ジョジョの奇妙な学園 ~stardust stratos~   作:エア_

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ほんと、こっちではおひさしぶりです


第十話~悪夢

 

燃える、燃える、燃える。炎が燃え盛る。辺り一帯に炎が舞う。世界が夕焼けに染まったように赤く、紅く。世界が赤く塗りつぶされていた。

 

ここは確か学生寮の廊下だったはずだ。だのに、今までに見たことのない光景がその目に映っている。戸惑いを隠せない一夏は、何故こんなことになっているのかわからなかった。

 

右を見ても左を見ても、視界に入るのは赤、赤、赤。

 

自分の知っている世界の変貌に一夏は驚きをみせ、唇を震わせていた。少し変わった日常の終了と共に絶望が押し寄せてきたようで、一夏は一つ大きな恐怖を感じていた。

 

自分の置かれた状況も確かに恐怖しないわけではないが、それよりも強い恐怖を感じていた。

 

――仲間が無事なのか――

 

そのことだけが、彼の頭を埋め尽くしていた。逃げることよりも、彼女たちの無事を優先したのだ。

 

「箒! セシリア! 鈴!」

 

走る、走る。一夏は走る。見たことのある場所で見たことのない光景を目の当たりにしながら彼の足は速まるばかり。

 

教室を目指した、食堂を目指した。武道場、屋上、そしてアリーナを目指した。

 

「シャル! 千冬姉! ラウラ!」

 

叫ぶ。一夏は仲間の名前を、大切な人たちの名前を叫ぶ。その足を止めることなく、その叫びをやめることなく、一夏は皆の生存を確認するため道を走った。

 

教室も、食堂も、武道場も屋上も、人っ子一人見当たらない。

 

もう行き場のわからなかった彼は唯一探してないアリーナへと向かった。

 

アリーナへ近くなるにつれ鼓動が早くなる。第六感が近づくなと警告を鳴らす。

 

だが彼は止まれない。仲間の無事を確認できるまで、止まれない。

 

「承太郎!」

 

辿り着いたアリーナは、まさに地獄と化していた。

 

砂地だったはずの地面はところどころ赤い炎が上がっており、観客席は人の姿をした焼け跡だらけ。フィールドの監視塔は崩れ去っており、ピットは吹き飛んで中身が丸裸になっている。

 

いったい何がどうしてこうなったのか、一夏には一切としてわからなかった。

 

鼓動がまた早くなる。先ほどよりもいっそう強く打つ。汗が止まらない。暑さも相乗してか背中の気持ちの悪い汗がだらだらと流れ、服を湿らせ纏わりつかせる。

 

そして彼は見てしまった。見たくなかったものを見てしまったのだ。

 

今までありえないと思っていた。こんなことがあるはずないとずっと思っていた。

 

だのに、だというのに、目の前に実際に起こってしまっていたのだ。

 

空条承太郎が血だらけで男に持ち上げられていた。ピクリとも動かないその姿に、一夏は恐怖と怒り、そして憎しみの感情を増大させた。

 

「てめぇ!!」

 

一夏は白式を展開し、男に向かって加速した。その手に雪片を出現させ、男の腕を切り裂かんと振り上げた。瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使い、男へ詰め寄る。

 

「承太郎を離ぐぁ!?」

 

男は一夏の行動に対応するように、彼に向かって承太郎を投げつけた。叫ぶ途中で突然肺に衝撃がかかったからか、一瞬世界が真っ白になる。が、ISの生命優先機能により、意識はすぐに鮮明となり承太郎をうまく抱きとめることに成功した。

 

「おい承太郎! 返事しろ!」

 

吹き飛ばされるようにその場を離れ、男から少しだけ距離を置く。承太郎の体を揺さぶり、声をかける。だが彼はピクリとも体を動かさない。心音を確認するが、一切の音が聞こえない。

 

「無駄だ。空条承太郎は死んだ」

 

男の声が木霊し、一夏は怒りの形相を向ける。

 

その男はこの赤い世界に似つかわしい黄色に包まれていた。人間にしてはあまりにも肥大化した肉体、妖艶な顔。圧倒的な強者のオーラ。一夏の野生的な勘が囁き改めて認識した。この状況を作ったのはこの男で間違いないと、承太郎を殺したのはこいつなのだと。

 

「お前……いったい何者だ!」

 

「なんだ貴様は……おぉおぉ、まさかお前のようなちんけなモンキーが生き残っているとは。流石は篠ノ之束お気に入りの男というところか」

 

男は愉快愉快と笑いながら一夏に近づいていく。一歩近づくたびに、一夏の警戒心は強くなる。雪片を握る手に力が篭る。今すぐに友の敵をとりたいと焦りが出てしまう。

 

「どうした、顔が青いぞ?」

 

「お前が……学園をこんな姿に変えたのか!」

 

わなわなと震える雪片を何とか止めようと、反対の手で押さえ込む。今にもその刃を男に突き刺したいという怒りと欲望の混ざった感情が彼を支配しようとしていた。だが唯一残ったちっぽけな理性が、彼を制動していた。

 

「勿論。と、わざわざ口にしなければならないのか?」

 

「何でこんなことをした!! 俺たちがいったい何したって言うんだ!」

 

今理性の効いた唯一の対抗。仲間が来るかもしれないと考えながら、下手に手を出さないように自分を押さえつけていた。

 

承太郎を倒した男に、自分が倒せるのだろうか。

 

一夏の中での解答は「NO」である。彼の戦いを知っているし、何よりも彼の実力はその目に焼きついている。だからこそ、今男に攻撃するのは得策ではない。それこそ死にに行くようなものだ。

 

だが、彼の理性は男の言葉とともにプツンと切れてしまった。

 

「何故だと? おいおい、それは質問として在りえないじゃあないか? それともお前は、『道端でアリを踏んで罪悪感を覚えるのか?』」

 

男に向かい躍り懸かる。再び振り上げられた雪片が眼前の敵を斬り伏せんと刀身を青い輝きを放った。男はその歪んだ笑みを一切変えず、何もすることなくその場に佇んでいた。一夏の攻撃を甘んじて受けるかのように、男に動きは全くない。

 

これを好機と見た一夏は雪片を振り下ろす。この瞬間の一振りは今迄で感じたことのないもので、皮肉にも最高の一撃だと確信を持った。

 

だが、彼の振り下ろした刃は、男に触れることはなかった。

 

「!? っだよ……これ」

 

突如ハイパーセンサーに映る灰色のナニカ。人の姿にも見えるが、その姿見は人間などのカテゴリーでは言い表せなかった。その灰色の野箆坊は雪片を簡単に握り折ると、一夏の顔面に狙いを定め、命を絶たんとその拳のようなものを振りぬいた。

 

間一髪のところで一夏は首をそらし回避を成功させ、その場から離脱した。相手と十分な距離を、その上で承太郎の横たわる場所とは別の場所へ飛び退いた。

 

無事に着地した彼は、折れてしまった雪片へ視線を向ける。まるで掴まれたような後のある刀身は既に輝きなどなく、完全に大破してしまったことを一夏に告げていた。

 

「……いったい、何が」

 

「所詮お前ではわからん。スタンドを持ち得ないお前ではな……ジョースターの血筋は途絶えた。もう誰も、このDIOをとめる事は出来ん!!」

 

唐突、あまりにも唐突に灰色のナニカが眼前に現れる。それは一瞬などという言葉では足りないほど早く、まるで当たり前のように既に存在していた。1フレーム単位で現れたナニカに血の気が引く。総毛立ったように目を離せなくなった一夏はそのナニカの拳を甘んじて受けてしまう。

 

アリーナの壁に背中を強打し、意識が吹き飛びかけた。吐き出された息が規定量を越え、本来吐き出されることのない残気量まで排出したのか、呼吸困難に陥った。だが流石はISといったところだろう。一夏の呼吸はすぐに整えられ、再び戦える状態に戻した。

 

今までに食らったことのない衝撃。何故生きているのか不思議でならない。あの承太郎を殺しきった相手の攻撃をどうやって耐えられたというのだろうか。

 

「……使うしか、ないのか」

 

左腕に視線をおろす。そこには束に返したはずの白銀のガントレットが存在した。何故ここにあるだとか、何故あることを自分自身が理解しているのかだとか、聞きたいことはある。が、この状況でそんなこと考えている暇なんてなかった。

 

ガントレットに意識を集中させ、自分の進化の形を再確認した。

 

しかし、彼は戸惑いを見せていた。残念ながらその意思はまだ白雷を動かすことに抵抗があるようで、その手は少し震えていた。箒のように力におぼれるのではとブレーキをかけていたのだ。

 

だが、そう言ってもいられない。眼前の敵を倒すためにも、仲間の敵を討つためにも、一夏は今自分の事情をかなぐり捨てて立ち向かわなければならない。躊躇している暇はないと、一夏は白雷の名を叫ぶ。

 

「白雷!!」

 

彼の声に呼応し、ガントレットはその姿を真なる物に変えた。

 

そのむき出しだった肌を白いボディーアーマーが包み込む。より機械的なフォルムになった全身装甲は速度と攻撃に特化したのか白式よりも角張ったうえ流線形をしていた。アームは鋭く、指をピンと伸ばせば角錐のように鋭利で尖っている。脚の装甲は逆にどっしりとしており、足底はブースターが追加されていた。可動性も十分。スラスター、モーター、ウィングスラスター、ギア、ディフレクターがさらに白式へ加算された新たな機体。その姿はもう既に従来のISとはかけ離れたものとなっていた。

 

「……ほぅ? まだ足掻こうと言うのか? 人間風情が」

 

だが、男はそれがどうしたと言わんばかりに嗤う。人間の足掻きを見下し嘲笑う。

 

脚部に搭載されたスラスターとブースターから大気を劈くジェット機音が辺りに鳴る。圧縮された空気が吐き出されるのを今か今かと待ちわびているのか、周囲に空気の波が生まれていた。

 

一夏はその視線を男から一切離すことなく、白雷のメインシステムを開き白雷に武器が搭載されているか確認した。バススロットの殆どを起動に回していたためか、一つのみ確認できた。

 

白式の雪片と同じタイプ。【雪片-参型】と記載されたスロットをタップして呼び出す。破壊された雪片と同じ形状ながら放たれる光が淡い白のブレードが現れた。出力が上がっているのか、一夏はシールドエネルギーの減りが若干早くなっているのを感じた。

 

その後、福音戦の時に開放した新たな武器【雪羅】を左腕に纏い、男に向けて対面する。まだ戦うという意思を相手に向けた。

 

「恐怖を感じながらもこのDIOに盾突くか。愚かと言うか、馬鹿と言うか」

 

「お前は俺の仲間を殺した! だからぜってぇに許せねぇ!」

 

「許さない……か。ではどうするのだ? 承太郎よりも弱い貴様に何が出来るという」

 

「例え勝てる確率が限りなく0に近くても! 俺はお前を倒す!」

 

「貴様の性格ならば刃を向ける前にその心が折れると思ったのだが……少々評価を変えなくてはならないようだな……まぁ」

 

再び現れた灰色のナニカ。今度は男の背後に佇み、一夏を見下ろしていた。野箆坊の癖にその輪郭は人の形状そのもの。表情が伺えないのが余計不気味さを醸し出していた。

 

スラスターの音が増し、空気の波紋が絶え間なく彼の周囲に円を描く。それと同時に白雷は男に向かって駆け出した。空を翔るその姿はまさに稲妻。音を置き去りにするように空を舞い、その刃の切っ先をナニカに向けた。

 

ナニカはさも当然のように雪片を片手で受け止める。だが一夏も馬鹿じゃない。雪羅をナニカの腹部に突きつけ、荷電粒子砲のトリガーを引いた。

 

例え致命傷にならなくても、傷を負わせることは出来るはずだ。一夏はその瞬間だけ、甘い考えを持ってしまった。

 

「一つ良い事を教えてやろう」

 

だが、その攻撃は灰色のナニカに触れることはなかった。粒子の渦がナニカを通り越してアリーナの壁に突き刺さる。驚きを隠せない一夏はアームを使ってその胴体を思われる部分を捕まえようとした。しかし、アームは触れることなく己の爪同士をぶつけるだけ。

 

奇怪な現状が、DIOの口と同調するように告げる。

 

「貴様がこのDIOを倒す確率は“限りなく0”ではない。……“0”だ」

 

ISの装甲をその鋭利な刃物のように尖らせた指が貫く。心臓を真っ直ぐと狙ったその一突きは、寸分違わず右心室を刺突した。

 

視界が黒ずんでいく。意識が薄れていく。圧倒的な力の差というのだろうか。ただ数回の突撃を物の見事捌いた上で一ミリのミスもなく命を奪っていく。

 

何も出来なかった。敵をとることも、一矢報いることも、触れることすら出来なかった。

 

男の高笑いを最後に彼の意識は完全に消え去った。

 

 

 

 

「――って夢を見た」

 

「そうかい」

 

「ちょっとドライ過ぎやしねぇ?」

 

一夏の夢の話をテキトーに返しながら、承太郎は手元の資料に視線を落としていた。今二人がいる部屋は承太郎の個室で、テーブルに置かれている資料の山のせいでもともと二人部屋だったはずなのに狭く感じてしまう。

 

「そういやぁ、新しい武装が出来たんだってな」

 

「……あぁー、出来たには出来たんだけど。燃費悪すぎてさ」

 

「お前の機体自体が燃費悪いからな。よく福音を落とせたもんだぜ」

 

「それ褒めてんの?」

 

一応馬鹿にされた自覚はあったのかと、内心思いながら無言で資料を読み漁る承太郎。彼のそっけない態度に少し不機嫌になりながらも、一夏は彼にとあるディスクを渡した。

 

「それは?」

 

「あぁ、承太郎があのDIOとかいうやつと戦ったときの映像だよ。束さん経由だったから初めのほうは何もないところでただ拳を放っているようにしか見えなかったけど」

 

「……それを見たから、変な夢を見たってか?」

 

「たぶんな。だって衝撃的だったしさ」

 

テレビのプレイヤーに何も記載されていないディスクをはめて再生を始める。DIOとの戦いが画面に映る。流石の承太郎も視線を資料から離し、一夏と共に視聴し始めた。

 

何もない場所へ拳を打ち込む承太郎の姿、ハイパーセンサーによりやっと映る灰色のナニカ。拳のぶつかり合い、そして止めを刺さずに去っていく敵。ディスクの再生が終わるまで、二人は声を上げることはなかった。

 

完敗というわけではない。だが、間違いなく死んでいたであろうことは確かだ。むしろ何故あの瞬間に止めをさそうとしなかったのかだけが疑問として残ってしまっている。

 

「あいつのあの動きは何なんだよ」

 

「わからねぇ。コンマ数秒を一瞬で動いた……ってぇわけでもなさそうだ」

 

「あぁ、あれは瞬間移動なんてものじゃあ断じてない……もっと速い」

 

「速い……で片付けられるかはわかんねぇがな」

 

何度も見直す一夏をよそに、ふと立ち上がり資料を整頓しだす承太郎。何か思ったことがあるのだろうか、数分でそれなりに整えた彼は一夏を残したまま部屋を後にした。

 

「ん? どうしたんだよ承太郎」

 

「あぁ……ちょっと用事だ」

 

彼にしては無用心だなと思いつつも、一夏は再びテレビへと視線を戻した。それを視界の端で確認した承太郎は自身の部屋を後にした。

 

ゆったりとした歩みだが、その顔には少々焦りがあった。何か思うことがあったのだろうか、他人を残したまま鍵もかけず外へ出た彼は携帯を取り出す。バイブレーションが起こっていたのだろう。彼が取り出すと携帯は震えており、着信名が載っている。

 

【更識楯無】いつの間に自分の携帯のアドレスを知ったのかと疑問に持ちながらも通話ボタンを押した。

 

いつもよりも声の小さい通話。何を話しているのかは本人と通話の相手にしか聞き取れない。それほど小さく、簡潔に会話が行われていた。

 

それはたった1~2分ほどの端的なもので、電話が終わったあとは何事もなかったように歩みを進めた。

 

行き先は整備室。彼女に呼ばれたのだろうか、それとも何かあるのだろうか。

 

「……やれやれだぜ」

 

とってつけたように吐き出されたため息。その表情は心底面倒くさそうで、この後に起こる事を物語っていた。

 

 

 




ただ一夏の夢回

とってつけたような日常描写。

うん、展開殆ど忘れた。いや道筋は覚えてるんだけど、装飾はこんなんじゃなかったような気がする

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