艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 サブタイトル見直して思ったこと。どうしてこうなった。



 それでは皆さんに、お弁当を配りまーす。

 それはいつもの風景。
 ただし、今日から二人……増えていたのが問題だった?


その4「リナと億泰、そして唯律」

 

「結構……っ、量があるんですね……っ!」

 

「子供達と愛宕先生、それに俺としおい先生の分のお弁当だからね」

 

 額に少し汗を浮かべたしおいが、緊張気味に口を開く。

 

 俺達は、みんなの昼食である鳳翔さんが作ってくれたお弁当を持ちながら、子供達が待つ部屋へと向かって歩いていた。俺は両方の手に風呂敷包みを二つ、しおいは両手で一つの包みを抱えている。

 

「でも、しおい先生が居てくれて助かるよ。いつもは二回往復しないと持ちきれなくってさ」

 

「そうですよね。さすがにこの量を一回で運ぶのは……無理ですよっ!」

 

 艦娘は人間よりも力が強いから、そんなことはないだろうと昔は思っていたのだけれど、結局のところ単純に力が強くても持ち運ぶ方法が同じならば、それほど対した差がつくことは無かった。しおいのように両手で抱えて包みを持ち運ぼうとしても、俺が持てる倍の量を運ぼうとするならば高さが増えてしまい、力以外にバランス能力も必要になってくる。もちろん艦娘はバランス能力も優れている者が多いが、落とさないように気をつけて歩くとなると、速度が遅くなってしまうのだから結局あまり変わらないのだ。

 

 まぁ、それでもそつなくこなす艦娘もいるんだけどね。

 

「お待たせみんなー。お昼ご飯を持ってきたぞー」

 

 行儀は悪いが、足で扉を開けた俺は子供達に向かって声をかける。

 

「「「わーーーいっ!」」」

 

 満面の笑みで喜ぶ子供達を見ながら包みをテーブルに置く。

 

「先生、しおい先生、ありがとうございます~」

 

「いえいえ。愛宕先生も、席の準備をありがとうござます」

 

 愛宕に礼を返してニッコリと笑ってから、風呂敷包みをほどいて弁当箱を取り出した。

 

「それじゃあしおい先生、みんなの席にこれを配ってもらえるかな?」

 

「わかりましたっ、任せてくださいっ!」

 

 ビシッと敬礼をしたしおいは、弁当箱を抱えて俺の言った通りに配っていく。俺は先に愛宕が用意していてくれたお茶の入ったやかんを持って、しおいとは反対方向で子供達の席にあるコップに注いでいった。

 

 そうして全員にお弁当とお茶が行き渡った後、俺達先生陣も自分の席に座り、愛宕が両手を合わせながらみんなに声をかけた。

 

「はい、みなさん準備ができましたので、いただきますをしましょうね~」

 

「「「はーい」」」

 

「それでは、今日も鳳翔さんにありがとうございます~」

 

「「「ありがとうございますっ!」」」

 

「ではでは、いただきま~す」

 

「「「いただきまーすっ!」」」

 

 子供達も両手を合わせて小さくお辞儀をしてから、お箸を持ってお弁当のふたをパカッと開けた。その様子を見てから、俺も同じようにして中身を見る。

 

 本日のお弁当は全体の半分がごはんであり、その上が色鮮やかな三色そぼろで埋めつくされている。おかずのスペースには子供達が大好きな甘酢のミートボールが団子状に串に刺さっており、人参のコンソメ煮が添えられている。他にもマッシュポテトとベーコンのマヨネーズチーズソース和え、ミニトマトとレタスのプチサラダなど、バランスも完璧なお弁当だ。

 

「うわぁ……こ、これはすごい……」

 

 俺の心境を語るように、しおいはお弁当のふたを持ったまま呟いた。食堂では各皿に盛りつけられて食べているが、これは子供達のためにお弁当箱に詰めてもらっているので、見た目のインパクトがまず違うのだ。もちろん、お皿で出てくる料理と変わらないのだけれど、お弁当には一つの箱に全てを収めるという美学的なモノがあり、しおいが感嘆するのも分かる気がする。

 

「食べるのがもったいない気がするけど……それ以上に食べたいですっ!」

 

「あー、うん。別に食べちゃだめって言われている訳じゃないんだけどさ」

 

「はっ、そうでしたっ! では早速いただきますっ!」

 

 言って両手をパシンと音が鳴る勢いで合わせたしおいは素早くお箸を右手で持ち、行儀が悪いのだが迷い箸でどれから食べるか悩んだ末、まずは三色そぼろのご飯を頬張った。

 

「うみゅーっ、美味しいーーーっ♪」

 

 うみゅーってなんだ。うみゅーって。

 

 気持ちは分からなくはないけど、いきなり聞くときになっちゃうじゃないか。

 

「甘辛そぼろ肉と卵の相性が最高ですっ。そして桜でんぶの甘さもたまりませんっ!」

 

 ノリノリだなぁ……しおい……

 

 まぁ、鳳翔さんのお弁当を食べたのが初めてなら、分からなくもない。なんせ、俺も最初はハシャぎ過ぎちゃったし。

 

 ………………

 

 はて、そう考えてみれば、もう一人鳳翔さんのお弁当……どころか、料理自体が初めてじゃないかという子が居るはずだが……と、俺はあきつ丸がどんな反応をしているのか気になって、座っている方へと顔を向けた。

 

「………………」

 

 席に座ってお箸を空中にぶら下げたまま固まるあきつ丸。

 

 視線はお弁当に向いたまま。心なしか、手が小刻みに震えているように見えるのだが……

 

「……あきつ丸ちゃん、どうかしたのですか?」

 

 向かいに座っていた電が心配そうな表情で問いかけた途端、あきつ丸は急にお箸を席に叩きつけるように置いて立ち上がった。

 

「ん……」

 

 みんなが注目する中、あきつ丸は小さく呟きながら肩をガタガタと震わせる。

 

「「「ん……?」」」

 

 問い返すように子供達が呟き返し、俺は焦りながらあきつ丸に駆け寄ろうと席を立った。

 

「だ、大丈夫か、あきつ丸!?」

 

 もしかすると、お弁当の中にアレルギーを起こしてしまうモノが入っていたのかもしれない。もしそうだったのならば、早く吐き出させるべきだと思った俺は、ポケットのハンカチを取り出した瞬間だった。

 

 

 

「ん……まあああぁぁぁぁぁっっっいぃぃぃぃぃっ!」

 

 

 

 怒号のような叫び声が部屋中に響き渡り、何人かの子供が反射的に耳を塞ぐ。

 

「何なのでありますかこのお弁当はっ! ミートボールの甘酢の甘みは……まさかの和三盆っ!? 醤油は間違いなく鰹出汁を利かせたオリジナルっ!」

 

 言って、あきつ丸は立ったまま箸を持って人参を口に頬張った。

 

「コンソメ……いや、それはスープでありますからして、これはフォンドボーでありますっ! 丁寧に下拵えをして炙った子牛の骨、それに香味野菜を加えてコトコトと長時間煮て出した出汁を贅沢に使ったこの一品は……もはや三ツ星ホテルの料理長ですら裸足で逃げ出すレベルでありますっ!」

 

 呆気に取られる俺達を気にすることなく、あきつ丸は続けてマッシュポテトとベーコンのマヨネーズチーズソース和えを口に入れた。

 

「蒸かしたジャガイモの舌触りをきめ細やかにするため、綺麗に皮を剥いてから裏ごしするという手間のかかりようっ! 更にマヨネーズソースもほんの少しマスタードを入れてアクセントにっ! そして最後に粉チーズを投入してオーブンで焦げ目を……感動でありますっ!」

 

 お箸を口に加えたまま号泣するあきつ丸を見て、完全に子供達やしおいが固まっていた。

 

 ……もちろん俺はハンカチを持ったまま、あきつ丸のすぐ横で立ち尽くしているんだけれど。

 

 いったいどうすりゃ良いんだ……この状況は……

 

 とりあえず、詳しすぎるぞあきつ丸……とでも突っ込むべきなのか……?

 

「あきつ丸ちゃん~」

 

 ――と、途方に暮れかかっていた俺の意識を呼び戻してくれたのは、自分の席に座ってニッコリと笑みを浮かべていた愛宕だった。

 

「ハッ……ん、あ、なんであります……か……」

 

 あきつ丸も愛宕の声で我を取り戻したのか、なぜか敬礼をして愛宕の方へと顔を向けたのだが……

 

「お食事中は、あまり騒がないようにお願いしますね~」

 

「は、ははっ、ハイッ! 了解でありますっ!」

 

 完全に目だけが笑っていない愛宕に恐れをなしたかのように、あきつ丸は慌てて席に座って姿勢を正し、身体中を小刻みに震わせながらお箸を動かしていた。

 

 ……うむ。未だ愛宕のニッコリ笑ってマジ怒り……は、健在だな。

 

 俺は小さくため息を吐きながら自分の席へと戻る。

 

 もちろん、愛宕のその顔を見た訳であるからして、

 

 バッチリと、この前の青葉に対して怒った場面を思い出したからであり、

 

 両足が武者震いしまくっていたのは、ここだけの話である。

 

 情けないったりゃありゃしないってことですよねー。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで昼食を食べ始めて暫く経ち、何人かの子供達はお弁当を空っぽに平らげ終えた頃、ふと天龍が龍田と話をしだした。

 

「本当に鳳翔さんのお弁当は美味しいよな……」

 

「そうよね~。毎日絶品料理に満足よね~」

 

「俺も……いつかはこんな料理が作れるかな?」

 

「天龍ちゃんも頑張れば作れるようになるかもしれないわね~」

 

「そ、そうだよなっ! 美味い料理を作って先生に食わせれば……萌え萌えキュンになっちゃうよなっ!?」

 

「それはどうかしらね~」

 

 目をキラキラさせながら天井を見上げる天龍。たぶん、自分が作った料理を思い浮かべているんだろうが、それ以上に後半の言葉が気になりまくった。

 

 萌え萌えキュンって……なぁ。

 

 メイド服に着替えた恥ずかしがり屋のベーシストじゃないんだぞ……?

 

 間違って両手でハートマークを作ってビームとか出さないぞ……?

 

 ………………

 

 いや……待て。

 

 愛宕が……その格好で……そのポーズを取ったら……

 

 ………………

 

 鼻血……出そうなレベルじゃなく、悶絶死しそうだぞ。

 

 もちろん、幸せすぎてだぞっ!

 

「ごちそうさまであります……が、ちょっとさっきのは納得できないであります」

 

 行儀よく手を合わせてお弁当のふたを閉じたあきつ丸が、天龍に向かってハッキリと言い放った。

 

「ん、どういうことだそりゃ?」

 

 そして不機嫌そうな表情を浮かべた天龍と……ニッコリ笑いつつも目が怖い龍田があきつ丸を見る。

 

「確かに鳳翔さんの料理は美味しい。これは認めるであります。陸軍ではこのような絶品料理どころか、普通レベルの食事すらでなかった始末。ごはんに至っては古米ではなく更にそのまた古米。ぶっちゃけて酷過ぎたであります」

 

「それだったら別に問題ないじゃないかよ。ここでは美味い飯が食える。それでハッピーじゃ……」

 

「あきつ丸が納得できないのは、天龍殿の発言であります」

 

「俺の発言?」

 

 なんだったかな……と言わんばかりに思い出そうとする天龍だが……って、自分が今さっき言ったことを忘れるのはどうかと思うのだが。

 

「あ……もしかして、萌え萌えキュンか?」

 

 そして何でそっちが出てくるんだよ天龍は……

 

 あきつ丸が言おうとしていることは分かる気がする。俺がこの幼稚園に来るときと同じ、深海棲艦を倒すことばかりを考えていたあの時を。

 

 艦娘は深海棲艦に対抗できる唯一の存在。ならば、料理なんかよりもすべきことがあるんじゃないかと。

 

 陸軍からやってきて間もないあきつ丸なら、そのことを問いただすというのは想像できる。ましてや海軍と陸軍の関係性が昔のままだったとすれば、遺恨なども混じった教育がなされていた可能性すらあるだろう。

 

 しかし、俺は愛宕に諭され、子供達と触れあい、深海棲艦とも出会って考え方が変わった。戦うだけが艦娘じゃないということは身に染みて分かったつもりだし、なにより子供達や鎮守府にいる艦娘達のことを戦いのためだけの兵器として見るなんてことはできるはずがない。

 

 それをあきつ丸にも分かってほしい。今すぐ理解できなくても、心のどこかにそういう考えがあると知ってほしくて、俺は口を開こうとしたのだが……

 

「そうであります。しかし、萌え萌えキュンはグラマラスな女性であってこそ栄えるモノであります!」

 

「そっちであってんのかよーーーっ!」

 

「いや、むしろボッキュンボーンであります」

 

「俺が言うのもなんだけど、表現が古いよーーーっ!?」

 

 心配していたどころか、突っ込みを入れざるを得ないあきつ丸の発言に、俺の頭は激しい頭痛に見舞われる。ヲ級一人だけでも突っ込みに疲れるというのに、更にボケ担当が増えるとなると……耐えられそうにない。

 

「くっ……あきつ丸の言うことに否定できねぇ……っ!」

 

「何でそこで悔しがるのっ!?」

 

 握りしめた拳を机に叩きつける天龍は、苦悶の表情を浮かべ、

 

「……確かに、響もそう思うよ」

 

「まさかの方向から同意が飛んできたーーーっ!」

 

 ついには子供達全員を巻き込んだ論争へと発展してしまったのである。

 





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次回予告

 もう一度言おう。どうしてこうなった。

 天龍とあきつ丸から始まった言い合いは止まる事を知らず、
 まさかのメイド服論争へと発展してしまう。

 更には聞き逃せない言葉に反応してしまった主人公によって……


 艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ その5「メイド服は多種多様」

 乞うご期待!

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