ジョジョの奇妙な学園 ~stardust stratos~   作:エア_

20 / 26
ね、眠い


第五話~二つの接触

束がそう叫びながら入ってきた直後、あたりは先ほどよりも静寂を強くした。それもそのはずだ。今作戦の方針が決まりそれからという所に邪魔が入れば誰だってそうなる。しかし問題を起こした本人はそんな事関係ないと笑顔のまま千冬飛びつこうとした。

 

千冬は飛んできた束にタイミングよくエルボーを腹に食らわせ、両肘を固めてそのままバックブリーカーを決めた。ジャージ姿の千冬が放ったバックブリーカーに一同唖然とする。

 

「・・・・・・それで、なんのようだ束。しょうもないことならこのままロメロスペシャルを食らわせるぞ」

 

「愛が痛いッ! 愛が! 愛がいだい!!」

 

流石にこのままの体勢でいるのは疲れるためか、束を解放すると先ほどの狼狽した態度などどこへいったのかと思わせるほど冷静な表情で未だ地に両手をついてる彼女を見下ろした。

 

「さっさとしろ。こっちは急いでいるんだ」

 

「だ、だから。紅椿が良いんだってちーちゃん。紅椿は束が作り上げた展開装甲を持つ第四世代型なんだから」

 

「・・・・・・何?」

 

承太郎だけが驚愕した表情をした。実は既に周りの人間は第四世代について、承太郎が浜辺から姿を消した後に知らされていたのだ。それ故に、周りの人間は乾いた笑いしか出来なかったのだ。

 

さて、第四世代型についての補足を入れておこう。

 

そもそもISとは本来宇宙への探索を目的としたMFS(マルチフォームスーツ)なのだが、軍事目的として転用が行われ、しまいにはスポーツの一環としてその姿を変えていった。その転用から、ISには自己進化プログラムが組み込まれる事となり、その操縦者の戦闘経験に沿って自らの姿形を変える「形態移行」を搭載されたのだ。

 

その過程の中で、IS自体の世代進化が現れたのだ。

 

兵器としての運用で作られた本来の目的から完全にそれた初期型IS「第一世代」

 

後付武装を用いて戦闘のバリエーションを多彩にする実用型IS「第二世代」

 

搭乗者の意思と接合させた特殊兵器を搭載した試作型IS「第三世代」

 

現在この三種類のISがこの世の中には存在しているのだ。学園で使っている打鉄やラファール・リヴァイブ。そしてシャルロットが使用しているそのカスタムⅡは第二世代。そしてセシリアの【ブルーティアーズ】、鈴音の【衝撃砲】ラウラの【AIC】など、精神力を酷く用いるISは第三世代の分類になる。ちなみに第一世代といえば、白騎士事件での不明ISはまさしく第一世代である。

 

では、第四世代とはいったいどのようなものをさすのだろうか。

 

第四世代の定義というものがIS業界では一部存在していた。

 

それは『装備の換装無しでの全領域・全局面展開運用能力の獲得』『自律支援装備を有し、展開装甲が標準装備』となっている、というものだ。

 

つまりどういうことか、それは『あらゆる戦闘場面においてその場に応じた戦闘を従来の装備だけで運用出来る能力が必要』だということ。昔の兵器を例にあげれば、銃剣なんかはその原型とも言える。近距離及び中距離に適した剣と中距離及び遠距離に適した銃をあわせた全距離をカバーした兵器。それをISで行ったのが、

 

理想型IS「第四世代」なのだ。

 

今目の前の天災は、未だ第三世代で渋っている世界中のIS関係者達の下に新たな火種をこうも簡単に投げつけてきたのだった。

 

「・・・・・・てめぇ、関係者以外が入ってくるんじゃあねぇ」

 

しかし、そんな事承太郎にとってはお構いなし。凄みを利かせ、彼女をにらみつけた。

 

「喋りかけるなよ暑苦しい。今まで無視決め込んでた癖に話しかけんなよ。それに生みの親である私ほど関係している人物はいないと思うんだけどね」

 

「てめぇの存在なんざ知ったことじゃあねぇんだよこのうすらとんかち。今ここでの関係者はこの旅館にISの研修に来たIS学園の人間のうち、専用機を持つ限られた人数のことを言ってんだよ。さっさっと失せろ。このスカタン」

 

承太郎と束の視線が火花を散らす。片やISの生みの親、片や現世界最強有力候補No1。互いの険悪なムードが辺り一面を覆い隠した。仮にも天才であるのに間違いがない束に頭の回転が鈍いという意味のうすたとんかちと罵れる辺り、流石は承太郎といったところじゃないだろうか。そして、そんな空気に耐えられなかったのか、それとも純粋に疑問に感じたのか、一夏がふと思い出したように声を上げた。

 

「た、束さん。承太郎のISって、俺みたく近接オンリーだけど、全距離に対応してるし、第三世代みたいなの必要としてないし、第二世代みたいに後付け兵器も不必要って事はつまり箒の紅椿と同じで第四世代ってことですかね?」

 

「何言ってるのいっくん。こいつのISが全方向に対応できるからって、自律支援兵器も展開装甲も持ち合わせていないから第四世代じゃないよ」

 

「そ、そう言えば私たちと2対1をした時、空条さんとスター・プラチナそれぞれが相手をしてましたわよね。これで2対2(タイマン)だと仰っていましたし。自律支援はなさっていると考えてもよろしいのでは?」

 

「それに、スター・プラチナの登場自体が空条の中から展開されて行ってるから、実は【憑依型】って、第四世代と考えてもいいのかもしれないわね」

 

一夏と束の会話に続き、セシリアと鈴音がそう付け足した。その内容に束の顔が歪んだ。まさか自分がやっとの思いで作った完成型が既に別の人間が完成させているなどと思っても見なかったのだろうか。それともまた別の意味で驚いているのだろうか、それは彼女以外誰にも分からないでいた。

 

「んな事どうでもいいだろうが。今の問題は、ユーロから正式な要請がオルコットに言い渡された。どこの国の代表候補ですら決まってねぇ篠ノ乃にやらせるわけにはいかねぇだろうが」

 

しかし、当の本人の“んな事”発言に周囲の彼を知る人間は流石だなぁと改めて思った。

 

さて、箒の件で正論を吐いた承太郎だが、そこで一夏はどうなのだと言う人間も勿論いるだろう。だが、彼は既に世界初の男性操縦者ということもあり、彼の国籍は日本ではあると同時に自由国籍を持っているのだ。そのことにより今の所属は日本の“IS学園”となり、彼はIS学園代表候補となっていたのだ。ただ、未だに彼には言い渡されていないだけで彼の一言で好きな国に所属することが出来るのは確かだ。

 

承太郎は既にユーロ代表という地位についており、自由国籍はジョセフとその友人のシュトロハイムの都合、何よりもパートナーのラウラとの連携の関係からドイツに在籍していた。

 

さてヨーロッパの代表候補生及びユーロ代表で占めているこの会議に当然こうやってヨーロッパIS委員会も口出しをしてくるというもの。自分たちを主軸にしたいというのもおかしくはない。アメリカに恩を売っておこうと考えるのは間違いじゃないからだ。だが、そこでさらに口を出したのが我等の承太郎だった。彼の権限はまさに鶴の一声と同等の権限を持っていた。その事により、いまだにヨーロッパからの主導権の譲渡は求められていない。いや、彼にいわれたのにそれをすれば二度と議会に顔向けできないだろう。なんせ【空条承太郎自身から活を入れられる】のだから。

 

「そこの奴よりかは箒ちゃんのほうが作戦の成功率は上がるに決まってんじゃん」

 

「てめぇの勝手な決まりなんざ端から興味ねぇんだよ。もし篠ノ乃が失敗した時のリスクは考えてんのか? そしてその時の尻拭いをするのが攻撃力しか持ってねぇ一夏だ。オルコットと篠ノ乃、場数は間違いなくオルコットのほうが上、なら作戦遂行率が高いのは明確だろうが。俺は態々両方(ふたり)にかけるのはごめんだね」

 

「じゃあ成功したらそのISを貰うよ。そこまで私に啖呵を切ったんだ。それくらい賭けてもらわないとね」

 

高圧的な態度を取る二人に千冬は頭を悩ませる。苦悩が続く、それはさすがの彼女にも堪えるものがあった。

 

承太郎は箒とあまり関わりを持っていない。精々放課後の自主トレ(という名の一夏の手伝い)か、あの一夜限りだ。対してセシリアのほうは専用機を持って長い上、さらには自分と一戦交えた間柄なのだ。実力も分からないつい最近専用機を貰った生娘(実践という意味で)と専用機を長く持ち、代表候補生としての責務を全うするために今まで努力を怠らなかった実力のあるエリート生。はたしてどちらを選ぶだろうか。もちろん、承太郎はセシリアを選んだ。

 

「それなら、負けた時の言い訳でも考えておくんだな。とりあえず、俺は出られねぇ。後は任せるぜ」

 

その言葉を境に、彼はその場から消え去った。それはまるで束と入れ替わるように消え、入れ替わるようにそこで先ほどまで啖呵の切りあいをしていた彼女が千冬に話を通していた。既に周りの人間など蚊帳の外。天災と現最強。その会話にあの代表候補生の皆もついてはいけなかったのだ。

 

結局、束の言い分が通り、箒が一夏とともに空を駆けたのは、承太郎が消えて数分とかからなかった。

 

 

 

 

「承太郎殿」

 

「・・・・・・どうした、ラウラ」

 

「一夏が作戦を決行しました・・・・・・箒と共に」

 

岩場にて、承太郎はまた(・・)観察をしていた。ラウラもそれを見越してからか、作戦室への徴収に買って出たのだ。自分ならすぐに承太郎を見つけられる。彼を探し出せる。そう確信していたからこそ、彼女一人、岩場へと足を運んだ。

 

「作戦室にはモニターが存在します。教官はそこで状況を見守るとの事です。行きましょう」

 

「視なくても分かるだろうが・・・・・・作戦は失敗するだろうよ」

 

手に取っている貝殻を眺め、それをスケッチする。その工程をやめない彼に、ラウラは何もいえなかった。自分自身も同じく、この作戦が成功すると思ってないのだろう。しかし、彼女は表情を変えはしなかった。

 

「それでも、敵の兵装がどのような物なのかは確認できます。それなら」

 

「ここからでもスター・プラチナを使えば視ようと思えば見える。お前たちの競技用とは違ってこいつは完全な観測用だからな・・・・・・まぁ、このパワーで観測用なんてのも虫が良すぎるがな」

 

「ですが先生方も心配されております。顔を出すだけでも」

 

食いつくラウラに流石の承太郎も観念したのか、いつもの口癖を呟きながら三度目の別れを岩場にいる海洋生物にした。名残惜しそうに見えるのはまず間違いない。ゆったりと歩みを進め、本部へとむかう二人。ラウラはふと、あの時の千冬と箒へ睨んだことを思い出した。何故あの時彼女たちを睨んだのだろうか。聞きたくてたまらなかった。だが、それと同時に別の想いが頭をよぎった。

 

――――承太郎殿が、自分如きに教える筈もない――――

 

体が凍りついたように凍えてくるのが分かる。嫌な汗が体から流れるのを理解する。拒絶されるかもしれない。もう既にされているのかもしれない。心がそれを否定したいのに嫌なイメージが自分の首を締め上げる。

 

否定されるに決まっている。

 

お前は彼を裏切ったのだ。

 

死んでも償いきれはしない。

 

ネガティブな感情が自分の本音を露呈してゆく。孤独に陥った時と同じ感覚だ。何も見えない暗闇、何もかもを失い、ついには光にさえも拒絶されたあの空間。3畳程の小さな監禁室よりも小さなあの部屋で、来る日も来る日も体を抱えて怯えながら生きているのか分からない生活をしていたあの頃と同じ感覚が彼女を襲った。

 

ラウラの足取りが覚束なくなったのをいち早く感知したのは承太郎だった。続いてスター・プラチナが彼の後を追うようにセンサーで彼女の容態の悪化を知らせる。

 

[一時的な精神ショックと判明]

 

「わかってる・・・・・・いったいどうしちまったんだ。ラウラ」

 

心底心配になった承太郎はその覚束ない歩みを続ける彼女を抱え、歩む速度を変えずにゆったりと本部へと向かった。突然の事に慌ただしくなる彼女だったが、そんな事今は聞いてる暇はないと承太郎はさっさと本部へ足を運んだ。

 

「・・・・・・やれやれだぜ」

 

そう呟きながら承太郎は最近情緒不安定さを露見させている相棒に少しは正気に戻ってくれよと心の内に願いながら、彼はラウラを抱えたまま一夏達の帰りを待った。後ろでこちらを観察しているウサ耳カチューシャに少々の苛立ちを覚えながらも、平常心を忘れることなく、彼は海を見つめているのだった。

 

スター・プラチナで確認できた。二人の初めての実践。自分がしたのはいつだろうか、いや、実践といえるものを自分はしただろうか。承太郎は急に己自身に不安を覚えた。

 

織斑一夏は実践にてその真価を発揮する。それは以前聞かされた無人機との戦闘、そして前回のラウラのISの暴走を考えれば分かることだ。自分よりも格上の敵を倒していくそれは、承太郎とは少し違った凄さを持っていた。

 

対して承太郎はどうだろうか。生身での戦闘は大抵がごろつき、それも自分よりも格下を相手していた(というより、彼よりも強い奴が日本やヨーロッパに一切居なかっただけ)。自分の力は自分がよく分かっている。だが、その力を過信しているわけじゃない。だからこそなのだろう。

 

(もしもあの夢のような状況に陥った時、俺は刀奈(あいつ)や、ラウラ(こいつ)を護れるのだろうか)

 

自分の力を信用してないわけではないが、なんともいえない不安が彼を襲うのも無理ない。思考が自分自身に向かっていた所為で、一夏達への意識が向かなかった。

 

今回はそれがいけなかった。

 

気がつくと承太郎が目にしたのは、箒を庇いながら敵機の圧倒的な数という暴力を受け、血まみれながらに海水へと落下する一夏の姿が映った。

 

確かに、敗北はするだろうと感じてはいた。だが、ここまで圧倒的であるとは思ってもみなかったのだ。その姿を見て、箒は悲鳴に近い叫びを上げる。それはそれは悲痛なもので、聞いている人間すべてに負の感情を覚えさせるには充分すぎる声だった。

 

 

 

 

任務は失敗に終わった。一夏は意識不明の重体で、箒は一時的精神ショックに陥っている。ラウラは既に回復済みで、千冬とすぐに消失した敵機ISについての資料と映像を確認していた。

 

セシリア達は一時的に解散を言い渡されて、今は一夏の傍らにてその容態をただただ見守っていた。

 

そして、承太郎は・・・・・・。

 

「一夏は篠ノ乃を庇って生死を今まさに彷徨ってやがる。どう落とし前つける気だ? テメェ・・・・・・篠ノ乃束」

 

海岸線にて、【世紀の大天災】篠ノ乃束と対岸していた。タバコを吸っている彼の表情は非常に険しいものだった。今にも縊り殺さんと言わんばかりの凄みに、思わず束は冷や汗をかく。目の前の男に初めて彼女は敵対した場合の恐怖を実感した。しかし、それでも至ってその表情は冷たいままだった。

 

「何を言ってるんだか? 確かにいっくんは箒ちゃんを庇って重傷、そして箒ちゃんは一時的な精神ショックを受けた。でも、それだけで済んだのは紛れもない二人のタッグだったからこそじゃない? あの英国メス豚ならビットを放った瞬間お陀仏だったね。で? それでも文句が言いたいの? 箒ちゃんが信じられないの? 第四世代を駆使した箒ちゃんが」

 

「それでも、だと? ふざけるのも大概にしとけよこのアマァ。てめぇの推測なんかにゃあ俺は一切として賛同できてねぇんだよ。テメェはオルコットの何を知ってやがる? あいつのこれまでの努力の一つとして視たことねぇ奴が、しゃしゃり出るんじゃあねぇ。それに、てめぇは篠ノ乃箒を信じちゃあいねぇんだよ。テメェは、篠ノ乃箒が乗るテメェの機体しか信じちゃあいないんだよ!」

 

「それ以上口を開くなよ。終いにはホルマリン漬けにするぞ」

 

「その前にテメェを一生日ィ拝めねぇようにしてやる」

 

互いの視線が鋭くなり、辺り一面をざわつかせ空間を揺らした。彼等の周囲を重たい空気が音を立て、渦巻く感覚がその空間に充満する。それはまるで漫画表現といって差し支えないような圧倒的ナニカを感じさせるものだった。

 

ゴゴゴゴゴゴゴッ、比喩するなら充分過ぎるだろう。ただの“ゴ”の羅列だと言うのに、これほど的を射た比喩表現が思いつきはしないだろう。

 

何分たったのだろうか、十分だろうか、二十分だろうか。いや、彼等の所為で少しの時間でも一時間たったような感覚に包まれる。それほどのものが今この一帯に広がって起こっているのだ。

 

片や剣術道場の元跡取り現在天災科学者。剣から離れたとしても、その眼力はものを言う。今までに積み重なってきたものはそう易々と消え去りはしないようだ。刃のように研ぎ澄まされたその瞳はさびる事無く今もなお眼前の敵に向けられていた。

 

片や国家代表全てを真正面から叩き伏せてきた現在ユーロ代表。常に冷静さを欠く事無く、その熱き勇気を纏わせ、圧倒的な力で全てをねじ伏せてきたその男の睨みは、何者をも震わせるには充分なものだった。言葉など不要のその睨みに例外なく恐怖を植えつけられていた。

 

二人の鋭い視線が交叉し、そしてぶつかり合う。火花? そんなちゃちな物じゃない。これはもう視線で人が殺せるレベルの爆弾だ。終わることのない連鎖爆発のように、二人の視線は互いを殺さんと鋭く貫かんと視撃つ。

 

すると、遥か後方からISが飛び立っていった。その数は五機。代表候補生と箒を足した数と全く同じなのだ。

 

「・・・・・・やれやれだぜ」

 

先ほどまでの言いあいなどどこ吹く風。簡単に睨むのを止め、承太郎はため息を吐く。いつまでもここで束と睨み合いをしても何も始まらないと感じた彼は、深呼吸をしながらタバコを吸いきり、そして持っていたケースに突っ込む。そして再び、箱から一本取り出し、それに火をつけ、大きく吸った。

 

「テメェが何考えて一夏を殺しかけたのかはしらねぇが、これ以上何かしてみろ? この俺空条承太郎が直々に裁く。この拳と、スター・プラチナでな」

 

「ふん、その言葉そっくりそのまま返してあげるよ。私の作った物に、私が負けるはずがない」

 

「言ってろ。精々足元をすくわれねぇようにするんだな」

 

「そうとも、例えば乱入者が現れるとかな」

 

聞きなれない声がした。今までに一度も聞いたことのない声がした。女の声ではない。これは紛れもない男の声だ。聞いたものに憎悪を与え、恐怖を与えるようなその嫌味にも澄んだ声が、二人の鼓膜を震わせた。

 

承太郎は初め、聞いたことのない声だと思うが、すぐにその考えが捨て去られた。そう、この声はつい最近聞いたのだ。

 

 

あの、夢の中での姿の見えないあの声の主と同じ声。

 

 

その言葉を知っていたわけではない。その言葉を教わったわけではない。

 

そう、運命が引き合わせ、全ての辻褄を合わせるようなその出会いが、承太郎の口を動かした。

 

 

「・・・・・・DIOッ」

 

「クククッ、私の名を知るか承太郎。貴様等一族を殺すために100年の眠りから覚めてやったぞ」

 

 

DIO、それが彼の生涯最も恐れられた敵の名だった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。