艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 今年の更新も最後になりました。
7月末から更新してきましたが、ここまで長く続けられたのは皆様のおかげであります。
 来年も引き続き更新していきたいと思っておりますので宜しくお願い致します。

 また、艦娘幼稚園の書籍の方も、来年1月18日のこみっく★トレジャーで頒布後、BOOTH等で通信販売できるように調整中でありますので、宜しければサンプルと合わせてお願い致します。




 何とか食堂の3人から逃げ出した主人公。
すると目の前に、明らかに挙動不審なヲ級の姿が見えたのだが……


その4「The HENTAI」

 

 食堂で3人から尋問を受けていた俺は、なんとか上手く言葉巧みにやり過ごすことで難を逃れた。結局のところ、3人はゴシップが好きという感じだったので、ヲ級に関する会話をしながら情報を引き出しつつ、危険なところは元帥ネタをばらまくことで注目する点を上手く誘導した。

 

 その結果、元帥の心証は大破したかもしれないが、これはいつものことだから気にしなくても良いだろう。それに、知り合いの空母繋がりからも色々と聞いていたような感じだったからね。

 

 とりあえず食堂でのヲ級の行動はだいたい分かったのだが、俺が心配するようなことは起こしていなかったようだ。普通の子供達と同じように食事を取り、時折笑いを巻き起こすといった感じらしく、むしろ好印象なのがビックリした。

 

 他のところからも苦情が届いている訳でもないので、ヲ級の観察は必要ないかな……と思いかけていた矢先、少し遠目に見える建物の影に、明らかに怪しそうにコソコソとしているヲ級の姿が見え、俺は気づかれないように見を隠しながら、ゆっくりと近づいてみることにした。

 

 なんであんなに挙動不審なんだろう……

 

 ヲ級から20mくらい離れた、建物と塀の間にある通路脇に生えている木の陰に隠れ、その動きを観察する。どうやら辺りを警戒している風に見えるのだが、ここは鎮守府内であって戦場ではない。むろん、子供であるヲ級がそんな場所に行くはずもなく、バトルの会場でも無い限り戦闘なんかは起こりえるはずも無いのだが……

 

「おっと……」

 

 辺りをキョロキョロと見回すヲ級を見て、俺はできる限り見えないようにと身を屈めた。

 

 しかし、あれ程までヲ級が警戒するとは……何やら怪しい臭いがプンプンするぜぇ……と、ちょっぴり笑みを浮かべそうになった途端、急に大きな声が聞こえてきた。

 

「ヲ級ちゃん、みっけーーーっ!」

 

「ヲヲヲッ!?」

 

 どこからともなく現れた人影に、ヲ級は驚きの表情を浮かべて声を上げた。もちろん、俺もその存在を声が聞こえるまでは気づかなかったのだから、内心はドキドキである。

 

「会いたかったよ、ヲ級ちゃん!」

 

 ニッコリと笑みを浮かべた無精髭のを生やした作業服姿の男性は……って、あいつはヲ級を連れ帰る際に船の上で胴回し回転蹴りを食らわせた変態野郎じゃないかっ!

 

 

 

~~~~~(回想)~~~~~

 

「何だよそれっ! 深海棲艦ファンクラブ人気投票ナンバー1のヲ級たんっ! しかも幼体っ! 羨ましいったらありゃしねぇっ!」

 

「い、いや……あの……」

 

「無いわー。神は我を見捨てたわー。俺ちょっと海に身を投げてくるわー」

 

「いやいやいやっ、何でいきなり自殺宣言っ!?」

 

「だって、そのまま家に持って帰って着せ替えするんでしょう? めちゃくちゃ羨ましいじゃんかー。毎晩ベットでキャッキャウフフなんだろー」

 

「んなことするかボケェッ!」

 

 爆弾発言を放った男性に、問答無用の胴回し回転蹴りが見事に顔面に突き刺さったのは言うまでもない。

 

~~~~~(回想終わり)~~~~~

 

 

 

 うむ、嫌な思い出しかないな。

 

 しかしそう考えると、ヲ級がコソコソとしていたのも頷ける気がする。ヲ級を見かけた早々に、俺に向かって捕獲方法を聞いてきたくらいなのだ。鎮守府内で見かければ、何かしらの接点を持とうとするのは予想できる。

 

 そう考えているうちに両手を大きく広げた男性は、ヲ級に抱き着こうとした。

 

「さぁ、今すぐ俺の胸に飛び込んでおいでっ! そして、今から俺の部屋に……」

 

 くそっ! さすがにこれは放っておく訳には……っ!

 

「ヲッ!」

 

「あべしっ!」

 

 そんな男性の鼻っ面に、ヲ級は少し身を屈めてから放った強烈な頭突きをお見舞いする。見事に吹っ飛んだ男性は、鼻を押さえながら地面の上を転がり回っていた。

 

 う、うわ……あれはマジで痛いぞ……

 

 見れば、鼻を押さえる男性の手の付近から血がボタボタと流れ落ちていた。もしかすると、さっきの一撃で鼻の骨が折れているんじゃないだろうか……

 

「ヲヲ……」

 

 ヲ級は更に畳み掛けようと、男性の腹を踏みつけて動きを止めさせた。脇を締めて両手を腰に据え、空手の正拳突きをお見舞いしようとする。

 

 見てる限り男性の自業自得だけど、それ以上はやり過ぎだっ!

 

 俺は慌ててヲ級を止めようと、木の陰から飛び出そうとした瞬間……

 

「あ、ありがとうございますっ! さぁ、もっとお願いしますっ!」

 

 鼻血を吹き出しながら満面の笑みを浮かべた男性が、キラキラと高揚しながら叫び声をあげた。

 

 あまりの突拍子の無さとその表情に、芸人顔負けのズッコケを披露した俺は、思いっきり鼻を地面に打ち付けてしまう。

 

 どこぞのカツラ刑事の部下並みの……ドMかよ……

 

「………………」

 

 さすがにヲ級も気分を害しまくったのか、顔を引き攣らせながら佇を踏む。

 

「さぁ、もっと踏んで……そして殴って下さいヲ級様ぁっ!」

 

 うわー……あれは無いわー……

 

 一歩、また一歩と後ずさったヲ級は、半泣きの表情を浮かべながらクルリときびすを返し、「ヲヲヲヲヲッ!」と叫びながら、逃げ去るように走っていった。

 

「を、ヲ級ちゅわん……」

 

 そんなヲ級の後ろ姿を悲しそうに、そして嬉しそうに見つめる男性が地面に寝そべりながら腕を伸ばす。

 

 いやいや、なんで嬉しそうに見つめてんだよ……

 

 これは放置プレイとかそういうやつじゃないんだが、どちらにしても言葉が通じそうな相手じゃなさそうだよな……

 

 しかし、このままこいつを放っておく訳にもいかない。ヲ級にとって邪魔である存在は、消さなくてはならないのだ。

 

 それが兄であり先生でもある、俺がしなくてはいけないことだからな……と、ポケットから携帯電話を取り出した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 少し用事を済ませた俺は、ヲ級の後を追って通路を歩いていた。すると、コンビニ袋を手に提げた雷と電の側にいるヲ級を見つけ、俺は先ほどと同じように様子を伺おうと隠れながら近づいた。

 

「コンビニに新製品のデザートがいっぱい出てたのですっ!」

 

「そうなのっ。とーっても美味しそうだったから、いっぱい買ってきたのよっ!」

 

「ヲヲ……近クノコンビニデ、間違イ無イノカナ?」

 

「そうなのですっ」

 

「分カッタ、アリガトウ。早速僕モ、買イニ行ッテクルヨ」

 

「道は分かるかしら?」

 

「何度カ行ッタコトガアルカラ、大丈夫ダヨ」

 

「では、お気をつけてなのですっ」

 

「ヲッ!」

 

 互いに手を上げあって挨拶した後、ヲ級は正門の方へ、雷と電は寮の方へと向かって歩いていった。

 

 ……今、確かにコンビニに行くって言ってたよな?

 

 ………………

 

 いやいやいや、ちょっと待て。

 

 仮にも人類の敵として認知されている深海棲艦であるヲ級が、単身で外に出るだとっ!?

 

 しかもなんだ、何度か行った事があるとか言ってたけど……俺は一切連れて行った記憶が無いんですけどっ!

 

 いったい誰と一緒に行ったんだよっ! 愛宕か!? それとも単身でかっ!?

 

 でもどっちにしたって、外に出るのはまずいだろうがっ!

 

「早く止めないとっ!」

 

 俺は隠れていた建物の陰から飛び出して、急いでヲ級の後を追いかける。この場所から正門まではそう遠くは無いから、急がないと外に出てしまう。

 

 鎮守府近くに住宅は無いが、それでも一般市民がいないとは限らない。ましてや休日であり、昼前の時間となれば、近くの防波堤で釣りをしようと車で移動している人だっているだろう。そんなところですれ違いでもすれば、たちまち噂になってしまうことも考えられるし、今の時代はスマートフォンという便利な機器があるのだから、その情報はすぐに拡散してしまう可能性が高い。

 

 そうなってしまったが最後、ヲ級は大多数の人に知られることになり、その身柄はすぐに押さえられてしまうだろう。いくら舞鶴のトップである元帥が止めようとしてくれたとしても、その力には限度があるだろうし、今まで通り無事でいられるとは思えない。それどころか、人体実験のようにヲ級を調べ尽くそうと考えだす輩が出てくれば、もう二度と会うことができなくなってしまうかもしれない。

 

「後は……この角を曲がれば……っ!」

 

 建物に沿って直角に曲がる通路を急いで駆け、正門の方へと視線を向ける。しかしヲ級の姿は無く、代わりに目と鼻の先に大きな胸部装甲をお持ちの……愛宕の姿があった。

 

「あら~、先生じゃないですか~」

 

「あ、愛宕先生! 今さっき、ヲ級がここを通りませんでしたかっ!?」

 

 俺はその場で掛け足を続けながら愛宕に問うと、

 

「ええ、さっき急いでそこの門を通って行きましたよ~」

 

 ――と、まったく問題ないという風に笑顔を浮かべてそう答えた。

 

「い、いやいやっ! それって不味くないですかっ!?」

 

「え~、なんでですか~?」

 

「だ、だって、ヲ級は深海棲艦なんですよっ! 一般の人が見たら、大騒ぎになっちゃうじゃないですかっ!」

 

「ん~、でもでも、今までそんなことはありませんでしたよ~?」

 

「……え?」

 

 そんな愛宕の言葉を聞き、俺は呆気に取られて駆け足を止めてしまった。

 

「い、いや……あの……人類にとっての敵として……言われちゃってますよね……?」

 

「確かにそうですけど、ヲ級ちゃんはちっちゃいですしね~」

 

「お、大きさだけで判断されちゃうんですかっ!?」

 

 確かに小さいのより大きいほうが破壊力がでかいけどさっ! ――とは口が裂けても言えないけど。

 

 もちろん、どこを見ながら考えていたとかも言えないよ?

 

「それに、何度もヲ級ちゃんは一人で外に出かけますからね~」

 

「は……?」

 

「あれ、知らなかったんですか~?」

 

「え、ええ……まったくの初耳だったんですけど……」

 

「よく、近くのコンビニに買い物に行ってますよ~。夜に食べるオヤツなんかを買ってきてくれるんですけど……どれも美味しいのばっかり選んでくるので、とっても嬉しいんですよ~」

 

「は、はぁ……そうだったんですか……」

 

 満面の笑みで両手を合わせながらヲ級の事を語る愛宕。その内容を聞く限り、俺の心配はまったくの無駄だったと取れてしまう。

 

「ところで、なんで先生はそんなに急いでらっしゃったのでしょうか~?」

 

「えっと……それなんですけど……」

 

 とりあえず愛宕の話を信じて、俺は今までの経緯を説明することにした。




次回予告

 ヲ級を追いかけた先で愛宕に出会った主人公。
話をしているうちにどうやら心配しなくても大丈夫らしいのだが、ひとまず追いかけことに。
 そしてコンビニに入ったのだが……


艦娘幼稚園 ~ヲ級観察日記~ その5「外出イベントは盛りだくさん」


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