「艦娘幼稚園 ~遠足日和と亡霊の罠~」
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14万文字弱、新書サイズ192Pの大ボリューム!
数が少ないので、ご希望の方はお早めにお願い致します!
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ドタバタ騒ぎ?を終えて洗濯物を干していた主人公。
作業を終えて、休憩と先ほどの件をそれとなく聞こうと愛宕に会いに行く。
そして、遂に子犬の名前が確定する……っ!?
それから全てのシーツを干し終えた俺は少し時間に余裕があったので、先程のことをそれとなく探ってみようと愛宕に会うべく建物の中を探していた。しかし、スタッフルームや子供達が寝ているところには居らず、子犬の姿も見えなかったことから、もしかするとあそこかもしれないと思い、俺は急いで広場に向かった。
そして広場へと出る扉を開け、俺が作った犬小屋を見た瞬間……先程とは違った、別の意味で驚くような光景が視界に入ったのである。
「わんわんわんっ♪」
「ク~ン、キャンキャンッ」
犬小屋の近くで座り込む愛宕は頭の上で耳を模すように手を動かし、子犬はその周りをクルクルと回っている。
「可愛い、可愛い、子犬ちゃん~♪」
満面の笑みで走り回る子犬を見ながら歌う愛宕。子供達と歌を歌っている時と同じなのだが、相手が子犬ということで更に可愛らしく見えてしまう。
広場で青葉に脅された時や、スタッフルームで青葉を怒っていた時の怖さはまったくなく、見ていて笑みがほころぶ微笑ましい光景だった。今まで愛宕を一度も見たことが無い人でもすぐに惚れてしまいそうになるほど魅力的で、胸がドキドキと高鳴りつつも心がほっこりと満たされるだろう。
そしてそれは、それなりに付き合いがあった俺であっても同じことで、今この瞬間に俺は愛宕に魅入っていた。惚れ直し、今すぐにでも抱きつきたいくらいに胸が張り裂けそうで、いてもたってもいられなくて、俺は愛宕のすぐ傍まで近寄って行た。
「あら、先生~」
俺の姿に気づいた愛宕は恥ずかしがる様子も無く立ち上がった。そして俺の顔を見ながらニッコリと微笑み、ペコリと頭を下げた。
「こんなに丈夫な犬小屋を作っていただいて、ありがとうございますね、先生」
「あ、い、いえいえ。喜んでもらえれば嬉しいです……」
愛宕の仕草で呆けてしまっていた俺は我を取り戻し、若干キョドリながらも返事をする。
あ、危ないところだった。ほとんど無意識に歩いちゃっていたよ……
「キャンキャンッ」
子犬は愛宕のから俺の方へとやってきて、先程と同じようにクルクルと走り回る。
「この子も喜んでいるみたいで何よりです~。本当に、先生に頼んで良かったですよ~」
「い、いや、その……恐縮です……」
愛宕の褒め殺しによって俺は顔が真っ赤に染まっていくのを感じ、思わず頬を指で掻いてしまっていた。
こ、この状況でさっきのことを聞くのは……ちょっと難しいよなぁ……
ぶっちゃけると恥ずかし過ぎる。というか、顔を真っ赤に染まってしまっている時点で、冷静さを失ってしまっている。こんな状態で話を進めてしまっては、自滅してしまうかもしれないだろう。
結局のところ俺の度胸が無いせいなのだが、別のチャンスが来るまでは良いだろうと思ってしまうのだからため息モノである。シーツを干している時とまったく変わらないのなら、頭から期待を持たせるんじゃないと怒られそうだ。
それが誰なのかは分からないけれど、色んな人から言われてそうで凹んでしまう。
まぁ、自分が至らないから悪いんだけどね。
「それで、先生はこちらの方に何か用事があったんでしょうか?」
「い、いえ。洗濯物を干し終えて時間が空いたので……」
「そうだったんですね~。それじゃあ、ちょっぴりコーヒータイムと洒落こんじゃいましょうか~」
両手をパンッ――と軽く叩いた愛宕は、子犬を小屋に取りつけた鎖に繋いでから建物へと向かう。子犬は嫌がること無く俺達を見守りながら、ちょこんとお座りをしながら首元を後ろ脚で掻いていた。
「先生、早く行きましょう~」
「あ、はい。すぐに行きますっ」
俺は子犬の頭を優しく撫でてから、愛宕の後を追って建物へと入って行く。
暫くは今のままで良いよな――と、自分自身に言い聞かせながら。
◆ ◆ ◆
スタッフルームで束の間のコーヒータイムを楽しみ、他愛のない会話をし終えた俺と愛宕は時間を見計らって子供達を起こしに行った。若干寝ぼけ眼な子供もいたけれど、いつものことだと手軽にこなして全員を遊戯室に集め終える。
そして子供達を俺と愛宕に集中させ、本日のイベントである一つの箱をみんなの目に分かるようにと頭の上に上げた。
「はいは~い。朝礼でお話しした通り、子犬ちゃんのお名前をみんなの案から決めたいと思います~」
愛宕の声を聞いて、ワイワイガヤガヤと騒ぎだす子供達。みんなはにこやかに笑みを浮かべながら、どんな名前がでてくるのかを楽しみにしているようだ。
「それでは一つ目の案から発表しますね~。まずはこの紙から……ん~と、『メンチ』ですか~」
「………………」
いきなりヲ級の案からですかっ!?
箱を持ち上げた時にカサカサ鳴っていたから結構入っていたと思うんだけど、初っ端過ぎるのにも程があるっ!
「それでは二つ目の案ですね~。え~と、この紙は……『メンチ』って、同じ案ですね~」
「………………」
えええええええええええっっっ!?
まさかの『メンチ』被りかよっ!
ヲ級以外にもその名前をつけようって奴がいたんですかーーーっ!?
「更に三つ目も……『メンチ』ですね~。四つ目は『ゲレゲレ』、五つ目は『メンチ』、六つ目も『メンチ』……って、みなさんの案はほとんど同じみたいですね~」
唖然とする俺をよそに、愛宕は中に入っていた紙を全部読み上げていった。その結果、全体の9割が『メンチ』という名であり、他にあったのは『ゲレゲレ』、『タマ』、『ドッグミート』、『資本主義の犬』だった。
………………
ろくな案一つも無いじゃねぇかっ!
メンチはもとよりドッグミートも非常食っぽいし、違う意味で取っても核戦争を生き抜いたヤツみたいで強そうだけどなんか嫌だっ! ゲレゲレはご存知のⅤだろうけど、せめてボロンゴとかにしようよっ! そしてタマって漢字で書いたら艦娘じゃん! 資本主義の犬に関しては最後の一文字変わったらド変態になっちゃうからなっ!
「多数決をするまでも無いですけど、やっぱり『メンチ』で決定ですねぇ~」
「ちょっ、本当にその名前にするんですかっ!?」
俺は慌てて愛宕に反論するが、どうしてと言わんばかりの表情を浮かべて俺を見た。そしてそれは子供達も一緒の様で……
「なんだよ先生。メンチって名前じゃ嫌なのか?」
「あ、いや……嫌いとかそういうのじゃないんだが、なんだか非常食っぽくて……」
「あら~、先生はあんなに可愛い子犬ちゃんをそんな風に見ていたのかしら~?」
「そ、それは酷いっぽい!」
「う、潮……先生を見損ないそう……です」
「そうだね。ちょっとそれは酷いかな」
ぶーぶーと、ブーイングをする子供達に押され、俺はたじろき後ずさる。
「い、いや、そういう名前の犬がアニメで……」
「先生は漫画と現実の区別もつかないのでしょうか? それだとさすがに、榛名は幻滅してしまいます……」
「う”っ……」
鋭い指摘に胸が刺される衝撃を受け、俺は更に追い詰められてしまった。
「まぁ、そんな先生を私好みに仕立て上げる……ふふ……霧島の頭脳をもってすれば、それも容易いことですよ?」
「気合、入れて、調教しますっ!」
爆弾発言飛びまくりーーーっ!?
つーか元は普通の艦娘の二人なのに、この短期間で毒されまくってないかっ!?
「色々ト面倒ナ愚兄デ申シ訳アリマセン……」
そして皆に頭を下げるヲ級だが、顔は完全に不適な笑みじゃねぇかよっ!
もしかして、このメンチという名が集中したのはヲ級の企みじゃないのかっ!?
そうは思えど証拠は無い。しかし、朝に子犬を見た子供達の喜びようを見る限り、気に入らない名前を強要されれば嫌がるとは思う。ということは、素直に『メンチ』の名前が気に入っているということだろうか……?
そうだったのならば、俺が抵抗できる方法は非常に難しくなる。一番可能性が高いのは、更にみんなが気に入るであろう名前をあげることなのだが、
「それじゃあ逆に聞きますけど、先生はどういった名前がよろしいのでしょうか~?」
「そ、それは……」
先を越すように愛宕がそう問い掛けてきたことにより、俺は更なる焦りにまみれることになった。前もって考えていた訳ではないので、そうそう簡単に良い案が浮かぶはずもなく、俺は暫く悩んでからため息を吐く。
「良い案があれば是非言ってください~」
「ぐっ……」
俺の顔に子供達の厳しい視線が突き刺さり、急かすように問う愛宕の声に耐えられなくなった時点で勝負は決し……
「メンチで……良いと思います……」
ガックリと肩を落として、そう言ったのであった。
「「「わぁぁぁ……」」」
そして子供達から歓声があがり、子犬の名はメンチと決まる。
この部屋から子犬がいる広場までは少し距離があるはずなのに、なぜか嬉しそうな鳴き声が聞こえてきたような気がした。
いや、マジでその名前で良いの……か……?
◆ ◆ ◆
幼稚園所属。犬種は不明だが、柴系のミックスだろう。年齢も不明。おおよそ生まれて半年といったところ。現住所は幼稚園無い広場の片隅にある木造平屋建て住宅に住んでいる。瞳がクリクリで可愛く人懐っこい性格であり、吠え癖や噛み癖等の問題もなく、子供達の人気も高い。
そして、名前は『メンチ』――である。
ことの発端は、ヲ級と一緒にコンビニに向かう途中の川。段ボールに入れられて流されていたメンチを助けようとした際、橋から川へと下りようとした俺より早く川に飛び込んだ女子中学生くらいの女の子の活躍により救出された。
驚いたのは、真冬の寒空の下で服を着たまま飛び込んだ女の子であるのだが、メンチを助けて川から上がってもそのことをまったく気にすることなく笑顔を見せて、川沿いを走って去って行った。正直、風邪を引いてもおかしくない――というよりかは、確実に風邪をこじらせるであろう状況なのに、更にそこから着替えようともしないなんて色んな意味で本当に大丈夫なのかと疑ってしまったりもしたのだが、もしかすると寒さにもの凄く耐性がある人かもしれないだろう。
もし今後会うような機会があれば、もう一度お礼を言いたい。メンチは無事に楽しく過ごしているし、幼稚園の子供達も凄く喜んでいると伝えたい。貴女のおかげで一つの命と、たくさんの子供達に笑顔が生まれたのです――と、笑顔で頭を下げたいのだ。
問題は名前すら聞けなかったことであり、出会おうとすればコンビニの行き帰りの時くらいしか思いつかないが、それでもいつかは会える気がする。もちろん不純な動機などは持ち合わせていないけれど、あの笑顔は当分の間忘れそうにないだろう。
終業時間となり子供達を全員幼稚園から帰らせた俺は、そんな思いを馳せながら誰に向けることなく笑顔を浮かべ、小屋の中でウトウトとしているメンチの頭を優しく撫でた。
手の平に温かい体温を感じる。
もしあのまま見過ごしていたのならと思うと、背筋にゾクッと寒気が襲いかかる。
それは、家族を失って一人ぼっちになったときの悲しさが――俺の中に、未だ根強く残っていたからかもしれない。
だけど、今の俺にはたくさんの子供達がいる。
だけど、今の俺にはたくさんの友人がいる。
だけど、今の俺にはヲ級もいる。
だから、今の俺はたくさんの笑顔を浮かべることができる。
だから――その気持ちをメンチにも感じてほしいと、俺は何度も頭を撫でた。
グゥゥゥ……
「……むっ」
腹部から情けない音が鳴り響き、俺は腕時計に視線を移す。
「うぉ……もうこんな時間か……」
気づけば結構な時間が過ぎていた。夕食の時間帯である食堂の混む時間も過ぎ、今から行けばゆったりと食事を取ることができるだろう。
一抹の不安としては、ブラックホールコンビが襲来していなければ――なんだけれど、ここ最近はそういったことも聞かないしたぶん大丈夫だろう。空母の艦娘も時折見かけるが、夕食時は食事を取るよりもお酒を飲んでいることの方が多いからね。
「さて、それじゃあ戸締まりをして飯を食いに行こうかな」
メンチの食事はすでに与えたし、水の補充も済んでいる。俺は幼稚園内を一通り回って窓や扉の鍵を確認してから、いつもの鳳翔さん食堂へと足を向けた。
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次回予告
子犬の名前が確定し、色々と考えつつも食堂へと向かった主人公。
だがしかし、安息の時間は未だ訪れず……どころか、完全にモテ期到来しちゃってるっ!?
艦娘幼稚園 ~新しい仲間がやってきた!~
その8「口説かれる場所は決まっているのか?」
乞うご期待!
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