艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※こっそりとオリジナル小説を更新してたりします。
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またまた新章……というか、前章から続きますっ!

<艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~>


 しおいにプラスして、新たにやってきた人物の声。
みんなの前に現れたのは、小さな一人の子供と……もう一人。
その極端な差に、部屋に居た誰もが驚いた……?


~新規配属されました……であります~
その1「子供と大人の差」


 扉が開いたその場所に、二人の影が見える。

 

「失礼するでありますっ!」

 

 片方の影はそう言いながら敬礼をする。しかし俺が知っている海軍の敬礼とは少し違うことに、まずは驚きを隠せない。

 

 そして更なる驚きは、その影が部屋の中に歩いてきて初めて分かるモノだった。

 

「あきつ丸、ただいま艦娘幼稚園に着任したであります」

 

 そう言って再び敬礼を愛宕、そして俺やしおい、最後に子供達に見せる。落ち着いた口調にキビキビとした仕草。それら全てを目の前にいるあきつ丸が何一つ苦労もなくこなしているのだ。

 

 ――そう。子供の姿なのに――である。

 

 誤解がないように言っておくが、そういった子供が世の中にいるであろうことは理解しているつもりだった。例えば王族や貴族などの子であれば、礼儀作法は小さい頃から叩き込まれているだろうし、あり得ない話ではないだろう。この場所が有名私立幼稚園であり、そういった子がたくさん通っているならそれも当たり前だと感じてしまうかもしれない。

 

 だがここは艦娘幼稚園である。小さな艦娘の教育施設として最低限のマナーなどは教えてはいるが、あきつ丸がやったような敬礼や行進のような歩き方は、艦娘として着任する少し前に教えられるのだ。

 

 つまり、あきつ丸は周りにいる子供達とほとんど変わらないはずなのに、すでにそれを叩き込まれている――ということになるのだろう。もしかすると生まれは貴族という可能性も考えられなくはないだろうが、ここは艦娘幼稚園であるからして、それも限りなくゼロに近いだろう。

 

 それと、気になる点としては敬礼の形である。あれは海軍のモノとは違うはずだが……

 

「あ、あのっ、ま、まるゆも……あうっ!?」

 

 あきつ丸を追いかけて部屋に入ろうとしたもう片方の影が、何もないところで急に躓いて転んでいた。

 

「「「………………」」」

 

 周りを見てみると、あきつ丸の登場と転げたもう片方の人物に驚いたのは俺だけではなかった。子供達だけではなく、しおいまでもが固まり、ぽかんと口を大きく開けている。

 

 いや、この場合は驚いたというよりも、呆れているだけかもしれないが。

 

「あうぅ……ま、まるゆは……な、泣かないもん……っ!」

 

 そう言いながら起きあがるまるゆ。白いスク水のような服装で寒くないのかなぁと思ってしまうのだが、それ以上に気になるのは……

 

 明らかに、子供の大きさではないということだった。

 

 見た目は中学生くらいの女の子。凹凸は……残念ながらだが、しおいと年齢が一緒と言われれば納得できなくもない。

 

 つまり、あきつ丸とは違ってまるゆは普通の艦娘……ということだろうと思うのだが、

 

「あうっ! ま、また転んじゃいました……」

 

 そのあり得ないほどのドジっぷりに、どちらが子供なのだと問いただしたくなる空気が部屋中に充満していたのだった。

 

 

 

 

 

「はい。今日から新しいお友達として、あきつ丸ちゃんが幼稚園に通うことになりました~」

 

 愛宕の声にあわせてあきつ丸が小さく頭を下げる。決して隙を見せないようなその礼は、武道をしている者なのではないかと思わせるようである。

 

「改めましてあきつ丸であります。右も左も分からない若輩者ではありますが、これからよろしくでありますっ!」

 

 頭を上げてからそう言ったあきつ丸。うむ、やはり子供とは思えない言動っぷりである。

 

 しかし、そこは子供達。少し驚きつつもすぐに笑顔を見せ、拍手をしながら「よろしくねー!」と大きな声をあげていた。

 

 そんな様子を見ていたホッとため息を吐く……まるゆだが、なんでここにいるのだろう?

 

 あきつ丸は編入しにきたと分かる。しかし、まるゆは子供では無く普通の艦娘――だと思う。若干自信は無いけれど、躓いてこけたり泣きそうだったりするのは単純に性格や特徴のような気がするんだよね。

 

 ………………

 

 言ってからなんだけど、これで艦娘の任務が務まるのかと思うと凄く心配になるんですが。

 

 その辺はまぁ、元帥辺りがしっかりするんだろうし考えなくても良いことかもしれない。

 

 それより俺が気になっているのは、あきつ丸もまるゆも、俺が提督になる為に勉強してきた艦娘のリストには載っていなかったと思うんだけど……

 

「ちなみにあきつ丸ちゃんは陸軍から編入してきたので、色々と違うところで戸惑うかもしれませんから、みなさんしっかりとサポートしてあげてくださいね~」

 

「「「はーい!」」」

 

「よろしくであります」

 

 愛宕の説明に手を上げて答える子供達。そしてもう一度頭を下げるあきつ丸。

 

 なるほど……そういうことなのか。

 

 陸軍の艦娘というのは初耳だし、勉強していた内容に無かった。過去では陸軍と海軍の関係は良好ではなかったらしいが、現在はそれなりなのかもしれない。そうじゃなかったら、海軍の施設内にある幼稚園に編入させる訳が無いと思うけれど、それならそれで前もって話があるのが普通なんだけど。

 

 しおいとあきつ丸が来ることに関して何も聞かされていなかっただけに不安が募ってしまうが、ただ単に愛宕が驚かせようとしただけかもしれないんだよね。

 

 こればっかりは当の本人しか分からないことなんだし、後で聞いてみることにしよう。

 

「それじゃあ、あきつ丸ちゃんがちゃんと幼稚園に編入できたので、まるゆの役目は終了ですね」

 

 そう言ったまるゆはぺこりと頭を下げて部屋から出ていこうと扉の方へと向かって歩いていったのだが、急にビクリと身体を震わせると俺たちの方へと振り返った。

 

「あ……あの……」

 

 その表情は今にも泣きそうに見え、小さな肩がガタガタと小刻みに震えている。

 

「ど、どうしましたか……?」

 

 俺は驚かせないように、優しく問いかけてみると、

 

「こ、こちらの鎮守府にいる……一番偉い人が居られるところはどこなのでしょうか……?」

 

 ――と、恐る恐る聞いてきたまるゆだった。

 

 ………………

 

 ほ、本当に大丈夫なの……この艦娘……?

 

「まるゆ殿、ここの最高司令官は元帥殿でありますと、さっきも教えたではありませんか。ちなみに居られる場所は、この建物から入り口の正門に向かって道なりに進んで角を曲がったところにある二階建ての建物であります」

 

「は、はうぅっ、そうでしたっ! ありがとうございます、あきつ丸さん!」

 

 言って、きびすを返したまるゆは急ごうと駆け足になったのだが、慌て過ぎた結果足をもつれさせてしまい……

 

「はわわわわっ!?」

 

 すってんころりん……と、効果音が似合う転けっぷりを再度披露し、結局泣きながら部屋を後にしたのであった。

 

「「「………………」」」

 

 もちろんその姿を子供達はしっかりと黙視しており、

 

「ああいう大人……というか、艦娘にだけはならないようにしないとな……」

 

 ――と、無情にも聞こえる言葉を発した天龍だった。

 

 もちろん、この場にいた子供達は、ウンウンと首を縦に振っていたのだが。

 

 なんというか……頑張れよ、まるゆ!

 

 

 

 

 

「それでは先生。しおい先生の教育係と、あきつ丸ちゃんの担当をお願いしますね~」

 

 朝礼が終わり、子供達が割り振られた部屋へと向かった後、残っていた俺に向かって愛宕がニッコリと笑みを浮かべながら言ってきた。

 

「え……と、俺が……ですか?」

 

 それ以前に二人がここに来ることを聞いていなかったんだけど……と言いたくなるのだが、しおいもあきつ丸も俺の顔をジッと見ていたので言葉を飲み込んだ。

 

「本当ならば私がしおい先生に色々と説明をしなければいけないのですが、これから少しやらなければならないことがありまして……」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべた愛宕は、顔の前で両手を合わせて「ごめんなさい」と謝った。

 

 ……そんなことされたら、断れないじゃないですか。

 

 いえ、嘘です。愛宕のためなら火の中でも水の中でも行きますし、海底に沈んで変態戦艦と戦ってきてやりますよ?

 

 ただし、あいつの相手は滅茶苦茶疲れるので、それなりのご褒美が欲しいですけど。

 

「それなら……仕方ないですね。分かりました。俺では力不足かもしれませんけど、精一杯頑張ります」

 

 ――とまぁ、内心で思っていることは伏せておいて、普通に返す俺。二人の手前ということもあるけど、さすがに今の考えは行き過ぎ感があるからね。

 

「いえいえ~。先生もここに着て一年以上経つのですから、もう大丈夫ですよ~」

 

「そ、そうですね。任せてください」

 

 褒めてくれたつもりかもしれないけれど、その言葉は逆にプレッシャーになっちゃいますよ……と、心の中で呟きつつ、しおいとあきつ丸の顔を見る。

 

「それじゃあ、ふがいないかもしれないけれど、これからよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。先生」

 

「よろしくであります!」

 

 元気よく挨拶をしたしおいと、敬礼するあきつ丸に笑みを浮かべた俺は、担当の子供達が待つ部屋へと案内すべく歩きだす。

 

 内心はドキドキしまくりなんだけれど、顔に出すわけにもいかない。しおいは俺の初めての後輩になる訳だし、無様なところは見せられない。何事も最初が肝心なのだから、失敗しないようにと静かに気合いを入れる。

 

 そういえば、この間も俺の担当として比叡と榛名と霧島が班に入ったのだから――と思ったけれど、全く余裕がない訳でもないし、愛宕は後にあきつ丸をしおいが担当する班へと考えているのかもしれない。そうだったのなら、初めから一緒に行動させる方が良いだろうからね。

 

 さすがは愛宕。先を読んだ行動だと俺は感心しながら通路を歩き、子供達が待つ部屋に入ったのだった。




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次回予告

 しおいの見本となるべく頑張ろうとする主人公。
しかしそんな思いは完全に破壊しようと、みんなが揃ってやっちゃった?

 もうね、新キャラ増えたらお決まりなんですよね。これ。

 艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ その2「R-15の嵐」

 乞うご期待!

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