艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ちょっとした食堂でのイベントを終えた次の日。
愛宕はみんなにプレゼントがあると言い、主人公は頭をひねる。
そして、久しぶりに登場した人影が、またもや騒動を巻き起こすっ!?


その9「新しい仲間がやってきた!」完

 

「おはようございまーす」

 

「「「おはようございまーすっ!」」」

 

「キャンキャンッ!」

 

 次の日の朝。いつもの幼稚園での朝礼時刻。

 

 元気良く挨拶する愛宕と子供達を見ながら、俺は笑みを浮かべていた。

 

 俺の両手にはメンチが抱かれており、皆の挨拶に合わせるように吠えていた。もちろん子供達の挨拶に驚いたからではなく、自ら理解しているみたいである。

 

 ううむ……賢過ぎるだろ……メンチって。

 

 本当に子犬なのか? もしかして、犬の皮を被った何か別の……って、それは無いか。

 

「今日もみなさん元気で先生嬉しいです。そこで、ちょっとしたプレゼントを用意しました~」

 

 両手を合わせながら笑みを浮かべた愛宕が言った途端、子供達がざわつき始めた。

 

「ぷ、プレゼントって……何かな……?」

 

「全然分かんないけど、期待するぜっ!」

 

「天龍ちゃんは単純よね~。物で釣られちゃうのは子供の証拠よ~」

 

 笑みを浮かべる潮と天龍、そして二人を見ながらからかう普段通りの龍田。しかし、その中で一番そわそわしているように見えるのは龍田なんだよね。

 

「もしかして、広場にある木でできた変なのがプレゼントっぽい?」

 

「あれは……メンチの家じゃないのかな。たぶんだけど……」

 

「ワオッ! あれってそうだったんデスカー? てっきり、どこかの芸術家が作った作品かと思ったデース!」

 

 本当に下手ですみません……

 

 小屋に見えないで芸術作品に見えてしまうって、もはや下手とかそういうのじゃない気もするが……自分でもそう思ったりしただけに反論できないよなぁ。

 

 ………………

 

 ……え、まさか本当にあれをプレゼントって言わないですよね、愛宕先生?

 

 そう思いながら愛宕の方を見ると、ニコニコと笑みを浮かべて両手を二回、パンパンと叩いた。

 

「それでは、みんなに紹介しますね~。どうぞ、入ってきてください~」

 

 愛宕の声に合わせるようにガラガラと扉が開き、みんなの視線が集中する。そこには、見覚えのある顔をした人物が立っていた。

 

「おはようございますっ!」

 

 元気良く挨拶した人物は扉を閉め、こちらの方に歩いてきた。俺の顔を見ながらニッコリと微笑み、愛宕と俺の間に立って子供達を見渡してペコリと頭を下げる。

 

「みなさんはじめまして! 私は潜水空母伊401です。しおい先生って呼んでねっ!」

 

「「「よろしくおねがいしまーす!」」」

 

 子供達は若干驚いていたものの、笑顔のしおいに向かって挨拶を返す。しかし、この中で一番驚いているであろう俺は、挨拶を返すことすら忘れてしまっていた。

 

 見覚えのあるしおいの顔。それは、腕に抱いているメンチを助けるために川に飛び込んでくれた女の子にそっくりで、

 

 

 

「あっ……この子ってあの時の子犬ちゃんですよね、先生っ!」

 

 

 

 まったくもって空気を読まず、そのことを確認するようにしおいは言った。

 

「「「………………」」」

 

「あ、あれ……ど、どうしたんですか……?」

 

 完全に黙り込んだ俺達を見たしおいは、おろおろと見渡しながら焦っている。

 

 そして、今の俺の心境は――

 

 

 

 確実に、修羅場るんじゃね?

 

 

 

 ――だった。

 

 

 

「あら~、また先生が外で彼女を作ってきたわ~」

 

「ちょっ、人聞きの悪いことを言うんじゃねぇよ龍田っ!」

 

 俺は焦って龍田に反論するが、時すでに遅し……というか、これが発端になってしまったようで、

 

「そ、そうなのかよっ!? 俺様に黙ってそんなこと……」

 

「いくらなんでも我慢の限界デース! さすがに堪忍袋の緒がブチ切れデース!」

 

「ちょっとオシオキが必要じゃないのかな……」

 

「い、電は悲しいのです……」

 

「大丈夫よ先生っ! 何があっても雷は許してあげるんだからっ!」

 

 ほらやっぱりーーーっ!

 

 天龍も金剛は顔を真っ赤にして怒っているし、時雨はこの前に食堂で出会った艦娘みたいな恐ろしい雰囲気を醸し出しているし、電は泣きそうだし、雷は……完全に俺ってヒモ扱いじゃん!

 

「比叡姉さま、カレーを作って頂けますか?」

 

「ええ、もちろん。隠し味をたっぷり入れる準備はできているわ!」

「榛名は絶対に許しません……」

 

 こっちはこっちでえらいことになっているんですけどっ!

 

 噂の比叡カレー……しかも隠し味をたっぷりって、食ったら確実に死んじゃうやつだよねっ!?

 

 どこかの田舎町の高校で作ったキャンプでのカレー並みにやばい臭いがぷんぷんするぜーーーっ!

 

 名付けてスペシャル比叡ムドカレー。一口で即死できます――って、パニック起こし過ぎだよ俺ーーーっ!

 

「先生~」

 

 肩に手が置かれ、俺は恐る恐る顔を向ける。そこには、ニッコリではなくニッゴリと微笑んだ愛宕が立っており、

 

「ちょっとスタッフルームでお話しましょうか~」

 

「トイレじゃないだけマシってもんですかーーーっ!?」

 

 死刑宣告とも取れる言葉を、頂戴してしまったのだった。

 

 

 

 

 

「……ということなんです」

 

 土下座をしながらしおいとの出会いとメンチ救出に関することを洗いざらい語る俺。情けないったらありゃしないが、命を守るにはこれしかない。

 

 その間しおいは何度も愛宕や子供達に誤解だと訴えてくれてはいたが、その行動は火に油である。土下座をしながらもチラチラと様子を窺っていたが、しおいが喋るたびに不機嫌な表情をしている人物がいたのに気づかなかったのだろうか……?

 

 もしそうなら完全に空気が読めない子――にしおいは認定されてしまうのだけれど、ことの発端を起こしているだけにすでに認定済みかもしれない。

 

 いやまぁ、普通は分からないと思うけどさ。

 

 特殊過ぎるんだよね……この幼稚園って……

 

「なるほど~。そういうことでしたか~」

 

 愛宕の言葉を聞いて、俺は少しだけ肩の力が抜けた。先程とは違い柔らかさのある声。どうやら怒り心頭……という感じでは無さそうである。

 

 しかし、今ここで頭を上げる訳にもいかなかった。

 

 ――そう。以前の青葉を思い出せば、その理由も分かるだろう。

「つまり、しおい先生はメンチを助けるために川に飛び込んで、先生に預けた……ってことなんだよな?」

 

 しかし、天龍の声はまだ半信半疑という感じだった。

 

「う、うん。この間の夕方なんだけど、お友達と一緒に夕食をしようと出かけていたら先生とヲ級ちゃんが橋の上で騒いでいるのが見えたの。それで気になって川を見てみるとメンチちゃんが流されていたから、私が飛び込んだ方が早いと思って声をかけたんだよね」

 

「それでメンチを助けてから先生に預けたってことなんだね。けどそれじゃあ、服がずぶ濡れだったんじゃないのかな?」

 

 そして時雨は……いつも通りの声なんだけど、何かを内に秘めている様な感じがするんだよなぁ。

 

「別に、しおいは潜水艦だから濡れるのは日常茶飯事だからね。少し走れば渇くだろうって、そのまま川沿いを走ってお店まで行ったんだよね」

 

 ……いや、それでもあの寒空の下はありえないと思うんだけど。

 

「ということは、先生としおい先生が会ったのはその時だけデスカ?」

 

「うん、その通りだよ。たぶん先生はしおいのことを知らなかっただろうけど……」

 

「けど……って、何だか怪しいっぽい!」

 

「別にそういうんじゃないの。ただ、先生って結構……その、有名人じゃない」

 

「「「あーーー……」」」

 

 しおいの声に納得するように、口をそろえて声を上げる子供達。

 

 ………………

 

 いやいやいやっ、なんで納得できちゃうのっ!?

 

 俺ってそんなに有名人じゃないよねっ!?

 

「クーデターを企てていた幹部を一掃する手伝いをしたり、なかなかのマッチョな腹筋写真でファンが増えたり、出張先が海底で深海戦艦の子供を連れて帰ってきたり、バトルに乱入して勝利しちゃったり、佐世保の艦娘に口説かれた挙句に秘書艦と裏番ちょ……じゃなくて愛宕先生を交えた飲み勝負に勝っちゃったりでしょ。今最も注目される舞鶴鎮守府職員No.1だもんね!」

 

「「「ですよねーーー」」」

 

 息ぴったりで相槌を打たないでーーーっ!

 

 色々と恥ずかしくなるんだけど、初耳なことがあるんですけどっ!?

 

「だから、しおいは先生のことを一方的に知っていただけで……その、別に付き合ってとかはないから安心してね!」

 

 ――そう、しおいは皆に向かって言ったのだが、

 

「「「………………」」」

 

 なぜかみんなは黙ったままだった。

 

 顔を上げられないので表情が見にくいのだが、雰囲気でなんとなく分からなくもない。

 

 まさに疑心暗鬼。なんでそうなっているのかは分からないのだけれど。

 

 今の説明なら、納得してくれるんじゃないのかなぁ……

 

「分かりました~。それじゃあ先生、そろそろ顔を上げて立ってくれませんか~?」

 

「あ、はい……分かりました……」

 

 許しを得たので立ち上がりみんなの顔を見る。想像していた通り若干不満げな子がいるものの、ひとまずは落ち着いているようだ。

 

「この件は後でしっかりとお話するとして……」

 

 えっ、さっきちゃんと話したけど、やっぱりスタッフルームでオラオラなんですか……?

 

「実はまだプレゼントは残っているんですよね~」

 

「「「えっ!?」」」

 

 俺と子供達が一斉に声を上げる中、愛宕としおいはニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

「お待たせし過ぎも悪いので……どうぞ、入ってきてください~」

 

 しおいの時と同じように愛宕が声をかけると、ガラガラと扉が開く。

 

 そこには大小一つずつの人影が立っていた。

 

「失礼するでありますっ!」

 

 人影は俺が知っているのとは少し違った敬礼をし、ツカツカと部屋の中へと入ってきた。

 

 

 

 

 

 次回「新規配属されました……であります」へ続きますっ!




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 今章はこれにて終了。先生へのオシオキもしておいたのですが……バッチリ次章へ続く流れになっちゃいました。
誰が来たのかは……台詞で分かっちゃいますよねー。

 ということで、次章も続けて更新していきますっ!


次回予告

 しおいにプラスして、新たにやってきた人物の声。
みんなの前に現れたのは、小さな一人の子供と……もう一人。
その極端な差に、部屋に居た誰もが驚いた……?

 艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ その1「子供と大人の差」

 乞うご期待!

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