艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 いやはや、幼稚園でしちゃいけない会話だったね。

 突っ込み疲れの主人公。
自己紹介騒動は何とか終え、午前の授業に入らねばと気を引き締める。
――と、そんな矢先から問題発生。対処すべく一時部屋から離れたのだが……


その3「雨の日は」

 

 自己紹介の騒動をなんとかした……と言うよりかは半ば諦めた俺は、午前中の予定である算数の授業を開始することにした。

 

 ここからはあきつ丸を子供達と一緒にして、しおいを俺のサポートという形で授業を進めようと思った矢先のことだった。

 

「む……マジックのインクが切れてるな……」

 

 ホワイトボードに薄い黒色の線が描かれるが、かすれてしまって読み難い。これでは勉強に支障をきたしてしまうと、新しいマジックを探してみたのだが……

 

「予備がない……」

 

 近くにある備品棚に新しいマジックは無く、どうやら倉庫に取りに行かなくてはならないようだ。

 

 どうも自己紹介の時と言い、幸先が悪過ぎるんだよなぁ……

 

「どうしたんですか、先生?」

 

 不審に思ったしおいが俺に声をかけてきた。こういう時にサポートしてくれると助かる――と思ったが、今日初めて先生になったしおいに倉庫の場所や、マジックの置き場が分かるかどうかと考えると、自分で取りに行った方が早そうである。

 

「えっと、どうやら新しいマジックも切れているみたいなんで、ちょっと倉庫に行ってきます。その間、子供達を見ていてもらえないでしょうか?」

 

「ええ、分かりました。しおいに任せてくださいっ!」

 

 胸をドンッと拳で叩いたしおいは、胸を張って俺にそう答えた。

 

 うむ。なかなかの気合いっぷりである。これなら任せても心配なさそうだ。

 

 ――まだ先生になったばかりのしおいにいきなり子供達を任せるのも心配ではあるが、倉庫に行ってマジックを取ってくるだけならそれほど時間もかからないだろうから、様子見も合わせて良い機会だろう。

 

 それに、予備のマジックを切らしていたのは俺が悪いのだから、そのことについての失敗が目立ってしまうのも避けておきたい……と、俺はそそくさと倉庫に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 ――ということで、さっさと倉庫に行ってマジックを取ってきたのだが、何やら部屋の中ではしおいと子供達がワイワイと盛り上がっているようだったので、気づかれないように様子を伺ってみたのだが、

 

「なるほどねー。先生はおっぱい星人なんだー」

 

 ウンウンと頷くしおい――って、何を話してるんだっ!?

 

「そうなんだよなー。俺にもっとおっぱいがあれば……」

 

「天龍ちゃんがそう言うんだったら、毎日モミモミしてあげるわよ~?」

 

「そ、それは以前にも苦い思い出があるから、遠慮しとくぜ……」

 

「え~、残念~」

 

 あー、うん。色々と大変になっちゃうので、止めていただきたい。以前にも泣き叫びながら助けを求める天龍に、止めに入った俺を睨みつける龍田の目が……滅茶苦茶怖かったからな。

 

「まだ焦る必要はないんじゃないかな。僕達はまだ子供なんだし、大きくなればいずれは……」

 

 そう言って、時雨は胸元を手でさすっていたが……まぁ、小さいのだから仕方ないな。

 

 あ、もちろん、身体が小さいからという意味だからね――って、誰に弁解しているんだよ俺は。

 

「その通りデース! 大きくなってボインになるネー!」

 

「金剛っ、お姉さまはっ、間違いなくボインになりますっ!」

 

「榛名も負けませんっ!」

 

「フフフ……霧島の大きくなった姿……今から見せるのが楽しみです」

 

 そして張り切りまくる金剛四姉妹。未来予想をする金剛と榛名は元より、比叡と霧島は少し前まで大きな姿だったのだから、自分がどう成長するかは分かるのだろう。

 

 それに資料でみた限り、四姉妹は全員大きかったし……って、そうじゃなくてだなっ!

 

 なんでこんな話で盛り上がっちゃってんのっ!? そもそも俺がおっぱい星人だと誰が喋った……って、すでに周知の事実だったな……

 

 考えてみれば、色んな場面で決めつけられてしまっていた。不本意ではあるものの、実際には事実だから仕方がない。

 

 ……いや、そうだったとしても、さすがに授業中に話す内容ではないと思うんだけど。

 

 ここはしっかりビシッと言っておいた方が良いのかもしれない。しおいの教育係でもあるのだから、最初が肝心だからね。

 

 俺は軽く気合いを入れるために頬を叩き、勢いよく扉を開けた。

 

「ただいま戻りました……って、いったい何の話で盛り上がって……」

 

「おや、おっぱい魔神が帰ってきたであります」

 

「星人から魔神に変化しちゃってるっ!?」

 

「やはり盗み聞きしていたでありますな。扉の横の窓から、影がウロチョロしていたであります」

 

「う……ぐっ」

 

 図星を突かれてしまい、言い返せない俺。しかしあきつ丸はドヤ顔などを一切見せることなく、淡々と口を動かした。

 

「マジックを切らしていた挙げ句に新人の先生に我々を任せ、自分ことを噂されていると見るや盗み聞きして怒ろうとするとは……盗人猛々しいであります」

 

「なっ!? べ、別に怒ろうとかそう言うのでは……」

 

「ならばなぜ頬が赤いのでありましょう? それは気合いを入れるために、扉を開ける前に自らから叩いたからではないのですか?」

 

「う”っ……」

 

 あきつ丸の言うこと全てが言い返せない現実に、俺は冷や汗をかきながら黙ってしまう。

 

「自分の失敗を棚に上げてというのは感心しないであります。ただでさえ、憲兵に突き出されてもおかしくないでありますのに……」

 

「だ、だから子供達が言っていたのは……」

 

「それこそ棚に上げてではないのですか? みんなの教育係ならば、それこそしっかりと言い聞かせてこそ役目を全うしていると言えるでしょうに……」

 

「おい、あきつ丸。そろそろその辺でやめにしとかねぇか?」

 

 喋り続けるあきつ丸の言葉を遮るように天龍が一括し、部屋の空気が一変した。

 

「俺は別に先生が悪いとか言っているんじゃないんだ。それら全部をひっくるめて先生が良いからこそ、こういった話ができるんだぜ?」

 

「ふむ……つまりそれは、信頼しているということでありますな」

 

「その通りだ。そりゃあ確かに、情けないところもたくさんあるかもしんないけどよ、いざというときには頼りになる先生なんだぜ」

 

「なるほど。それは失礼したであります。以後、気をつけます故……」

 

 あきつ丸はそう言って、俺と天龍に頭を下げてから席に座った。

 

 こうして、俺を叩くような状況は収まったんだけれど……

 

 ………………

 

 やり辛ぇ……

 

 滅茶苦茶、空気が重いんだけど……

 

 潮は泣きそうな寸前だし、夕立も落ち着かないといった雰囲気でキョロキョロしているし、龍田は俺が追い詰められていた状況が収まって素っ気なくそっぽを向いているし、ヲ級や金剛四姉妹はあきつ丸を睨んでいるように見えるし……って、俺がちょっと部屋を離れている隙にとんでもない状況に陥っちゃてるんですけどねぇっ!

 

 これも、俺が予備のマジックを切らしていたせいと言われれば仕方ないんだけど、しおいに当たるわけにもいかないし、ここは何とかしなければならない。

 

 俺はゴホンと咳払いをして気持ちを切り替え、子供達が仲良くできるような方法を考えながら授業を再開することにした。

 

 

 

 

 

「えっと、つまりカゴの中にリンゴを3つとみかんを4つ入れたんだから、全部でいくつの果物が入っているでしょうかって問題なんだけど……天龍、分かるかな?」

 

「それって途中で食べちゃったりするのは無しだよな?」

 

「何で食おうとするんだよ……」

 

「天龍ちゃんは食いしんぼうだからね~」

 

「とりあえず、リンゴの皮をむいてから食いたいかな」

 

「だから、何で食おうと……」

 

「ぐだぐだになっているであります」

 

 

 

 

 

「それじゃあ気を取り直して……サッカーボールが3つ、野球のボールが4つあるから、これを全部袋に入れた場合に中にボールは何個あるんだけど……夕立、分かるかな?」

 

「えっと……ひい、ふう、みい……ななつっぽい!」

 

「よしよし、正解だ。夕立偉いぞ~」

 

「えへへ~。誉められたっぽい~♪」

 

「ふむふむ、なるほど……こうやって誉めつつ、子供達を落としているんですねっ!」

 

「なんでそっちにいっちゃうのかなっ!? 普通に勉強を教えているだけだよっ!」

 

「やっぱりぐだぐだであります」

 

 

 

 

 

「1+1=2。1+2=3。それじゃあ、1+3=いくつになるかな。それじゃあ……金剛」

 

「もちろん4デース! 私達姉妹の人数と一緒ネー!」

 

「ああ、確かにそうだな。すぐに答えも出てきたし、金剛の暗算力はなかなかのものだぞ」

 

「アリガトウゴザイマース! 暗算力だけじゃなくテ、安産力もバッチリデスヨー!」

 

「突拍子もなく危険なネタを振るのは禁止ーーーっ!」

 

「先生の突っ込み速度もなかなかのものであります。でも結局ぐだぐだであります」

 

 

 

 

 

「……それじゃあ、今日の算数はこの辺でおしまいです」

 

「「「おつかれでしたー」」」

 

 ガックリと肩を落として凹む俺。その理由は言わ無くても分かる通りあきつ丸の突っ込みと、それに対する子供達の顔色だった。険悪とはいかないものの、あきつ丸を見る子供達の表情はあまりよろしくない。一言多いのが問題なのだが、あれは性格的なモノも大きいだろうが、俺の授業の進行が悪いということも考えられるのだ。

 

 ある意味、仲良し同士のお遊戯だったかもしれないと諭されたが、明るく楽しく健康に育てるをモットーとしているだけに、できればこのまま続けていきたいのだが……

 

「うーん……なんだか先生って……その、無能……?」

 

「なにげにズバッと言っちゃうよね……しおい先生って……」

 

「回りくどいのが得意じゃないですからね!」

 

 胸を張って言うことじゃないと思うんだけど、分が悪いのは俺の方だしなぁ。

 

 しかし、しおいの教育係としてこのまま引き下がる訳にもいかない。ちゃんと先輩らしいところを見せて、尊敬されるようにならないと……色々と悲しくなってしまう。

 

 特に無能って言葉は……マジで止めて欲しいからね。

 

 雨の日の大佐じゃあるまいし。

 

「……っと、そろそろ昼だから、お昼ご飯の用意をしないといけないよな」

 

 腕時計を見て時間を確かめた俺は、子供達に準備をするように伝えてからしおいに声をかける。

 

「しおい先生、お弁当の受け渡しがありますので俺についてきてください」

 

「わっかりましたー」

 

 元気よく答えたしおいを引き連れて、部屋の外へと出る。

 

 俺たちが居ない間、あきつ丸と子供達が何かを起こさないと良いんだけどな……と心中穏やかでないまま、ひとまずしおいに昼食時の仕事の流れを教えることにした。

 





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次回予告

 それでは皆さんに、お弁当を配りまーす。

 それはいつもの風景。
 ただし、今日から二人……増えていたのが問題だった?


 艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ その4「リナと億泰、そして唯律」

 乞うご期待!

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