https://ryurontei.booth.pm/items/69110
書籍サンプルの方も更新してたりします。
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※次章について、お願いを後書きに書いてあります。
非常に申し訳ありませんが、ご理解の程、宜しくお願い致します。
愛宕犬化計画発動……は、残念ながら致しませんが。
歓迎会を開くことになった。
喜ぶ子供達と鳳翔さんの食堂へ行く。
更には園児達だけでなく、飛び入り参加も追加して、楽しい宴は続いてく……
そう、思っていた。
あきつ丸とメンチの仲直りが済んだ後、昼寝の時間を終えた子供達を起こした俺達は、午後の授業に入った。さすがに朝とは違って失敗続きは起こらず、俺はしおいに先生のお手本を見せることができ、胸を撫で下ろしていつもと同じように子供達と触れ合った。
そして、終業の挨拶の時間。
愛宕から子供達に、しおいとあきつ丸の歓迎会を開くことが告げられた。
「ひゃっほーーーっ! 鳳翔さんの食堂で歓迎会なんて、目茶苦茶楽しそうだぜっ!」
握りこぶしを高々と突き上げた天龍が大きな声で叫ぶと、他の子供達も同じように歓声をあげた。
「ち、ちなみに……空母のお姉さん達は来るのかな……?」
「いえいえ~。さすがにブラックホール……じゃなくて、赤城お姉さんや加賀お姉さんは呼びませんよ~」
愛宕の言葉にホッと胸を撫で下ろす潮。
その気持ちは潮だけではなく、他にも数人の子供達が安心した表情を浮かべていた。
もちろん、その中に俺もいるんだけどね。
「でも、鳳翔さんの食堂に全員が一斉に入って集まれるスペースってあるんですか? 結構な人数ですし、普通にお客さんも来るでしょうし……」
そう言ったのは五月雨で、比叡や榛名、霧島もウンウンと頷いていた。良く考えてみれば、佐世保から来てそれほど日が経っていない四人が食堂の二階にある広間のことを知らなくても無理はないのかもしれない。
「問題ないわ。食堂の二階に大きな部屋があるから、そこを貸し切れば大丈夫なんだからっ!」
「そ、そんなところがあったんですかっ!?」
「そうよ! 暁はなんでも知っているんだからっ!」
胸を張って自慢げに話す暁に、憧れるように目をキラキラさせる五月雨。
しかし、五月雨はちょっと前まで普通の艦娘だったんだから、子供の暁に憧れるってのは少々変な気がしちゃうんだけど。
まぁ、当の本人が納得しているなら問題は無いだろうけどね。
それに、雷と電辺りはやれやれといった感じに呆れちゃってるし。
これもいつものことと言えばそうなんだけれど、そんな日常が楽しくって仕方ないのもまた事実なのだ。
「みなさんは一旦寮に戻って準備をしてから、鳳翔さんの食堂に集合してくださいね~」
「「「はーいっ!」」」
愛宕の声に一斉に手をあげて返した子供達は、ニコニコと笑みを浮かべながら頭を下げ、「さようなら~」と言ってから部屋から出て行った。
子供達全員が部屋から出るのを確認し、俺としおいは戸締まりのチェックのために幼稚園内を回り、愛宕は日報のチェックと書類作成のためにスタッフルームに向い、仕事を終えてから寮に戻ることとなった。
「「「ざわ……ざわ……」」」
先に言っておくが、黒服のサングラスをかけた男性が大勢居る訳でも、特大のパチンコ台に向かっている青年を応援するギャラリー達が居るのではない。
ここは鳳翔さんの食堂の二階であり、以前に入ったことのある広間と、更に隣の広間を区切る襖を取り外して用意された、正に大広間と言える空間である。
大きな座卓を一列に配置し、周りに人数分の座布団が並べられており、子供達は思い思いの場所に座って会話を楽しんでいた。すでに料理は座卓の上にところせましと並べられ、何人かの子供達はよだれが垂れてしまわないようにと必死で我慢しているようだった。
「よっと……」
俺は階段に一番近い座卓の場所に座り、一階の厨房と二階の広間を行き来しながら子供達の飲み物を用意していた。幼稚園に通う子供達と俺と愛宕、それに新人であるしおいを含めた人数はかなりのモノで、全てを鳳翔さん達に任せるのは悪いと思って手伝っているのだ。
「すみませんね、先生」
千歳が申し訳なさそうに言いながら、俺にたくさんのコップを手渡してくれた。
「いえいえ、無理を言って二階を貸し切ったのはこちらですし、通常のお客さんも多く入る時間ですから、これくらいのことはさせてくださいよ」
俺は笑みを浮かべながら千歳に言い、軽く頭を下げてから二階へと向かおうとする。
「ありがとうございますね。このお礼は今度にでも……」
「そんな、別にお礼なんていらないです……よ……」
首を左右に振ってから千歳に視線を合わせようとした瞬間、少し離れた物陰からこちらを覗き込む千代田の恨めしそうな顔が見え、俺は慌てて階段を駆け上がった。
やばい……あの顔は完全にキレちゃってるよ……
この前のこともあるし、あまり千歳と一対一で話すのは止めといた方が良さそうだ。
小さくため息を吐きながら階段を上がり切り、座卓の上にコップを置いた俺は、先に持ってきていたオレンジジュースを順に注いで子供達にバケツリレーの要領で渡していく。
そして、全てのコップにジュースを入れ終えた俺は、全員に渡り切るのを確認してから愛宕の顔を見て頷いた。
「ありがとうございますね、先生~」
お礼を言う愛宕に手をあげて会釈をし、子供達の様子を見る。みんなの視線が俺に向けられて背中がむず痒いように感じたが、今回の主役は俺ではなくてしおいとあきつ丸なのだからと、二人の方へと視線を向けた。
「それでは準備ができましたので、しおい先生とあきつ丸ちゃんの歓迎会を始めたいと思います~」
パチパチパチパチパチ……
みんなは一斉に手を叩き、一部の気の早い子はジュースが入ったコップを手に持っていた。
「それでは、しおい先生から一言お願いします~」
「え、わ、私ですかっ!?」
コクコクと頷く愛宕を見たしおいは少し焦りながらも深呼吸をし、立ち上がってゴホンと咳払いをしてからみんなの顔を見渡した。
「えっと、今日から先生になったしおいです。まだまだ一人前にはなれないかもしれませんけど、これからよろしくお願いしますっ!」
「よろしくね、しおい先生」
「よろしくっぽいー」
時雨や夕立が笑みを浮かべながら返事をし、しおいは少し恥ずかしそうに頬を掻きながら座布団に座った。
「はい、ありがとうございました~。それでは続いてあきつ丸ちゃん、お願いします~」
「了解でありますっ」
しおいとは打って変わって冷静な感じのあきつ丸は、スクッと立ち上がって敬礼をしてから口を開いた。
「このような歓迎会を開いて頂き、不肖あきつ丸、感激でありますっ! これからよろしくお願いするでありますっ!」
そう言って、あきつ丸は20秒ほど頭を下げて固まっていたんだけれど、それは謝罪のときに行う礼の仕方なんだが……まぁ、いいだろう。
そして頭を上げたあきつ丸は座布団に座り、愛宕は頷きながらコップを手に持った。
「それでは、これより二人の歓迎会を……」
――そう、愛宕が宣言しようとした瞬間だった。
「ちょっと待ったーーーっ!」
「ふえっ!?」
可愛らしくビックリした愛宕が視線を俺の方へと向ける。
だが、今の声は俺ではなく、
俺のすぐ後ろにある、階段の方から聞こえてきたのだった。
「歓迎会を開くなら、この子も忘れちゃダメだよね」
そう言って現れたのは、真っ白な軍服に見を包んだいつもの姿、元帥この人だった。
「あら~、全然お呼びじゃないですけど~?」
「ひ、酷っ! 愛宕ったら以前に増してきつくないっ!?」
反論するように声を上げた元帥だが、続けて階段を上がってきた高雄が広間に入りながら、冷ややかな目を向けて口を開く。
「それでは以前に増して言っておきますが、日頃の行いが悪いからですわ」
「こっちも酷いっ! 姉妹で寄ってたかるなんて、俺泣いちゃうよ?」
「「存分に泣いてくださって結構です」」
「がっくし……」
見事な愛宕と高雄の返答に床に崩れ落ちる元帥。
その格好は見事に『OTZ』このような形に見えた。
「登場してきて早々に崩れ落ちるって、何しに来たんですか元帥は……」
ボソリと呟いた俺に顔を向けた元帥は、袖で顔を拭くような仕種をしてから立ち上がった。
……今、泣いていたよね……たぶん。
「歓迎会を開くと聞いては駆けつけなきゃいけないと思ってさっ!」
「だからお呼びじゃないですよ~?」
「くっ……だが、ここでめげたら男じゃない……っ!」
そう言って歯を食いしばった元帥に向かって高雄は大きくため息を吐き、目を閉じながら口を開いた。
「あきつ丸ちゃんと一緒にこちらに配属になったまるゆも居ますので、一緒に歓迎会に参加させてもらえないかと思ったんだけど……」
――と、愛宕に目配せをする高雄。
「なるほど~。それなら問題ないですね~」
さすがは姉妹。意思の伝達も素早いなぁと思っていたけれど、そんな様子を見た元帥がまたもや『OTZ』こんな格好で崩れ落ちながら完全に泣いていた。
まぁ、子供達も見て見ぬ振りをしているから、放っておいても問題はないのだろう。
頑張れ。この鎮守府の最高司令官。
もちろん、俺も手を差し伸べない。理由は簡単で、ヲ級にグラビア雑誌なんぞを買いに行かせた罰である。
あの時の大変さ……とくと思い知るが良いっ!
………………
――って、これだと俺って完全に悪役じゃね?
「それでは、まるゆちゃんも参加しての歓迎会を始めたいと思います~。
皆さんコップを持ちましたか~?」
「「「はーい!」」」
へこんだままの元帥を完璧に無視した愛宕はコップを持って声をかけ、みんなが一斉に返事をし、
「ではでは……ようこそ舞鶴鎮守府に。これからよろしくお願いしますね~。かんぱ~いっ」
「「「かんぱーいっ!」」」
しおい、あきつ丸、まるゆの歓迎会が始まったのだった。
それからのことなんだけれど、
一部を除いて大盛り上がりだった――というのが実際のところであり、歓迎会自体は問題無く終わることができた。
少々問題のようなこともあったものの、予想できたはずであるし、対処が足りなかったと言えばそれまでなのだが。
歓迎会が始まった直後、気合いで復活した元帥はまるゆを口説きにかかるというあまりにも軽率な行動をし、すぐさま高雄の10連コンボで失神した。
まぁ、この辺りはみんなも予想していたのだろう。始めと同じように子供達は見なかった振りをし、お喋りを楽しみつつ食事をしようという感じに思えた。
ここで少しばかり予想外だったのは、料理を一口食べて満面の笑みを浮かべた愛宕と高雄の姉妹がブラックホールコンビを思い出してしまうような食べっぷりを発揮し、座卓の上にある料理をことごとく胃の中へと消し去りにかかったのだ。
唖然とするみんなはお喋りを一旦止めて、目の前にある料理だけは確保しようと焦りだした。もちろん、俺もそうするつもりだったのだが、追加の料理を二階に持って行ってほしいという千歳の要望によって食事を取ることができず、泣く泣く階段を往復することになる。
こうして弱肉強食の空間が出来上がってしまった。しかし、これは予想が全くできなかったということではない。
以前に行われた食事会で愛宕の食べっぷりは知っていたから、もしかすると――という気持ちは持ち合わせていた。それに加えて、あきつ丸やしおいが昼食のお弁当で感動していたから、暴走まではいかないまでも何かしらは起こると思っていたし。
ちなみに、その辺りの会話を思い出してみると……
「「うンまぁぁぁぁぁいっっっ!」」
あきつ丸としおいは同時に叫び声をあげ、自分の太ももをバシバシと叩いていた。
「このピザは完璧でありますっ! ミニトマトをオーブンで焼き上げたことによる甘味の増幅! そして三種類のチーズのハーモニーが口の中で奏でられつつ溶けていくでありますっ!」
「この若鶏のから揚げ三種ソースも美味しいよーっ! タルタルソースは大きめの野菜がゴロンと入った自家製で、しっかりとした味なのにくどくない! おろしポン酢はサッパリとしていていくらでもいけるし、チリソースは甘辛仕立てでご飯が進んじゃうっ!」
「極メツケハコノ小籠包! 中ニ入ッタスープガ噛ンダ瞬間ニ口ノ中デ暴レルガ如ク溢レテ、大火傷確定シテシマウト焦リツツモ……ヤメラレナイトマラナイ!」
最後のはスナック菓子のCMか……と突っ込む前にどこから入ってきたんだヲ級はっ!?
座っていた場所結構離れてたよねっ!? 瞬間移動でもしてきたのかっ!?
――と、ツッコミどころ満載だったのはいつものことである。
つまりは、これらも予想できていたこと。
階段の上り下りの途中にちょっとばかりつまみ食いで食べることができたので、むしろこのことが想定外とも言える出来事だったのだが、
最後の最後に、思いもしない言葉を聞いてしまったのである。
「ふぅー。食った食ったー」
「天龍ちゃん、食べてすぐ横になったら豚さんになっちゃうわよ~?」
「て、天龍ちゃんが……豚さんに……?」
「いやいや、それはあくまで脅し文句なんだけど……」
「でも、豚さんになった天龍ちゃんを想像するのって可愛いっぽい!」
子供達がそんな言葉を交わしながら笑い合っている頃。
俺は階段の近くの定位置でみんなの様子を見ながら一息ついていた。
階段の上り下りで多少足が疲れたものの、つまみ食いという手段で食事を確保して心労は溜まらず、良い思いでとなった歓迎会で締めくくるつもりだった。
そんな俺の隣に、少々膝がガクガクしている元帥がやってきた。
「お疲れ様、先生」
「お、お疲れ様です……」
なんで助けてくれなかったのかと元帥が苦情を言いに来たと思った俺は、引き攣りそうになる顔を押さえながら挨拶を交わした。
「みんな楽しそうで良かったよ。無理を言って乱入したかいがあったよねー」
「そ、その言葉を元帥から聞けるとは思ってなかったですが……」
「あはは。開始早々の盛り上がりは必要でしょ?」
いや、あなたの場合はみんな予想しすぎて呆れちゃっているんですけどね。
――と、ツッコミを入れることはできないので言葉を飲み込んでおく。
そんな俺を知ってか知らずか、元帥は急に真面目な顔を浮かべて口を開く。
「先生、実は話があるんだけど……」
「え、えっと……いったいなんでしょうか?」
改めて喋られると何だか気持ち悪いんだけど、こういう感じって変な奴が沸いちゃうからなぁ。
何度も言っておくが、ウホッの展開は勘弁被りたい。
「少し言い難いんだけど、この件に関しては先生の協力が必要でね……」
自分から言い出したのにも関わらず気まずそうにした元帥は、一度俺から視線を外し、一拍置いて小さく息を吐いてから、今までに見せたことの無い辛く険しい表情を見せた。
予想だにしていなかった元帥の仕草に、俺は口の中に溜まった唾を飲み込み、真面目な表情で視線を向ける。
そんな俺を見て小さく頷いた元帥は、ゆっくりと、簡潔に、一言だけ呟いた。
呉が落ちた――と。
艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ 完
※「艦娘幼稚園 ~遠足日和と亡霊の罠~」の通信販売を行っております!
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書籍サンプルの方も更新してたりします。
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今章はこれにて終了。
しかし、話はまだまだ続きます。
ここで一つ皆様に謝らないといけません。
私、リュウ@立月己田は、一章ごとに完成してから更新を行う手法をとってきました。
これは、完成途中で更新をした際に矛盾が発生しないようにとの考えでしたが、次章の完成が現状終わっておりません。
現在、完成度は約50%でありますが、話数にすると11話まで執筆を終えています。このままの流れだと、20話を超える今までで一番長い章となりますが、完成まで皆様をお待たせするのは忍びないので、完成している話から順次更新していきたいと思います。
その際、矛盾等には注意を致しますが、おかしな点が発生する恐れがあります。
ご迷惑をおかけいたしますが、ご了解の程、宜しくお願い致します。
また、もう一つお伝えする事があるのですが、それに関しましては次章が完成してからご連絡いたします。
それでは、次章の次回予告をどうぞっ!
次回予告
呉が落ちた。
信じられない言葉を元帥から聞いた主人公。
何故、先生でしかない主人公に元帥がそれを伝えたのか……
そして、何故呉は落ちたのか……
その謎に迫り、まさかの展開が渦巻き、主人公に襲いかかる次章!
全ての始まりには終わりがあり、意味がある事を知らされる。
そして、ついに主人公が一大決心するっ!?
艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その1「思ヒ出ポロポロ」
乞うご期待!
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