ジョジョの奇妙な学園 ~stardust stratos~   作:エア_

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何故か日常編になると極端に文字が打てなくなるエアです。

それではどうぞ。


第二話~生物観察、ついでに水着

 

 

バスから見える景色は青一色といっても過言でないほど雲ひとつ無い空と海が広がっていた。時折見える緑は近くに生えてある木々で、それがまたアクセントとなっていて景色をさらに栄えさせていた。承太郎が乗るバスの中ではそんな景色を見て興奮しない人間など居眠りをしている承太郎を除いて一人もいない。ラウラでさえも、その光景をまるで初めて見るかのように眺めていた。

 

今日から数日の間、IS学園の一年生は臨海学校に行くこととなる。そこで互いの絆を育み、海辺という違う環境での訓練を通して、どのような環境でも早急に対処出来るようになる実践も含めた訓練を行うのだ。承太郎達は一組な為、先頭を走っており、他のクラスよりも早くにこの青い風景を目の当たりにしていたのであった。

 

「海は初めてなの? ラウラ」

 

「そういう訳じゃないが、こんなに綺麗な光景を見たのは初めてだ」

 

ラウラの隣に座るシャルロットはそんなラウラが珍しいのか、景色を見つつ、目を輝かせながら景色を見ている彼女をじっくりと観察していた。彼女のそんな姿を見たのは承太郎を除けばシャルロットが二番目だろう。誰にも見せたことの無い輝く瞳にシャルロットはすこし見惚れてしまった。その後すぐに首を犬のように振り、理性を保とうとする。

 

「(駄目だ。ラウラってお人形みたいで可愛い)・・・・・・ど、ドイツの海はどうなのかな? ラウラ」

 

「ドイツ北部のバルト海だ。シャルロットだって知ってるだろ? 一応隣接国だぞ?」

 

「(露骨過ぎた!?)そ、そうだったねぇ! あはははは!!」

 

「? 変な奴だ」

 

シャルロットが何故か笑い声を上げ、周りの人も釣られてそちらへ視線を向けた。その後、彼女を見て首を傾げるラウラへと視線が流れた。ウサギが首を傾げるような仕種に見えたのは、シャルロットだけじゃないのだろう。何というか、守ってあげたくなるようなそんな衝動に女生徒達は駆られてしまったのだ。

 

「ぼ、ボーデヴィッヒさん。お菓子食べない?」

 

「ん? いただこう」

 

近くにいた女生徒からプリ○ツ(サラダ味)を素直にいただき、一目散にカリカリと食べるその姿はまさに小動物のようだった。シャルロットは彼女のIS頭部にウサギの耳のようなカチューシャがあった事を思い出した所為か、余計にウサギにしか見えなくなってしまった。抱きつきたい衝動を抑え、彼女が食べ終わるのを待った。食べ終わると持ってきていた缶ジュース(ボトルタイプ)をあけ、中身を飲み始める。

 

「んぐんぐんぐ・・・・・・けふっ」

 

『(か・・・・・・可愛い)』

 

飲む仕種までも虜にしてしまうような可愛らしい天然な行動。その場で眺めていた生徒全員が同じ気持ちになった。ラウラには動物的な保護衝動に駆られる何かを持っているのかもしれない。シャルロットはもおう我慢できないといわんばかりにラウラに抱きつく。いきなりの事にラウラは慌てふためく。その姿が余計に可愛らしく、周りの女生徒全員のハートを掴んだ。そして我先にとシャルロットに続いて彼女に抱きつく女性とが後を絶たなくなったのは見ずとも理解出来るだろう。

 

そんな彼女たちを他所に、一夏は絶賛セシリアと箒に挟まれて修羅場を形成していた。二人とも出るところはとことん出ているため、彼も気が気でなかったのだ。しかし体は女性と密着して天国だというのに、顔は今にも鬼に豹変しそうな表情。まさに地獄だった。彼自身仲良くして欲しく、そう伝えるのであるが。

 

「な、なぁ二人とも・・・・・・仲良くしろよ。な?」

 

「一夏は黙っていろ!」

 

「一夏さんは黙ってくださいまし!」

 

これである。しかも睨み合う時間が長くなるにつれ、その両腕を握った手の力がだんだんと増していくのだ。痛みに耐えながらも一夏は二人を何とか宥めようと努力をする。しかし結局はその両腕が折れそうになる手前まで握りつぶされていたのだった。

 

(か、勘弁してくれ~!!)

 

残念なことに彼の心の叫びを聞くものなどこのバスの中には一人もいない。哀れにも彼はバスが到着するまでずっと彼女達の拘束を受けなくてはならなかった。しかしその光景は一種の拷問器具のよう。例えるならば鋼鉄の処女(アイアンメイデン)と言ったところかもしれない。どこら辺が鋼鉄の処女などという詮索は勿論なしだ。

 

一方、承太郎は騒がしい為か目を覚まし、そして外を眺めた。あたり一面の青に言葉では言い表せない感動を覚えた。臨海学校近くにある海岸はそこらで見る海岸とはレベルが違うほど綺麗なのだ。ゴミひとつないその海岸に承太郎はまだ見ぬ海洋生物を求めて内心ワクワクしていた。

 

「タロタロ~、嬉しそうだねぇ」

 

「・・・・・・まぁ、な」

 

前方の座席に座っていた本音に見透かされた承太郎は少し帽子を深くかぶりながらも返答をする。自分は顔に出るのだろうかなどと考えた彼だが、今は外の光景に視線を落とそうと結論し、美しいその光景を目に焼き付けるのだった。

 

「速く泳ぎたいね~」

 

「・・・・・・」

 

本音の呟きを耳にし、改めて自分が水着を持ってきていない事を自覚した。もし千冬が下着で泳げとかほざけば流石の承太郎も帰る。だが、それをネタにされるのは耐えられないのも事実。こんな事ならダミーとして買えばよかったかなと今更ながら後悔をしていた。

 

 

 

 

「り、両腕が、両腕がぁ~~」

 

「おめぇも大変だな。一夏」

 

バスから降り、宿泊する所の女将さんに挨拶を終えた一夏達男二人は、千冬と共に連れられ自分達の寝泊りする部屋へとむかった。何故教師である千冬と共に案内されるのか。その理由は彼らの寝泊りする部屋は職員と同室だからであった。職員と同質なのはおもな理由として女生徒が侵入して不純異性交遊などが起こっては困るからだ。もともと学園には外国籍の人間もいる。そういった子はたいていが代表候補生、すなわち【男性操縦者の遺伝子を取って来い】などと言う命令が出ていた場合に備えた対策といえる。

 

まぁ、承太郎の場合は彼自身の身のおき方を理解している上ガードが非常に固い。さらには初っ端の牽制のおかげか【煩いと怒る=部屋に行くと騒がしくなるから怒られる】という思考が彼女達の中で合致しため、行かないという結論になっているのだ。それに来るとしてもラウラくらいだろうという事から彼は一人部屋を用意された。その事に一夏は自分も一人部屋がいいと抗議をしたが、次々と正論を吐かれて無残にも撃沈。結局千冬と二人で寝泊りすることになった。承太郎と一緒という考えは思いつかなかったらしい。でも叩き起こされるのは勘弁だろうからそれで良かったのかもしれない。

 

部屋を確認した後、一夏達は自由行動を取ることになり、千冬と別れた。

 

「あぁ、千冬姉と一緒か、気が重い」

 

「まぁ、てめぇは姉貴と乳繰り合っていな」

 

「おまっ!? 千冬姉はすこしブラコン気味アガタッ!?」

 

承太郎に返答しようとした矢先、一夏の後頭部に衝撃が走る。それは彼が以前からくらい続けている忍び寄る衝撃(しゅっせきぼ)と同じ感覚だったのだ。痛みに悶絶しながらもその衝撃が来た方向に体ごと顔を向けると。

 

「織斑・・・・・・次に余計なことを言えば貴様の寝泊りは岩場だと思えよ?」

 

仁王立ちのおっかない彼の姉が鬼を纏いながら君臨していたのだ。一夏は瞬間的に正座をし、手で三角を作り、腕を曲げ、額を地面にたたきつけた。所謂土下座である。

 

それを目の当たりにした承太郎は改めて千冬のおっかなさを痛感した。一夏は恐怖を隠せず体を大きく震わせていた。ガクガクと揺れるその体を見下ろす千冬は暫くそれを堪能するとその場を去っていった、

 

「・・・・・・行ったぜ、一夏」

 

そのまま去っても良かった承太郎だったがあまりにも可哀想だと判断し、声をかけることにした。するとピタリと動きを止め、ゆっくりと起き上がった。

 

「・・・・・・本当に大変だな。おめぇ」

 

「HAHAHA、もう慣れたさ」

 

色が抜け落ちたように真っ白になった一夏。あまりにも不憫だなと感じながらも自業自得と思い、彼は海の方へと向かった。一夏も回復すると彼の後を追うように海に向かった。

 

旅館を出てまず目に入ったのは、綺麗な砂浜と真っ青な海だった。流石の一言に尽きるその光景に承太郎は未知なる海洋生物との触れ合いに心を躍らせていた。その頃一夏は箒に捕まり、一緒にゆっくり向かっていた。

 

承太郎は依然として黒い制服のままだが汗などは見受けられない。この暑さのなかよく汗も掻かずに長袖の改造制服を着ているものだ。そんなことはお構いなしに彼は海辺へと向かって行った。

 

「あ、空条・・・・・・君?」

 

「な、何故に制服?」

 

先に海に出ていた女生徒達、勿論目的は一夏達に自慢の体を見せ付けるためだ。あえて面積の少ない水着を選んでくる辺り完全に狙ってきているというものだ。

 

対して承太郎はどうだ? 長袖長ズボン、おまけに帽子も学校指定(以前行く予定だった高校)の黒い物。まさに対を表す格好をしていたのだ。

 

『(あ、暑そう)』

 

皆の心が一つになった。そんな彼の姿に皆どのような言葉をかければいいのかわからない。まさか制服のまま来るとは思っても見なかったからだ。想像していた承太郎の水着を見られず、何人かの生徒は海水とはまだ別の塩水で顔を潤していた。

 

「あ、タロタロ制服のまんまだ~」

 

「あぁ、布仏か」

 

そこへ現れたのはラウラと共に一組の癒しマスコットを張る着ぐるみ娘の本音だった。彼女は某有名な電気ネズミの格好をしながら彼の元へと走って来た。だぼだぼなそれにこけるんじゃないかと周りの女生徒は心配になる。しかしそれは杞憂に終わった。

 

「水着じゃないの~?」

 

「泳ぐ気分じゃあないからな」

 

「でも流石に海辺で長袖はない」

 

「てめぇ、鏡見たことあるか?」

 

皆が皆、お前が言うなと言いたくなる本音の発言を他所に、承太郎は海を見つめた。地平線の先まで青く澄んだその光景は彼の心を潤すオアシスのようだった。そんな彼の表情を下から眺めていた本音は、自分の顔が赤くなっていることに気がついた。彼の独特な雰囲気とその整った顔、外国人のように深いほりを持つ彼の顔に見惚れていた事に改めて気がつくと顔を何度か横に振り、正気を保つ。

 

そんな彼女などお構いなしに、じゃあなと別れの言葉を告げて、彼は岩場のほうへと向かって行った。

 

「あ~あ、行っちゃったね」

 

「そだね~」

 

少し残念そうに後姿を見つめている本音に、彼女の友人である谷本癒子は声をかけた。しかし、癒子の声は今の本音の耳には入ってこなかった。それほどに彼女は承太郎の後姿を見つめていたのだろう。彼の姿が見えなくなるまで、本音はそこから一歩も動くことは無かった。

 

視点は承太郎に戻る。岩場まで来た彼は絶賛海辺の生物を観察していた。ゲジゲジやらヒトデ、引き潮により取り残された小魚などの観察に勤しんでいたのだ。彼にとっては数十秒の作業だったが、外界の時間ではもう数十分と経っていたらしい。ふと気がつくとラウラが海上を走り、尚且つこちらに向かっていたのだ。

 

「ラウラ、どうした?」

 

「!?!? じ、じじじじ条太郎殿!?」

 

まさか我武者羅に走った先にいたのが本来の目的の人物などとは到底思わなかったのだろう。パクパクとまるで打ち揚げられた魚のように口を開閉させていた。一体どうしたのだろうと感じた彼だったが、何故か急に後ろへ倒れるラウラを介抱するのにそのような事を考えている暇など無かった。海にダイブするその瞬間に承太郎は何とか彼女を救出。その際に体が密着して、それが余計彼女の顔を真っ赤に染め上げた。呂律が回らない彼女を懸命に介抱するその姿はラウラフィルターから覗けばたちまち少女マンガに出てきそうな目が大きく輝いている承太郎の姿に大変身してしまう。尊敬しすぎて頭が可笑しくなったのかもしれない。

 

「ラウラ、おいどうしたラウラ!」

 

目を回すラウラを介抱するがそれが仇となりさらに目を回して気絶をした。承太郎は何故こうなったのか頭をフル回転させてそれを考えるが見当もつかない。少ししてシャルロットがラウラを探して承太郎のいる岩場へと足を運んできた。同時刻に目を回していたラウラも意識を取り戻し、体を起こしていた。

 

「よぉ、気がついたか?」

 

「は、はい。お騒がせしました」

 

「もうビックリしたよ。急に走ってくんだもん」

 

何故こうなったのか、それは至極単純なものだった。それは【承太郎に自分が選んだ水着を見て貰いたかったが、恥ずかしくなってシャルロットの元から逃げ出した】といったものだ。それを聞いて承太郎は目元を指圧する。面倒事じゃなくて良かったのと同時に、まさか自分が彼女の暴走の発端となってしまうとは思っても見なかったのだろう。

 

「それでそれで? ジョジョはどうなの? ラウラの水着を見て、感想とかはないの?」

 

「し、シャルロット! 承太郎殿にそのような無理を」

 

「でも聞きたいんでしょ?」

 

「それは、そうだが」

 

シャルロットが食い入るように承太郎に接近し、ラウラを抱えあげて渡してきた。急なことで状況を把握できない承太郎はラウラを受け取った。顔が真っ赤なラウラは小刻みに体を震わせた。まるでそれは小動物のようで、その姿を見たシャルロットを悶えさせる。彼女にとっては破壊力抜群だったのだ。しかし、そんな事承太郎はお構いなし。ラウラをゆっくり降ろし、言われたとおりその水着を見る。身体は未だ乳臭い(おさない)が、その水着と相まって可愛らしく見える。敢えて布の少ない水着にしたのは誰かの差し金だろうが、彼女自身のセンスが光ったのもあるのではないだろうか。

 

「ど、どうでしょうか」

 

ラウラはその視線が恥ずかしいのか、その視線が気になるのか俯き落ち着きがなくなっている。所謂モジモジしているのだ。承太郎は素直にその姿を詳しく見た。黒を基調とした白のフリルのある水玉を散りばめた可愛らしい水着だった。真剣なまなざしに余計顔が赤くなるラウラだったが、そこまでは彼も見ていなかった。

 

「ねぇねぇ、どうなの? ジョジョ」

 

「・・・・・・いいんじゃあねぇか?」

 

しかし返ってきた言葉は素っ気無いものだった。その反応にシャルロットは勿論不満なようで、少し頬を膨らませる。対するラウラは少し落ち込んだようにシュンとしょげてしまった。すると承太郎は、まぁ待ちな、と言葉を続けた。

 

「そこら辺の野郎ならコロッとなるだろうよ。自信持ちな」

 

「・・・・・・は、はい!」

 

照れ隠しにとってつけたような褒め方をする承太郎だったが、本心であるのは確かだ。それを二人は瞬時に理解しその表情を喜びへと変えた。ラウラに良かったねと耳打ちするシャルロット。それに答えるように彼女へ会釈をした。

 

「ところでジョジョはこんな所で何してたの? 皆浜辺にいるのに」

 

「・・・・・・海洋生物の観察だ」

 

承太郎はそう言うと足元にいた小さな蟹を見つめる。その顔はいつもの険しい顔だったが、何故か彼の周囲にお花畑が見える。一種の幻覚なのだろうか。その幻覚に二人は互いに見あい、そして目を擦り、再び見あった。ついには互いの頬を引っ張り合い今の現象が夢じゃないか確認していた。頬が赤く染まりそこを擦っているあたり痛かったのだろう。少し涙目だ。

 

「海洋生物・・・・・・好きなの? ジョジョ」

 

「・・・・・・まぁな」

 

集中しながらも会話の返答をするあたり、流石は承太郎といったところか。一夏なら返答などしないから殴られているだろう。ラウラは未だ先ほどの幻覚が頭の中に残っていたのか、顔を犬のように振ってその光景を拭い去り、承太郎と共にその小さな蟹を見つめた。

 

「これは一体何といった種類の蟹なのでしょうか」

 

「見た感じイシガニだろうな。しかも小さいタイプだ」

 

「普通はどれくらいなの?」

 

「最大役10cmだ。こいつは目測で見るなら4cmといったところだな」

 

そう言って承太郎はその蟹に手を伸ばす。すると、イシガニはその両手のハサミを大きく振り上げた。

 

「こいつらは威嚇の時ハサミの部分を大きく振り上げる。殆どの種類が逃げるんだが、こいつらは案外好戦的だ」

 

そして承太郎は蟹の裏を上手く突いて甲羅部分を掴み持ち上げた。純粋にその手際が良かったためか、自然と二人は拍手を送っていた。

 

「それと、こいつらは脚を捕まれると自分から切り離す。だからもし捕まえるんなら鋏脚を両方同時に掴み上げるか、甲羅の部分を持つとそんな事はしねぇ」

 

「へぇ、自刃するんだ」

 

「中々に武士道を彷彿とさせる蟹ですね」

 

暫く三人でその観察すると承太郎はすまねぇと小さく囁き、蟹を岩場に戻した。すぐに岩場に隠れた蟹を名残惜しそうに見た彼は、暫くその場から動かなかった。そして数分経つと、彼は踵を返し、浜辺の方へと二人と共に戻った。幾度となく後ろを警戒しているその姿にラウラは疑問を持つが、蟹の事かなと考え付き、その事には触れないでおこうと決心した。

 

まさか、岩場で観察されていたなどラウラやシャルロットは思いもよらなかっただろう。そして不自然に岩場に存在したウサ耳のカチューシャが独りでにピョコピョコ動いていたなど誰も目視してはいなかった。

 

 

 

 

浜辺に戻ると一夏達がビーチボールをしていた。そこには本音と癒子、そして一夏のグループ対千冬、真耶の3対2の試合があっていた。勿論と言っては可哀想なのだが、一夏達は一点も入れられていない。千冬の凄さはもちろんだが、真耶のトスの挙げ方も上手いのだろう。息の合った先輩後輩チームが生徒に対して完全に大人気ない一方的な試合を展開していた。

 

ボードには0対17と書かれている。勿論前者が一夏率いる生徒チームで後者が千冬率いる先輩後輩タッグだ。圧倒的である。

 

「ん? 空条か。海洋生物の観察はもういいのか?」

 

「・・・・・・あぁ、充分楽しめたんでな」

 

千冬は承太郎を見つけると何気なく聞いてきた。ドイツにいる間は海洋生物について一言も喋ってないはずだよなと思い返しながらも、ジョセフ絡みだろうなと勝手に結論付けた。何でもかんでもジジイの所為。流石にそれは酷いというもの。

 

「それはそうとお前もどうだ? 少しは体を動かせ」

 

「・・・・・・俺は疲れたんでな」

 

「ほぅ、怖気づいたか?」

 

「・・・・・・言うじゃあねぇか」

 

簡単に挑発に乗った。それはもう絵に描いたような挑発の乗り方だった。承太郎はボロボロの一夏と交代し、コートの中に立つ。真夏のビーチに立つのは黒い改造制服。とても場違いであった。

 

「よし、ではいくぞ」

 

千冬は掛け声と共に、普通では出来そうにない滅茶苦茶な高速回転を纏うボールを放ってきた。まるで竜巻のようなそれが承太郎目掛けて飛んできた。承太郎はいなすなんて事は一切しない。そのまま真正面から両手で作ったレシーブの構えのまま、その竜巻と激突した。そして顔色一つ変えないまま綺麗なレシーブを上げた。そして癒子がそのレシーブをトスで真っ直ぐにあげる次の場合は本音が決めたいところだが彼女に任せられる自信がない。そこで癒子は一か八かと承太郎のいる右側にトスを上げた。

 

195cmが宙を舞う。その光景は余りにも珍しいものだった。

 

「オラァッ!」

 

ジャンプ力も相まって4mほどの高さから弾丸のようなスパイクが承太郎の腕から放たれた。金属音が木霊する。ボールからなる音じゃないのは確かだ。

 

そのボールは千冬と真耶の間に吸い込まれるようにぶっ飛んでゆく。しかし、真耶も負けてはいなかった。

 

高い位置からボールに腕を当てその勢いを殺すことなくいなし、レシーブをあげた。いや、この場合はレシーブとトスを一つの行動でしたような綺麗に真っ直ぐに上げるレシーブだ。

 

千冬はその勢いを殺さなかったボールに再び己の掌を叩き込む。ボールの行方は振り出しに戻る。それが何回も繰り返された。

 

何回も、何回も、何回も。

 

彼らの自由時間すべてを使い切るほど続いた。

 

付き合わされた癒子は次の日全身筋肉痛で訓練中に動けなくなるなどというアクシデントが起こる訳だが、それはまた別の機会にしよう。

 

 

 

 




今回は比較的ほのぼのでしたね(白目)

4m近くから叩き落される+承太郎の筋肉による追加ダメージ=相当危ない。

でもそれをいなす辺り真耶さんは凄いと思います。ぽやぽやなのに。 

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