詳しくは「艦娘幼稚園 遠足日和と亡霊の罠(サンプル)」の方をお読みくださいませ!
(4万文字弱の序盤サンプルと書籍の情報、そしてイベント参加情報が載ってます!)
どうぞ宜しくお願い致しますっ!
サッカー開始っ!
だけどもちろん比叡の視線は止まらない。
そして更には別のものまで飛んできて……
「いっけー、俺様のドライブシュートー!」
天龍の渾身の力を込めたボールはゴールを大きく逸れ、明後日の方向へと飛んでいった。
「あら~、相変わらず天龍ちゃんったらノーコンよね~」
「勢いだけで蹴るからダメなんだよね」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
呆れた表情で龍田と時雨に言われた天龍は、顔を真っ赤にしてからボールを取りに走っていく。
「重力と発射角度、それに空気の抵抗を考えればちゃんと飛ばせますのに……」
そう言ったのは霧島なんだけれど、サッカーにそこまでの知識は必要じゃないと思うのだが。
そりゃあ、艦娘として砲撃するには必要になるだろうけれど、さすがにまだ早いだろう。
「うぅ……霧島ちゃんの話しを聞いてたら、なんだか弥生お姉ちゃんを思いだしたっぽい……」
言って、頭を抱えた夕立が難しそうな表情を浮かべていた。
弥生お姉ちゃんって……誰?
「よし、ボールを持ってきたから、ここから再開だよな!」
「いやいや、天龍が蹴ったんだから相手チームのボールで再開だ。つーか、なんでいきなりコーナーすらすっ飛ばして、PKエリアからゴールに向かって蹴ろうとするんだよ……」
「えっ、この方が狙いやすいじゃん!」
「サッカーはチームで戦うんだし、ルールもあるんだからちゃんと覚えような……」
自分勝手過ぎるのにもほどがあるのだが、今までサッカーを体験した事が無いのだろうか。普通に考えれば倉庫の中にゴールやボールが置かれていたのだから過去にやった事はあるだろうし、ドライブシュートと叫んだ事からも全く知らないとは思えない。
まぁ、ルールよりも元気良く遊べって事で、子供達の自主性に任せていたのかもしれないけどね。
子供達の顔を見てみると結構楽しんでいるようだし、少しずつ教えていけば良いだろう。しかしそれ以上に気になってしまうのは、コートから離れて建物の側に座っている比叡と榛名の姿である。
「2人は参加しないのかな? みんなは結構楽しんでいるみたいだけどさ」
俺は2人に近づきながら問い掛けてみると、全く表情を崩さぬまま榛名が口を開いた。
「榛名は金剛お姉様のお姿を眺めているだけで結構です」
「そうは言うけど……一応、幼稚園の授業な訳だからさ……」
「それに、榛名は先生の事を認めた訳ではありません。ですけど、比叡お姉様が先生をしっかりと監視して大丈夫かどうか見極めるとおっしゃってる以上、榛名はそれに従います」
視線を全く俺に合わせようともせず、榛名はコートを見つめながらそう言った。
うーん……どうにも嫌われちゃってるなぁ……
ただ、何となくなんだけれど、無理矢理そう思い込んでいる風にも聞き取れる気がする。どこか本心ではなくて、嫌々言っているような……そんな気がするんだけれど。
「まぁ、参加したくなったら自由に入って良いからさ。ただし、人数の調整はきっちりとしなきゃダメだから、どっちのチームには入れるかは状況次第だけどね」
「………………」
黙り込んだ榛名は、何度か俺の顔を横目でチラチラと見ているだけだった。ただ、その行動が俺を無視するという事ではないと判断できたので、ひとまずは良しという事にしておこう。
「じーーーーー」
「……で、比叡はずっと俺の監視を続けるの?」
「それはもちろんです。何か不振な動きをしそうになったら、愛宕先生に言い付けます」
「そ、そんな話しになってるのかよ……」
監視だけじゃないとなると、少々厄介だと思うのだが。
いやまぁしかし、愛宕に知られて具合が悪くなるような事をするつもりは無いのだから、多分大丈夫だとは思うんだけどね。
問題は突発的な事故――なんだけど、そういうのってどうにも昔から運が無いで済ませれるほど楽観視できないんだよなぁ。
例えば、こうやってコートの方から目を離していたりすると、ちょっとしたトラブルがやってきたりとか……
「今デス、テリャーッ!」
「何っ、俺様のボールを取るためにスライディングだとっ!?」
「ほらほら、天龍ちゃん~。こっちにパスよ~」
「よし、龍田に向かってシュートだっ!」
「いやいやいや、それは違うと思うんだけど……って、先生危ないっ!」
「……ん?」
時雨の叫び声が聞こえて振り向いてみると、大きな丸い白と黒の物体が目の前に迫ってきて、
「ごげふあっ!?」
見事なまでに、俺の顔面に直撃した。
「あ、先生……悪ぃ……」
天龍の謝る声が聞こえる中、視界はぐるぐると回り、平衡感覚は完全に狂ってしまっている。
「あら~、先生がメタパニ状態になってるわね~」
「もしくはコンフュじゃないかな?」
「テンタラフーでもありじゃないかしら?」
言いたい放題なんだけど、霧島がテンタラフーっていうと……なんとなくブリリアントが出てくるな。
――って、完全に混乱しちゃってね?
「せ、先生、大丈夫デスカー?」
「あ、あぁ……なんとか……」
そう言って立ち上がった俺は、右手で顔に触れると同時に違和感に気づいた。
「……げっ」
手の平には真っ赤な液体が付着しており、鼻の辺りがズルズルと水っぽくなっている。
「せ、先生が流血っぽいっ!」
「きゅ……救急車を呼ばなきゃっ!」
慌てた夕立が叫び、潮があたふたとしながら泣きそうな表情を浮かべる。
「あー、いやいや。これはただの鼻血だから、そんなに大事にしなくて大丈夫だから」
言って、俺はズボンの後ろポケットから取り出したティッシュを丸めて、鼻の穴にねじ込んだ。
「ほら、これで暫くしていれば血は止まるから。さぁ、気にせずサッカーの続きを開始しよう」
「ほ、本当に大丈夫デスカー……?」
「大丈夫だって。これくらいの怪我はいつもの事だからさ」
そう言った俺は金剛を安心させる為に、頭に手を置いて優しく撫でる。
「せ、先生、それは……」
「アウトーーーッ!」
「先生、それは報告しなければいけない案件です!」
「えっ、あ……そ、そうか……」
榛名、比叡、霧島が一斉に指差して声を上げたので、俺は仕方なく金剛から手を離した。むやみに触れてはセクハラ行為に当たると言われているが、やっぱり納得がいかないんだけれど……
それに、比叡に至ってはさっき俺に撫でられてたよね?
「むぅぅぅっ、どうしてデスカッ! 何で撫でられるのがセクハラになるのデスカーーーッ!?」
「YES,YES,YES……ではなく、金剛姉様の安全を考えれば当然です。ロリコン先生に触れられると、ロリコンが移る可能性があります」
いやいやいや、そんなの移んないしっ!
そもそもロリコンじゃないって言ってるじゃんかーーーっ!
「な、なにっ、ロリコンって移るのかよ龍田っ!?」
「そうよ~。それはもう、バイオなハザードになっちゃうわよ~」
「も、もしそうなると……潮達の大きさで更にロリコンだったら……」
「あ、赤ちゃんしかいないっぽいっ!」
それはペドって言います。
――って、冷静に分析している状況じゃねぇよっ!
「いい加減にするデスッ! 私は先生が触れてきても何の問題も無いのデス! むしろ大歓迎なのデスヨッ!」
「「「こ、金剛(お)姉様……」」」
頭から湯気を立たせてしまいそうなくらいに真っ赤になって怒った金剛を見た3人は、申し訳なさそうな表情を浮かべながら肩を落とす。
「ですが、金剛姉様が気を許した途端に狼に変貌する可能性も無いとは言えないのですよ?」
「それならそれで構わないデス! 既成事実でハッピーエンドに直行ルートで完璧デース!」
いやいやいや、ちょっと待て。
手を出すつもりなんか一つも無いけど、その考え方は恐すぎるぞ金剛っ!
もう一度ハッキリ言っておく。
お前は幼稚園児だからなっっっ!
「こ、金剛ちゃん……それは色んな意味で危ない発言だと思うんだけど……」
「Why? 時雨まで私を否定するのデスカー!?」
「あ、あのさ……それをもし先生がやっちゃったとしたら、確実に憲兵さんに連れられて、そのまま帰ってこなくなる可能性が99、999%……だよ?」
「そ、それは……困りマース……」
「確実に元帥にちょん切られた挙げ句、特別仕置人に拷問されちゃうわよね~」
「そ……そんな人が……いるのかな……?」
「う、潮っ、だ、大丈夫だからっ、俺がついてるから泣かなくて良いぞっ!」
ガタガタと震えながら涙目になりそうな潮の手をギュッと握ってあげた天龍だけど、自らの足も武者震いのように大きく震えているのを俺は見逃さなかった。
……うむ、天龍もガチガチに怖がってるよね。
「ちなみにそれって、トランペットが鳴り響くっぽい?」
なんでそっちにいっちゃうのかなぁっ!?
確かにシリーズ的に間違ってはないけど、あれは仕事の方だからねっ!
「と、とにかくさっきのは言い過ぎたかもしれませんケド、頭を撫でられるのもダメだなんテ、私は納得がいかないデース!」
「確かにそうだよね。もしそれで先生が捕まっちゃうのなら、僕たちも撫でてもらえない訳だしさ」
「そ、それは困るぞっ!」
「先生の撫で撫では気持ち良いっぽい!」
「う、うん……潮も……撫でられるのは嫌いじゃないよ……?」
「私はどっちでも良いんだけどね~」
金剛、時雨、天龍、潮、龍田が榛名達に面と向かって声を上げた。3人はその勢いにたじろきながら、1歩、2歩と後ずさる。
「お、お前達……」
子供達の気持ちが嬉しくて、俺は少しばかり涙ぐみそうになってしまったが、このままでは喧嘩になってしまう可能性があるので、放っておく訳にもいかない。
「分かった。分かったから、それ以上過熱するのはストップだ」
両手を広げながら子供達の間に身体を割り込ませ、みんなに向かって大きな声で話す。
「みんなの意見はどれもが嬉しいし、かと言って比叡や榛名、霧島が言うのも一理ある。でもまずは俺の顔を立てて、この場を収めて欲しいんだけど……」
「せ、先生がそう言うんなら、俺は別に構わないけどよ……」
「ありがとな、天龍。とりあえずここは榛名達とちゃんと話したいから、サッカーの方に戻ってくれるか?」
「ああ、分かったよ。それじゃあ、続きをやろうぜっ!」
「今度は天龍ちゃんがキーパーをやってよね~」
「それじゃあシュートできないじゃんかっ!」
「ゴールを守らないで前に出れば良いのよ~」
「なるほど! さすがは龍田、頭良いぜっ!」
……いやいや、それってかなりの無茶振りだからね。
そう言ってコートへと向かって行く子供達。金剛は少しこちらの様子を伺っていたが、ボールが蹴られると同時にサッカーへと集中する。
「「「………………」」」
無言で立ちながらお互いの顔を見合う3人に、俺は優しく微笑みながら声を掛けた。
「朝にも言ったけど、3人が金剛の事を思う気持ちは痛いほど分かる。だけど、当の本人の意思を無視してまで押し付けちゃったら、次第に愛想を尽かされちゃうんじゃないのかな?」
「そ、それは……」
「3人とはまだ出会って少ししか経ってないけど、その間俺の事を見ていてどう思ったのかな?」
「………………」
俺の言葉を聞き、榛名は俯くようにして考え込んでいた。比叡はすぐに声を上げようとしたのだが、何かを思い出したようにビクリと身体を震わせて押し黙った。
その反応って、やっぱり朝の愛宕の……?
しかし、霧島だけは腕組をしながら敵意を剥き出しにしてジッと睨みつけている。
「別に今すぐ答えなくても構わない。だけど、金剛の意思と俺の言葉を信用してほしいんだ。俺は間違いなく金剛に悪意を持って手を出したりしないし、3人が思っているようないやらしい事をするつもりはない。もしそれが金剛が望んできたとしても、世間的にも具合が悪いのは重々承知しているから、絶対に大丈夫だと言い切るよ」
「せ、先生……」
「それに……さ、榛名達はせっかく佐世保からここまでやってきて、念願の金剛と出会えたんだろ。それなのに喧嘩みたいな状態が続いていたら、何の為にやって来たのか分からなくなってきちゃうじゃないか。俺は3人がここで楽しく暮らしていけるようなって欲しいから、悪いんだけど一緒に協力してくれないかな?」
そう言って、満面の笑みを榛名に、そして比叡や霧島に向けた。
そんな俺を見た榛名の表情が、ゆっくりと緊張が解れたように柔らかなモノへと変わり始めた時……
「分かりました。ですが、少し考えたい事があるので席を離させていただきますね」
急に霧島がそう言うと、比叡と榛名の手を握って無言のまま建物の方へと向かっていく。
「き、霧島っ!?」
「ちょっ、どこに引っ張っていくのっ!?」
呆気に取られた俺は何も言う事ができずにその場で立ち尽くし、3人の姿を見送った。
……まぁ、これで考え直してくれたら良いんだけど。
そんな、前向きな思考が後々自分の首を締めるとは、夢にも思わなかった。
ちなみに、なぜかヲ級は一切喋らずに遠目で俺の事を見てるんだけど、何か悪い事をしたのかなぁ……?
※書籍のサンプルを公開しました!
詳しくは「艦娘幼稚園 遠足日和と亡霊の罠(サンプル)」の方をお読みくださいませ!
(4万文字弱の序盤サンプルと書籍の情報、そしてイベント参加情報が載ってます!)
どうぞ宜しくお願い致しますっ!
次回予告
霧島は2人を連れて去っていった。
この行動が、後に主人公の首を絞める――ことになったのかは不明だが、とある事件が巻き起こる。
電と暁が探し物をしているのを見つけ、話を聞くうちにだんだんと怒りが溜まってしまい……
艦娘幼稚園 ~金剛4姉妹の恋~ その5「盗難事件発生!?」
乞うご期待!
感想、評価、励みになってます!
お気軽に宜しくお願いしますっ!
最新情報はツイッターで随時更新してます。
たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
是非フォロー宜しくですー。