それでは目的をと、厨房で情報収集をしようとするのだが……
またもや現れたアイツも含めて、主人公が追い詰められる?
命の危機? から救われた俺は、安心して食事の残りを平らげていた。少し憔悴してしまった金剛は俺と遊ぶことができないことに残念がりながら「それじゃあ妹達のところにでもいってみますネー」と言って、食堂から出ていった。
うむ、ミッションコンプリート――ではなく、これで安心して調査が行える。
ヲ級が俺の目の届かないところで何をしているのか。それを調べるには、毎日通っているであろうこの食堂の従業員に話を聞くのが手っ取り早い。
朝食で食堂が混む時間も過ぎ、客も疎らになったのを見計らい、全てを綺麗に平らげた食器を持って厨房の方へと向かい、洗い物をしていた千歳に声をかける。
「ごちそうさまでしたー」
「お粗末様でした。食器はそこのカウンターに置いといてくださいねー」
「了解です。ところで少しお話があるんですけど、お時間取れそうですか?」
――そう、俺が話した瞬間。
なぜか厨房の中にいた千歳、千代田、鳳翔さんが一斉に顔を上げて俺の顔を見た。
「あら……あらあら……?」
ニコニコ……ではなく、ニヤニヤと笑みを浮かべた鳳翔さんの手には、鋭い光を放つ刺身包丁が握られている……って、ちょっと怖いんですけど。
「先生に質問なんですけど……」
「は、はい」
「今のは、誰に向かっておっしゃったんでしょうか?」
「誰って……そりゃあ、目の前にいる千歳さんに……」
そう言った途端に、千歳と千代田の顔が赤く染まった。
ただし、表情は完全に互い違いだけど。
「ちょっ、先生! 千歳姉ぇを口説くんなら、まずは私を倒してからにしてよねっ!」
「な、なんでいきなりそうなるのっ!?」
「だって、今から先生は千歳姉ぇを口説くんでしょっ!?」
「えええええっ!?」
「この間はビスマルクさんに口説いてたのに、今度は私になんて……先生はスケコマシなんでしょうか?」
「それはちょっと……見逃すことができませんね……」
「い、いやいやいやっ、違うからっ! 完全にみんなの勘違いだからっ!」
鳳翔さんが持っている包丁の先が俺に向いちゃってるしっ!
千代田に至っては憤怒の表情でお皿を投げようと構えてるしっ!
そして何気に千歳は満更でもない表情――って、思いっきり勘違いなんだーーーっ!
「コンチワー。青葉の新聞屋さんでーす……って、あれあれー? 何やら修羅場っている感じですねー」
「なんつータイミングで顔出してくるんだよ青葉はっ!」
「事件あるところに青葉ありっ! 人呼んでトラブルメイカーの青葉とは私のことですっ!」
「自ら汚点を認めちゃってるけど、全然かっこよくないんだからねっ!」
「何とここにきてツンデレモードな先生っ! これは取材のしがいがありますっ!」
「マジでやめて止めてストップーーーッ!」
両手を前につき出して何度もバツを作りながら、俺は必死で目的を伝えようと大きな声を上げた。
「なるほど……ヲ級ちゃんの行動を調べているんですか」
必死の説明によって落ち着いてくれた4人は、微妙に納得してなさそうな表情をしながらも俺の話に耳を傾けていた。
さっきのタイミングは最悪のパターンだったが、この場に青葉がいるというのは俺にとってマイナスだけではない。青葉の情報収集力は目を見張るものがあるし、俺が知らないヲ級の行動について何か知っているかもしれないのだ。
もちろん、その中には根も葉も無い噂やねつ造が含まれているということに注意しなくてはならないけどね。
「ふぅ……先生が千歳姉ぇを狙ってないなら問題ないけど……」
「……ちなみに、本当は狙っていたとしたらどうするの?」
「サーチアンドデストロイ! しかも、虐殺モード!」
「たちが悪いとかいうレベルじゃないっ!」
誰かこいつを止めないと、いつか死人が出ちゃわないっ!?
「千代田っちはお姉ぇLOVEですからねー」
そして冷静に突っ込む青葉の言葉に、厨房のみんなはウンウンと頷く……って、今の内容は否定しないのっ!?
「今更言われるまでもないからねっ!」
「千代田は昔からこういう子だから……」
二人はそう言っているけれど、明らかに千歳の表情は優れていないので諦めが入っちゃってるんだろうなぁ。
ちなみに千代田の表情は満面の笑みです。色んな意味で恐ろしい。
「それで話は戻りますが……ヲ級ちゃんの行動でしたよね、先生」
「ええ、そうなんですが……鳳翔さんは何かご存知じゃないですか?」
「そうですねぇ……この食堂でのヲ級ちゃんは、先ほどの金剛ちゃんと一緒に面白いことを言ったりするくらいで、それ以外は他の子供達と変わりがありませんよ。ですから、先生が心配するようなことはありませんし、むしろ微笑ましいくらいです」
「そうですか……それなら良かったです」
鳳翔さんの言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「先生は本当にヲ級ちゃんのことを愛しちゃってるんですねぇ~」
そんな俺を見ながら、青葉はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「ちょっ、人聞きの悪いことを言わなくてもっ!」
「あれあれー? 青葉はただ、家族愛って意味で言っただけですけど……先生もしかして、変な意味で捉えちゃってませんか?」
「んなっ!?」
「んっふっふー、これはちょっと取材をしなきゃいけませんねー。
『取材班は見た! 幼稚園に潜む禁断の家族愛!?』
今度の見出しはこれで決まりですっ!」
「ちょっと待てぇぇぇっ!」
「さあさあ、そこのテーブルでキッチリと吐いてもらいましょうっ!」
そう言って、青葉は俺の首根っこを掴んですぐ後ろの席を指した。
「そんなねつ造取材を真面目に受ける訳がないだろうがっ! それに、俺からも青葉に対して色々と言いたいことがあるんだぞっ!」
俺は必死で抵抗しながらも、前々から言わなければならないと思っていたことを口にすると、青葉は動きを止めて不思議そうな表情を浮かべた。
「……はえ? それはいったい何のことでしょう」
「天龍に写真」
「そ、それはずいぶん前に話し合いを終えた筈じゃ……」
「新たに出回っているという噂を聞いたけど?」
「ぎくっ」
「………………」
「あ、あはは……」
額に大粒の汗を垂らしながら、乾いた声を上げる青葉。
ぶっちゃけちゃうとカマをかけたんだけど……まさか本当に増やしていたなんて……
「青葉ったら用事を思いだしましたっ! 近場に新しい鎮守府ができたという情報をキャッチしていたので、さっそくそちらに向かうことにしますっ!」
「こ、こらっ、待てっ!」
「ではではさいならーーーっ!」
足がギャグ漫画である渦巻のように回転させながら高速で走りだした青葉は、入口の扉を閉めようとせずに一目散で逃げていった。
「くそ……」
追いかけていっても良いのだけれど、今日の本目的は青葉を問い詰めることではない。そちらの方は後日にでも高雄にお願いして、ギャフンと言ってもらうことにしよう。
「……で、実際のところはどうなんですか?」
「……え?」
後ろからかけられた声に驚き、俺は振り返って千歳達の顔を見る。
「先生のヲ級ちゃんに対する愛に関してですよー」
そう言って、青葉と同じようにニヤニヤと笑みを浮かべる千代田がいつの間にか側に立っていた。
「だ、だからそれは兄弟だからであって……」
「それにしては、ずいぶんと驚き方が変だったように見えましたけど……」
「ほ、鳳翔さんまでっ!?」
「さぁ、先生。ちゃっちゃと吐いちゃってもらいましょうかー」
まるでさっきの千歳を口説こうとしたことの仕返しとばかりに、千代田は上目遣いで強烈な眼力を向けていた。
ちょっ、マジで怖いんですけど、そもそも口説こうなんてことはしてないからねっ!
「お客さんも殆どいませんし、少し休憩がてらにしっかりと話してもらいましょう」
「青葉が去っても脅威は去ってないっ!」
「「「さぁさぁ……さぁさぁ……」」」
「これじゃあこの前の飲み勝負の後と同じじゃんかーーーっ!」
――とまぁ、結局あることないことを喋らせられましたとさ。
次回予告
何とか食堂の3人から逃げ出した主人公。
すると目の前に、明らかに挙動不審なヲ級の姿が見えたのだが……
艦娘幼稚園 ~ヲ級観察日記~ その4「The HENTAI」
乞うご期待!
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