ジョジョの奇妙な学園 ~stardust stratos~   作:エア_

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今月最期の投稿ですね。

どうもエアです。

いろいろと進展があるかもしれない第三話。

どうぞ、ご覧ください。


第三話~夜

 

 

その日の夜。承太郎達は旅館にて食事を取っていた。海の幸を豪快に使用した料理は流石の承太郎も感嘆の声を上げる。不味い料理には金を払わず出て行くような輩である承太郎でさえも、この料理の美味しさに高く評価をつけた。

 

承太郎は今テーブル席にて食事を取っていた。本当は座敷の方で食べたかったのだが、浴衣で無く未だ制服の彼にとって座敷での胡坐は少し大変なのだ。特に醤油なんて服についたら殆どの確立で染みとなって取れなくなるそれがピンポイントで落ちた日には恥を掻いてしまうからである。というか何故未だに制服(黒)なのかが気になってしょうがない。

 

「これが日本の“わさび”なるものなんですね。承太郎殿」

 

「あぁ、唐辛子とはまた違う辛味を持ってるからな。少しだけつけて食べろよ? 馬鹿やってそのまま食べると」

 

承太郎は座敷にいるシャルロットへと親指を指す。ラウラがそちらを向くと悶絶を起こしている彼女の姿が存在していたのだ。後の一夏曰く「そのまま全部食べやがった」との事。話しは最後まで聞くべきだ。

 

「あぁなりたくなけりゃあ、少しだけ醤油と混ぜて食うか刺身の上に少し乗せて食うかにしとけ。酷い目にあんぞ」

 

「そう言えば空条君、山葵は醤油と混ぜる派? それとも刺身にのせる派?」

 

ラウラに説明を終えると同時に、唐突に近くに座っていた女生徒がそんなことを聞いてきた。いったい何の必要があってそのような事を聞いてきたのかわからない承太郎は何言ってんだこいつと言わんばかりな表情をとる。

 

「いやぁ、誰でも一度は聞くもんじゃない? そう言うのって」

 

「生憎と俺はきかねぇな。それと、どっちでもいいだろ」

 

簡単に同意することの出来ない理由を承太郎はバッサリと切り捨て、回答を曖昧にした。するとどうだ。テーブル越しに座っていた女生徒がいきなり立ち上がった。

 

「空条君何言ってんの! 山葵は醤油に漬けて混ぜた方が断然美味しいに決まってるわ! あんなに醤油とマッチした存在を態々別に食べるなんて愚の骨頂。わかってない。まるっきりわかってない!」

 

そう熱弁するのは我らが一年一組の学級委員長である鷹月静寐。静寐はぐわっと承太郎に顔を近づけるといつも見せることの無いその強引さを余すところ無く使い山葵について語った。その勢いに気圧された承太郎はごもるように同意するしかなかった。

 

するとどうだ。別のところからも声が上がった。

 

「委員長! それは違うわ! 山葵は刺身にちょっと乗せてから醤油で食べる。この山葵は本ワサなんだからなおのこと醤油と一緒にするなんてありえないでしょ! 常識的に考えて」

 

「何を言ってるのかしら。そもそも日本料理のマナーでは醤油のお皿に山葵を入れて食べるのが普通よ。何常識語ってるのかしらね。常識知らずが常識を語るなんて可笑しくって腹痛いわ。山葵ってのは醤油と少しずつ混ぜて味を調節してそれから刺身をつけて食べる。基本よ、き・ほ・ん!」

 

対立するかのように現れたその女生徒に鷹月は応戦する。もうそこでは白熱した山葵論争が勃発していた。するとテーブルで食べていた他の女生徒までその論争に首を突っ込み始め、そこでは一種の戦争が起こっていた。もう承太郎では収拾がつかない。多分怒鳴れば全員がそろって怒鳴り返してくるだろう。まるできのこたけのこ戦争のようだ。

 

「山葵醤油にしてこそ真の刺身との出会いが出来るのよ。それをただ乗せて食べただけでその領域にたどり着いたと思うなんて可哀想にだわ」

 

「風味を逃がすような食べ方でよくもまぁ真の刺身なんて豪語できたわね。その驕りこそが貴女の悪いところよ」

 

「ツナはマヨネーズだよね~タロタロ~」

 

「それはツナフレークか? それならマヨネーズだろうよ」

 

一部山葵なんか全く関係ないことを話していたが、テーブル上での戦争は今も激戦と化していた。すると、もう収集について諦めた承太郎のとなりで刺身を恐る恐る食べていたラウラが小さく、ひぅっ、と叫んだ。おそらく山葵を食べたことがなかった所為かその鼻にツンと来る感覚が辛かったらしい。コップに注がれていた水を飲み干すもまだ舌がヒリヒリしているのか、舌を出しては入れを繰り返し冷やそうとしていた。承太郎は仕方ないと、彼女に新しい醤油皿と醤油を用意した。

 

「てめぇはサビ抜きから食いな。そっちの方がてめぇの舌でもちゃんと味わえるしよ」

 

「ひぁい、ありがとうごじゃいましゅ」

 

涙目な彼女に刺身を取ってやり食べさせる承太郎。いつもの彼からは想像も出来ない光景がそこにはあった。まるで親子のようにも見えたが恋人にも見えないことは無い。白熱していた論争は一時的に止み、承太郎達の方へとその視線は向かって行った。男との関係を持ったことの無い彼女達の乙女フィルターから通してみたその光景は以前ラウラ見た光景と同じように少女マンガのヒロインとその相手の白馬の王子のようにも見て取れたのだ。まぁ、拳で何でもかんでもなぎ倒す王子なんて居ても困る話だが、とにかく彼女達の目からはそう映ったのだ。

 

「あ、あぅ」

 

「ったく、ちゃんと食いな。せっかく旨いもん食えるんだ。味わってゆっくり食べろ」

 

未だに舌が痺れて呂律が回らないラウラに態々箸でとってあげるその姿はただの世話好きの親戚のお兄さんにしか見えない。そんなお世話されている光景ではあったが、ラウラはまるでお姫様になったような感覚を覚えた。以前副官から薦められた本のワンシーンを思い出しながら、自分とその本の主人公である女性を重ねる。思いのほか当てはまっていき、次第に彼女の顔が赤くなっていく。

 

「ほれ、後はちゃんと自分で食えよ? 箸も一応は使えんだから自分でしな」

 

「は、はい」

 

覚束ない返事を返すラウラを他所に、承太郎は自分の食事に戻った。久々に食べる高級料理に舌鼓を打ち、料理を口にした。醤油が魚の旨さを引き立たせ、その鼻の奥をツンと刺激する山葵が程よく彼の食事を円滑にする。手に持った茶碗のご飯もまさしく白金(しろがね)で、それが余計に彼を喜ばせた。内心彼はこの旅館の料理人にミシュラン同様、星二つをやりたいとまで思ったほどだ。

 

しかし、彼は目の前の光景に気がついてしまった。気がつかなければ起こらなかったであろうそれを、彼は今行わなくてはならない状況に立たされてしまった。

 

「・・・・・・いったい何の真似だ」

 

そう、テーブル席の皆が口をあけ、雛鳥が親鳥からの餌を待つかのように口を大きく開けていたのだ。すこし頬を染めながらしている彼女達を前に承太郎は勘弁してくれと心の中で叫ぶ。しかし、彼女たちは一向に口を閉めない。

 

「あ、あのなぁ」

 

『あ~ん』

 

以前の楯無とのデートを思い出してしまった承太郎はあの時、二度としたくないと思わされるほどの辱めを受けていたのだ。ここでまたそれをすれば今度こそ恥ずかしくて死んでしまいそうになる。渋る承太郎と迫りくる女生徒の群れ。成すすべなくこのまままたあの辱めを受けなくてはならないのか。

 

そんな時、一筋の希望が現れた。

 

「貴様等! 黙って食えんのかばかもん!」

 

勢いよく現れたのはちょうど先ほど座敷で騒ぎを起こしていた一夏に対して制裁という名の出席簿を叩き込んだ千冬だった。座敷で起こったのだ。もしかしたらこちらでも起こってるんじゃないかと周ってくれば案の定だ。その彼女の姿は今の彼にとっては救世主のようにも見える。

 

「空条。貴様もこの騒ぎに加担していたとはな。少し残念だ」

 

「被害者だ、俺は。山葵を乗せるか混ぜるかどっちがいいかで論争しだしたんだよ。どうすりゃあこの騒ぎは収められるんだってんだ」

 

承太郎の言葉に千冬は腕を組み、考える間もなく

 

「そんなもん、混ぜるでいいじゃないか」

 

そう言った。ちょうど半数が喜びの声をあげ、半数が悲しみの嘆きを呟く。

 

「いいえ! 絶対よくありません」

 

するとまたしても人が加勢した。今度は千冬の後ろから現れた存在だ。乗せる派の生徒達は先生の鶴の一声に無残にも敗れると思っていたが、まさかの助け舟にその表情を明るくした。そう、そこには副担任の真耶の姿が存在したのだ。

 

『や、山田先生』

 

「ふふふっ、安心してください。乗せる派の皆さん。私もその同志ですから」

 

「・・・・・・山田君。こんな形で君とは争いたくは無かったよ」

 

「私もですよ先輩。まさか先輩が混ぜる派だったなんて、少しショックでした」

 

勘弁してくれ。そう承太郎が思ったのは悪くない。唯一被害を被っていないのは、サビ抜きで幸せそうに食べるラウラとその可愛らしい姿を観察する承太郎同様【どっちでもいい派&気分によって派】の者達(勿論承太郎は除く)のみだった。残念なことに事の発端を背負わされてしまった承太郎は帽子を深くかぶり、速く終わってくれと悪態をつくのだった。

 

「混ぜて食べるなんて、先輩が面倒くさがりだからって理由なのはお見通しですよ」

 

「表に出ようではないか山田君。久々に切れてしまったよ」

 

「ふふふっ、私も滾って来ましてね。すこし体を動かしたい気分なんです」

 

「・・・・・・転校してぇ」

 

まぁ結局女生徒へ食べさせるなんて行為をしなくてすんだあたり、承太郎はそこだけ(・・・・)二人に感謝はしていた。争いを再発させなければその場で礼を言ったほどなのに。

 

 

 

 

夕食後の風呂を済ませた男子二人、勿論一夏と承太郎なのだが、二人は壮大な露天風呂を目の当たりにして未だに驚きを隠せてはいなかった。

 

「相当でかかったな。あの露天風呂」

 

「あぁ、外国じゃあお目にかかれないだろうよ」

 

などと、自分達の感想を述べ合っていた。そうして部屋の前に着いた二人は別れ、承太郎は自分の部屋を目指した。

 

暫く寝転がり、読書用にと持ってきた愛読書の一つである【海洋生物図鑑~海の宝石(絶版)】を開き、読みふける。

 

今日見られなかったヒトデを見るためにとすこしだけ図鑑を見て気を紛らわせていた。しかしやはり海洋生物を見たいという衝動が冷静な彼の心にアドレナリンを放出する。興奮状態になりかけた承太郎だが、すぐさま冷蔵庫からビール(勿論持参品)を取り出し、一気に飲む。酒を飲み少し落ち着いた承太郎は敷かれている布団に寝転がり天井を見上げる。先ほどまでの海洋生物の事は一旦置いておき、今までの出来事について改めて思い返していた。タッグマッチでの自分を視ていた視線と圧倒的存在。そして今回の前回とは違った視線。どうやら自分は監視を食らっているらしいなと無意識のうちにスター・プラチナのサーチだけを起動した。しかし、映るのは自分だけ、監視がないとわかると、承太郎は体を起こし、もう一本ビールに手を出す。この瞬間だけが今、自分が落ち着ける唯一の時間。

 

「・・・・・・はぁ」

 

なにやら隣の部屋が騒がしい。ドタバタと聞こえるその足音の数から5人は下らないだろう判断できる。隣の部屋は一夏と千冬の部屋の筈なのだが、何故か五月蝿い。次第にその五月蝿さは波紋のように広がり、彼の神経を逆なでしていった。

 

ため息を吐いた承太郎は立ち上がるとスタスタと隣の部屋の前まで歩き、そして思い切りそのドアを開けた。

 

「うるせぇ! 何時だと思ってやがる!」

 

「おぉ~承太郎か~。そ~いえば貴様も居たんだなぁ」

 

入って早々漂う匂いは酒特有の独特なアルコール臭だった。そう言えば自分も飲んでたなと思いつつも、千冬にむかって迫っていく。少しボロボロなあたりあの後副担任と殴り合いでもしたのではないだろうか。

 

「おい千冬、てめぇ近所迷惑だぜ。こちとら眠たいんだよ」

 

「そう固い事をいうな承太郎。お前も飲むだろ?」

 

そう言って千冬はビールを渡してくる。承太郎は飲めるもんは貰っておこうとそれを手に取り・・・・・・正座しているいつもの面子の方に体を向けた。怒鳴ってやろうかとも思ったが、どうせ何かコッテリ絞られたのだろう。すこし戸惑いの中に疲れが見える。

 

「てめぇら、少しは大人しくしやがれ」

 

「「「「「ご、ごめんなさい」」」」」

 

「そう言ってやるな承太郎。私が呼んだんだ」

 

千冬は持っていたビール缶の中身を一気に飲み干し、喉を炭酸(アルコールな為少し違う)で刺激する。承太郎を除く五人はそんな千冬の姿が珍しいのか少し戸惑いながら彼女を見ていた。

 

「なんだ。私だってこうやってビールを飲んでリラックスはする。それともなんだ? 私はガソリンを飲むロボットとでも思ったか?」

 

「ロボットなら今回の山葵事件はおきねぇよタコ」

 

「む、口の訊き方がなっとらんな。久々にやるか」

 

「いい加減にてめぇは寝な。明日は早朝訓練だろうが」

 

承太郎は慣れた風に千冬の相手をしまるでいつもしているかのように寝かしつけた。そのスムーズな動きは一夏と張るんじゃないだろうか。

 

「て、手馴れているのですね」

 

「一夏だけかと思ったぞ。千冬さんを止められるのは」

 

「流石は承太郎殿です」

 

「一時はどうなることかと思ったわ」

 

「あ、あはは。何でも出来るんだね、ジョジョって」

 

などと五人は尊敬の念を送っていた。対する承太郎は先ほどの思考を中断させられた所為か、眠気が彼を襲った。

 

「てめぇらもさっさと寝ろ。明日の訓練に遅れでもしてみろ。仕事の時の千冬は鬼より厳しいぜ」

 

そういい残し、承太郎は欠伸をしながら、その場を去り、自分の部屋へと戻る。途中一夏が散歩をしていたらしくその帰りにとばったり出会った。

 

「承太郎じゃないか。どうしたんだ?」

 

「てめぇこそこんな夜中にフラフラしてっと、女の部屋に言ってきたなんて噂が建つぜ?」

 

「何で少し大きめに言ったんだよ」

 

承太郎は会話を終え自分の部屋に入り床に就いた。あの視線について考えたかった彼だったが、気にすると本当に眠れなくなってしまう。折角の休暇のような臨海学校なのだ。体を休めなければ勿体無い。すると、狙ったようにまた隣の部屋から叫び声が聞こえる。先ほど、わざわざ大きめな声で聞こえるように言ったのだ。当然あそこにいた一夏好きは彼に追求して返答を求めるだろうとは予想していた。

 

[承太郎! 助けて!]

 

「悪ぃが、後にしてくれ。俺は眠ぃ」

 

気持ちをすっきりさせた承太郎はそのまま目を閉じて、眠りについた。千冬達とのビーチバレーという名の戦闘の疲れをとる為に、彼は夢の中へと誘われていくのだった。

 

 

 

 

何もないただの長い道路。日本の高速道路にも見えなくも無いが、壁に囲まれてないところを見るとどうやら外国の道路に見える。そんな場所に何故か立っていた彼は恐ろしいものを目の当たりにしていた。目の前に立ちはだかるのは体中が砂だらけのゾンビのような何かの大群、そしてその大群の後方には騎士やら兵士やらがこちらに刃を向けていたのだ。そして最奥に君臨するは姿の見えないナニカ。承太郎は不意に思い出した。あの時の、あのタッグマッチでの視線。その視線を向けていた者であると感じたのだ。承太郎はスター・プラチナを呼び出す。何故かはわからない、だが今眼前にいる彼らは倒さなくてはならない。そう彼の心が彼自身に伝えていた。その存在を倒さんと目の前のゾンビもどきを殴り飛ばす。制圧前進するように、IS界最速最強のスター・プラチナのラッシュをゾンビもどきに叩きつけ吹き飛ばしてゆく。上手く飛んでいったのか、ゾンビもどきは後ろにいた兵士達に降りかかっていった。

 

すると何処からとも無く銃弾が降り注いでくる。承太郎はスター・プラチナにそれを弾かせるよう命令し、自分はその拳で目の前のゾンビもどきを殴り飛ばす。周囲から飛んできたのは散弾の嵐。高速のスター・プラチナだからこそ、防げているもの。もしも一夏達のような普通のISだったら十中八九エネルギー切れの的となっていただろう。

 

[そうこなくちゃあ面白くない。流石は空条承太郎]

 

そのナニカが賞賛の声を上げる。しかし、承太郎はお構いなしにと目の前の敵を打ち抜く。

 

[だが、いつまでそれが続くかな?]

 

「何を言ってやが・・・・・・ッ!?」

 

ラッシュを繰り出していた承太郎の拳が突然唐突に止まった。目は見開かれ、その顔は驚くほど驚愕という言葉が似合う表情をしていた。そう、目の前の存在に驚きを隠せないでいたのだ。

 

[・・・・・・じょぉ・・・・・・たろ・・・・・・お]

 

聞き覚えのある綺麗なソプラノが彼の頭の中を響いた。水色の独特な髪色、紅い綺麗な瞳、色々な男を虜にしてきたのではないかと思われるその美しい体。目の前にいたゾンビもどきのそれは、紛れも無く楯無だったのだ。

 

「刀奈・・・・・・なのか」

 

その瞳に光は無い。だが表情はあった。嬉しそうに近づく精気の感じられない楯無に、承太郎は一歩後退りした。

 

偽物だろうと言って聞かせるが頭が理解を出来ない、決定しない。そう、目の前の存在は自分の知っている楯無なのだ。心が偽物であるということを否定したのだ。

 

[その娘の闇は素晴らしかったよ承太郎。おかげで貴様の拳も止まった]

 

不敵に笑うナニカ。その声を聞き、承太郎は理解した。この目の前の存在は楯無本人だと。そして、

 

 

また自分の大切な(ちかしい)存在を利用されたという事実を。

 

「知らんぞぉ、俺はもう知らんぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

怒りが彼を雲の様に包みこんだ。そして彼を包んだ怒りが彼の中へと入って行き内包される。そしてその内包された感情の流れが濁流を作り、激流へと変わった。体外へと放出されたその感情がスター・プラチナの体へと向かって行き、そして包み込んでいった。

 

だが包み込んだかと思えば、そのスター・プラチナにひびがはいった。そのひびは徐々に体全体へと進行し、やがてその肉体を破壊する。その現象には承太郎も驚きを隠せない。風が、嵐がそこで巻き起こった。機械の部品が飛び出し、何もかもが吹き飛んだかのように見えた。

 

[な、何ッ!?]

 

しかし、その肉体が破壊されたはずのスター・プラチナがそこにはいた。より人間らしい滑らかな曲線で包まれ、より人間らしいその光の反射。まるでそれは生き物のようにも感じられた。

 

承太郎はその光景に見とれてしまい、周囲のゾンビへの警戒を疎かにした。いつの間にかゾンビに囲まれ、絶体絶命のピンチにも見受けられる。

 

しかし、承太郎は何かを理解し悟ったのか、先ほどまでの怒気ある顔を止め、以前からよく見慣れたあの不敵な表情をしたのだ。

 

周囲から跳んでくるゾンビの群れ。それに対してスター・プラチナはただ拳を突き出し、回転した。しかし、ただの回転ではない。高速スピンによって砂を吹き飛ばし、竜巻を作るほどのその回転を行ったのだ。より人間的な滑らかな動きを、より非人間的な高速回転を持ち合わせたスター・プラチナがそこに君臨したのだ。

 

承太郎の腕の中には気絶した楯無の姿があった。涙を流した後がある。目元が赤い。泣き疲れているようにも見えた。

 

「・・・・・・やれやれだぜ」

 

呟く承太郎の表情はとても穏やかだった。自分はこんなに絶体絶命といっても過言で無い状況にいるというのに、自分の腕の中の少女は幸せそうに眠っていたのだ。

しかし、スター・プラチナはそんな承太郎の表情とは裏腹に、相当な怒気を纏っていた。まるでそうだ。今の彼の敵への感情を表現しているようだった。承太郎の表情が怒りあるものに変わり、その何かに向かって睨みをきかせた。普通の人間なら金縛りにあったかのように恐怖し硬直するようなその視線がナニカを捕らえた。

 

「てめぇが誰かなんざ、知らねぇし知りたくもねぇ。だがなぁ、てめぇはやっちゃあいけねぇ事をした」

 

[ほぅ、いったいそれはどういった事だと言うのだね? 承太郎]

 

ナニカに向かって、承太郎は声をかけた。怒気が混じったその声は、まさに彼の生き様を痛感させるように、ただ真っ直ぐにそれに向かって放たれた。

 

「てめぇは、俺を怒らせた」

 

そこで夢は終わり、承太郎は起床した。

 

 

 

 




最後の夢のくだりのナニカはいったい何者なんでしょうかねぇ(すっとぼけ)

次回、例のウサ耳(歳のいった方)が登場しますね。

いってない方? ラウラに決まってるじゃないですか。

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