https://ryurontei.booth.pm/items/69110
書籍サンプルの方も更新してたりします。
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夕張の視線に焦りながらも着替えを済ませた主人公。
そして更に渡された装備品に、戦場へ向かう現実を突きつけられる。
更には思いもしなかった発言と暴走に、慌てて主人公は……
「んー……そうですね。ちゃんと装着できていますねー」
渡されたインナー装備に着替えた俺は、外にいる夕張を呼んでチェックをしてもらっていた。
ちなみに普通はこの上に普段着を着るのだけれど、装着具合を見るために現在はインナーのみの姿である。上半身はピッチリと張り付くようなTシャツのような感じなのだが、下半身は……スパッツと言えば分かりやすい。
つまりは身体のラインがバッチリ見える下着姿の俺が、年下の女の子に見える夕張にジロジロと見られている状況で、何この罰ゲーム!? ――と思ってしまうくらい、恥ずかしいったらありゃしないのだ。
「そ、そんなにマジマジと見なくても分かると思うんだけど……」
「何を言っているんですかっ! このインナーは防刃対策として有効なんですから、キッチリ着られているか確認することによって、もしもの事態に備えているんですよっ!」
「ま、まぁ、それなら仕方ないんだろうけどさ……」
「……ジュルリ」
「だからその舌なめずりを止めて欲しいんだけどっ!」
「気のせいですよー」
「それさっきもやったからっ!」
「ちぇー……」
残念……と言わんばかりの表情を浮かべた夕張は立ち上がり、別のロッカーの方へと歩き出した。
「それじゃあ今度は、その上から着る装備品を渡しますねー」
言って、またもやロッカーから俺に複数の物を投げ渡す。
「えっと……まずは防弾チョッキに防刃ズボン。後は工具セットもあった方が良いですよねー」
俺に問われても正直分からないのだけれど、とりあえず返事をしながら飛んできた物をキャッチする。そのどれもが普段の服装と違って若干の重さがあり、全部を着るとなると結構重労働になりそうだった。
「とりあえずこんなところですけれど、防弾チョッキの上から何か羽織ってくださいねー。弾は防いでも、寒さを防ぐには適していませんからー」
「えっと、俺がいつも着ている普段やつで良いのかな?」
「それでも構いませんけど、どうせなら支給される防寒具にしちゃいます?」
「防弾チョッキの上からだと、ちょっとサイズ的に一つ上になっちゃいそうだから、その方がありがたいかな」
「了解ですっ」
俺のお願いに頷いた夕張は、反対側にあるロッカーを開けて中を物色し、黒色のダウンジャケットを渡してくれた。
そして渡された装備をすべて装着し終えた俺は、鏡の前に立って確認してみたのだが……
「完全に真っ黒だね……」
「夜間迷彩としてはバッチリですっ!」
「ま、まぁ、確かにお忍びで向かうことになるんだろうけどさ……」
ル級も俺達も、呉に気付かれないように向かうのだから当たり前のことかもしれない。しかし、いくら第二種戦闘配置状態の舞鶴鎮守府内とはいえ、この格好で動き回るというのはいささか変と言うかなんと言うか……
「出発するまでは、別の上着を着ていても問題ないかな……?」
「それは問題ないですよー」
なぜか別のロッカーを開けて物色している夕張は、俺の方を見ないままそう答えた。
ふむ……それなら大丈夫そうだな。
出発までは時間があるし、昼食は鳳翔さんの食堂で取りたい思いがあったからだ。朝食を簡素に済ませたこともあるけれど、やっぱり一日に一回はあの料理を食べないと力がでない。それは海底に沈んでしまった時に重々思ったことで、気力に大きく影響することが分かった。
ただ、この服装のまま食堂に向かってしまうと、鳳翔さん達には情報が行っているだろうから問題はないだろうけれど、子供達が不審がるだろう。
緊急事態が起こったために、幼稚園が休園していることはすでに伝わっていたとしても、今回俺が呉に向かうということは伝わっていないはずである。しかし、他の艦娘と同じ寮にいる以上、呉がどういう状況であるかは聞き及んでいるかもしれないだけに、俺が同行するのを子供達に感づかれては心配させてしまうことになりかねない。
黙って行くのは白状かもしれないけれど、死にに行く気は毛頭ないし、子供達の先生として心配させるのはもっての他である。
帰ってきてから武勇伝と言わんばかりに、はにかみながら自慢げに話してやることにしようと、昨日の夜から考えていたのだ。その時に怒られてしまうかもしれないが、それでも不安にさせるよりは全然マシである。
ましてや子供達の何人かは血気盛んな者もいる。出発前に知ってしまえば、ついてくると言い出しかねないからね。
――と、そんなことを考えながらダウンジャケットを脱いだ俺に、いつの間にか夕張が黒い物体を手に持って差し出していた。
「……?」
「もしもの時のために、これも持っていてください」
そう言って、手の平よりは少し大きめの四角い小型鞄のボタンを外した夕張は、中に入っていた物を取り出して俺に見せた。
それはまたもや同じく黒い物体で。
パッと見た限り、金属かプラスチックなのかは分からないけれど、
形状を見た瞬間、何であるのかはすぐに分かり、思わず血の気が引いてしまうモノ――だった。
「こ、これ……は……」
「9mm拳銃です。弾丸は9×19mmパラベラム弾で総弾数は9発。全長206mmの銃身長は112mm、重量は約800グラムで……」
「いやいやいやっ、そうじゃなくてっ!」
拳銃の詳細をペラペラ喋る夕張にツッコミを入れ、俺は何度も首を左右に振って拒否を示した。
「俺は呉に戦いに行く気じゃないんだ。あくまで助けを求めているル級に会いに行く。だから、その銃を受けとる気は……」
「いえ、それは困ります」
「え……っ……」
今までとは違った低い声で夕張がピシャリと言い放つ。威嚇ではなく、俺の言葉自体を受け取り拒否するような声に驚き、思わず口を止めてしまう。
「先生が向かうところは戦地であり、何が起こるかなんて想像がつかないんです。そんなところに武器一つ持たずに向かわせるなんて、できるはずがありません!」
真剣な眼差しで力が篭った言葉を投げかける夕張に押され、立ち尽くす俺。
「正直に言って、これが深海棲艦に通用するとは思いません。ですが、何も持たないよりは全然違います」
「だ、だけど……それでも俺は……」
なんとか言葉を振り絞り、反論しようとするが言葉は出ず。
人と艦娘と深海棲艦が一緒に暮らす世界を望みたいと、
それを今ここで夕張に伝えることは――難しいと判断してしまった。
「それに、これは秘書艦の高雄さんや元帥からも言われているんです。お願いですから、ちゃんと持っていてください」
そこまで言われては仕方がないと、ため息を吐いてから俺は夕張に頷く。
だけど、俺はどんなことがあってもこの銃は使うつもりがないと心に秘め、腰のベルトにホルスターを装着したのであった。
「ところで先生、一つ私から質問しても良いですか?」
工具セットの入ったウエストバッグと銃の入ったホルスターの位置を整えていた俺に、突然夕張が声をかけてきた。
「ん……と、何かな?」
「さっきの話の続きなんですけど、先生の身体ってそれなりに鍛えていますよね」
「……また写真の話かな?」
「いえいえ、そうじゃないんです。確かに写真は見たことがありますけど……握手をしてみてそれなりに相手のことが分かるのも本当なんですよ」
「そうなの?」
てっきり冗談だと思っていたけれど、俺に話しかける夕張の顔が、嘘をついているという感じには見えない。
「感覚的なモノなんですけど、握手のときに力強さとかを感じられるんですよ。それで、先生が身体を鍛えているってことが確信できたんですけど……」
「先生になる前は提督を目指していたんだけれど、勉強だけじゃなくて身体も鍛えた方が良いだろうと思って、走り込んだりしたんだけど……」
「んー……でも、それだけじゃない気がするんですよねー」
呟きながら考え込む仕種を見せた夕張は、俺の身体を隅々まで舐めるかのように、視線を纏わり付かせた。
「………………」
「あ、あの……夕張……さん?」
「んー、やっぱり良い身体しているんですよねー」
「お、お褒めに頂き、光栄ではあるんだけれど……」
冷や汗を垂らしながら答えた俺だけれど、夕張の口元からちょくちょく見えてしまう舌が気になって仕方がないんですけど。
「本当に……美味しそうなんですよねー」
「身の危険を感じまくるんですけどっ!?」
「何て言うか、男らしさもあるんだけれど……身体の線が細いってところがまた……」
「怖い怖い怖いっ!」
「よし。折角ですから、女性用の装備品も着てみることにしましょうかっ!」
「何が『よし』なのか、さっぱり分かんないよっ!?」
好き好んでもいないのに、誰が悲しくて女装なんかしなくちゃいけないんだよっ!
そんなことしたら、また厄介なやつが沸いちゃうじゃないかっ!
「それともこの際、艦娘用の服とか着ちゃいます? 私のスペアならすぐに持ってこられますけど……」
「この際ってなんなのーーーっ!?」
一言たりとも女装したいなんて言ってないよっ!? そんな趣味は米粒一つ持ってないからねっ!
「あっ、そうだ! 女装した先生を写真に撮って、ファンクラブのホームページに載せちゃいましょう! そうすれば会員数もうなぎ登りで万々歳ですっ! 早速写真担当の青葉を呼びに……」
「一番厄介な奴を呼ぼうとしないでーーーっ!」
そんな写真を撮られたら、お嫁……じゃなくてお婿さんになれなくなっちゃうよっ!
そして、それを知った子供達に白い目で見られるような状況にはなりたくはないっ!
つまりそれは、人生が終わったことと同義なんだよーーーっ!
「おおっ! 先生の息がドンドンと荒く……興奮しているんですねっ!」
「心の中で突っ込みまくって、息切れしたんだよっ! この原因は完全に夕張のせいだかんねっ!」
「いやぁ……そこまで褒めなくても良いですよー」
「全然褒めてないからっ! どこをどう聞き間違えたらそんな考えに至っちゃうのっ!?」
「それはもちろん、先生のファンクラブの一員として、すべて前向きに考えているからですっ!」
「ついに見つけちゃったーーーっ!」
しおいに聞いてはいたけれど、俺のファンクラブ会員を発見しちゃったよ!
「これから、先生女装化計画を発動しますっ!」
「勝手に発動しないでっ!」
「すべてはファンクラブ会員のためだと思って、我慢してくださいっ!」
「ファン対象である本人に対して、無茶苦茶なことをするんじゃないっ!」
やばいと思った俺は、急いで更衣室から逃げだそうと扉に向かう。
「ふっふっふー。逃がしはしませんよー?」
だが、夕張に回り込まれてしまった!
「くっ……やはり防御を選んでからキャンセルして、逃げるを選択すべきだったか……」
「そんな4みたいな裏技を使おうとしなくても……というか、先生一人だとできないですよ?」
「何でツッコミだけはきっちり冷静に対処できるんだ……」
「艤装のチェックは冷静でなくてはできませんからねー」
「なら俺に対しても冷静に判断しつつ、常識的に考えてよっ!」
「そこは……ほら、好きこそ物の上手なれじゃないですかー」
「努力しようとする方向性が、完全に間違ってるよっ!? それに、俺を女装させるのが何の上達に繋がるのさっ!?」
「んー、何と言うか、私の趣味ですかねー」
「そんな趣味につき合わされる人の身になって考えてくれっ!」
俺はなんとか夕張の手から逃れようと、更衣室の外にまで響き渡る絶叫をあげる。
「んふふー、逃がしませんよ……って、あれ?」
扉の前で立ち尽くす夕張は不適な笑みを浮かべていたけれど、急に後ろから聞こえてきた音や声に気づいて振り返った。
その視線の先には、不審がる人や艦娘の姿が見える。
「あ、あの……えっと……」
もちろんこれは俺の予想通り。
あれだけ大きな声をあげまくっていれば、いったい何が起こっているのかと気になった整備員や艦娘達が扉を開けるのは必定。
そしてこの隙を突いて、俺はダッシュで夕張の横をすり抜けて部屋から出る。
「あっ、先生っ!?」
まんまと俺の策に嵌まった夕張は、整備員や艦娘達に静かにするようにと注意され、俺を追いかけることができずに涙目を浮かべて声をあげる。
こうして俺は何とか出発の準備を終え、女装させられてしまうという危機から脱出することができたのであった。
本当に踏んだり蹴ったりなんだけど、俺って近々死んじゃったりしないよ……ね?
※「艦娘幼稚園 ~遠足日和と亡霊の罠~」の通信販売を行っております!
https://ryurontei.booth.pm/items/69110
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ここでチラッと現状報告。
やっぱり今章は10万文字、更に20話を超えるようです。
……長くなり過ぎましたが、お付き合いくださりますと幸いです。
次回予告
夕張の魔の手から何とか逃げる事が出来た主人公。
しかし、シリアスが3話続けばギャグも3話……なのだろうか?
いつもの……そして更に進化……ではなく悪化した、あのコンビと出会ってしまう。
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その6「すでにフラグはいくつかな?」
乞うご期待!
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