題名詐欺だっ!
とは言わないようにw
幼稚園児劇団の舞台、面白かったでしょうか……ではなく、
色々と突っ込みどころが満載の夕食を終えた主人公。
子犬用の食事を買いに売店へと向かったが、またもや不幸スキルを発動して途方にくれたのだが、まさかまさかの展開で……ついに念願享受となるかっ!?
それから大した問題が起こることなく夕食を終え、ヲ級や金剛と他愛のない会話を少しだけしてから寮の自室に戻ることにした。もちろんその前に売店に寄って、子犬の食事になりそうな物を買って帰ろうと思ったのだが……
「何も無いんですけど……」
どうやらまたブラックホールコンビが夜食の為に買い込んだようだった。売店のおばちゃんはホクホク顔なのだが、こっちは洒落にならないくらいに落ち込んでいる。こうなると、雨の中を歩いてコンビニまで行き、ドックフードを買って来なくてはならないようだ。
俺は売店のおばちゃんに会釈をし、傘を取ってきてからコンビニに向かおうと寮の自室に戻ることにした。
「あら、先生じゃないですか~」
寮がすぐ目の前に見えるところで声がかけられ振り返ってみると、愛宕が笑みを浮かべながら手を振っていた。
「こんばんわ、愛宕先生。いったいこんなところでどうしたんですか?」
「ええ、実はちょっと先生に用事がありまして~」
「えっ、お、俺にですかっ!?」
思いもしなかった愛宕の言葉にキョドってしまう俺。こんな時間にこの場所にいるということは……俺に会いに来てくれたと考えるのが普通だろう。
ちなみに携帯電話の番号もメールアドレスも伝えてあるのに、それらで連絡を取ることなく、いきなりの訪問となれば驚いてしまうのは仕方ない。それでもなんとか冷静に判断し、雨が降り注ぐ屋外で会話する訳にもいかないだろうと、俺は愛宕に向かって口を開く。
「そ、それじゃあ、鳳翔さんの食堂かどこかで……」
「いえいえ、是非先生のお部屋にお邪魔しようと思いまして~」
「なっ!?」
ニッコリと笑みを浮かべながらとんでもないことを言った愛宕に対して驚きつつ、内心ドンチャン騒ぎのお祭りが開催されることになる。
いぃぃぃぃぃやっほおおおぉぉぉぉぉっっっ!
ついに……ついに俺の時間が来たんだぜぇっ!
――とまぁ、こうなっちゃうのも仕方がない。だって、念願のお持ち帰りだよ?
正確にはちょっと違う気もするが、それでも嬉しいことに変わりは無い。俺は急いで愛宕の前を歩いて寮へと先導しながら、入口の扉を開けた。
ちなみに艦娘の寮に男性が入るのは禁じられているが、逆に男性寮の方に艦娘が入っていけないという決まりごとは無い。もしそうだったのなら、元帥の逃走時や出張前の夜に高雄が来室したのは違反行為になっちゃうからね。
まぁ、こういった決まりごとを作ったのが元帥なのだから、それもまた理解できる。自分の良いようにルールを決めるのは、いつだって権力者のすることなのだ……って、なんだか今日の俺の元帥批判は酷い気がするが、まぁいいだろう。
それよりも今は、愛宕を部屋に連れ込むこと先決である。
――って、この言い方だとちょっとあくどく聞こえてしまうかもしれないが、両者同意だからねー。
………………
やばい。含み笑いが止まりそうにない。
しかし、そんな顔を愛宕に見せる訳にもいかず、俺は振り向かないまま階段を上がり、不審に思われない程度の会話をしながら自室の扉を開けた。
「そ、そ、それじゃあ、どうぞ……」
「ありがとうございます~」
愛宕を室内に促して部屋の中に入る。何か飲み物を出すべきだよな……と思った瞬間、ベッドの上でスヤスヤと寝息を起てている子犬が目に入り、一気に汗が引いた。
………………
わ、忘れてたーーーーーーーっ!
完全に失念してたよっ! ドックフード買いに行かなきゃとか思っていたのに、愛宕に会った時点でどっかに飛んでっちゃってたよっ!
寮はペット禁止です――って、完全に怒られるパターンだよこれっ!
そしてそのまま嫌われて振られちゃうんだよ、うわあああああああぁぁぁんっっっ!
「あら……あらあら~」
そしてバッチリ気付かれたーーーっ!
――と、内心どこかの市会議院のように泣き叫んでいた俺だったのだが、
「可愛い~~~♪ この子がヲ級ちゃんが言っていた子犬ちゃんですね~」
「………………はい?」
……え、ヲ級が……言っていた?
ど、どういうこと……?
素早くベッドに近寄った愛宕は屈み込んで子犬の頭を優しく撫でていた。目を覚ました子犬は一瞬驚いたような仕種をしたものの、撫でられる気持ち良さに身を任せて鼻を鳴らし、笑っているような表情を浮かべている。
「あ、あの……愛宕先生、いったいこれは……どういうことで……」
「川を流れていた子犬を助けたけど、飼い主がいなくて困っているからどうしようかとヲ級ちゃんから相談を受けたんですよ~。それで、一度どんな感じの子なのか見てみたくて来させていただいたんですよね~」
「あ、あぁ……なるほど……」
え……っと、つまりは……
お祭り騒ぎが泡となって消えた……ということでファイナルアンサーでしょうか?
「ワンッ」
俺の心の問いに答えるかのように子犬が小さく吠え、俺はガックリと肩を落とした。
まぁ、そうだよねー。
いきなり俺の部屋に愛宕が来るとかおかしいもんねー。
「んんん~。可愛いし大人しいし人懐っこいし……本当にいい子さんですね~」
「そ、そうなんですけど……残念ながら飼い主は見つからなくて……」
「大丈夫ですよ~。その辺は私がしっかりと考えていますから~」
「……え?」
子犬を撫でながら俺の方へと振り向いた愛宕は、少し自慢げに笑顔を浮かべながら空いた方の手の人差し指を立ててウインクした。
子犬も可愛いけど愛宕も可愛いなぁ。
ほんと、今から押し倒しちゃって良いですか?
……まぁ、それができないチキンだからこそ、ヤキモキしている訳なんだけど。
「さっきも言った通り大人しくて人懐っこいですから、幼稚園で飼うことができそうなんですよね~」
「えっ……い、良いんですかっ!?」
「もちろんですよ~。子供達の情操教育にも良いと思いますし、明日から幼稚園で住めるように書類の方を作成しておきますね~」
「あ、ありがとうございますっ!」
「今から幼稚園の方に連れていく訳にもいきませんから、今日だけは先生にお願いすることになりますけど……」
「そ、それは大丈夫です。一応……その、ダメだと分かってはいたんですけど、ここで世話をしようと思っていたので……」
「正直に言っちゃうとダメなんですけど、明日までの特例ってことで大丈夫でしょう~」
「す、すみません。色々と……その……」
「いえいえ~。こんなに可愛い子犬ちゃんを外に放っておく先生でしたら、そっちの方が大問題ですからね~。もしそんなことをするのなら、その場で見限って仕置人さんへ一直線でしたよ~?」
「えっ、あ……あ、あははは……ま、まさか……そんな……」
「うふふ~」
ニッコリと笑みを浮かべたままそう言った愛宕に、俺は一抹の不安を感じつつ愛想笑いを返していた。
……じょ、冗談……ですよね?
「クゥ~ン……」
そんな心の問い掛けに、子犬はなぜか首を左右に振っていた。
マジで人の言葉を理解してないか……?
それから愛宕が持ってきてくれていたドックフードをお皿に入れて子犬に与え、無我夢中で食べているのを見ながら会話を交わしていた。
「本当に大人しいですねぇ~。普通だと、食事を取っているときに撫でたりすれば怒ったりするんですけど~」
愛宕はそう言いながら皿まで食べようとする勢いの子犬の頭を撫でている。
「生まれて間もないって感じではなさそうですけど、訓練を受けていた感じにも見えませんよね」
「そうですね~。単純に性格が大人しいだけかもしれませんね~」
気性が荒く、訓練を受けていない犬は食事時に触れようとすると唸ったり吠えたりする場合がある。これは昔に家で犬を飼っていた経験によるものなのだが、たぶん食事を取られないようにする行動だろうと思う。
しかし、この子犬はそういったことをしないのだが、訓練を受けているようにも見えないのだ。もし受けていたのなら、食事を目の前にしてもがっついて食べる前に待てをするだろう。
まぁ、そんなことをする余裕もなくお腹が減っていたかもしれないということも考えられるのだけれど、きちんと訓練を受けた犬が段ボール箱に入れられて川に流されるなんてことは、普通はしないと思うんだけどね。
犬を飼うなら最後まで面倒見るということを肝に免じて飼わなければならないのだが、世の中には色んな人がいるからなぁ。
これも何かの縁だし、まずは出会えたことを感謝してこれから付き合っていけば良いだろう。
「しかし、本当に可愛いですねぇ~。おめめがクリクリしていて、フワフワのモコモコで……」
「そうですね……って、この子犬の犬種はいったい何になるんだろ?」
「う~ん……柴犬に似ていますけど、色合いと毛並みがちょっと違う感じがしいますよね~」
ウンウン……と頷くが、愛宕の言う通りパッと思いつくような犬種は思いつかなかった。もしかすると柴犬と別の犬種のミックスかもしれないが、それが分かっても分からなかっても別に対した意味合いではないだろう。
「はいは~い。綺麗に食べましたね~」
お皿を舐めつくすように綺麗に食べきった子犬は、ちょこんとおすわりをして愛宕に撫でられながら目を細める。
「うぅ~ん、本当に可愛いですねぇ~。抱っこしてゴロゴロしちゃいそうになっちゃいますよ~」
「あはは……確かにそうですよねー」
――と、冷静に反応しつつそれを想像してみる。
愛宕の大きい胸部装甲に挟まれた子犬。
更にはベッドの上で抱きしめながらゴロゴロ回転。
………………
子犬に生まれ変わりてぇぇぇぇぇっっっ!
ちょっと今から舞鶴湾に身投げしてくるっ! 弟がヲ級に転生できたんだから、俺だってできるよねっ!?
そしてそのまま天国気分だ――って、それだと生まれ変わってないっ!
………………
危ない危ない。ちょっと暴走して危うく命を落とすところだった。
若さ故の過ちには気をつけないといけないな。今までの経験上、大変なことになるのは目に見えているし。
「……先生?」
「え、あ、はい。な、なんでしょうか?」
愛宕の呼びかけに気づいた俺は慌てて我に返り、視線を向けてみる。
「どうかしたんですか? なんだか考え事をしているみたいでしたけど……」
「い、いえいえ。なんでもないです」
「そう……ですか。もし何か気になることとかがあるなら、気にせずに相談してくださいね?」
「あ、ありがとうございます」
膝の上に子犬を載せてベッドに腰掛けた愛宕は、笑みを浮かべながらそう言った。
その顔を見て、俺はズキリと胸が痛む。
相談したいことはある。
――いや、相談というよりかは返事を聞かせてほしいという方が正確だ。
だけど、俺はまだその答えを聞く勇気も度胸も未だ無い。
あの時は、無我夢中で叫んでしまったけれど……
冷静になった今、それをもう一度言ってみろと言われても、正直できるとは思えない。
………………
うむむ……やっぱりチキンだなぁ……俺。
シチュエーションとかは今しか無いってくらい揃っているんだけどなぁ。
告白するなら……今でしょ。なんて言われても、おかしくないくらいなんだよ?
それが分かっていてもできない俺。これはもう、チキン以外の何物でもない。
たぶんそれは、今の環境が自分にとってすこぶる良いものだから。
幼稚園の先生でいられることが、何より生きがいに感じているから。
だからこそ今の状況を、今の関係を壊したくないからなんだろう。
――そう思い込みながら、俺は言葉を飲み込んだ。
いつしか伝えられる時が来るまで、胸の中に秘めていようと。
まぁ、一度は伝えてしまったんだけれどね。
「さて……それじゃあ時間も遅いですし、そろそろおいとまさせていただきますね~」
「あ、はい。それじゃあ子犬は明日幼稚園に連れていけば良いですよね?」
「ええ、そうしてください。書類の方は今晩中に揃えて、明日の朝一番に姉さんに渡しておきますから~」
「すみませんが、よろしくお願いします」
俺は頭を下げて礼を言い、愛宕は微笑みながら子犬を俺に手渡した。
「ではまた明日です、先生」
「寮の入口まで見送りますよ」
「いえいえ。それだと子犬ちゃんが一人っきりになっちゃいますから~」
愛宕はそう言いながら手を振って、部屋の外へと出て行った。
うむぅ……ガードが固いのか、ただ単に普通にそう言ったのか分かりかねるのだが……
どちらにしても、最初の時に想像したようなことは全く起きなかったのである。
まぁ、俺もさっき言葉を飲み込んだのだから、甘いと言われればそれまでなんだけれど。
「クゥ~ン?」
腕に抱かれた子犬が、俺を見上げながら顔を傾げる。
つぶらな瞳が可愛くて、思わず力いっぱい抱きしめてしまいそうになるのを堪えながら、就寝の準備をした。
いつか……もう一度、言えると良いな……
次回予告
子供たちの前に子犬を連れてきた主人公。
そうして幼稚園で飼う事になったのだが、必要なのは小屋だよね。
ということで、早速日曜大工をする事になった主人公だが、またもやあいつが現れた!
艦娘幼稚園 ~新しい仲間がやってきた!~
その5「青葉スレイヤー」
乞うご期待!
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