艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 まず、皆様にごめんなさい。先に謝ります。
シリアス続きだったので、こう……はっちゃけ過ぎたのは後悔。
温かい目で見守ってくれると助かります。


 決意を込めて主人公は言い、心に誓う。
ル級を助ける。もう一つの思いを胸に秘め。

 そして次の日。
出発するために必要なこと……それは準備である。
朝に通達を受け、主人公は装備品を受け取りに整備室に出かけたのだが……


その4「装備品支給と弊害」

 

 次の日の朝。

 

 ル級の手紙に書かれていた場所へ向かう準備をするため、元帥と高雄と愛宕、そして現地に詳しい雪風はすぐに指令室で会議を開始した。俺も何か役に立てないかと言ったのだが、明日の夜が本番になるから今のうちに睡眠を取っておくようにと言われ、心苦しくも寮に戻ることにしたのである。

 

 ちなみにしおいは高雄に言われて伝達の仕事に就いたらしいが、完全に俺だけハブられている気がするのは気のせいなのだろうか。

 

 そりゃあ、他の皆と違って戦闘経験も殆ど無いし、指揮経験も無い。役に立たないのは分かっているけれど、やっぱり凹んでしまうのである。

 

 とは言え、言われたことをしておくのは当たり前なので、俺は寮に戻ってからすぐに入浴し、早めに布団に入ったのである。

 

 そしていつもの時間に目覚めて、現在に至る――のであるが。

 

「本日早朝を持ちまして、舞鶴鎮守府全体に第二種戦闘配置が発令されました。そのため、先生の幼稚園業務は臨時休業となり、幼稚園自体も休園になります。

 また、本日夕方に呉に向けて出発する予定となっておりますので、その準備のため、先生は朝食を取った後すぐに整備室にいる艦娘の所へ行き、指示に従ってください」

 

 いつぞやと同じように、部屋の中には高雄の姿があり、書類を片手に真剣な面持ちでそう言った。

 

「分かりました。ちなみに子供達への連絡は……?」

 

「すでに愛宕としおいによって伝達済みです。先生は何の心配もなさらずに、今晩の準備をしっかりと整えることに集中してください」

 

 全く笑みを零すことなく、むしろ怒っているのかと思えてしまうくらいの表情で高雄は言う。

 

 もしかして、俺が何か怒らすようなことをしたのではないかと考えてしまうのだが、思い当たる節は無く、恐る恐る聞いてみた。

 

「いえ、別に怒ってはいませんが……むしろ心配で……」

 

「は、はぁ……」

 

 俯き気味にそんなことを言われては嫌な気はしないけれど、むしろ心配具合に恐さを感じてしまう。そりゃあ、敵地になっているであろう呉近海に向かうのだから危険はあるだろうけれど、まさか単身で向かう……って、そんなことはないよね?

 

「その心配は必要ありませんが、先生が重要な鍵を握っているのは間違いありませんわ。

 手紙を寄越したル級と面識があるのは先生だけですし、交渉するなら矢面に出る必要がある。そんなところに先生を連れていかなければならないことを心配している――そう思っていただければ結構なのですが、言葉にすると逆効果でしょうか?」

 

 言って、高雄は今日初めてうっすらと笑みを浮かべた。

 

「ま、まぁ、分かっていたことですし、自分から望みましたから今更撤回する気はありませんけれど……よく考えると危険ですよね……?」

 

「危険という以前だと私は思っていますけれど……それでも先生は止めないのでしょうね」

 

 ………………

 

 いや、これって逃げ道を塞いでないですか?

 

 吐いた唾飲み込むな的思考が感じられちゃうんですけど。

 

 そりゃまぁ、言い出しっぺは俺だから仕方ないけどさ……

 

 こう……もうちょっと……安心させてくれても良い気がするんですけれど。

 

「ですが、今回の作戦が上手くいけば、呉鎮守府を奪回する可能性が高くなると思われます。先生に危険を背負わすのは心苦しいですけれど、何卒よろしくお願いいたしますわ」

 

「わ、分かりました……」

 

 深々と頭を下げた高雄に言われてしまっては、すでに断ることはできず。

 

 むしろ扇動されていた感があるのだけれど、元々止めるつもりは無かったのだから結果的には一緒な訳で。

 

 こちらこそよろしくお願いしますと、俺も同じように頭を下げた。

 

 

 

 

 

 そうして高雄は作戦準備のためだと部屋から去り、俺は洗面所で顔を洗ってから外に出ることにした。

 

 腹が減っては戦はできぬ。いつもの時間にはお腹が空くし、高雄からも朝食を取るようにと言われている。

 

 今から気構えても夜まで持たないだろうし、気楽にいくべきだと考える。

 

 ただ、そうは思っていても身体は正直で、

 

 お腹は鳴るが食べる気力は湧いてこず。

 

 こんな状況で食堂に行ってもなんだかなぁ……と思った俺は、売店であんパンと牛乳パックを買って簡単に済ませることにする。

 

 なんだか張り込みをする探偵や刑事のようなセットだけれど、たまたまこれしか残っていなかっただけで、コンビニまでいくのも億劫だったからだ。

 

 希望としては、クリームパンかジャムパンが欲しかったのだけれど、それらは見事に売り切れていた。

 

 ――というか、どうにも売店の相性が悪い気がするんだけれど、この辺りは持ち前の運の無さが関係しているのだろうか。

 

 もしそうなら、今晩の作戦で発揮しないように、今発動したと考えた方が良いのだけれど、やっぱり気になってしまうのは仕方がないことで。

 

 整備室に向かいながら食べるパンの味が殆ど分からなかったというのが、今の俺の気持ちである。

 

 本当に、何事も無ければ良いのだけれど……

 

 

 

 

 

 高雄に言われた通り整備室に着いた俺は、ふとあることに気づく。

 

「そういや、整備室の艦娘に会えと言われたけれど、名前とか聞いてなかったよな……」

 

 辺りを見回してみると、艤装の整備を行っている艦娘は一人や二人ではない。更には男性整備士も数多く居て、正にごった返している状態だった。

 

「名前も分からずに探すとなると、かなりきついよなぁ……」

 

 この中を歩き回るのは一苦労だし、作業をしている人や艦娘達の迷惑にもなりかねない。

 

 誰に会えば良いのかを高雄に聞きに行くのが良いのではないかと思ったが、肝心の高雄が今どこに居るか分からない。こうなったら多少の迷惑は承知の上で、入口から大きな声をかけてみるのがてっとり早いのではないかと思い、大きく息を吸い込みかけたときだった。

 

「あっ、先生。遅かったじゃないですかー」

 

 いきなり後ろから声をかけられた俺は、少し驚きつつ振り返る。そこには大きなリボンで髪を括り、可愛らしいセーラー服を着たスレンダーな女性――もとい艦娘が、少し不満げな表情を浮かべながら立っていた。

 

「え……っと、もしかして君が高雄……秘書艦が言っていた?」

 

「はい! 夕張型 1番艦、夕張ですっ! 兵装のことならなんでもお任せくださいっ!」

 

 言って、にこやかに笑みを浮かべた夕張は、俺に右手をさしのべてきた。

 

「そ、それじゃあよろしくお願いします」

 

 俺はそう言ってから頭を軽く下げ、夕張と握手を交わす。

 

「ふむふむ。先生ってそこそこ鍛えているんですねー」

 

「……え?」

 

「私、握手をした相手がどんなことをしてきたのか、何となくなんですが分かるんですよー」

 

「へぇ……それはまた凄いね……」

 

 そういう技術というか感覚を持っている人がいると聞いたことがあるが……

 

「でもそれって、実は俺の写真を見たから……なんてことは無いよね?」

 

「ぎく……っ」

 

「……目茶苦茶露骨に顔に出るんだね、夕張って」

 

「あ、あはは……バレちゃいましたかー」

 

 そう言った夕張は申し訳なさそうに後頭部を掻きながら、一本取られたといった風にお手上げのポーズを取った。

 

「いやまぁ、別に良いんだけどさ……」

 

 いったいどこまで写真が広がっているのだろうと焦ってしまうけれど、全く知られていないよりかはマシだろうと思い込み、目的である準備について聞くことにする。

 

「それで、準備っていったい何をするのかな? 呉に向かうことは分かっているけれど、元々は幼稚園の先生をやっているだけだから、こっちの方面はあまり詳しくないんだよね」

 

 提督になるための勉強はしてきたけれど、実践経験は殆ど無い。以前の出張の時も、至って普通の日常雑貨品と書類などの荷物を入れた鞄だけだったし、襲われることを想定しないでいた。

 

 しかし今回は、深海棲艦に占拠されているであろう呉鎮守府の近くまで向かうのである。戦地に向かうための準備は必要不可欠であり、だからこそ整備室に行くように言われたのだ。

 

「先生は元帥と一緒にぷかぷか丸で移動することになりますので、乗船時に必要な装備に加え、いざという時のことを考えて戦闘用装備も追加するように言われています。すでにチェックが済んだ物を用意してありますので、私について来てください」

 

 夕張はそう言って、スタスタと整備室の奥へと歩き出した。俺はその後を追い、艤装の整備をしている艦娘の横を通り抜けながら、周囲を見回しつつ進んで行く。

 

 何人かは話したことがある艦娘が居たけれど、真剣な表情で整備をしているところに声をかけるのもはばかれたので、俺は黙って夕張の後ろを追いかける。

 

 そして整備室の一番奥にある扉の前で立った夕張が振り返り、俺に向かって声をかけてきた。

 

「それでは、この中に一緒に入ってきてください」

 

 言って、俺の返事を待たずに夕張は扉を開けて部屋の中に入って行く。俺も後に続いて中に入ると、どうやらここは更衣室の様だった。

 

 壁に取り付けられた大きな鏡に、スタッフルームにある同じタイプの長細いロッカーが並んでいる。その中の真ん中付近に立った夕張は、こっちに来るようにと手で催促しながら俺を待っていたので、小走りで駆け寄った。

 

「先生の服のサイズは……身長から考えてLですよねー。できる限りの防具を装着させるように言われていますから、これとこれ……それにこれも必要ですかねー」

 

 まるで未来からやってきた猫型ロボットがパニックを起こしたときのように、ロッカーの中から色んな物を投げ渡す夕張に俺は若干の不安を抱えつつ、一通りの装備を受け取った。

 

 その殆どが黒い色で統一されており、見た目はインナーのような薄い生地のようだ。

 

「それじゃあ、早速服を脱いで下にそれらを着てください」

 

 ロッカーを閉じてそう言った夕張。

 

 満面の笑みを浮かべているけれど、それでは少々問題があるのだが……

 

「えっと……着替えはここでするんだよね?」

 

「もちろんそうですよっ! ここは更衣室ですからー」

 

「そ、それじゃあ着替えるけど……」

 

 俺は夕張にそう言ったけれど――全く気にすることなく笑みを浮かべて立ち尽くす。

 

 ……もしかして、分かってないんだろうか?

 

「あー、えっと、その……」

 

「はい、どうかしましたか?」

 

「いや……今から俺、着替えるんですよね?」

 

「そうですよ?」

 

 何を言っているんだ君は――と言わんばかりに不思議そうな表情を浮かべる夕張だが、その顔は俺が浮かべるべきである。

 

「今のままだと……バッチリ見られちゃうんですけど……」

 

「………………」

 

「渡されたやつに着替えるとなると、完全に全部脱がないといけない訳で……」

 

「あー、うん。そうですよね。全部脱がないと着られませんよね」

 

「そうそう。だから、少し外してもらえると助かるんだけど……」

 

「でも、ちゃんと装着できているか確認しないといけませんしー」

 

「………………」

 

「高雄秘書艦に言われていますからー」

 

「き、着替え終わってから確認とかじゃ……ダメなのかな……?」

 

「ダメです。正確に装着しないと効果が半減しちゃう可能性だってあるんですよー」

 

「そ、それは……そうかもだけどさ……」

 

 夕張がそう言うのも分からなくはないのだけれど、やっぱり素っ裸を見られてしまうというのは恥ずかしい訳で。

 

 写真が出回ってしまっている段階で、上半身くらいは構わないとは思っているんだけど、さすがに下の方は……その……ねぇ。

 

「……ジュルリ」

 

「………………」

 

「なんでもないですよー?」

 

「説得力が完全に0なんですけど」

 

「気のせいですよー?」

 

「今さっき舌なめずりしたよねっ!?」

 

「そんなことしていませんよー?」

 

「嘘だっ!」

 

「ユウバリウソツカナイ」

 

「インディアンじゃないんだから……って古過ぎるからっ! 完全においてけぼり食らっちゃうからっ!」

 

「どちらかと言えば深海棲艦ですよねー」

 

「今晩会いに行くんだけどねっ!」

 

 写真を知っている段階で嫌な予感はしていたけれど、まさかこんな状況になってしまうとは夢にも思わなかった。俺はなんとか夕張を説得して外に出てもらい、一人で着替えを済ますことができたのは、それから20分経った後のことである。

 

 

 

 幸先から不安要素が満載なんだけど、本当に今晩大丈夫だよね……?

 




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次回予告

 夕張の視線に焦りながらも着替えを済ませた主人公。
そして更に渡された装備品に、戦場へ向かう現実を突きつけられる。

 更には思いもしなかった発言と暴走に、慌てて主人公は……


 艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その5「見つけちゃったっ!」

 乞うご期待!

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