艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 久しく食らった下腹部への攻撃。
やはり戦艦でなくてもその威力は……じゃなくて、どうしてあきつ丸はメンチに追いかけられていたのか。
 その謎は、いとも簡単に……?


その9「じゅるり×2」

 

「も、申し訳なかったであります……」

 

 肩を落として落ち込んだ様子のあきつ丸は、何度も謝りながら俺の腰をトントンと叩いてくれていた。

 

「い、いや……まぁ、あきつ丸も……怖かったんだから仕方がない……よ……うぐぐ……」

 

「ほ、本当に大丈夫でありますか……?」

 

「う、うん……もう少ししたら……なんとか……」

 

「あの気持ちは私達には分からないですねぇ……」

 

「そうね~。逆に言えば、あそこを攻めれば大人しくなるってことだから、覚えておくといざという時に役に立ちますよ~?」

 

 いやいやいや、それマジで怖いですよ愛宕先生っ!

 

 言葉だけでも洒落にならないからっ! 想像するだけで身が縮こまっちゃうからっ!

 

「なるほど……参考になりますっ!」

 

 参考にしちゃダメーーーっ!

 

 それに、ちょっとばかし頬を染めながらしおいが言うと、俺は何もしてないのにセクハラみたいでなんかヤダーーーっ!

 

 心の中で絶叫しつつ、痛みに慣れてきた俺はなんとか背筋を伸ばして姿勢を正す。

 

 そんな俺の姿を見て、あきつ丸はホッと胸を撫で下ろすように表情を和らげていた。

 

 うむむ……原因であるとはいえ、心配させたのは先生として失格だから申し訳ないことをしてしまった。上手く避けられていればこんなことにはならなかったのだけれど、今更言っても仕方がないだろう。

 

 とりあえず俺はあきつ丸に笑いかけて、気遣かってくれたお礼として頭を撫でてあげたのだが……

 

「キャンッ!」

 

「うわあぁ、でありますっ!」

 

 メンチの泣き声に驚いたあきつ丸は、俺の後ろに隠れるように素早く逃げる。ちなみに声の主であるメンチは愛宕の腕に抱かれ、大きな胸部装甲を枕にするような状態で……羨まし過ぎるぞちくしょうっ!

 

「も、もう勘弁であります……」

 

 あきつ丸は身体中をガタガタと震わせながら、半泣き状態で俺の背中越しからメンチを覗き込んでいる。

 

「……しかし、どうしてメンチはあきつ丸を追いかけていたんだ?」

 

「わ、分からないであります……」

 

「そもそも、メンチの首輪についているチェーンが外れているのもおかしいですよね?」

 

 しおいの言葉に俺と愛宕はウンウンと頷くと、気まずそうな表情を浮かべたあきつ丸は、おずおずと口を開いた。

 

「そ、それは……あきつ丸が外してしまったであります……」

 

「「「……え?」」」

 

 驚いた俺達は一斉にあきつ丸を見る。

 

 その視線に耐えられなくなったあきつ丸は、申し訳なさそうに言葉を続けた。

 

「昼寝の時間に横になっていたでありますが、緊張していたのかなかなか寝付けず、幼稚園の中を徘徊することにしたのであります。しばらく色んな部屋を見て行ったのでありますが、その……メンチの泣き声に気づいて広場にやってきたのであります」

 

「あら~、お昼寝の時間に勝手に出歩いちゃダメですよ~?」

 

「ご、ごめんなさいでありますっ!」

 

 愛宕の声にビクリと身体を震わせたあきつ丸は、すぐさま敬礼をして謝った。

 

 これはやっぱり、昼食の時のトラウマ……なんだろうか。

 

 すぐに謝ったおかげか、愛宕はニッコリと笑みを浮かべて頷いていたので、あきつ丸は小さくため息を吐いて話を続けた。

 

「メンチを見た瞬間、凄く可愛かったのでダッシュで近づいたのであります。頭を撫で撫でしたり、お腹をこそばったりで楽しかったのでありますが、その際に首輪部分に触れてしまい、チェーンのフックが外れてしまったのであります」

 

「あぁ、それで……」

 

 そう言って頷いた俺だが、それだけでは追いかけられる理由にはならないと思うのだが……

 

「でも、すぐにつければ良いと思っていたのでありますが……急にメンチが……あきつ丸の顔にダイブしてきたであります」

 

「えっ、なんでだ?」

 

「そ、それが分からないのであります。

 すぐに立ち上がって振りほどいたのですが、メンチは吠えながらあきつ丸を追いかけてきて……怖かったであります……」

 

 言って、あきつ丸はまたもや泣きそうになりながら、俺の服の裾をギュッと握りしめた。

 

「うーん、どうしてあきつ丸ちゃんを追いかけたんでしょうねー?」

 

「メンチの嫌がることはしてないんだよな?」

 

「し、してないと思うであります。撫でている時も、こそばっている時も、嬉しそうに尻尾を振っていたでありますからして……」

 

 その言葉を聞いてから、俺は愛宕に抱かれたメンチを見た。

 

 両腕に抱かれながらつぶらな目を向けるメンチ。その尻尾は元気良くパタパタと動いている。

 

 まぁ、愛宕に抱かれていたら、そうなっちゃうよなぁ。

 

 絶対気持ち良いもん。まさに至福の時だろうし。

 

 しかし、本当に理由が分からないのだけれど、なぜメンチはあきつ丸を追いかけ回すようなことをしたのだろうか。

 

 犬は逃げる相手を追いかける習性があるけれど、いきなり顔面にダイブするのは不自然だし、あきつ丸が言っていた通りに撫でられたりこそばられたりして喜んでいたのなら……じゃれて飛び掛かったということだろうか?

 

 なんだか腑に落ちない……と、俺が頭を捻った途端、愛宕が急に口を開いた。

 

「ふむふむ、なるほど~」

 

「「???」」

 

 俺としおいは愛宕の顔を見る。

 

 すると、何故か愛宕は匂いを嗅ぐような感じで、鼻をひくつかせていた。

 

 まるで犬のような仕種に、驚きを隠せない。

 

 まさか、メンチを抱いていたことで愛宕が犬化するような状況になったというのかっ!?

 

 そんな馬鹿な話が……いや、待てよ。

 

 犬耳がついた愛宕。口癖で「~ですワン」とか言い出しちゃったりしたら……

 

 悶絶レベルじゃないですかそれーーーっ!

 

 やべぇ! 今すぐ写真に収めなきゃ!

 

 俺の携帯電話のカメラじゃ画素数が少ないし……こうなったら後先考えずに青葉を呼べぇぇぇっ!

 

 そしてすぐに写真を使ってファンクラブホームページの作成に入るんだっ!

 

 愛宕犬化計画発動だーーーっ!

 

「……あたご先生、なんだか先生がやばい雰囲気を醸し出しているんですけど」

 

「男の人ってたまにこうなっちゃうのよ~。こういうときは、そっとしておいてあげるのが一番なの~」

 

「そうですか……しおい、ちょっとだけ幻滅しました……」

 

「……って、ストップストップ! 別に怪しくもなんともないですからっ! ちょっとだけ妄想に耽っていただけですからっ!」

 

 二人の冷ややかな目に気づいた俺はすぐに我に戻って、慌てて弁明をする。

 

「それじゃあ、その妄想って何だったんですか?」

 

「え……っと、そ、それは……その……」

 

 見事なしおいのツッコミに後ずさる俺。

 

 やばい、ここを上手く切り返さないと、俺の信頼が一気にマイナスになりかねない。

 

「言えないってことは、やっぱり疚しいことなんじゃないのですか?」

 

 俺を追い詰めるようにジト目を送りながら詰め寄るしおい。

 

 この場を切り抜けないと……マジでやばいっ!

 

「じ、実は……」

 

「実は、なんですか?」

 

「そ、その、夜の……歓迎会の料理が楽しみだなぁ……なんて……はは、ははは……」

 

 俺の乾いた笑い声だけが辺りに響き、

 

「キャンッ!」

 

 メンチの泣き声にあきつ丸が反応し、服ごと首が後ろに引っ張られた――のだが、

 

「「「じゅるり……」」」

 

「………………」

 

 前方と後方の両側から、全く同じタイミングで舌なめずりをする音が聞こえ、

 

 慌てて口元を拭う、愛宕としおいの姿が見えた。

 

 

 

 

 

「それなら仕方ないですねー。しおいも思わずよだれが出ちゃいましたし」

 

 少し頬を赤く染めながら恥ずかしそうに言ったしおいは、苦笑を浮かべながら後頭部を掻いていた。

 

 な、なんとかごまかすことができたみたいだな……

 

「あきつ丸も凄く楽しみでありますっ!」

 

 そう言って俺の服をグイグイと引っ張っているあきつ丸だが、そんなにすると服が伸びるだけじゃなくて首がマジで痛いんだけど。

 

 さすがにこれ以上は仕事にも影響が出てしまうと思った俺は、止めるようにお願いしようと思って首を後ろに向けた。

 

「あ、あきつ丸。できれば服を引っ張るのは……」

 

 言おうとして、ふと鼻に何かを感じとった俺は言葉を止めた。

 

 何か――ほんの少し食べ物の匂いがするんだけれど。

 

「ど、どうしたでありますか、先生?」

 

「ん……っと、美味しそうな感じじゃないんだけど、何か……匂いが……」

 

「匂い……でありますか?」

 

 頭を傾げたあきつ丸は、先程の愛宕と同じように鼻をひくつかせた。

 

 

 

 クンクン……

 

 

 

 犬のように鼻を小刻みに動かし、左右に首を振って確かめる。

 

「確かに……なんとなく匂いがするであります……」

 

「キャンッ!」

 

「ひっ!」

 

 そう言ったあきつ丸に返事をするようにメンチがまたもや鳴き声をあげ、思いっ切り服を引っ張られた。

 

「うげっ!?」

 

 く、首が……変な風に曲がって……うぐぐ……

 

 あきつ丸は完全にメンチにトラウマレベルの恐怖を感じているようだ。昼食のときは愛宕に、昼寝の時間はメンチに……って、初日から踏んだり蹴ったりである。

 

 これはサポートをしてやる必要があるな……と思いながら首をさすっていると、愛宕が声をかけてきた。

 

「あきつ丸ちゃん、懐の……そう、胸元辺りに何か入れてないかしら~?」

 

「胸元……でありますか?」

 

 そう言って、自分の胸の辺りを服の上から両手でまさぐったあきつ丸は、途端にびっくりした表情を浮かべて「あっ……でありますっ!」と大きな声を上げた。

 

「そ、そうでありましたっ! これのことをすっかり忘れていたでありますっ!」

 

 言って、胸元から小さな紙袋を取り出したあきつ丸は、洞窟に潜って宝物を見つけたトレジャーハンターのように、高々とそれを掲げた。

 

「それは……いったいなんだ?」

 

「これは非常食でありますっ!」

 

 ――と自慢げに笑みを浮かべたあきつ丸に向かって、メンチがいきなり「キャンキャンッ!」と吠えまくった。

 

「こ、こここ、怖いでありますっ!」

 

 そしてすぐに俺を盾にするように隠れるあきつ丸。その動作で紙袋が俺の顔に近づいた際、微かに香っていた匂いが鼻に直接舞い込んできた。

 

「……この匂いは、もしかしてビーフジャーキーか?」

 

「そ、そうであります。陸軍からこちらにくる際に、お腹が減ったときのことを考えて……」

 

「キャンキャンキャンッ!」

 

「はうはうっ!」

 

 メンチの鳴き声に身体をガタガタと震わせるあきつ丸の頭を優しく撫で、俺はなるほど……と頷いた。

 

「つまり、メンチはこの匂いが気になって仕方がなかったんだな」

 

 俺はどうりで愛宕が鼻をひくつかせていた訳だと納得し、小さくため息を吐く。

 

「あっ、なるほど! それであきつ丸ちゃんに飛び掛かっちゃたんだね」

 

「多分それが正解だと思いますよ~」

 

 しおいや愛宕の頷く姿を見てから、あきつ丸は手に持った紙袋と俺の顔を交互に見てからメンチの方へと視線を向けた。

 

「そ、そうなのでありますか……?」

 

「キャンッ!」

 

 返事をするように鳴いたメンチを見たあきつ丸は、少しだけ肩を震わせる。

 

「ほら、あきつ丸。メンチの尻尾を見てみるんだ」

 

「し、尻尾でありますか……?」

 

 愛宕に抱かれたままのメンチは、先程よりも激しく尻尾をバタバタとばたつかせ、つぶらな瞳をキラキラとあきつ丸に向けていた。

 

「は、激しく振っているであります……」

 

「そうだよな。メンチはあきつ丸が持っているビーフジャーキーが欲しくてたまらないと思っているだろうけど……どうする?」

 

 俺はそう言ってあきつ丸に笑いかける。

 

 あきつ丸の身体はいつの間にか震えが止まり、泣きそうな表情から疑問の顔へと変わっている。 

 

「あ、あげても……良いでありますか……?」

 

「ええ、少しだけなら大丈夫よ~」

 

「そ、それなら……」

 

 言って、あきつ丸は紙袋から取り出した一枚のビーフジャーキーの手に持って、愛宕の前へと歩いて行った。

 

「はい、メンチちゃ~ん。お利口さんにしましょうね~」

 

 愛宕の手から地面に下ろされたメンチは姿勢正しくおすわりをし、あきつ丸の顔を見上げている。

 

 ゴクリ……とあきつ丸が唾を飲み込むような仕種をした後、少し震える手でメンチの目の前にビーフジャーキーを近づけた。しかし、メンチは愛宕が言った通り『お利口さんにする』という命令を聞き、じっと動かずに見上げたままおすわりを続ける。

 

 ただし、口の横からは尋常じゃないよだれが垂れてきているんだけど。

 

「え、えっと……食べて良いであります」

 

「キャンッ!」

 

 その声を聞いた瞬間にメンチは一吠えし、あきつ丸の手を噛まないようにビーフジャーキーの端っこにかぶりついた。一瞬ビックリしたあきつ丸だが、ゆっくりと手を離してビーフジャーキーをメンチに預けると、尻尾をバタバタと左右に振って大喜びで食べ出した。

 

「す、凄く嬉しそうに見えるでありますっ!」

 

「そうだな。あきつ丸のおかげだって喜んでいるんだよ」

 

「そ、それは嬉しいでありますっ!」

 

 満面の笑みを浮かべたあきつ丸は、メンチと俺達を交互に見ながらはしゃいでいた。

 

 どうやら、メンチに対する恐怖心は薄れたのだろうと俺は安心し、ニッコリと笑みを浮かべる。

 

 愛宕もしおいも、同じようにあきつ丸とメンチを見ながら微笑んでいた。

 

 

 

 これで一段落ってところかな……と思っていたんだけれど、

 

 

 

「……ごくり」

 

 唾を飲み込むような音に気づいた俺は、愛宕の視線があきつ丸の紙袋に一点集中しているのを見てしまい、何とも言えぬ心持ちになってしまったのであった。

 

 

 

 やっぱり……犬化……?

 




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次回予告

 愛宕犬化計画発動……は、残念ながら致しませんが。

 歓迎会を開くことになった。
喜ぶ子供達と鳳翔さんの食堂へ行く。
更には園児達だけでなく、飛び入り参加も追加して、楽しい宴は続いてく……

 そう、思っていた。


 艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ その10「悪夢への序章」(完)

 乞うご期待!

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