~姉妹の絆と告白~ 完結編です。
それから目が覚めたのは、1時間後位経ってからだった。いつまで経っても帰ってこない俺を心配した愛宕が、スタッフルームで倒れているのを発見し、介抱してくれたらしい。今回で2度目の愛宕の介抱に、さすがに悪い気がして何度も謝ったが、「いいんですよ」と笑顔でにっこり許してくれる愛宕に、思わず顔を崩してしまいそうになる。
「でも、いったいどうして、ここで倒れていたんですか?」
「そ、それは……その……」
すべてを話してしまうべきか非常に悩んだ末、俺は黙っていることにした。子どもに昏倒させられる先生というのも恥ずかしい話だけれど、それ以上に、龍田の気持ちも分かるからだ。
気持ちは分かるけど、行動は完全にアウトなだけに、ギリギリまで迷ったけどさ。
「ちょっと最近疲れてたみたいで……倒れたのも覚えてないんですよね」
「えっ……それって、かなり危険な状態なんじゃ……」
「あ、いえいえ! それが、目覚めたらスッキリっていうか、もう大丈夫って感じなんですよ! あはっ、あははは!」
「そうですか……でも、危ないって感じたらすぐに言って下さいね」
「はい、ありがとうございます」
俺は愛宕に向けてしっかりと頭を下げた。本当に、感謝してもしたりないくらい、彼女には色々としてもらっている。
いつか、何かの方法で恩返しが出来ればいいなぁと、心の中に深く刻み込んだ。
「あっ、それとですね……天龍の姿は見てませんか?」
「天龍ちゃんですか?」
うーん……と頭をひねる愛宕。
「先生からお願いされて、一緒に見てましたけど……そう言えば見てないですね」
「そうですか……」
ということは、天龍はまだ龍田に連れられたまま帰ってきていないのだろう。龍田のことだから、怪我をするようなことはしないと思うのだが、心配なのにはかわりはない。
「よし、もう大丈夫です。早く子どもたちのところへ行かないと」
「本当に大丈夫ですか? もしあれでしたら、早退しても……」
「いえ、こんなんで倒れてたら、いつまでたっても一人前にはなれませんから!」
立ち上がった俺は、愛宕に自分の胸を拳でドンっと叩いて見せた。ちょっぴり強く叩きすぎてしまって、思わずむせそうになるのを堪えつつ、にっこりと笑う。
「わかりました。それじゃあ、終業時間までお願いしますね」
「はい。本当にありがとうございました」
もう一度愛宕に頭を下げ、スタッフルームを後にした。向かう先は、子どもたちが待つ遊技室。まずは天龍と龍田の姿がそこにあるか、確かめなければならない。
「あら~、先生気づいたのね~」
通路を早歩きで進む俺の後ろから、聞き覚えのある声がかけられた。
「た、龍田!?」
振り向いた通路の先には、いつものようにニコニコと笑みを浮かべた龍田が立っている。
「いったいどこに行ってたんだ!? そ、それに天龍はどうした!?」
「心配しなくても、天龍ちゃんは宿舎で気持ちよさそうに眠ってるわ~」
「ほ、本当なのか?」
「先生にウソをついても意味がないでしょ~。それに、天龍ちゃんに怪我をするようなこと、私がすると思うのかしら~」
「それは……しないと思うけど……」
「心配しなくても大丈夫よ~。ちょっともみもみしまくっただけだから~」
「ちょっ、た、龍田っ!?」
だから、それは歳相応というものがあってだな!
「うふふ~」
まったく気にすることなく、目と鼻の先まで近づいてきた龍田は、上目遣いで俺を見上げる。
「な、なんだ……龍田」
「大好きよ~、せ~んせっ」
「ぶほぉっ!?」
思わず吹き出してしまう俺。いくら小さな子どもとはいえ、上目遣いでその台詞は強烈すぎるぞ……。
「もちろん、天龍ちゃんの次にだけどね~。ごめんね、せ~んせっ」
「ちょっと待ってくれ、龍田」
「あら~、何かしら~?」
ごほん……と、咳払いをして、俺は龍田に問いかける。
「……なぜ、俺のことが好きなんだ? 今までの言動から、まったく理解が出来ない……ってのは言い過ぎかもしれないけど、理由が分からないんだ」
「うふふ、それはね~」
龍田は口元に指を当て、片目をつぶってウインクするように、
「天龍ちゃんを、大事に思ってくれてるからよ~」
「む……」
龍田の顔を見る。その瞳は、しっかりと俺の眼を見つめている。
「うふふ~」
「……ははっ、なるほど、そう言うことか」
「もちろん、それだけじゃないんだけどね~」
「えっ?」
「そ・れ・は、秘密よ~。それじゃあね~」
「お、おいっ、龍田っ!」
手を振った龍田は、呼び止める俺に背を向けて、通路を走りだした。通路の角を折れ、姿が見えなくなったけれど、ほんの少しだけ、龍田の横顔を見ることが出来た。
「……耳、真っ赤になってたぞ……龍田」
ふぅ……と、ため息をついて、俺は天井を見上げる。
「まぁ、なるようになる……かな。正直、まったく分かんないけどさ……」
教え子の2人から、告白を受けた。それはとても嬉しいことだったのだけれど、先生として――いや、一人の大人として、首を縦に振ることは出来ない。
いろんな意味で、問題だらけだしね。
逮捕されちゃうだろうし。
その辺りのことは、天龍も分かっていたのだから、あまり深く考えなくてもいいのだろう。それに、龍田の方は分かり辛い点が多すぎるし。
「それよりも、天龍は本当に大丈夫なんだろうなぁ……」
龍田が言っていた通りならば、宿舎の部屋で眠っているはず。まぁ、それまでに色々あったんだろうけれど。
「宿舎には入れないし……それとなく、愛宕に見てもらうようにお願いするかな」
さて、今度こそ、子どもたちが待つ遊技室へと戻ろう。
もしかしたら、心配してくれている子がいるかもしれないし、先生の業務はまだまだ残っている。
「今日も、もう一踏ん張り。がんばりますかっ!」
大きく背伸びをした俺は、力強く足を踏み出した。
今回のオチ。
「せ、先生ーっ! すげえんだよっ、マジで!」
「て、天龍、そんなに慌ててどうしたんだっ!? それに、昨日は大丈夫だったのか!?」
「あっ、あー……あれは、その……うん、何とか立ち直れたんだけどさ……」
天龍は視線をあさっての方向に向け、遠い目を浮かべていたが、すぐに気を取り直して、再び大きな声を上げた。
「そ、そうだよ! 龍田の言うこと、本当だったんだ!」
「……へ? 龍田の言うことって……まさか……っ!?」
「あぁ! おっぱいが大きくなってきたんだって!」
「ぶふーーっ!」
今度は俺があさっての方向に、大きく吹き出してしまった。
「やっぱり、揉むって大事なんだな! いやぁ、龍田の言うことも、たまには当たるんだぜっ!」
「いや、たぶんそれは……違うと思うぞ……」
「よっしゃ! 毎日揉みまくって、ぼんきゅっぼーんになってやるぜっ! じゃあなっ、先生っ!」
ぶんぶんと手を振って走り去る天龍を見送った俺は、大きなため息を吐く。
たぶんそれは、腫れただけなんだろうなぁ。
痛みに気づかないんだろうか――と、心配しながらも、俺は苦笑しながら頭の中で想像する。
ぼんきゅっぼーん……な、天龍の姿を。
「うむ、やっぱりこうでなくっちゃな」
艦娘幼稚園 ~姉妹の絆と告白~ 完
ちなみに後日、痛みに我慢できなくなった天龍が、泣いて止めるように龍田にお願いしたとかしないとか。
効果には個人差がありますので、お気をつけ下さい。
駄文、お読み頂きありがとうございました。
引き続き、近々次の作品を更新いたしますので、また、宜しくお願い致します。
感想等がございましたらお気軽によろしくです。