艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 またもやこのオチかよと思った貴方! 正解だよ?(ぉ

 いやいや、これで終わらないのはいつものこと。
比叡は尊い犠牲になっちゃったけれど、はたしてどんな状態に?
それは、いきなり語られます……


その2「ガン見レベル1」

「アタゴ先生ハ、素晴ラシイ先生デス」

 

「………………」

 

「アタゴ先……生ハ、トテモ優シイデス」

 

「………………」

 

「アタ……ゴ先生、ハ、綺麗デ、パーフェクトトトトトt」

 

「比叡お姉様ーーーっ!」

 

「比叡姉様ーーーっ!」

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 目の前には真っ白なシーツがいくつも見え、緩やかな風に吹かれてふわふわと舞っている。

 

 しまった……昼食後の満腹感で、洗濯物を干しながら寝てしまったようだ。

 

 つーか、目茶苦茶器用な事をしたんだけど、褒められる事では無い。むしろ、仕事中に寝てしまうというのは怒られる事だ。

 

「しかし……なんつー夢だよ……」

 

 真っ白になった比叡が部屋の片隅で体育座りをして、ブツブツと呟く様は見ていられなかった。しかも言葉が……その……完全に洗脳レベルだったし……

 

 まぁ、さすがにあれば夢の中だけだろうけれど、指導室で比叡がどうなったのかは未だ分からない。あれから昼食の時間、そして昼寝の時間と、愛宕と比叡は帰ってこなかったのだ。

 

 その間、他の子供達は何の問題も無かったのだが、榛名と霧島については朝と同じ状態であり、仕方なく金剛にサポートしてもらう形で何とか切り抜けた。とは言っても、2人とも思考的には他の子供達と比べて大人びているので、なんでも1人でこなせてしまえるようなのだが。

 

 霧島に至っては少し前まで子供じゃ無かったのだから、それは当たり前なんだろうけれど。

 

 問題はこの事によって金剛の機嫌があまりよろしくない。とは言え、一番活発で俺を敵視する比叡がいないだけマシだとは思うんだけどね。

 

「比叡に対して、そこまでの事はしないと思うけどなぁ……」

 

 指導室に連れていかれた比叡を思い出すが、まさか夢のような状況になるとは思えない。しかし、3人が俺を嫌う点については未だ頭を悩ませる事である。少しばかり大人しくなってくれるならそれもアリだとは思うのだけど、洗脳はさすがにやり過ぎだろう。

 

 いやまぁ、洗脳ってのは俺の想像であって、現実には無いだろうけれど。

 

 ただ、指導室という部屋を俺は知らないし、先生になってから一度も聞いた事が無い。鎮守府内に流れる噂で、汚職を行った人が憲兵に捕まり、専門とする艦娘に尋問を受ける所がある……というのを聞いた事はあるけれど。

 

 ……さすがにそれが幼稚園の中にあるとは思えないしなぁ。

 

 そんな事を考えながら洗濯物を干し終えた俺は、腕時計に目を落とす。時間に少し余裕があるので休憩をしようかな……と、スタッフルームへ足を向けた。

 

 

 

 

 

「あれ、愛宕先生?」

 

 スタッフルームの扉を開けると中に愛宕の姿が見えたので、俺は声を掛けながら中に入った。

 

「先生、お疲れ様です。子供達の方は大丈夫でしたか~?」

 

「ええ、ちゃんと昼食と昼寝は問題なく済ませました」

 

「そうですか~。ありがとうございますね~、先生~」

 

 愛宕はそう言って、俺の頭を撫でてくれた。

 

 うむ。久しぶりの撫で撫でに、ちょっと気分が高揚する。

 

 もちろんバッチリと、胸部装甲を目に焼き付けておいたしね。

 

「ところで……比叡はどうなったんですか……?」

 

 俺はあれからどうなったのか気になっていたので、恐る恐る問い掛けてみた。

 

「比叡ちゃんならおトイレに行ってますよ~」

 

 愛宕の言葉を聞いて俺は頭を捻る。指導室に連れていったのに、トイレに行く際は1人。何だか矛盾している感じに思えてしまうのだが、そもそも幼稚園児を指導と称して拉致監禁するような事をする訳がなく、ちゃんと話し合っていくのが普通なのだ。

 

 ううむ……どうやら先ほどの夢から、どうにも考え方が危ない方向にいっちゃっているのかもしれない。

 

 それとも、鎮守府内に流れる噂を聞いたからだろうか。いやまぁ、あれはあくまで噂だし、現実ではありえないレベルの拷問だからなぁ。

 

「ただいま戻りましたー」

 

 扉を開けて部屋に入ってきた比叡が俺の顔を見た瞬間、驚いた表情を浮かべた。

 

「お帰りなさい、比叡ちゃん~」

 

「う……あ……そ、その……」

 

 比叡は微笑みかける愛宕の顔と俺の顔を交互に見ながらうろたえていた。

 

「比叡ちゃん。さっきお話した事をちゃんとしましょうね?」

 

「は、はい……」

 

 観念するように肩を落とした比叡は、一旦深呼吸をするように大きく息を吸い込んでから、俺の顔をしっかりと見つめて口を開いた。

 

「せ、先生、さっきはごめんなさい……」

 

「あ、あぁ……まぁ、分かってくれたら良いんだけど……」

 

 俺はそう言いながらホッと胸を撫で下ろす。しかし、そうは問屋が卸さないといった風に、比叡は続けて口を開いた。

 

「でも、金剛お姉様が心配なのは変わらないから、先生が本当に変な事をしないかどうか見張る事にします!」

 

 そう言って、比叡はガッツポーズのように左手の拳を握り締めた。

 

 目的はどうあれ、比叡は俺が担当になるという事に理解を示してくれたらしい。そもそも俺は金剛にいやらしい事をしようとは思っていないから、見張られていたとしても問題は無い。後は徐々に誤解を解いていけば、落ち着いて話もできるだろう。

 

 ただ問題は、金剛がいつものようにタックルをしてきた時の対処方法だ。怪我をしないように受け止めればセクハラと言われそうだし、周りに他の子供達が居たりすると避ける訳にもいかない。

 

 ううむ、どうすれば良いのか非常に迷うな……

 

「はい。良くできました~」

 

 そう言いながら、愛宕は比叡の頭を撫で撫でしていた。少し困惑している表情を浮かべていた比叡だったが、暫くすると大人しく撫でられていた。

 

 少し前まで普通の艦娘だったのに……と思ったりもするが、子供の身体に変化した事によってなんらかの兆候が現れたのだろうか。それとも、単純に頭を撫でられるのが好きだったという可能性も考えられる。もしくは、愛宕のゆるふわな雰囲気に飲まれたのかもしれない。

 

 どちらにしても、撫でる方も撫でられる方も幸せな気分になるのだから、問題は無い。

 

 それで良いのだ。どっかのパパも言っていたのだ。

 

「ところで先生は、この部屋に何をしに来たのですか~?」

 

「洗濯物を干す作業が終わったので、少し休憩しようかなと思ったんですけど……」

 

「ああ、なるほど~。私の仕事も色々と押し付けちゃったので、お詫びと言っては何ですけど……」

 

 言って、愛宕は胸元に手を入れてゴソゴソと……

 

 ちょっ、そんな真昼間からっ!?

 

「あ、愛宕先生っ!? こ、こんな時間に、ましてや比叡もいるのにっ!」

 

「……はい? 時間に比叡ちゃんがどうかしたんですか~?」

 

 不思議そうな顔を浮かべた愛宕は胸元から取り出した鍵を持って奥にあるロッカーの前に立ち、鍵を開けて中をガサゴソと物色しはじめた。

 

 ……なるほど。胸元に鍵を入れてたのね。

 

 紛らわしいったらありゃしないっすよぉっ! ――と叫びたくなるが、よく考えれば今回が初めてではない。

 

 ――そう。少し前の遠足で、同じような事を見たんだよなぁ。

 

 色んな思考が入り混じった俺は、大きなため息を吐いて肩を落とす。すると、何やら視線を感じたような気がしたので、ゆっくりと振り向いた。

 

「じーーーーー」

 

「ん、どうしたんだ、比叡?」

 

「い、いえっ! なんでもないですっ!」

 

「そ、そうか。なら良いんだけど……」

 

 そうは言ったものの、未だ比叡の視線が俺の顔面に突き刺さっている気がして、横目で様子を窺ってみたのだが……

 

「じーーーーー」

 

 それはもう、ガン見レベルで観察されていた。

 

 ……もしかして、金剛の近くにいない時もこうやって見られるんだろうか?

 

 青葉の時よりやりにくいんだけど……

 

「はいは~い。先生にはこれをプレゼントです~」

 

 比叡に気を取られている間に戻ってきた愛宕は、両手に持った缶コーヒーの1つを俺に差し出してくれた。

 

「え、あっ、良いんですか?」

 

「頑張ってくれた先生にご褒美です~」

 

「それじゃあ、遠慮無しにいただきます」

 

 そう言って愛宕から缶コーヒーを受け取ると、まるで自動販売機から出てきたばかりのような温かさを手の平に感じた。

 

「あれ、温かい……?」

 

「うふふ~。実は、ロッカーの中に保冷保温ボックスがあるんですよ~」

 

「そ、それは便利ですね……」

 

 ロッカーの中に電源って、一体どうやっているんだろう――と思ったが、以前に対戦車ミサイルが出てきた事もあるのだから、これくらいの事で驚いたらやっていけない。幼稚園のスタッフルームにそんな物がある時点でおかしいけれど、世の中には普通な事ばかりでは無いからね。

 

 ――それにしたって、スティンガーは無いと思うんだけどなぁ。

 

 普通の会社とかにある事務ロッカーの中に置いてあるんだよ? うっかり金剛のタックル回避したら誘爆しちゃわない?

 

 そういや、ロッカーの中に隠れていた時もあったっけ……って、今考えたらマジで怖くなってきたっ!

 

 今度、大掃除とかそういう理由でそれとなく進言しておこう。そうじゃないと安心して着替えもやり辛い。

 

「先生、飲まないんですか~?」

 

「あ、いえっ、いただきますっ!」

 

 プルトップを勢いよく開けると、深みのあるアロマの香が鼻腔をくすぐる。どうやら温かい事で、香りがいつもよりもふんだんに感じられるようだ。

 

 いつもはアイスだから、こういうのもアリだな……

 

 そう思いながら、まずは一口。少し苦みのある味わいと香りが合わさり、身体が少し緊張から解きほぐされるような感覚に酔いしれる。

 

「うむ……旨い……」

 

「美味しいですねぇ~」

 

 いつの間にやらもう一つの缶コーヒーを飲んでいた愛宕も、ニコニコと笑みを浮かべて味わっていた。

 

「じーーーーー」

 

 ただ、比叡の視線はずっと向けられたままであり、非常に居心地が悪い状況に心が折れそうになったのだが……

 

「あら、もしかして比叡ちゃんも飲みたいの~?」

 

 コクコクッ……

 

 何度も首を縦に振って答えた比叡に、愛宕はもう一度ロッカーに戻って缶コーヒーを持ってきた。

 

「ありがとうございますっ!」

 

「いえいえ~。でも、みんなには内緒よ~」

 

 口元に指を立てた愛宕に心がほんわかしながら、俺はもう一口と缶コーヒーに口をつける。

 

 それ以降、比叡の視線が俺に突き刺さることが無かったので、単純にコーヒーが欲しかっただけなのかと思い込んだ。

 

 

 

 ――この時、俺は比叡の視線について本当の意味を理解できていたのなら、もしかするともっと早くに対処する事ができたかもしれない。

 




次回予告

 昼寝後の子供たちの準備にと、主人公はサッカーの用意をしていた。
しかし比叡は引き続きガン見を続け、さすがにいたたまれなくなった主人公は腰を据えて話そうとする。

艦娘幼稚園 ~金剛4姉妹の恋~ その3「ガン見レベル2」


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