https://ryurontei.booth.pm/items/69110
書籍サンプルの方も更新してたりします。
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夕張の魔の手から何とか逃げる事が出来た主人公。
しかし、シリアスが3話続けばギャグも3話……なのだろうか?
いつもの……そして更に進化……ではなく悪化した、あのコンビと出会ってしまう。
整備室から逃げだした俺は、腕時計を見る。
着替えや会話が長引いたのか、時間はちょうどお昼時。お腹の空き具合もそこそこだったので、鳳翔さんの食堂へと足を向けた。
朝ごはんは質素だったから、昼くらいはちゃんとした物を食べたい。それに出発は夕方なのだから、夕食は艦内で取ることになるだろうし、朝と同じように質素である可能性も考えられる。
贅沢は言えないけれど、どうせなら美味しい料理は食べたいのだ。夕食が無理なら、せめて昼食だけでもと思うのは当たり前である。
とは言え、鳳翔さんの食堂に行けば子供達に出会う可能性もある。明らかに普段と違う服装のまま向かうと、何かしら察知されるかもしれないと思った俺は、一旦寮の自室に戻って普段着に着替えてから、食堂に向かうことにした。
「いらっしゃいませー」
食堂の引き戸を開けて中に入ると、いつも通りの声があがる。以前にヲ級が仕組んだコントに巻き込まれたこともあったけれど、食堂内には見当たらないし、どうやら今日は問題なさそうである。
「こんにちわ、先生。今日は何になさいますか?」
席に座った俺の前に、千歳がお茶の入ったコップを置いてくれた。
「今日のサービスランチはどんなのかな?」
「Aは唐揚げとアジフライの揚げ物定食で、Bは天津炒飯とミニラーメンのセットですね」
むむ……これは非常に迷うな……
唐揚げはいつ食べても完璧で、周りはサクッと中はジューシー。アジフライもフワフワな身が口の中で解れていくのを想像すると、よだれが出る。
しかし、天津炒飯は今まで食べたことが無いだけに、どんな味がするのか気になって仕方がない。名前から想像するに、炒飯の上にかに玉が乗っかっているのだろうけれど、ミニラーメンのセットとなるとボリュームもバッチリだろうから気になりまくる。
「ちなみに、千歳さんのオススメはどっちかな?」
「私は……Bですね。今回初めてのメニューですけど、味見した時点でこれは定番にした方が良いって思っちゃいましたから」
「ほー……そこまで千歳さんが言うなら、是非Bの方をお願いしたいかな」
「かしこまりました。それじゃあ、少しだけお待ちくださいね」
ニッコリと微笑んだ千歳はペコリと頭を下げて、厨房へと下がって行った。
「うむむ……これは今から楽しみだぞ……」
一人で呟きながら、なんとなく食堂を見回してみる。客の数はまばらで、半分弱の席が空いていた。
一旦着替えに戻ったため、昼食時のピークからズレたからだろう。混雑しているときよりも食事はしやすいし、この方が気楽である。
――そう、思った矢先のことだった。
ガラガラガラ……
「こんにちわデース!」
「あら、金剛ちゃん……それにヲ級ちゃんも、いらっしゃーい。今日は少し遅かったけど、何かあったの?」
「今日ハ幼稚園ガ休ミダッタカラ、朝カラコンビニニ出カケテタンダヨネ。ソシタラ、新作デザートガ目白押シデマイッチャッタヨ……」
そう言って、手にぶら下げたコンビニ袋を千歳に見せるヲ級。明らかにいつもと違う大きな袋には、たくさんのデザートらしき物体が入っているようだ。
「ヲ級のデザートに対する観察眼は完璧ですからネー。今日の3時のおやつに友達と一緒に食べる予定デース」
満面の笑みを浮かべた金剛も、ヲ級と同じようにはしゃぎながら千歳に言い、どこの席に座ろうかと食堂内を見渡そうとした。
「むっ、この気配は……」
「僕ノオ兄チャンレーダーガ探知ッ!」
二人は口々にそう言って俺の姿を発見し、ダッシュでこちらにやってきた。
つーか、オ兄チャンレーダーってなんだよ……
それに金剛も気配を察知していたけど、俺の身体から変な電波でも飛んでいるのか……?
「ヘーイ、先生! 一緒にご飯良いデスカー?」
「あ、あぁ。別に構わないぞ」
「ヘーイ、彼女ー。一緒ニ食事デモドウダーイ?」
「俺の性別は男だし、そもそもなんでナンパっぽいんだよ……」
「これが最近のネタデース!」
「ヲ級ト金剛コンビ! 名付ケテ……ナンダッケ?」
「オーゥ、まだ考えてなかったデース」
「ソウ言エバ、ソウダッタ!」
「「HAHAHA!」」
「………………」
また巻き込まれちゃっているぞ……俺……
周りの席に座っている客も、こっちを見ながら笑っているし……
なんでこう、俺を絡ませてくるのかなぁ……
「とりあえず漫才はそれくらいにして、周りの邪魔になるから席に座りなさい」
「「ハーイ」」
ヲ級と金剛は息もバッチリに返事をして席に座った。そして千歳が持ってきたお茶を受け取って、ゴクリと飲む。
「二人とも、相変わらず面白かったよ」
「ありがとデース!」
「次モ期待シテイテヨネ」
手をあげて千歳に答えたヲ級と金剛は、俺と同じBのランチを注文し、俺の方へと顔を向けた。
「ところデ、どうして先生はこんな時間に昼食なんデスカー?」
「ん……?」
金剛の鋭い指摘に思わず顔色を変えそうになってしまいそうになるが、夕方から作戦に参加することをしられては心配するかもしれないと、俺は冷静さを取り繕いながら口を開く。
「幼稚園で使おうと思っていた荷物が届いたって連絡を受けたから、ちょっと取りに出かけていたんだよ。そこでちょっとゴタゴタがあって、昼食の時間が遅れ気味になってなー」
「オーゥ……それはご愁傷様デース。私達のことを思っての作業デスカラ、とっても嬉しいデース」
「い、いや……先生として当たり前だしな……」
真面目な顔で金剛から言われてしまっては、心配させないためとはいえ、嘘をついてしまったという罪悪感が胸を締めつけられる思いになる。
しかし、心配させないようにというのが第一目標であるため、俺は揺らぎそうになってしまった心を保ちながら、苦笑を浮かべて金剛と話しを続けた。
「それにしても、急に幼稚園が休園になるとは驚きデース」
「そうだな。なにやら事件が起きたとかって聞いたけど、俺は詳しく知らないんだよ」
「お姉さん達に聞きましたケド、ここから少し離れたところで、大変なことが起こったみたいデース」
「そ、そうなのか? それはちょっと怖いな……」
返事をしながら、俺は心の中で冷や汗をかく。
やはり、それとなくだが情報は子供達にも伝わっているようだ。
高雄から子供達へ休園の連絡は伝わっていると聞いた。しかし、事細やかに原因を説明して休みになった――なんてことは言わなくても良いことだし、それくらいのことは高雄だって分かっているだろう。
だが実際に、金剛は正確では無いものの、事件が起こったことを知っている。舞鶴鎮守府内全域が第二種戦闘配置になっていることは、周りの艦娘の様子から分かるかもしれないけれど、それ以外の情報は誰からか聞かなければ知り得ないはずなのだ。
まぁ、盗み聞きをして知ったとなれば、それは仕方がないことなのだろうけれど、お姉さん達から聞いたと金剛が言った通り、その通りなのだろう。
もちろん心配させないようにと、金剛に話した艦娘も、伏せるところは伏せているようだが。
これが――青葉だったら、こうはいかないかもしれないんだよなぁ。
そう考えると、本当に爆弾レベルで危なくない?
今すぐ対処するべきだと判断する。もちろん、個人的な意味合いも含めてだけど。
「オ兄チャン」
「……ん、どうしたヲ級?」
頭の中で考えを張り巡らしていると、急にヲ級が声をかけてきた。その表情はいつもと若干違うように見え、何だか不審がっているようだ。
「透視力ビーーームッ!」
「……それ、遠足のときにやったやつだよな?」
「アレハ主ニ服ダケ透視スルヤツ! 今ノハ頭ノ中ヲ見ルタメナンダヨッ!」
「ワォッ! ヲ級って、そんな特技を持っていたのデスカッ!?」
「いやいや、ただのヲ級のブラックジョークだからね?」
「ダケド、オ兄チャンガ何カヲ隠シテイルノハ確カナハズッ!」
そう言ったヲ級は、机に身を乗り出して俺の顔に頭突きをするが如く近づいてきた。
「うおっ! あ、危ないぞヲ級!」
「黙ッテ僕ノ目ヲ見ルッ!」
「いや、だからなんでそんなことをしなければいけないんだ……?」
「ソレガ嫌ナラ、少シダケ目ヲ閉ジルッ!」
「な、なんなんだよいったい……」
そう呟いたものの、ヲ級の言葉に焦った俺はどうするべきかと考える。
嘘を言っていることに気づいた様子ではないだろうが、怪しまれているのは間違いない。ここは一つ、ヲ級の言うことを聞いて上手く逃げるべきだろうか?
「サァ、ドッチニスルノッ!?」
「む、むぅ……それじゃあ……」
とは言え、今の心理状態で目を合わせるのはちょっとヤバイ気がするので、俺は目を閉じる方を選択する。
「これで……良いのか……?」
「………………」
視界が闇に閉ざされ、物音しか聞こえない。しかし、ヲ級は何も言わずに、俺の様子を伺っているようだ。
少し間が空いていたとは言え、ヲ級は俺と一番付き合いが長い。もしかすると、俺が知らない何かを察知することができるかもしれないと思うと、気が気でなくなってしまいそうだ。
――だが、そんな思いとは裏腹に、コソコソと話し合うヲ級と金剛の声が聞こえてきた。
「コノ状況……チャンスダヨネ……?」
「ハッ! マサカ、ヲ級……っ!?」
「シッ! 声ガ大キイヨッ!」
「し、しかし、不意打ちでソレハ……ちょっと違う気がシマース!」
「ダケド、オ兄チャンノ唇ヲ奪ウチャンスハ……」
………………
ちょっと待て。
今、聞き逃しちゃいけないことが聞こえたんだけど。
つーことで、ゆっくり目を開けてみる。
そこには、頬を赤く染めた金剛を説得しようとするヲ級の姿が見え、
俺はジト目を二人に向けながら、口を開いた。
「二人とも、お仕置き確定でファイナルアンサー?」
「「ギクッ!?」」
俺の声に気づいた二人は、ゆっくりと顔をこちら向け、引き攣った笑顔を浮かべている。
「嘘をつくのは時と場合によりけりだけど、正直今のは許せないと思うんだが……」
「こ、これはその……っ、ヲ級がいきなり言い出したのデース!」
「まぁそうだな。確かにヲ級が金剛を説得していたように見えたし聞こえていた」
「そ、そうデース! だから私は……」
「なら、どうして俺に目を開けろって言わなかったんだ?」
「うぐっ! そ、それハ……」
図星を突かれて視線を逸らした金剛は、気まずさで表情が崩れていく。
そして、ことの発端であるヲ級は……
「オ、オ願イデスカラ、オ仕置キダケハ勘弁シテクダサイ……」
――と、机の上に登って、ガチ土下座をしていた。
ちなみに誤解されても何なので説明しておくと、子供達が悪さをしたときに決まりとなっているお仕置きは、一日食事抜きの刑である。
これだけ聞けば、土下座をするほど酷いモノだと感じないかもしれないが、ヲ級にとってはかなり大事なのである。海底で暮らしている間、生か焼き魚ばかりの食事しか取ることができなかったが、幼稚園に編入が決まってからは鳳翔さんの料理を食べることができ、その余りの美味さにスネを何度も蹴られてしまったのが懐かしい。
つまり、ヲ級にとって鳳翔さんの食事を取れないということは、どんな罰よりも苦しく、耐えられないようなのだ。
――そう。これは、ヲ級に対しても最強の矛。
これがあれば、暴走しかけたヲ級を止めることは容易いのである――のだが、
ひそひそ……ひそひそ……
あれ……おかしいな……
なんだか顔に視線が突き刺さっていたり、酷いことを言われている気がするんだけれど……
「見てよあれ……教え子に土下座させて喜んでいるって、最悪じゃない……?」
「教え子って言うか、確か兄弟だったよね。もしかして、禁断の恋愛関係のもつれとか……っ!?」
「えええっ、それって本当なのっ!? それって大スクープじゃないっ!」
「青葉とファンクラブ会員が黙っていないわよ! これは一波乱起きそうねっ!」
――と、ひそひそ話どころか、確実に俺の耳に入るレベルの声が聞こえてきた。
………………
…………
……
やっっっべえええぇぇぇぇぇっっっっっっっっっ!
これマジで大惨事コースじゃんっ! 確実に白い目で見られているよっ!
「こ、こうなったラ、私もヲ級と同じように土下座をしますカラ……許してクダサーイ……」
「ちょっ、ちょっと待った金剛っ! しなくていいからっ! 土下座なんてやらないでいいからっ!」
俺は机の上に登ろうとした金剛を必死で止めようと叫び声をあげる。
しかし、その言葉が事態を更に悪化させることになってしまうのを、焦ってしまっていた俺は考える余裕もなく……
「ま、まさかの三角関係がっ!?」
「どちらにしても、小さい子に土下座を強要させるなんて……」
いやいやいやっ、強要してないからっ! ちゃんと止めたからっ!
「お、お待たせしました……けど……」
そう言って、俺とヲ級と金剛の分のBセットを持ってきた千歳だったが、
「先生の分は必要ないみたいですね……」
「誤解しちゃ嫌ぁーーーっ!」
完全に俺を汚物扱いするような目で睨みつけた千歳は、ヲ級と金剛の席にだけ料理を置いて、俺の分は持ったまま厨房へと下がって行った。
もちろん、俺が千歳に睨まれている間に、ヲ級と金剛は行儀良く席に座り、
すでにモシャモシャと料理に食らいついていた。
「ワォッ! かに玉のフワフワ感と、甘酸っぱいタレが香ばしく仕上がった炒飯に合いマスネー!」
「ソレニ加エテ、少シコッテリナ天津炒飯ニ対シテ、サッパリナミニラーメンノ味付ケモ完璧ダネ」
「「ウンマァァァイッッッ!」」
――と、声を合わせて喜ぶ二人に、俺はガックリと膝を折って地面に崩れ落ちる。
周りから向けられる白い目と、中傷される言葉と、食事が取れなかった苦しみで、しばらく立ち直れそうになかったのだった。
――本当に、マジで、本気で、死なないよね?
※「艦娘幼稚園 ~遠足日和と亡霊の罠~」の通信販売を行っております!
https://ryurontei.booth.pm/items/69110
書籍サンプルの方も更新してたりします。
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次回予告
またもや二人の漫才に巻き込まれてしまった主人公。
昼食もろくに食えないまま、出発の時刻がやってくる。
そこで、またもや驚愕の事実を知ることに……
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その7「完全無欠の●●フラグ?」
乞うご期待!
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