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呉が落ちた。
信じられない言葉を元帥から聞いた主人公。
何故、先生でしかない主人公に元帥がそれを伝えたのか……
そして、何故呉は落ちたのか……
その謎に迫り、まさかの展開が渦巻き、主人公に襲いかかる次章!
全ての始まりには終わりがあり、意味がある事を知らされる。
そして、ついに主人公が一大決心するっ!?
その1「思ヒ出ポロポロ」
鳳翔さん食堂の二階広間。
しおいが先生として、あきつ丸が陸軍から幼稚園に編入し、まるゆが海軍に配属された歓迎会が開かれている中。
舞鶴鎮守府の最高司令官である元帥が、ちょっとした会話の流れから聞いた声。
「呉が落ちた」
元帥の口から紡がれた言葉に俺は唖然とする。
いきなりそんなことを言われても、幼稚園の先生でしかない俺が何をできるというのだろう。
それなのに、元帥は真剣な顔で俺に言ったのだ。
つまりそれは――俺にしかできない何かがあるということなのだろうか?
それとも、ただ単に世間話をしたのだろうか?
いや――それはありえない。
だって、初耳とかそういうことじゃなく、洒落にならないことなんだよ?
一つの鎮守府が落ちるなんてことは、普通に考えればあってはならないことなんだから。
「まぁ、いきなりこんなことを言ったら驚くとは思うんだけど、歓迎会が終わったら付き合ってもらえないかな?」
普段と変わらない薄い笑みを浮かべた元帥に、俺は頭を縦に振る。
頭の中は真っ白になり、正常な判断ができていない。
こんな状況で、普段と同じような考えなどできるはずもなく、
俺は条件反射で頷いてしまっていた。
子供達はすでにお腹いっぱいに食事を平らげていたので、そろそろ歓迎会をお開きにしようと言った愛宕に従い、寮の自室へ帰り支度をした。俺もしおいも子供達に怪しまれない程度に急かして、座卓の上の後始末をする。
そして、広間には俺と元帥、高雄に愛宕、しおいの5人だけが立っていた。
「これで全員帰りましたよね……って、そういえばまるゆは?」
「子供達と一緒に帰りましたよ~」
「そ、それって良いんですか? 今から指令室に向かうんじゃ……」
「まるゆは今日配属されたばかりですし、いきなり任務という訳にもいきませんから」
キッパリと言い放った高雄に若干押され気味な俺だったが、秘書艦が言うのだから間違いはないのだろう。そもそも俺は先ほど思った通り幼稚園の先生なのだから、この考え自体が必要無いはずなのだ。
「それじゃあ、お手数をかけるけど指令室までご同行願えるかな?」
「え、ええ。それは大丈夫なんですけど……」
なんだか今から査問でもされてしまうんじゃないかと思える雰囲気に、俺は額に汗を浮かべて過去の記憶を呼び覚ます。
仕組まれた査問会。
幼稚園を潰そうと企む三人の提督。
しかし、元帥が言ったのはそれと比べものにならないくらい大事件な訳で。
とてもじゃないが、俺なんかが役に立つとも思えない。
そんなことを思い出してしまった原因は元帥の口調なんだけれど、そもそもこんなに真面目な場面ってあんまり見たこと無いんだよね。
大概はエロいことを考えているか、高雄に吹っ飛ばされているかだし。――というか、それがセットで見てきているから仕方がない。
本当にこの鎮守府は大丈夫なのかと考えてしまうけれど、今の真面目な元帥を見る限り、そういった心配はしなくても良いのかもしれない。
理由は簡単で、高雄が真面目な顔で元帥に対して何も言わないからなんだけど。
うむ。見事に元帥の信用度がゼロである。
そんなことを考えているうちに、元帥を先頭に広間から出て階段を下りていく。俺は置いていかれないように後に続き、厨房の鳳翔さん達にお礼を言って食堂から出る。
心なしか、厨房の三人の顔も元気がないように見える。
それは、元帥の言葉が関係しているのか、
それとも単に、作業に終われて疲れていたのか。
正直俺には分からないけれど、焦りを生むのは十分で、
目指す指令室へと足は向いていく。
建物の間にある道を歩き、向かう目的地までは約5分。
その間――誰一人として口を開かなかったことに、俺の焦りは徐々に加速していたのだった。
◆ ◆ ◆
元帥の部屋。
中には部屋の主である元帥が中心奥の机にある椅子に座り、秘書艦である高雄が姿勢正しく隣に立っている。
二人に向かい合うような形で俺と愛宕としおいが立ち、元帥の口元に注目していた。
「歓迎会の後で悪いんだけど、今から話を始めるね」
俺は小さく頷いて返事をし、元帥は薄く笑みを浮かべた。
しかしその表情には余裕というものが見えず、さらなる焦りを俺の心に生み出していく。
「それじゃあ高雄、お願いできるかな」
「かしこまりました――では、これより説明に入らせていただきます」
小さく頭を下げて一拍置いた高雄は、机の上にあったバインダーを持ってゆっくりと口を開いた。
「昨日のフタサンマルマル、呉鎮守府を目標とする深海棲艦の奇襲が発生しました」
「……なっ!?」
分かってはいた――けれど、驚きのあまり思わず声をあげてしまった。あまりにも簡潔に述べられただけに、もしかして冗談なのではと思ってしまったりもするのだけれど、隣に立つ愛宕としおいの表情は真面目なままで、むしろ先程よりも深刻になっていくのを見た俺は、額に汗を浮かべながら高雄の声に耳を傾けた。
「明確な被害状況は不明ですが、壊滅的打撃を受けた呉鎮守府は現在すべての機能が失われていると思われます。ですが……」
そう言って、高雄は表情を曇らせ言葉が詰まる。
「だが、現在も呉鎮守府からは通常の交信が行われており、その事実は大多数が知らないでいる」
間髪入れずに元帥が口を開いたが、あまりにも信じられない内容に、俺も愛宕もしおいも表情を強張らせて立ち尽くしていた。
「それは……いったいどういうことでしょう……?」
しかしそこは経験の差だろうか。
愛宕はすぐに質問を投げかけた。
もちろん俺もしおいも考えていたことは同じであり、その返答を聞き逃さないように耳を澄ます。
「この情報は一人の艦娘からもたらされたの。呉鎮守府に所属する雪風が轟沈寸前のダメージを負いながらも、本日の夕方に知らせに来てくれた……」
高雄の言葉に息を飲む。
「すぐに雪風を入渠させないと非常に危険だったので端的な情報しか聞けなかったけれど、我々はすぐに呉と連絡を取った――が、交信はいつも通り問題なく行えた。それはもう、余りに普通過ぎて逆に怪しんじゃうくらいにね」
言って、元帥は薄ら笑いを浮かべた。まるで丹念に考え配置した罠にかかった敵の情報を聞いたときの策略家のような表情に、俺は背筋が凍りそうになるほど恐怖を感じてしまう。
「なるほど。定期交信のみだった……という訳ですか」
「こればかりは元帥の普段の行いが……と言わざるを得ませんね」
愛宕と高雄は二人揃って大きなため息を吐く。
何故そんなに表情を曇らせるのかと俺としおいが驚いているところに、元帥がいつもと同じようなニヤケ顔で口を開いた。
「いや~、だって今日の呉の通信担当は瑞鳳ちゃんだからさ。ちょちょいと来週の休みにでもデートに行かないって誘ったんだけど、明らかに反応がいつもと違ってさ~。
あっ、もちろんいつもは二つ返事でオッケーもらうんだよ? なのに今回は、焦るように言葉に詰まってから断られるなんてありえないじゃない。だから僕はすぐにビビッと……」
「「少し黙ってもらえないでしょうか、げ・ん・す・い?」」
「は、はい……」
完全ハモリの高雄&愛宕に負けた元帥は、肩を竦めながら小さくなる。
やっぱり元帥は元帥だった。
そこに憧れる気は無いが、いつも通りだったことに少しばかり緊張が解けて、心に余裕ができた気がする。
――とはいえ、今聞いたのが本当なら事は深刻である。過去に佐世保が襲撃された事実はあるけれど、鎮守府が落ちたことは一度も聞いたことが無い。
つまりそれは海軍にとって致命的失態であり、この国にとって一刻を争う緊急事態であるはずなのだ。
それに、呉という場所が問題である。
現在俺がいる舞鶴の様に、列島の外側ならば納得できなくは無い。
いや、納得したらダメなんだけれど、全く起こりえないと言いきれることでも無いのだ。
艦娘が深海棲艦と戦うために鎮守府から出撃するように、深海棲艦も同じことをすることが考えられる。
だからこそ、鎮守府近くの海域は真っ先に攻略するのが基本なのだ。
しかしそれでも、佐世保が襲撃されたように深海棲艦の脅威が拭い去れたわけではない。舞鶴だっていつだって攻められる可能性はあったのだ。
もちろんそれに対応すべく、艦娘のパトロールや艦載機の偵察、その負担を減らすために鎮守府近くに設備を配置し、万全を期しているのである。
そんな状況にも関わらず、いや――それにしてなお、外周ではなく内側が落ちたということである。
呉は瀬戸内海に面する、列島の内海の鎮守府であり、
懐から攻め入られたと言っても過言ではないのだから。
「通信内容の件につきましては後でキッチリと締めますけれど、元帥のおかげで雪風が持ってきた情報の裏付けが取れました。ですので、すぐにでも各鎮守府に情報を伝えようと考えたのですが……」
高雄はそう言って言葉を詰まらせる。
その内容は当たり前のことなのに、なぜそこで詰まるのか。
俺はそれがあまりにも不思議に思い、高雄の顔を伺ってみた。
すると高雄は同じように俺の顔を見つめ、ジッと視線を合わせてくる。
その視線は怒っている訳でも無く、笑っているようにも見えない。
まるで、哀れみと疑心のような……けれど、信頼も含められていると感じられてしまう、複雑な視線だった。
「あ、あの……俺の顔に何か……?」
「いえ、何もついてはいません。
そして、見事についていないんでしょうね……」
「……?」
高雄の言葉の意味が分からず、俺は頭を傾げる。
そんな俺の様子を見た元帥はごほんと咳払いをし、高雄から一つの封書を受け取ってから俺に差し出した。
「これは……?」
「呉の雪風ちゃんが持ってきた手紙なんだけどさ……中を読んでみてくれないかな?」
「はぁ……わ、分かりました……」
呉には知り合いはいないはずなんだけれど……と思いながら、元帥から受けとった封書を開いて中に入っていた紙を取り出す。三つに折られたA4サイズの和紙に、達筆の文字が書かれていた。
「……え?」
普通ならば、パッと見た時点で美しいと思える文字に目を奪われてしまうだろうが、俺にはそれ以上の衝撃が走っていた。
「こ、この……文字って……」
「正直に申し上げると、先生のことかどうかは分かりかねましたが……」
「だけど、可能性としては先生が一番高いだろうからね」
高雄と元帥の言葉が俺の耳に届き、ゴクリと唾を飲み込んだ。
二人はまだ半信半疑だろうけれど、この文字を見る限り俺のことを指しているのは間違いない。ただし、これが分かるのはこの鎮守府において俺しか……いや、もしかするともう一人いるかもしれないけれど……
「まぁ、迷っていてもなんだからさ……読んでみてよ」
「………………」
俺は言葉にせずに頭を下げることで返事をし、もう一度唾を飲み込んでから文字を見る。
そこに書かれていた一文は――
『伝説ノ先生ヘ』
――と、記されており、
俺の頭の中に、あいつの姿が浮かんでくる。
海底で出会い、強制労働をさせられた挙げ句にヲ級を連れて帰ることとなったあの出来事。
その原因として一番大きいであろう、ドがつく変態クラスの深海棲艦。
戦艦ル級の厭らしく笑う顔が、しっかりと思いだせてしまったのだった。
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次回予告
手紙の文字を見た瞬間、ル級を思い出した主人公。
そして、この手紙を持ってきた雪風が入ってくる。
呉にいったい何があったのか。
その謎を解き明かすべく、雪風は語りだした。
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その2「繰り返される悲劇」
乞うご期待!
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