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昼食後のお昼寝タイム。そして洗濯タイムへと。
しおいに仕事を教えながら、俺はいつものように仕事をこなしていた。
一段落して休憩中。
しおいが昼食中に俺の顔色が変わったことを指摘する。
過去の自分の考えや、今までの出来事を話すうちに……とんでもない情報がもたらされたっ!?
風に舞う真っ白なシーツ。
これは毎日見かける光景だ。
昼寝の時間に子供達を寝かしつけた後、決まって俺がする仕事は選択したシーツを干す作業である。
ただ、いつもと違うのは、
「よっと……これで良いですよね、先生」
「うん、それで大丈夫。後は乾くまで放っておけばいいから、しばらくは休憩かな」
俺が見本となって、しおい先生に仕事を教えているということだ。
あれから気絶していたしおいを叩き起こした俺は、二人で洗濯物を干す作業をしていた。仕事内容は洗濯物を干すだけの簡単な作業だが、子供達全員分の布団のシーツを洗うとなると、その量は結構ある。そのため、選択をする愛宕と干す作業をする俺に分かれていたが、しおいが加わったことにより、休憩時間が少し多めに取れそうだった。
「ふぅ……」
ふわりと舞うシーツを見ながら、俺は段差に腰掛けた。その姿を見たしおいも、俺と同じように隣に座る。
「先生、ちょっと聞いても良いですか?」
「ん、何かな?」
「さっきの昼食の時間のことなんですけど……」
しおいがそう言った途端、俺は思わず頬をかきむしった。愛宕に続いてしおいまでメイド服のことを言ってくるのかと思い、心の中でため息を吐きそうになったのだが、聞こえてきたのは予想外の言葉だった。
「あきつ丸ちゃんが天龍ちゃんに納得できないと言ったとき、先生の表情が変に見えたんですけど……何かあったんですか?」
「そ、それ……は……」
問いかけるしおいの表情は真剣で、冗談で逃れられるような雰囲気には見えなかった。俺はどうしようかと戸惑っていたが、別に隠す必要があるところは少しだけであり、そこさえ話さなければ大丈夫だろうと思いながら口を開く。
「俺は昔……深海棲艦に襲われたことがあってね……」
「それって、ヲ級ちゃんを連れて帰ってきたことですよね?」
「いや、それより随分前。小さい頃……ここにいる子供達よりかは大きかったけど、家族で旅行に出かけていたときなんだ。
ここからそう遠くない沖合で、初めて深海棲艦の存在が明らかになった事件。あの客船に……俺は乗っていたんだよ」
「は、初めの事件に客船……そ、それって……」
額に汗を浮かべたしおいに向かって俺は頷き、続けて口を開いた。
「そのとき、俺以外の家族は犠牲になった。というか、俺以外の生き残りは殆どいなかったんだけどね」
「………………」
「そして、俺はそれから親戚筋を転々としながら家族の仇を討つべく、ひたすら勉強したんだ。深海棲艦を根絶やしにするため、提督になってやるってね」
俺は苦笑を浮かべながら、言葉を続ける。
「そして一昨年に行われた全国緊急採用試験に受かった俺は、ここ、舞鶴鎮守府に提督として配属される――はずだった。
ふたを開けてみれば、書類のミス……じゃないんだけど、提督ではなく幼稚園の先生として採用されていたんだよね」
「そう……だったんですか……」
「そこで俺は愛宕先生に怒鳴ってしまったんだ。家族の仇を討つために必死で勉強してきたのに、何で提督じゃなくて幼稚園の先生なんですかって。これじゃあ、深海棲艦を倒すことなんてできないじゃないですかってね」
しおいは黙ったまま俺の言葉に耳を傾け、時折頷く仕草をする。
「そんな俺に、愛宕先生はこう言ってくれたんだ。
その思いを艦娘達に託すのは、同じことじゃないのでしょうか? ――ってね」
「………………」
「そして知らされた。艦娘に託すのは提督も同じ。なのに俺は、その考えも、思いも持っていなかった。つまりそれは……」
「……兵器と同じ」
聞こえるか聞こえないかの呟きが、しおいの口からこぼれ出す。俺は真剣な表情でコクリと頷き、口を開く。
「――そう。艦娘を兵器として、道具としてしか見ていなかった。だけど子供達と触れ合うことによって、彼女たちは俺と同じ……生きているんだって実感できた。
もし、それを知らないまま提督になっていたらと思うと、背筋に寒気が走っちゃうよね……」
「いえ、それを分かってくれていない人は……たくさんいます。そして、今もそれは……」
言って、しおいは悲しそうな表情で俯いた。
「だからこそ、俺はこの幼稚園の先生として働くことに決めたんだ。一人の人間として、そして何よりも子供達のために、元気よく一人の艦娘として育ってほしいからね」
「……うん。そうですよね」
俺の言葉に頷いたしおいは笑みを浮かべる。しかしすぐに「あれ?」と声を上げて問いかけてきた。
「でもそれって……先生が変な顔をする理由としては弱くないですか? 確かに天龍ちゃんが料理をすると言ったことにあきつ丸ちゃんが納得できないと言い出したとしても、別にそれぞれの性格を考えれば問題は無さそうに思えるんですけど……」
「あー、うん。そうだけど……さ……」
地味に鋭いな……しおいって……
さて、どう答えて良いものか迷うのだが、勘が良いことを考えると、しおいに隠し通すのも難しいかもしれない。
俺は小さくため息を吐いてから、真顔でしおいを見つめながら言葉を発した。
「今から……言うことはさ、できれば内密にお願いしたいんだけど……」
「え、えっと……な、なんでしょうか?」
「これを他の人に知られちゃうと、ちょっとまずいことがあるかもしれなくてさ……」
「そ、それって……その……ええっと……心の準備が……」
しおいはそう言って、大きく深呼吸を繰り返した。
内密にとは言ったけど、そこまで緊張することじゃない気がするんだけど……
「……よし、大丈夫です。先生の気持ち……聞かせてくださいっ!」
「………………」
……あれ? なんだかしおい……勘違いしちゃってない?
ほんのり頬が赤いし、この表情って……この前の青葉のときのような……
「あ、あのさ……しおい先生……?」
「は、はいっ!」
「か、勘違いしているかもしれないんだけど、今から俺が愛の告白……なんてことはしないからね?」
「………………あれ?」
「完全に勘違いだからね?」
「………………乙女心をもてあそばれましたっ!」
「人聞き悪過ぎやしませんかっ!?」
全然勘良くないじゃんっ! ただの思い違いじゃんっ!
「と、とりあえず話を続けたいんだけど……良いかな?」
「うぅ……良くないけど……仕方ないです……」
ウルウルと涙を流しつつ恥ずかしそうにするしおい。いやはや何ともいたたまれないんだけど、そんな勘違いをするような喋り方じゃなかった気がするんだけどなぁ。
とりあえず気分を戻しつつ、俺は話を戻して喋り始める。
「俺がヲ級を連れて帰ってきたのはみんな知っていると思うんだけど、その経緯については知らないよね?」
「えっと、先生が出張で出かけた際に、深海棲艦に襲われた話ですよね?」
「うん。その辺くらいは……まぁ、知っているか」
「いえ、詳細もバッチリ知ってますよ?」
「……え、なんで?」
それはおかしいだろう。詳しいことを話したのは、ヲ級を連れて帰ってきて真っ先に向かった指令室で、元帥と高雄、それに愛宕に護衛で居た翔鶴、瑞鶴の前だった。もちろん高雄はあのときの話を厳重に口止めしていたはずだから、漏れているような感じは今も無いんだけれど……
「だって、青葉新聞で鎮守府内の殆どの人が知ってますから」
「……またあいつか」
――と呟いてから、先日のことを思い出して冷や汗をかく俺。
まさかとは思うけど、その新聞に……あのことは書いていないよな……?
「ち、ちなみにその内容について教えてくれないかな?」
「えっと……良いですけど……」
そう言ったしおいは、思い出す仕草をしながら口を開き始めた。
「先生が佐世保に出張に出かけた際に輸送船が深海棲艦に襲われ、護衛の漣は中破して遠征は失敗。更に漣のフォローをしようとした先生が誤って海に転落し、行方不明になった……ですよね?」
「うん……殆ど間違いはないかな」
「新聞が出た数日後に漣が一時行方不明になったんですけど……まぁ、これは別に良いですよね」
「ちょっと待って。それはまったくの初耳なんだけど?」
「え、そうなんですか? 結構有名な話なんですけど……」
鎮守府に戻ってから一度も漣を見なかったのって、顔を合わせるのが気まずいから避けられていると思っていたんだけど、そうじゃなかったのっ!?
「そ、それって……やっぱり遠征任務の失敗が原因で……左遷させられたりとか? あっ、でも、一時行方不明ってことは戻ってきているんだから……」
「ええ、もちろん今は……普通に任務に就いています。漣のオシオキは高雄秘書艦が地獄の訓練フルコース×一週間で済んだらしいですけど、その後数日寝込んだだけですし。その後なんとか通常任務に戻ったんですけど、任務終了後の空き時間に行方不明になったみたいなんですよね」
「……そ、それって大事だけど、ちゃんと戻ってきたんだよね?」
「はい」
つまり、高雄のフルコースで心労の末、一時的に逃げ出したのだろうか?
でもそれって、更にフルコースを食らっちゃう気がするんだけど……
「やっぱり先生人気って凄いですよねー」
「……何でいきなりそんな話になっちゃうの?」
「えっ、だって、漣の一時行方不明は、先生ファンクラブ会員が起こした事件って言われてますよ?」
「………………」
ちょっと待て、全然それは、知らないぞ?
………………
つーか、俺のファンクラブってあったのーーーっ!?
驚き過ぎて、またもや五・七・五だよっ! 久しぶりにやっちゃったよ――って、元々ヲ級ネタじゃんっ!
「い、いやいや、さすがにそれは考えすぎじゃないかな……?」
俺は苦笑いを浮かべながら言ったのだが、しおいは顔を左右に振る。
「もしかして、先生のファンクラブの存在を……知らなかったんですか?」
「知らないも何も、今ここで初めて知ったんだけど……」
「そうだったんですかー。なるほどなるほど」
両腕を胸下で組んでウンウンと頷くしおいだが、いったい何を納得しているのだろうか。それ以前に、当の本人が知らないファンクラブの段階で問題ありだと思うんだけど、それに対するツッコミなんかは……期待できないよなぁ。
「これでハッキリしました。先生は、青葉新聞のことを今までご存じなかったんですね?」
「う、うん。そうなんだけど……」
正直、その存在を知ったとしても読みたいとは思わない。まず間違いなく、読んだ時点で発狂してしまうのが想像できてしまうからであるが……放置しておくのも問題だろう。
昨日助けてやろうと思ったこと自体が間違いだった。あの後なぜか変な雰囲気になってしまったけれど、それよりも先に強烈なオシオキをしておくべきだったのだ。
今後悔しても仕方ないが、次会ったときにはしっかりと……言い聞かせなければならないのだが……
「ところで、話を戻しちゃって構いませんか? 漣の件で逸れまくっちゃいましたけど……」
「あ、うん。よろしく頼むよ。確か……俺が船から落ちて行方不明になったってところだよね」
「先生自身がそう言うのも変な気がしますけど……まぁ、いいですよね。
それから先生は深海棲艦に海底まで連れられて、強制労働させられることになったと新聞に書いてました」
「あながち間違っていないかな」
やっぱり変だ。
青葉が書いた新聞という時点で怪しいけれど、書かれていた内容に関して正確性が高い。つまりこれは、あの時の情報が青葉に流れてしまったということになるのだが、いったい誰がそんなことをしたのだろうか。
「それから先生は、同じように海底で強制労働させられていた人達と協力しながら、脱出計画を練ることにしたんですよね。少ない食料を分けながら励まし合ってチームを作り、欲望に負けずに我慢の連続……しかし、その行動が深海棲艦の親玉に知られそうになってしまいますっ!」
………………
いやいや、ちょっと待て。
そんなことは一切無かったし、そもそもどこかで聞いたことがあるような話になってないか?
「そこで先生は、自らの身体を使ってその親玉を……その……肉欲で満足させて……注意を逸らします。そして、ついには深海棲艦に洗脳されている人間のリーダーとサイコロを使ったギャンブルで一騎打ちっ!」
「完全に作り話だーーーっ!」
「えええっ!?」
「なんだよそれっ! 俺が自分の身体で深海棲艦の親玉を籠絡させるとか……完全にR18指定になっちゃうじゃんっ! つーか、所々突っ込もうかどうか迷っていたけど、その話って海底じゃなくて地下だよねっ!? 借金まみれでさらわれた顎の尖ったギャンブル狂いの青年がなんとか這い出していく話のパクリだよねっ!?」
この後は高レートのパチンコで勝負なんかやる気ねぇよっ!?
「そ、そんな……みんなハラハラしながら読んでいたのに……嘘だったなんて先生の馬鹿っ!」
「なんで俺が怒られるのっ!?」
涙目で俺を睨みつけるしおいだけど、完全にお門違いじゃんっ! 悪いのは青葉なんだからさぁっ!
とにかく誤解を解かなくては話にならないと、俺は今にも泣きじゃくりそうなしおいを宥めすかせることになってしまった。
……踏んだり蹴ったりだよ……俺。
※「艦娘幼稚園 ~遠足日和と亡霊の罠~」の通信販売を行っております!
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次回予告
まさかのファンクラブ……しかし、それ以上に驚いてしまった青葉の捏造に怒り、凹む主人公。
そんな中、話を続けていくうちに、しおいからとんでもない情報がもたらされた。
艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ その7「思い出したくなかった人物」
乞うご期待!
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