ジョジョの奇妙な学園 ~stardust stratos~   作:エア_

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日間2位、ありがとう御座います。(17時30分頃

ほんと、もの好きの集まりですね。このような作品にあつまるなんて。

そんな人たちが大好きなエアは幸せもんだと感じた残暑激しい夕暮れ時。

今回で、第一章【星を持つ青年】は終わりです。


第十四話~二つの結末、新たな風

 

ここは、IS学園の保健室。集中治療を受けた承太郎が今静かに眠っている場所だ。呼吸も整っており、体温も正常。今は絶対安静と医師に義務付けられ。こうして睡眠をとっていた。

 

そこには見舞いに来た者たちがいた。一夏やシャルロット、セシリアや鈴と、専用機を持っている者達だった。彼らの顔には疲れはあれど、戦いが無事に終わったという安心感が皆を包んでいた。

 

「でもさ、その話を聞いてて思ったんだけどさ。何でワザワザ一夏の白式から“余分なエネルギー”何て言って無理矢理消費させたのよ」

 

「ジョジョの使うスター・プラチナのエネルギーと一夏のエネルギーの内容が違うからだよ。一夏のは普通の電気エネルギーだけど、ジョジョのはATPを使用した人体エネルギーだしね。それを無理矢理混ぜると逆流を起こしてジョジョ自身にまで被害が及んだんだよ。だから僕に“今の今まで戦わずに置いていたエネルギー”を使用して遠隔操作を行って僕に白式へ供給させたんだよ」

 

シャルロットはもうすでにみなの前で自分が女性であることは発表していた。そのため今はスカートをはいてその場にいる。その突然の暴露の時に、一夏を巡った女の戦いが起こったのだがそれはまた別の話だ。

 

ちなみに、承太郎に対しても動こうと思った人もいたが彼がそんな事で揺らぐとは一切思えないので、事なきを得たのも話す機会があれば語られるのだろう。

 

「つまり、今まで使わなかったエネルギーを使用し、無理矢理遠隔操作の範囲を少しずつ伸ばし、スター・プラチナをシャルロットさんの元で待機させて、下手に刺激をせずに自分だけを対象にさせた・・・・・・ということでしょうか」

 

「あぁ、その考えであってると思う。でもなぁ、あの壁ドンは死ぬかと思ったぜ」

 

「これまでの一夏の行動を考えればいいんじゃないかな。だから鈴に酢豚キックされるんだよ」

 

「誰が酢豚キックよ!」

 

彼女たちはもう打ち解けあっているのか、そこではいがみあいなど無く、友情を分かち合えていたのだ。というより元々、男性女性云々で彼女を否定する人間などその場にひとりもいなかった。彼女は確かに己を偽った。しかしそれは己の欲望のためではなく、ことも父からの命令でしていたに過ぎない。つまり彼女は悪くない。頭の良いクラスメイトだからこそ、普通の学校とは違う理解力の速さがそこには存在していた。それよりも男を偽っていた時の口説き文句が忘れられない生徒が存在しているようで、その子達からも依然と告白を受ける羽目になるのは彼女のせめてもの罪滅ぼしになるだろう。

 

保健室のドアが突如開いた。現れたのはラウラと千冬の二人。あ、後ろから箒が現れた。

 

「あ、織斑先生」

 

突然の登場にその場にいた生徒は硬直をした。それはそうだろう。何せ自分達の担任(鈴は違う)で、最近吊るされた経験があり(セシリア)電話の件で心臓が止まるような思いをした(一夏とデュノア)ことがあるのだ。少し飛び跳ねるのも無理は無いのではないだろうか。鈴? すでに彼女が苦手だ。

 

「貴様達か、どうだ? そいつの体調の方は」

 

「頗る順調とのことです。後二日もすれば学校へ復学できるとの事で」

 

「そうか、しかし、背骨にひびが入ったというのに何て奴だろうな」

 

千冬はそう言いつつも、安心した表情を見せる。彼女自身事態の収束に手一杯で彼の見舞いなどこれが初めてだったのだ。無事だと聞いて安心しないわけなど無い。口頭では説明されようとも、やはり見て確認するに越したことは無い。彼女は安堵のため息を吐く。

 

「そう言えば織斑先生。承太郎さんのISはどうなったのですか?」

 

「あぁ、スター・プラチナは無傷だ。本当にどんな素材を使えばああなるんだろうな。流石はSPW財団だろう」

 

スター・プラチナはその耐久度までも世界トップクラスであるらしい。そんな衝撃の事実にその場にいたもの全員がスター・プラチナの凄さに驚きを隠せないでいた。

 

「では私は戻るぞ。これでも仕事が残っているんでな。織斑、これからは一人部屋だが、女は連れ込むなよ?」

 

「連れ込みませんって!」

 

「どうだか」

 

彼の未来が女に囲まれたものだと予知した千冬はそんな言葉を残してその場を去った。残るのは彼と彼を慕うもの達。自分が連れ込まれる妄想でいっぱいになっており、その顔は真っ赤に染まっていた。そしてすぐさま一夏が風邪か? 等とほざいて集団リンチを食らうのはもはやご愛嬌。

 

そんな中、ただじっと承太郎を見つめる人がいた。ラウラ=ボーデヴィッヒただ一人が、何も語ることなく承太郎の顔をじっと見つめていたのだ。その表情には彼への罪悪感でいっぱいにみえる。それもそうだろう。勝利などと口にしたのに結果は自分が暴走して収拾がつかない状況になった。結局は承太郎の手を煩わせてしまい、しかも自分の手で大怪我をさせてしまったのだ。もう申し訳なさで潰れそうになる。

 

「・・・・・・承太郎殿」

 

「そ、そういやぁさ。ラウラと承太郎ってどういう関係なのよ」

 

流石に空気が重かったのか鈴がラウラに話しかけた。空気を読めるあたり一夏とは違うとみなが納得する。理不尽だと思ったが、彼には前例がある。何も言う権利は無い。

 

「・・・・・・私にとって、承太郎殿と教官は全てだった」

 

誰とも目を合わさずただ一人語る。己の出生(ぐんじんとしてのいっしょう)人生(しけんかん)挫折(ひだりめ)絶望(こどく)、そして希望(ふたり)の事を、ゆっくりと語った。聞いているうちにその場にいたもの全員が承太郎への彼女の想いが本物であるのを実感した。それと同時にそんな純粋な時期が彼に存在したのだという事実に驚いた。彼らにとって承太郎とはいったいなんなのだろうか。

 

「ってことは、ジョジョの事が好きって事だよね?」

 

「・・・・・・」

 

シャルロットの質問にラウラは首を捻る。そこまで話しておいて何故首を捻るのか? 周りにいた者達は揃って疑問に思った。ラウラは少し寂しそうな、しかしそれでいて納得したような表情を見せる。その顔に一夏は見覚えがあった。それはシャルロットが以前に見せていたその顔を彷彿とさせたのだ。あの“全てを諦めたような顔”を今目の前の少女はしていたのだ。

 

「私など、承太郎殿に好意を抱く事さえおこがましい。私はこの方を裏切り、あまつさえ怪我を負わせてしまった。本来ならこの場で自害したいところだ」

 

そう言ってラウラが己の太ももあたりからサバイバルナイフを取り出す。一夏達はあわてて止めようとしたが、それは杞憂に終わった。彼女はそのナイフを元に戻し、再び承太郎の方を向き、だが、と言葉を繋いだ。

 

「承太郎殿が【俺のために生きろ】そう仰ってくれたのだ。だからせめて、せめて私は承太郎殿のため、()きて()きたい。承太郎殿のために死に()きたい。それが今の私の在り方だ」

 

深々とラウラは寝ている承太郎にむけてお辞儀をした。その瞳には覚悟がうかがえる。何者にも屈しない。真っ直ぐと凛としたその表情に自然と回りは笑顔になった。

 

「なら、頑張りなさいよね。そいつは言っとくけどIS界で一,二を争う猛者だからね。足手纏いにならないよう訓練、手伝ってあげるわ」

 

「感謝する、鈴」

 

「あらあら、私も彼にはサムライ・スピリットを教えていただいたご恩がありますの。お手伝いさせてくださいまし」

 

「・・・・・・ありがとう、セシリア」

 

ラウラは二人に深々と頭を下げた。二人も任せろといわんばかりに勢いよく立ち上がり、一夏、シャルロットを持ち上げ、箒、ラウラを脇に抱える。

 

「そうと決まりゃあ訓練あるのみよ。行くわよ。グズグズしてられないわ」

 

「な、私まで」

 

「あらあら箒さん。貴女、訓練機だからという理由は許しませんわよ。このセシリア=オルコットが貴女を鍛えて差し上げますわ」

 

「俺らはって、もう聞いてないわな」

 

勢いよく病室を出た鈴達はそのままアリーナへと全速前進した。途中誰かとすれ違ったが今の彼女たちには関係なかった。今は己の力を高める時、あの男最強にリベンジをするための特訓をする時だ。彼女達は一目散にアリーナに向かって足早にその場を去っていった。

 

すこしして承太郎を除き、誰もいなくなった保健室のベッドへ一人の女性が先ほどまでいた一夏達とは時間差で現れた。水色の髪を靡かせ、その朱色の瞳で彼を見つめる。

 

更識楯無の姿がそこにあった。

 

「・・・・・・承太郎。お見舞いに来たわ」

 

小さくそう呟くと楯無はその手に持っていた花を彼の傍の小さい棚の上においてあった花瓶に活けた。その顔は終始寂しそうで、今にも泣き出しそうだった。

 

「ごめんね・・・・・・守れなくて」

 

眠っている承太郎に向かって泣き出しそうな声で彼女は言った。けじめをつけるために逢う事を己自身で禁止したというのに、彼女は我慢できず来てしまったのだ。千冬から聞かされた「承太郎が大怪我をした」という言葉に心が揺らぎグラつき何もかもを振りほどいて向かいたかったのだ。すぐにでも彼の元に行きたかったのだ。しかし、己の覚悟がそれを良しとしなかったのだ。あの時、無理してまで決めた覚悟を今更破るのか。彼女自身の中で葛藤が起こっていたのだ。

 

結局、彼が眠っている今ならと、生徒会の誰にも伝えずに一人彼の元へと来ていたのだった。

 

彼の顔を覗き込む。途切れることの無いリズムを刻む呼吸を耳にする。今のところ安心して眠っているのだろう。自分の心のように荒んではいないと感じ取った楯無はその服の胸の部分を強く握り締めた。

 

「・・・・・・こんな傷、私だけで充分なのに。ごめんね、承太郎」

 

今にも抱きつきたい衝動に駆られる楯無だが、彼女の名が、それを許しはしなかった。楯無の名は伊達じゃない。そう、全く持ってその通りなのだ。

 

彼女に守る楯など必要ない。欲するのは敵を殺すその武器のみ。

 

故に彼女の襲名したそれこそが、彼女自身を縛り上げているのだ。世界中の誰もが許しても、更識がそれを許しは“絶対に”しないのだ。もしも今その襲名を取り下げるなら、それこそ今のロシアの指示【空条承太郎から遺伝子を取って来い】という命令を聞き入れなくてはならなくなるのだ。

 

その事実が彼女の胸を締め付ける。その事実が二人を引き離す。その事実が二人を許しはしない。その現実が彼女を悲しませていた。

 

「私は、どうすればいいんだろう。普段のことならすぐに割り切れるのに、これだけは無理だった」

 

彼女は続ける。己の叶えたい欲望を、それでも叶うことのない欲望を思い浮かべる。その二つを満たしていたのはいつも彼の存在だった。

 

楯無のその瞳は潤んでいた。そう、涙が彼女の瞳を洗うように出てきたのだ。一つの線が彼女の頬を伝う。その線が一本、二本と増えていき、しまいに、その本数は四つとなった。彼女の目からその線が零れ落ちていく。一度零れたものは元には戻らない。一度壊れた心は直すことなど出来ない。

 

今すぐにでも、何もかもを捨てて彼のその胸の中へ飛び込み己の想いを吐露したい。彼ならきっと渋りながらも必ず優しく抱きしめ、そして最後まで聴いてくれるだろう。そう理解しているのにもかかわらず、彼女はそれを行わないでいた。

 

「・・・・・・さよなら」

 

偽りの無い本当の彼女がそこにいた。その言葉は、“更識楯無”としてではなく“更識刀奈”としての言葉だった。彼女は保健室から出て行き、それっきり戻ることは無かった。

 

闘いが収束したというのに、保健室には二つの表情が現れていた。

 

一人は承太郎の為に生き、承太郎の為に死ぬと覚悟を決めた表情が。

 

一人は己の責務のため、己の周りにいる愛しいものを護る為に愛することを捨てた表情が。

 

一人は生きる意味を見出したというのに、一人は愛と名を天秤にかけなくてはならなかったのだ。

 

暗雲渦巻くタッグマッチは二つの結果を残し、中止という形で幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

承太郎が復学してきたその日の夜。食堂では彼らのクラスである1組と鈴のいる2組の合同で復学祝いのパーティーが行われた(計画を立てたのが交流の深い1組と2組の一部という理由から合同となっていた)。

 

ラウラを救うためにその体を犠牲にしてまで戦ったその姿がクラスメイト達の中でも評判をあげたのだ。勿論、彼の出会い頭のあの叫びは気持ちのいいものでは確かにない。しかし、それを踏まえても、あの堂々たる姿勢と、ISを使わずに暴走したラウラを救って見せたその凄さに好感度はうなぎ上りだったのだ。

 

「・・・・・・ったく」

 

そんな少し騒がしいパーティーだが、パーティーくらいで怒鳴る承太郎ではない。楽しむときは楽しむし、真面目なときは真面目に徹する。今は楽しむ場、つまりは少し騒がしかろうが関係ないのだ。今は目一杯楽しめばいいのだから。

 

すると、見たことの無い女生徒が承太郎の下へと現れた。曰く、二年生の先輩で黛薫子というらしいのだ。彼女は校内新聞を携わっており、部長として今噂の承太郎の取材に来たのだった。

 

「お名前は空条 承太郎君で良かったかな?」

 

(しょう)じゃあねぇ。(じょう)だ。間違えねぇでくれよ? 先輩さんよぉ」

 

「ふむふむ、これは失礼。ではいくつか質問させてね」

 

「・・・・・・やれやれ」

 

名前を間違われたのは許すがそんなに悪いとも思っていないらしい。それよか質問攻めを受けるのは少し酷だなと感じながらも、応じるその姿はシャルロットが最近学んだ【ツンデレ】にも見えなくは無い。

 

「じゃあ世界初のスタンド型ですが、初めて起動したときはどんな感じでしたか?」

 

「初めて? んな事覚えてられるかよ。3年以上も前の事だ」

 

「ふむふむ、3年以上も前だから覚えていない・・・・・・3年以上?」

 

承太郎の返答に薫子は固まった。いや、その場にいた殆どが固まったのだ。普通に行動しているのはシャルロットとラウラの二人だけ。もっとも、シャルロットの場合はSPW財団に所属したときに聞かされていてすでに驚いていたのが現状。ラウラはIS起動以前からの知り合いもあってか、彼の起動に[流石は承太郎殿です! 何だってこなしてしまいますね!]と逆に驚くどころか尊敬の念を送られたのだった。

 

しかし、一夏も同様だが、周りの生徒は口を開けっ放しのまま彼の話を聞いた。

 

すると承太郎は左手を口元まで上げ人さし指だけを伸ばし左右に揺らす。

 

「悪ぃがそれは、“企業秘密”ってぇやつだ」

 

『キャー!』

 

その普段は見られない得意げな笑みに黄色い声が現れた。やはり試合での彼の行動が株を上げていたようだ。その普段からのギャップが彼女達の心を鷲掴みしたのだろう。周囲にいた女生徒はそんな彼の周りに集まる。今まで聞けなかったことを聴こうと近づいたのだ。承太郎も、折角のパーティーだと、嫌な顔せず周りにいた女生徒の質問に少しだけだが答えていた。

 

「あ、あの、取材が」

 

「今回は無理でしょうね、黛先輩」

 

そんな彼女へ近くに一夏は身も蓋もない止めを刺した。薫子は肩を落としながらその場を去る。その姿を確認すると承太郎は周りを少し狭いのかその輪の中から抜け出した。

 

やはり彼は以前からの彼なのだろうかと、輪を作っていた女生徒は残念そうな顔をする。すると承太郎は振り向き先ほどから変わらない得意げな顔を向けた。

 

「ったく、暑苦しくて答えられるもんも答えられねぇぜ」

 

その言葉に女生徒はその言葉に次第に笑顔になって行った。しかし承太郎は折角食堂でのパーティーなのだとテーブルにある缶ジュースを手に持ち一気に飲み干す。そのラベルが誰かが調子に乗って持ってきたビールであるなどと知らずに。女生徒達の殆どがそれを知っていて驚愕した顔をしたが、彼は特に何の変化も無く飲み干し、もう一本に手をかけていた。

 

「た、タロタロ?」

 

「ん?」

 

その姿に心配したのか本音が近づいて不安そうに見つめた。しかし彼の顔に良いなど一切見受けられなかった。すると彼は胸ポケットから金属製のシャープペンシルを取り出しビール缶の下の部分に突き刺した。その行動に皆は一体何をするのだろうと不思議そうに見ていた。

 

「な、何をするだ~?」

 

「・・・・・・まぁ見てな」

 

何故か彼の曽祖父の台詞を言う本音だったが、承太郎がそんなこと知る分けない。彼はそのままシャープペンシルを抜き、プルタブを捻り、口をあけた。するとどうだ、シャープペンシルを抜いても流れ出ること無かったビールの液体が、まるで押し流されるようにその穴から勢いよく承太郎の開けた口の中に流し込まれていった。

 

「あれって」

 

「うむ、ショットガンと呼ばれる飲み方だ。承太郎殿が好んでする飲み方で、先に缶に穴を開けてからプルタブを開けるとあぁやって飲める」

 

「零れないのか?」

 

「一夏・・・・・・お前は空気も入ってこないのに零れるとでも思ったのか?」

 

ラウラの説明に一夏は疑問を持つが何故か根本的にどこか抜けているようだ。剣道馬鹿の箒(とは言うがここはエリート校。頭は良い)に指摘されているようではもう駄目なのかもしれない。指摘を受けた彼は未だ理解していなかった為なのか、周りにいた鈴やセシリア達は米神を抑えていた。自分の思い人の頭の悪さに頭が痛くなったのだろう。そんな彼らを他所に承太郎は天井を眺めながらビールを飲み干すのだった。

 

 

 

そんなこんなで終にお開きになった復学祝いパーティー。承太郎は千冬の部屋に呼ばれていた。部屋に入ってまず注意されたのが酒なのはご愛嬌。

 

二人はちゃぶ台(何故かちゃぶ台)を挟んで座り、目の前にある資料に視線を向けた。

 

「呼んだのは分かっているな?」

 

「ラウラのISに搭載されていたっつうVTシステムのことか? ジジイが言うには既に配給された時から搭載されていたらしいぜ? なんせあのおっさんがゆるさねえからな」

 

「あぁ、シュトロハイム殿か。確かにあの人の目がまだ黒いうちはドイツ軍人は大丈夫だろうな」

 

千冬の提示した資料に視線をおろしていた。本来は二人とも眠りにつきたいがそんな事も行っていられる暇はなかった。そう、彼が眠っていた間も世界は回っているのだから。

 

「そのVTシステムを作っていた施設がお前の眠っている間に何者かによって壊滅状態にされていた。その資料がこれだ」

 

さらに手渡された資料によると、その被害の内容からISによる一方的な殲滅だと確認できた。幸い死者は出なかったらしいがそこで行われていた研究資料などの情報は一切が消されていたとの事。つまりそれは外部からの物理的およびネットワークからの二種類の攻撃を受けたことになる。古典的だがとても実績がある方法なのは確かだ。

 

「こういう施設が、そんな対策が取れてないわけがねぇ。例の篠ノ乃博士って女が関与してんだろうな」

 

「そこまでは分からん。だが可能性は大いにあるだろうな」

 

「まぁ、手間が省けてよかったぜ」

 

承太郎自身この連休を使ってその施設に訪れその拳で片をつけようと考えていたらしく口ではそう言いつつも、獲物をとられてイライラしているようにも伺えた。そんな彼に千冬はため息を吐く。冷静なようで行動派であったなとふと思い出しながら立ち上がる彼を見つめた。

 

「まぁいい。用件はそれだけだが、この事は口外するなよ? 破れば最低二年は監視がつくからな」

 

「わかってる」

 

承太郎はそう言うとその場を去るためにドアの方へとむかって行った。自分のする事はもう今直ぐにでも寝ることだと自分自身で確認しながら彼はその扉の取っ手を掴んだ。すると千冬が思い出したように承太郎に。

 

「あぁそう言えば、来週に臨海学校があるからな。準備はしておけよ?」

 

と伝えた。

 

「・・・・・・臨海学校だと?」

 

「あぁ、演習も兼ねたものだ。行かないなんていう選択肢は無いと思えよ?」

 

「・・・・・・やれやれだぜ」

 

また何かあるな、そう予感がした承太郎は帽子を深くかぶりながらその場を去った。そんなことよりも今は寝たい。パーティーでの疲れを癒すためにも彼は自分の部屋へと目指す。酔いも加わってか彼への睡魔は多く募らせていた。

 

部屋についたのはいいがそのまま倒れるように地面で寝てしまったのは、彼の一生の不覚ではないだろうか。

 

 

 




とうとう一章が終わりました。

ここまで応援していただいた方々には重ね重ねお礼を申し上げたいと思います。

ありがとう御座います。


第二章でまたお会いしましょう・・・・・・あ、第二章のタイトルどうしよう

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