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連れていかれた青葉を心配しつつ、小屋を作り続ける主人公。
何とか形になったのと、子供達のお昼ごはんを用意しないといけないと思ったが、身体についた汚れが気になってスタッフルームへと足を向けた……
「ふぅ……」
何度も組み立てては解体してを繰り返すこと数回。なんとか犬小屋のような形になったそれを目にした俺は、額に浮かんだ汗を拭いながら一息ついていた。
腕時計に目をやると、お昼ご飯の弁当を用意しないといけない時間になっていた。子供達の世話は愛宕にお願いしているが、さすがに朝から始めて昼間にまで時間を使ってしまったのだから、そろそろ通常業務に復帰しないといけないだろうと、俺は工具を箱にしまって余った木材の上に置いて建物の中へと戻ることにする。
「む……結構汚れちゃっているな……」
通路を歩いていると壁に取り付けてある鏡に自分の姿が映り、エプロンや服の袖が木クズ等で汚れているのが見えた。この状態でお昼ご飯を用意したり子供達と触れ合うのは具合が悪いだろうし、一旦スタッフルームに行って着替えるべきだと足を向ける。
そしてスタッフルームの扉を開けた途端、俺の視線に思いもしなかったモノが入ってきた。
「申し訳ありませんでした……」
床に頭をこすりつけた格好。つまり、土下座のポーズを取っているのは青葉の姿であり、その前にいるのは愛宕ではなく、なぜか子犬がちょこんとおすわりの状態で佇んでいる。
えっと、どういう状況なんだこれは……
しかも子犬の片方の前足は青葉の頭の上に置かれていた。まるでそれは反省のポーズを取る猿のように見えるのだけれど、言葉からも分かる通り明らかに立場は逆であり、どこからどう見ても子犬に服従する青葉の図にしか見えなかった。
……うん。やっぱり意味がまったく分からない。
愛宕にならまだしも、なんで子犬に怒られているんだよ青葉は。
情けないったらありゃしないが、たぶん強制されちゃっているんだろうなぁ。
こんな光景を見てしまったらなんとかしてあげたいのだけれど、変に声をかけて情けをかければ愛宕から怒られてしまうかもしれない。そうなれば俺自身が危ないばかりか、青葉を更に追い詰めてしまうことにもなりかねないだろう。
まぁ、これも青葉の自業自得なんだけどね。
俺を脅そうとしたことに変わりはないのだし、ちょっとばかり怒りもある。
そう思えばこの仕打ちも仕方ないとは思うのだが……やっぱり可哀相に思えてしまうんだよなぁ。
「ただいまで~す。ちゃんと反省していましたか……って、先生じゃないですか~」
「あ、あぁ。愛宕先生、お疲れ様です」
どうしようかと考えていたところに愛宕が帰ってきたので、俺は挨拶を返してから青葉と愛宕を交互に見て口を開いた。
「あの……この状況はいったいどういうことなんでしょうか……?」
「これと言いますと、青葉ちゃんのことでしょうか~?」
「……っ!」
そう愛宕が言った途端に青葉から小さな悲鳴があがり、土下座のポーズのままガタガタと大きく身体を震わせていた。
完全に怯えちゃっているよね……これ……
「そ、そうなんですけど、さすがにちょっと可哀相というか……」
「あらあら? 先生は青葉ちゃんに脅されていたと思うんですけど、優しいんですねぇ~」
「い、いえいえ。そりゃあ確かに少しは怒っていますけど、この状況は何と言うか……やり過ぎな感じが……」
「う~ん、そうですかねぇ~?」
笑みを浮かべたままそう言った愛宕に俺は少し戸惑ったが、こんな状況を見過ごして着替えるのも後味が悪いと思い、陳情することにした。
「青葉も結構反省していると思いますし、この辺で勘弁してあげた方が……」
「そうですねぇ~。まぁ、先生がそうおっしゃるのなら構いませんけど……」
「ほ、本当ですかっ!?」
愛宕の言葉を聞いて嬉しそうな声をあげた青葉だったのだが、
「……まだ顔を上げて良いとは言ってませんけど~?」
「ご、ごごご、ごめんなさいっ!」
青葉は慌てふためきながら、再び床におでこを擦りつけた。
ニッコリ笑って人を斬る……ではないけれど、それと同じくらいの恐ろしさが愛宕の言葉には込められている様な気がする。
だって、今さっきの声を聞いてちょっとだけちびりそうになっちゃったもん。
危うく天龍と同じになってしまうところだった。おねしょじゃないけど、この歳でそれは恥ずかし過ぎる。
「それじゃあ、先生に免じてということで終わりにしましょうか~」
「あ、ありがとうございます……」
恐る恐る愛宕顔色をうかがいながら立ち上がった青葉は、ピシリと姿勢を正した。
「ですけど、今後こういうことがあったら……分かってますよね~?」
「は、ははっ、はいっ! 分かっております!」
そしてそのまま愛宕に向かって敬礼する青葉。
なんだこれ。
鬼教官の前で訓練を終えてボロボロになった新兵みたいに見えるんですけど。
「それじゃあ、もう行って良いですよ~」
「りょ、了解しました!」
青葉は直角90度のお辞儀をし、そして俺の方へと向き直る。
「せ、先生っ! 先程はすみませんでしたっ!」
「あ、うん。分かってくれたら良いんだけど……」
「更には青葉を庇って陳情してくれるなんて……感激ですっ!」
「い、いや……さすがにちょっと……見てられなかったと言うか……」
犬に頭を押さえられているってのはやり過ぎだと思うしね――と心の中で付け加えておく。もちろん口にしないのは愛宕に聞こえてしまいそうだからなんだけど。
「いえいえっ、本当に青葉は嬉しかったんですっ! 以前のドックの時もそうだったんですけど、実は先生って結構優しいんじゃないかと思っていたりしてまして……」
それならそんな俺に脅しをかけるなよ……と思ってみたりもするのだが、そこはジャーナリストとして黙ってはいられないのだろうか。
ぶっちゃけて迷惑千万なのだが、これに懲りてくれればそれで良いとは思っていたのだが、
「それで……その、最近ちょっと先生のことが……その……」
……あれ?
なんだか青葉の頬が若干赤く染まってモジモジしだしているんだけど、これってどういう状況なのっ!?
え、ここで告白シーン? ビスマルクに続いてモテ期到来確定ですかっ!?
「も、もし良かったら……今度……」
青葉が目をギュッと瞑り、意を決して口を開こうとした時だった。
ダンッ!
「「っ!?」」
もの凄い音が部屋中に鳴り響き、俺と青葉は驚いてすくみあがった。
「あら~、こんな所に大きな虫が~」
「「………………」」
愛宕の声に俺と青葉は視線を向ける。そこにはニッコリと笑みを浮かべた愛宕と、その横にはロッカーがあるのだが……
ちょうど真ん中が凹んでくの字に曲がり、大きくひしゃげていた。
ガタガタガタガタガタ……
強烈に襲ってくる寒気に身体を震わせ、その場に座り込みそうになってしまった。青葉も俺と同じようで、両手で二の腕を握り締めながら青ざめた表情で愛宕と俺の顔を交互に見ている。
そんな青葉の顔を見た愛宕は笑みを崩し、目を細めて口を開く。
「あら……そんなところに泥棒猫が……?」
「ひいぃぃぃっ!?」
青葉はその場で飛び上がり、絶叫しながら着地をし、
「し、ししし、失礼しましたーーーっ!」
そう叫びながら、スタッフルームから脱兎の如く逃げ去っていった。
「………………」
俺は黙ったまま冷や汗を垂らし、ゆっくりと愛宕の顔を見る。
「あら、先生ったらどうしたんですか~?」
そこにはいつもと変わらない笑顔の愛宕が立ってはいたが、その横に見るも無残なロッカーの姿。
そして、そのことについて何も言及するなというような愛宕の目が、俺へと向けられていた。
超怖い。
けど、もしかして俺……愛宕から好かれている……ってことで良いのかな……?
◆ ◆ ◆
その後、俺は愛宕に犬小屋が完成したと伝えて着替えをし、通常業務に戻ることとなった。お昼ご飯の弁当を用意し、食べ終えた子供達を昼寝へと移しから洗濯作業に追われるいつもと同じ時間を過ごしながら、先ほどのスタッフルームのことを思い返す。
やっぱりあの時の愛宕の反応って……俺の思っている通りなんだろうか?
告白しようとしていたであろう青葉? と、それを遮るかのような行動を取った愛宕。ロッカーがひしゃげてしまうほどの力を込めたワンパンチで注意を引きつけつつ、まさかの泥棒猫発言である。
昔に見た飲料水のCMを思い出してしまったが、あれ以上に恐怖を覚えたのは確かなのだ。しかし愛宕の行動は俺への愛情の裏返しと取れてしまうだけに、思わず笑みがこぼれてしまう。
傍から見ればニヤニヤと笑みを浮かべながらシーツ干す男性。明らかに気持ちが悪いことこの上ない。
だが、そんな風に舞い上がってしまうほど、俺の心は向上してしまっている。
だって、それはそうだろう? 前々からの思い人から好意を向けられていると分かったんだから。そりゃあ確かに怖い……というか怖すぎるところもあるけれど、それらを全部まとめても俺が愛宕を好きだという気持ちは変わらないのだ。
これは完全にモテ期到来。今こそ告白のチャンスだろう。
俺は興奮して荒々しく鼻息を吹き出しながら、今後のプランを練ろうと考えた。しかし、ふと気になることを思いつき、もう一度考え直す事にする。
「確かに青葉が告白しようとしていた感じはあったけれど、それを妨害しただけ――じゃあないよな?」
妨害するのは自分が嫌だと思ったから。
そう考えるのは俺が良いように思っているからではないのだろうか?
その以前に、青葉は愛宕にこってりと絞られて土下座していたのである。そんな状況から解放された途端に告白めいたことをしようとしたのなら、反省していなかったとみなしてもおかしくないのではなかろうか。
そうだったのなら、愛宕が俺に好意を向けているというのは俺の思い違いになってしまう。そんな状態で二度目の告白をしても、無残に散ってしまう可能性が非常に高い。
「むぅぅ……いったいどっちなんだ……」
シーツを干しつつ悩む俺。
冬空の下で太陽の光が当たりほんのりと身体を温めてくれるのだが、そんな気持ち良さを素直に受け止められるような心境ではなかった。
そして、今まで通りチキンな俺が辿り着く答えは……
「もう少し……様子を見てからにするかなぁ……」
――とまぁ、こういう風に落ちついてしまうのであった。
次回予告
ドタバタ騒ぎ?を終えて洗濯物を干していた主人公。
作業を終えて、休憩と先ほどの件をそれとなく聞こうと愛宕に会いに行く。
そして、遂に子犬の名前が確定する……っ!?
艦娘幼稚園 ~新しい仲間がやってきた!~
その7「既に確定事項」
乞うご期待!
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