見つめる。
「うん。休んでいいよ」
元帥は答礼の後そう言って、皆を見渡した。数秒の沈黙の後、敬礼を解いた艦娘や作業員達が緊張を解くように肩幅に足を広げ、小さく息を吐いていた。
もちろん俺もその中の一人ではあるのだが、よくよく考えてみると、出撃する前の元帥を見たのは初めてであり、いつもと違う表情に少しばかり驚いている。
――まぁ、普通はこうなんだけどね。
まったく知らない人がいつもの元帥を見た後に階級を聞いたら、絶対に不審そうな顔で「嘘でしょ?」と言っちゃうからね。
そんな場面も見たことは無いけれど、想像に難くない。俗に言う日頃の行いがなんたらだが、この場面でそんなことを考えている俺は、まだまだ集中力が足りないんだなぁと、周りに気付かれないようにこっそりとため息を吐いた。
「元帥、第一艦隊並びに第二艦隊の全員を確認しました。ぷかぷか丸の乗船員もすでに準備が整っています」
「ありがとう、高雄」
元帥は表情を変えずに両目を一度だけ閉じて返事をし、右手を前に突き出して声をあげる。
「それではこれから、呉鎮守府偵察作戦を開始する! また、状況によってはそのまま奪回作戦になる可能性があることを、しっかりと頭に叩き込んでおくようにっ!」
「「「はいっ!」」」
一斉に聞こえた周りからの声。
しかし、その中で俺だけが、ぽかんと口を開けたまま固まってしまっていた。
そして俺を残して作業員はぷかぷか丸に向かい、艦娘達は埠頭の先から海へと着水する。
「……って、先生。なんでそんな呆けた顔で立ち尽くしちゃっているの?」
いつもの雰囲気に戻った元帥が、不思議そうに俺を見つめながら聞いてきた。
「あー、えっと……その、ですね……」
「何だかすっごい歯切れが悪いんだけど、何か問題でもあったのかな?」
「問題というか、聞いていないというか……」
「うん?」
「偵察はまだ分かるんですけど、いつの間に奪回作戦になっちゃっていたんですか?」
――そう、俺は元帥に問いかける。
「……あれ?」
「いやいやいや……あれ? って言われてもですね……」
「高雄から聞いてないの?」
そう言った元帥は、顎の先端を人差し指と親指で摘みながら顔を傾げる。
「朝に聞いたのは、鎮守府内全域に第二種戦闘配置が発令されたことと、今から呉に出発するのに俺が同行し、ル級と会って情報を得ることです。だから、そのまま攻め入ったりするとは一言も……」
「んー、ちょっと話しが足りていない気がするんだけど、奪還作戦については聞いてなかったの?」
「奪還と言われても……ル級からの情報によっては呉を奪還できるかもしれないとは言っていましたけど、そのまま攻め入るなんてことは……」
「ちゃんと聞いているじゃない。二つの艦隊を動かすのって結構資材を使っちゃうから、コストを抑えるためにそのまま進行ってのはありえる話でしょ?」
「そ、それを言われたら、確かにそうかもって思えますけど……」
ル級と会うならともかく、深海棲艦がウヨウヨ居るであろう呉鎮守府に向かうとは考えていなかっただけに、俺の緊張が瞬時に高まっていく。しかし、ここで「やっぱり無かったことにしてください」と言うのはあまりにも情けないし、罠であるかもしれないという可能性も捨てきれない中での同行なのだから、腹をくくっていたのも確かなのだ。
「もし、どうしてもダメって言うなら、同行しなくても良いけど……どうするかな?」
決して茶化すような言い方ではなく、真剣に俺の目を見て元帥は問う。
俺は大きく息を吐き、一旦目を閉じて意識を集中させてからしっかりと元帥を見つめ、ハッキリと口を開けて意思を伝える。
「俺を……同行させてください」
俺は大きく頭を元帥に下げて、祈るように言う。
「もちろんだよ、先生」
俺の視線は地面に向き、元帥の顔は見えないけれど、
ニッコリと――満面の笑みを浮かべているような気が、口調から感じ取れた。
ぷかぷか丸に乗船した俺は、元帥に連れられて艦長室に居た。
「目的地までは暫くかかるだろうから、ゆっくりしていってよ」
「あ、ありがとうございます……」
元帥に進められるまま、近くにあるソファに腰掛ける俺。さすがは艦長室にある家具と言うべきか、座り心地がとても良く、包み込まれる感触に思わず欠伸が出そうになるのを堪える。
しかし、元帥も同じように俺の向かいのソファに座り、周りを全く気にする素振りもなく、背筋を伸ばしながら大きく欠伸をしていた。
ま、まぁ……元帥だから別に良いんだけどね……
周りには俺以外誰も居ないし、考え方を変えれば俺を信用してくれているのだろう。
気を許せる友人……と言ってくれているし、その点については非常にありがたく思っている。
後は、変な行動を起こさなければ、ほぼ完璧なんだけれど。
「さて……と。それじゃあ、これからのことを話しておこうか」
元帥が真面目な顔つきになったので、俺は姿勢を正して頷き、耳を傾けた。
「まず、舞鶴鎮守府から出発する艦隊は二つ。前衛は高雄が旗艦で僕の主力級が揃っている。後衛は愛宕が旗艦を務めているけど、こちらも水雷戦隊として一級だと太鼓判を押せちゃうね。そしてその中心に、僕たちが乗っているぷかぷか丸を配置し、周りを囲んでいる状態で呉近くの屋代島に向かうんだけど……」
「れ、連合艦隊ですね……」
「うん、先生の言う通りだね」
頷きながらそう言った元帥の言葉を噛み締め、俺は額に汗をかくのを感じた。
乗船する前に言われたけれど、状況によってはこのまま呉に殴り込みをかける。それを実現させるため、元帥は連合艦隊の形を取ったのだろう。
つまりそれは、ル級の手紙が罠である可能性が低くはないと思っている――そう言われているようだった。
「だ、だけど、まずはル級に会って……話をするんですよね?」
「そりゃあもちろんだよ。せっかく先生が決心してくれたんだし、敵側に味方がいるなら心強い。上手くいけば、被害を押さえることができるかもしれないし、そうじゃなかったとしても、内部の情報を得られるってのはかなり大きいんだよね」
「確かに……」と、俺は呟きながら頷いた。いくら主力を用いた連合艦隊であっても、攻め入る場所の情報が全くない状態では最大限の力を発揮し難い。
そのためにも、ル級との話し合いを成功させたいのだけれど……
「あの手紙が……罠ではないと思うんですが……」
「正直に言えば、僕は五分五分だと思っている」
願うように呟いた俺の言葉に、元帥はハッキリとそう言った。
先ほども思ったように、話し合いが無かったとしてもそのまま呉に攻め入るつもりであると、元帥は俺に公言したのだ。
そうなると、艦隊の中心にいるぷかぷか丸は戦火に巻き込まれることになる。ましてや、深海棲艦に通常の兵器が効かない以上、指揮をすることしかできないだけでなく、ぷかぷか丸は水の上に浮かぶただの置物と化してしまう。
しかし、逆に言えば現状を知りながら指揮ができると言い換えられる。ただし、それ相応の危険は付き纏うのだけれど。
まさに一長一短――だが、舞鶴の最高司令官が取るべき手段ではない。これではまるで、一か八かの賭けに出ているとしか思えない。
自分の艦隊を信じきっているのか、それとも俺とル級の交渉が上手くいくと思っているのか。
しかし、後者はすでに五分五分であると言われている。
つまり、元帥はこうでもしなければならないと、追い詰められているのではないだろうか。
考えてみれば、深海提督は舞鶴鎮守府に所属していた元中将なのだ。左遷されたとは言え、責任がどこにあるのかと問い詰められてしまえば、分が悪くなる可能性は高いのかもしれない。
ましてや、国内の鎮守府の一つである呉が落とされてしまったのである。たとえ元帥に責任が無かったとしても、誰かがその後始末をしなければならないとなれば……
様々な思考が頭の中に渦巻き、俺を悩ませる。
そんな俺に気づいたのか、元帥は小さく息を吐いてからうっすらと微笑み、口を開いた。
「だけど――僕は今回の作戦に、先生の協力が必須だと思っているんだよ」
「……え?」
いきなり聞こえた信じられない言葉に、俺はつい聞き返してしまった。
「これは推測の域……いや、直感でしかないんだけれど、先生が一緒にきてくれなかったら作戦は失敗するとさえ思っている」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!」
俺は驚きながら叫び、ソファから立ち上がる。
「か、仮にも元帥が……そんなことを言わないでくださいっ! まだ出発して間もないのに、他の誰かがそのことを聞いてしまったら……っ!」
「あー、うん。この部屋は完全防音だからその心配については大丈夫なんだけれど、確かに失言といえば失言だったね」
言って、元帥は視線を落としてから大きくため息を吐いた。
「でもね……やっぱり、何度考えてもダメなんだよ。雪風ちゃん言った通り、呉が深海棲艦に落とされて占拠されていたら……まず間違いなく奪還は難しい」
「そ、それなら連合艦隊を二つ用意するとか、他の鎮守府に助けを求めるとか、色々方法はあるじゃないですかっ! それに危険だと分かっているなら、わざわざ元帥が現地に向かう必要は……」
「失敗すると分かっている作戦に彼女達だけを向かわせて、僕はのんびりと鎮守府であぐらをかいてろって言うのかい?」
「そ、それは……」
それは絶対に違う。
それができるなら、元帥は舞鶴鎮守府に幼稚園を作るなんて考えなかったはず。
それができるのは、彼女達艦娘を兵器としてしか見られない者だけなのだ。
「そ、それでも、危険な場所に行かなくても……」
「でもそれじゃあ、先生とル級を会わせることは難しいよね」
元帥はそう言って、穏やかな笑みを俺に向ける。
「勘違いしないで欲しいんだけど、僕は今回の作戦が絶対に失敗するとは言ってないよ?」
「それは……そうですけど……」
元帥は、俺が同行しなければ作戦は失敗すると言った。
逆に言えば、俺が一緒に向かえば成功するかもしれないということ。
だけどその前に、
ル級の手紙が罠である可能性が五分五分と言い、
仮に本物であったとしても、話し合いが上手くいくかは分からないし、情報を得られるかどうかも分からない。
それに、何より俺を驚かせたのは、
元帥が作戦内容を埠頭にいるみんなに話し、俺がぷかぷか丸に乗船するかどうかを迷ってしまったとき、
どうして――あんなことを言ったんですか?
同行しなくても良いなんて――なんでそんなことが言えたんですか?
もし俺があのとき――断っていたらどうするつもりだったんですか?
「だからさ……本当に、ありがとう」
元帥は薄く笑みを浮かべながら言い、ゆっくりと頭を下げる。
立場なんて関係なく、友人として接してほしいと言った、あの言葉の通りに。
俺と元帥の二人だけの空間だからこそ、でき得た行動に――
俺はしっかりと元帥を見つめ、口を開く。
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」
頭を下げて礼を返し、続けて俺は元帥に言う。
「そして――お願いがあります」
「……何かな?」
「呉に行って、無事……舞鶴に帰ってこられたら……」
「うん」
「一発、殴らせてもらいますね」
「………………良いよ」
一瞬驚いた表情を浮かべた元帥だったけれど、すぐに笑みを浮かべて頷いた。
これで完全にフラグを立ててしまったけれど、後悔する気は毛頭ない。
元帥は俺を友として言ってくれた。
だから俺も、元帥を友として接するためにそう言ったのだ。
気遣かってくれた嬉しさと、だからこそ許せない思いが交錯し、
必ず一緒に戻ってくると――心に誓い、
俺達は笑みを浮かべて、手を握り合った。
※活動報告にて今後の予定と、第二回リクエストの募集を開始しました!
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次回予告
舞鶴を発って数時間後。
闇が支配する海の上で、ついにル級と対面する。
主人公の心が危険を察知し、警報をあげた時だった。
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その8「まるゆをください。できれば大盛りで」
乞うご期待!
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