艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 龍田の頭突きで気絶した俺が目覚めたのは1時間後だった。

 ~姉妹の絆と告白~ 完結編です。


後編

 

 それから目が覚めたのは、1時間後位経ってからだった。いつまで経っても帰ってこない俺を心配した愛宕が、スタッフルームで倒れているのを発見し、介抱してくれたらしい。今回で2度目の愛宕の介抱に、さすがに悪い気がして何度も謝ったが、「いいんですよ」と笑顔でにっこり許してくれる愛宕に、思わず顔を崩してしまいそうになる。

 

「でも、いったいどうして、ここで倒れていたんですか?」

 

「そ、それは……その……」

 

 すべてを話してしまうべきか非常に悩んだ末、俺は黙っていることにした。子どもに昏倒させられる先生というのも恥ずかしい話だけれど、それ以上に、龍田の気持ちも分かるからだ。

 

 気持ちは分かるけど、行動は完全にアウトなだけに、ギリギリまで迷ったけどさ。

 

「ちょっと最近疲れてたみたいで……倒れたのも覚えてないんですよね」

 

「えっ……それって、かなり危険な状態なんじゃ……」

 

「あ、いえいえ! それが、目覚めたらスッキリっていうか、もう大丈夫って感じなんですよ! あはっ、あははは!」

 

「そうですか……でも、危ないって感じたらすぐに言って下さいね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 俺は愛宕に向けてしっかりと頭を下げた。本当に、感謝してもしたりないくらい、彼女には色々としてもらっている。

 

 いつか、何かの方法で恩返しが出来ればいいなぁと、心の中に深く刻み込んだ。

 

「あっ、それとですね……天龍の姿は見てませんか?」

 

「天龍ちゃんですか?」

 

 うーん……と頭をひねる愛宕。

 

「先生からお願いされて、一緒に見てましたけど……そう言えば見てないですね」

 

「そうですか……」

 

 ということは、天龍はまだ龍田に連れられたまま帰ってきていないのだろう。龍田のことだから、怪我をするようなことはしないと思うのだが、心配なのにはかわりはない。

 

「よし、もう大丈夫です。早く子どもたちのところへ行かないと」

 

「本当に大丈夫ですか? もしあれでしたら、早退しても……」

 

「いえ、こんなんで倒れてたら、いつまでたっても一人前にはなれませんから!」

 

 立ち上がった俺は、愛宕に自分の胸を拳でドンっと叩いて見せた。ちょっぴり強く叩きすぎてしまって、思わずむせそうになるのを堪えつつ、にっこりと笑う。

 

「わかりました。それじゃあ、終業時間までお願いしますね」

 

「はい。本当にありがとうございました」

 

 もう一度愛宕に頭を下げ、スタッフルームを後にした。向かう先は、子どもたちが待つ遊技室。まずは天龍と龍田の姿がそこにあるか、確かめなければならない。

 

「あら~、先生気づいたのね~」

 

 通路を早歩きで進む俺の後ろから、聞き覚えのある声がかけられた。

 

「た、龍田!?」

 

 振り向いた通路の先には、いつものようにニコニコと笑みを浮かべた龍田が立っている。

 

「いったいどこに行ってたんだ!? そ、それに天龍はどうした!?」

 

「心配しなくても、天龍ちゃんは宿舎で気持ちよさそうに眠ってるわ~」

 

「ほ、本当なのか?」

 

「先生にウソをついても意味がないでしょ~。それに、天龍ちゃんに怪我をするようなこと、私がすると思うのかしら~」

 

「それは……しないと思うけど……」

 

「心配しなくても大丈夫よ~。ちょっともみもみしまくっただけだから~」

 

「ちょっ、た、龍田っ!?」

 

 だから、それは歳相応というものがあってだな!

 

「うふふ~」

 

 まったく気にすることなく、目と鼻の先まで近づいてきた龍田は、上目遣いで俺を見上げる。

 

「な、なんだ……龍田」

 

「大好きよ~、せ~んせっ」

 

「ぶほぉっ!?」

 

 思わず吹き出してしまう俺。いくら小さな子どもとはいえ、上目遣いでその台詞は強烈すぎるぞ……。

 

「もちろん、天龍ちゃんの次にだけどね~。ごめんね、せ~んせっ」

 

「ちょっと待ってくれ、龍田」

 

「あら~、何かしら~?」

 

 ごほん……と、咳払いをして、俺は龍田に問いかける。

 

「……なぜ、俺のことが好きなんだ? 今までの言動から、まったく理解が出来ない……ってのは言い過ぎかもしれないけど、理由が分からないんだ」

 

「うふふ、それはね~」

 

 龍田は口元に指を当て、片目をつぶってウインクするように、

 

「天龍ちゃんを、大事に思ってくれてるからよ~」

 

「む……」

 

 龍田の顔を見る。その瞳は、しっかりと俺の眼を見つめている。

 

「うふふ~」

 

「……ははっ、なるほど、そう言うことか」

 

「もちろん、それだけじゃないんだけどね~」

 

「えっ?」

 

「そ・れ・は、秘密よ~。それじゃあね~」

 

「お、おいっ、龍田っ!」

 

 手を振った龍田は、呼び止める俺に背を向けて、通路を走りだした。通路の角を折れ、姿が見えなくなったけれど、ほんの少しだけ、龍田の横顔を見ることが出来た。

 

「……耳、真っ赤になってたぞ……龍田」

 

 ふぅ……と、ため息をついて、俺は天井を見上げる。

 

「まぁ、なるようになる……かな。正直、まったく分かんないけどさ……」

 

 教え子の2人から、告白を受けた。それはとても嬉しいことだったのだけれど、先生として――いや、一人の大人として、首を縦に振ることは出来ない。

 

 いろんな意味で、問題だらけだしね。

 

 逮捕されちゃうだろうし。

 

 その辺りのことは、天龍も分かっていたのだから、あまり深く考えなくてもいいのだろう。それに、龍田の方は分かり辛い点が多すぎるし。

 

「それよりも、天龍は本当に大丈夫なんだろうなぁ……」

 

 龍田が言っていた通りならば、宿舎の部屋で眠っているはず。まぁ、それまでに色々あったんだろうけれど。

 

「宿舎には入れないし……それとなく、愛宕に見てもらうようにお願いするかな」

 

 さて、今度こそ、子どもたちが待つ遊技室へと戻ろう。

 

 もしかしたら、心配してくれている子がいるかもしれないし、先生の業務はまだまだ残っている。

 

「今日も、もう一踏ん張り。がんばりますかっ!」

 

 大きく背伸びをした俺は、力強く足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 今回のオチ。

 

 

 

「せ、先生ーっ! すげえんだよっ、マジで!」

 

「て、天龍、そんなに慌ててどうしたんだっ!? それに、昨日は大丈夫だったのか!?」

 

「あっ、あー……あれは、その……うん、何とか立ち直れたんだけどさ……」

 

 天龍は視線をあさっての方向に向け、遠い目を浮かべていたが、すぐに気を取り直して、再び大きな声を上げた。

 

「そ、そうだよ! 龍田の言うこと、本当だったんだ!」

 

「……へ? 龍田の言うことって……まさか……っ!?」

 

「あぁ! おっぱいが大きくなってきたんだって!」

 

「ぶふーーっ!」

 

 今度は俺があさっての方向に、大きく吹き出してしまった。

 

「やっぱり、揉むって大事なんだな! いやぁ、龍田の言うことも、たまには当たるんだぜっ!」

 

「いや、たぶんそれは……違うと思うぞ……」

 

「よっしゃ! 毎日揉みまくって、ぼんきゅっぼーんになってやるぜっ! じゃあなっ、先生っ!」

 

 ぶんぶんと手を振って走り去る天龍を見送った俺は、大きなため息を吐く。

 

 たぶんそれは、腫れただけなんだろうなぁ。

 

 痛みに気づかないんだろうか――と、心配しながらも、俺は苦笑しながら頭の中で想像する。

 

 ぼんきゅっぼーん……な、天龍の姿を。

 

「うむ、やっぱりこうでなくっちゃな」

 

 

 

 

 

艦娘幼稚園 ~姉妹の絆と告白~ 完

 

 

 

 ちなみに後日、痛みに我慢できなくなった天龍が、泣いて止めるように龍田にお願いしたとかしないとか。

 

 効果には個人差がありますので、お気をつけ下さい。

 




 駄文、お読み頂きありがとうございました。

 引き続き、近々次の作品を更新いたしますので、また、宜しくお願い致します。

 感想等がございましたらお気軽によろしくです。

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