艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 観察対象であるヲ級とバッタリどころか、見事なまでに巻き込まれた主人公。
しかし、これだけでは終わらない。ついに……ついにヤツが舞鶴にやってきてしまったのだった。


 今回のネタはDVD見たせいです。分からない人はごめんなさい。

 ちなみにこっちで登場したという事は……ええ、今章終わったら更新します。


その2「ヤツが来る」

 

「ところで先生、ちょっと聞きたいことがあるんデスケド」

 

「ん、どうした?」

 

 食事を食べ終わった金剛は、あったかいお茶を啜りながら俺に声をかけてきた。

 

「今日は幼稚園がお休みダケド、先生の予定は一体どんな感じデスカー?」

 

「あー、うん。今日はちょっと出かける予定があるんだよな」

 

「そう……デスカ。それなら仕方がないデスネー」

 

 肩を落とした金剛はションボリとした表情を浮かべながら再度お茶を啜った。

 

 予想していた通り、俺に予定が無かったら遊ぼうなどと言おうと思ったのだろう。しかし、俺にはヲ級の行動を観察するという目的がある以上、金剛には悪いが付き合うことはできない。

 

 もちろん、予定が何も無ければそれもありなんだけど。

 

 一日中撫で撫でしまくるとか、布団の上で抱きしめながらゴロゴロしたいし。

 

 ………………

 

 おかしいな……最近こんな思考ばっかりじゃないか、俺。

 

「あれ~、なにやら不穏な気配を感じたんですけど~」

 

「……はい?」

 

 急に後ろから声が聞こえて振り返ってみると、長い髪を両側で括り、手提げ鞄を肩にかけた艦娘がキョロキョロと辺りを伺っていた。

 

「う~ん……気のせいですかねぇ~」

 

「え……っと、どうしたんですか?」

 

「実はこの辺りで、ちっちゃい子供に悪事を働こうとする悪い大人が居る気配が致しまして~」

 

「そ、そんなヤツが……この鎮守府に……?」

 

「大体はそれなりの権力を持った人が多いんですけどね~」

 

「は、はぁ……」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながらそう言った艦娘は、金剛とヲ級の顔を伺いながらジュルリと舌なめずりをしていた。

 

 ………………

 

 いやいやいや、あんたの方が怖いんですけどっ!

 

 なんで二人に向かってエロそうな目で見てるんですかっ!?

 

「あ、あの……ちょっと……」

 

「かわいいなぁ……ほっぺにスリスリしたいなぁ……」

 

「すみません……言動がもはやアウトなんですが……」

 

 さすがに見ていられなくなったので、艦娘の肩を叩いて気付かせる。

 

「……はっ! え、あ、なんでしょうか~?」

 

 服の袖で口元のよだれを拭き取りながら、艦娘はブンブンと顔を左右に振っていた。

 

「あなたの方が危険だと囁いています。俺のゴーストが……」

 

「……なぜに少佐さん?」

 

 言って、不思議そうな表情を浮かべた艦娘は口元に指を当てて頭を傾げた後、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ところであなたはいったい、どなたなんでしょうか~?」

 

「俺はこの子達が通う、幼稚園の先生です」

 

「なるほど~。つまり、子供達を育てて自分好みの彼女にしようなんて、発想からしてマッチョですよね。気に入らないですよ~」

 

「「「ざわ……っ」」」

 

 目の前の艦娘がその言葉を吐いた途端、周りの空気が一変するように感じた。横目で見てみると、周りで食事を取っている艦娘や職員達が、固唾を飲んで俺達を見つめている。

 

 ……まさか2日続けてこんなことになるなんてなぁ。

 

「ちょっと今のは言い過ぎデス! どこの誰だか知りませんケド、先生に謝ってクダサーイ!」

 

「ソノ通リダネ。ドチラカト言エバ僕ノ方ガ、オ兄チャンヲ好ミニ育テ上ゲルンダカラ……」

 

 ………………

 

 周りの目がだんだん痛くなってきたんですけど。

 

 ちっちゃい子供の好み通りに育てられる先生ってどんな羞恥プレイだよっ!

 

「ふむふむ、ワイン同様、熟成に時間を要する人間関係もあるってことですね~」

 

「「「………………?」」」

 

 その言葉を聞いた子供二人と周りの人達は、いきなり何を言っているのだろう……と、ぽかんと口を開いて佇んでいた。

 

「少佐からの課長コンボですか……なかなかやりますね」

 

「いえいえ~。それを分かるあなたも、たいしたものですよ~」

 

 そう言って、俺と艦娘は熱い握手を交わした。

 

「……い、いったい何なのデス?」

 

「サスガニ僕ニダッテ……分カラナイコトクライ……アル……」

 

 うん、それは調査班の隊長ね。

 

 しかも、もしかしてワイン繋がりか?

 

「ふむ……どうやら変な雰囲気も消えちゃいましたし、思い違いだったんでしょうか~」

 

「まぁ、そういうこともあるんじゃないですかね。世の中は日々変わっていきますから」

 

「そうですね~」

 

 あははははー……と笑い合う俺達を見て、周りの人達の視線が離れていった。

 

 ふぅ……なんとか落ち着いてくれたようだ。

 

 さすがに2日続けてトラブルは避けたかったからね。

 

「何だか良く分かりませんケド、一件落着ってことデスカー?」

 

「愚兄ハ耳ト目ヲ閉ジテ、口ヲツグンデ孤独ニ暮ラセバ良イノニ……」

 

 そう言って、ヲ級はドヤ顔を俺に向け、

 

「を、ヲ級の言っていることが良く分かりまセーン……」

 

 少し呆れた表情を浮かべた金剛がそう話す。

 

 対照的な二人を見ながら、俺と艦娘はニッコリと微笑んだ。

 

 

 

 ……やっぱり知ってるんじゃねぇか。

 

 

 

 

 

 見知らぬ艦娘とはそれ以降会話もなく、フラフラとどこかへ歩いていった。

 

 俺は引き続き朝食の残りを平らげようとしていると、ヲ級は少し用事があるからと言い、外へと出た。

 

 うぅむ……本来なら後を追いかけたいところなんだけれど、朝食はまだ残っているし、金剛の目もある。ここで急に切り上げて追い掛けようものなら、不審がられる可能性が否めない。

 

 ――となれば、ここは直接後を追って観察するのではなく、他の人から詳しく話を聞いてみることにしようと、俺は心持ち早めに箸を動かしたのだが、

 

「ジーーーーー」

 

「………………」

 

「ジーーーーー」

 

「あ、あのさ……金剛……」

 

「何デスカー?」

 

「なんで俺の顔をじっと見つめているのかな?」

 

 この間の比叡みたいで、落ち着かないんだけど。

 

「愛するハズバンドの顔を眺めるのは、ワイフとしての幸せデース!」

 

「いやいやいや、頼むから周りの人が勘違いするようなことを言わないでくれないかな?」

 

「どうせ近い未来にはそうなる運命なんですカラ、先生は気にしないでおいて良いのデース!」

 

「俺の運命確定しちゃってんのっ!?」

 

「もちろんデスヨー。何が何でも私の思い通りネー!」

 

「傲慢過ぎるのにも程があるっ!」

 

「それとも、私のことが嫌いだって言うんデスカー?」

 

「う……そ、それは……」

 

 キラキラと輝く目で見つめられては、そうじゃないと突っ張ることもできない。かと言ってここで首を縦に振ることもできないし、左右に振れば泣いてしまうかもしれない。今までは幼稚園の中というある意味隔離された場所だったから上手くやり過ごせたけれど、食堂の中には俺以外にもちゃんとした大人の姿があるのだ。下手なことを口走ってしまっては、あらぬ噂が撒き散らされる可能性だって否定できないだろう。

 

 そうなると、取れる手段は脱兎のごとく逃げ去るか、上手く言いくるめるかの二択である。しかしこの状況下で逃げようにも、食事を残してというのは些か抵抗があるので、後者の手段でいくとしよう。

 

「何を言ってるんだよ金剛。俺がお前のことを嫌いになんかなるはずがないだろう?」

 

「ワオッ! それならやっぱり……」

 

「しかしだ。俺はあくまで先生として金剛が好きなんだし、そこのところはちゃんと分かってくれなきゃダメだぞ? そうじゃないと、色々と大変なことになっちゃうからな」

 

「どうしてデスカッ! 好いている同士なら年齢ナンテ……」

 

「だから、あくまで俺は先生としてだな……」

 

 そう――言いかけた途端、背筋に凍るような寒気が襲い、首筋に生暖かいモノがヌラリと触れる感触に気づく。

 

「……っ!?」

 

「……ふむふむ、これは嘘をついている味ですねぇ~」

 

「い、いきなり何をするんですかっ!?」

 

 俺は慌てて立ち上がり、距離を取るように後ずさった。

 

「やっぱり何か気になるなぁと思って戻ってきましたけど……この雰囲気は先生でしたか~」

 

「な、何を……いったい何を言っているんですかっ!?」

 

「それはさっきも言いましたよね~。ちっちゃい子に悪いことをしようとする大人を探しているって……うふ……うふふふ……」

 

 ニタァ……と笑みを浮かべる艦娘に恐怖を感じた俺は、追い詰められるように一歩、ニ歩と後ずさっていく。

 

 やばい……このままでは殺されるっ!

 

 ――そう、俺の本能が察知した瞬間だった。

 

「でもまぁ、どうやら勘違いだったみたいですね~」

 

「………………はい?」

 

「先生は嘘をついてましたけど、私が探している大人ではなさそうです~」

 

 艦娘はそう言って、不適な笑みを崩した。

 

「それに、どうにも食欲が湧かないというか……違う気がするんですよね~」

 

「な、何を言っているのか……さっぱりなんですけど……」

 

「まぁ、その方が先生にとっても良いと思いますよ~」

 

 クルリときびすを返した艦娘は手を振りながら、食堂の扉へと歩いていく。

 

「機会があったら攻めてあげますけどね~。その時は、存分に本音を出させてあげますよ~」

 

 扉をガラガラと開けて、姿を消した。

 

「………………」

 

 呆気に取られたまま俺は息を飲む。

 

 あの艦娘を怒らせてはいけない。世話になってもいけない。関係しないほうが良い。

 

 一部の趣味は合うかもしれないが、多分、間違いなく、分かりあえる存在ではない気がする。

 

 そんな考えが頭の中に過ぎり、俺は大きなため息を吐く。

 

 ただ、この瞬間思えたことは、

 

 命が助かったという喜びが、心の中を埋め尽くしていた。

 

 

 

「……それデ、結局私の話はどうなったのデスカ?」

 

「あー、うん。まぁ、今日は勘弁してくれ……」

 

「オーゥ……残念デース……」

 

 かく言う金剛も心なしか表情は優れず、素直に引いてくれたのであった。

 




次回予告

 ヤツの脅威を感じながらも、何とか命長らえた主人公。
それでは目的をと、厨房で情報収集をしようとするのだが……

 またもや現れたアイツも含めて、主人公が追い詰められる?


艦娘幼稚園 ~ヲ級観察日記~ その3「しっぺ返し」


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