ジョジョの奇妙な学園 ~stardust stratos~   作:エア_

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夏休みがあるのっていいね。でも、バイト漬けで休んでいる気がしない。

さぁ、ついに始まる注目の二チーム。

勝つのはどっちか!?


第十三話~決着、そして超越

第三試合。ラウラ&承太郎ペアVSシャルル&一夏ペアと表示された電子掲示板を眺めながら多くの生徒はアリーナへと走る。世界でたった二人の(今は三人であるが)男性操縦者の試合だ。見ない手はない。片や昭和な不良っぽい代表の漢、空条承太郎。片や平成の爽やかフェミニストっぽい代表の青年、織斑一夏。この二人の戦いが今ここで起こるのだ。大多数が一夏達の勝利を願っているのは、まぁ理由としては承太郎の女を寄せ付けないオーラと誰に対しても好戦的(彼自身はうっとおしいと思っているだけ)な態度のためであった。

 

本人は周りにたかるように集まられても気分が悪いだけなため、むしろこうあって欲しいと願っている訳だが。

 

[第三試合。織斑一夏&シャルル=デュノア対空条承太郎&ラウラ=ボーデヴィッヒの試合を行います]

 

アナウンスが、彼らに闘いを知らせる。獣のようにぎらついた目をするラウラと、無事に作戦が成功するか内心不安に思う見た目不機嫌な承太郎。対する一夏達は二人の土器に近い何かに若干苦笑いしながらも、どのようなコンビネーションで目の前の二人を倒すことが出来るかを考えていた。

 

「貴様をここで、亡き者にしてやル」

 

「へん、やれるものならやってみな」

 

「言ったナ?」

 

「当然」

 

二人がにらみ合う。それはまるで因縁の対決のようにも伺える。そんな中、承太郎は異様な不安に狩られていた。

 

(何かが見てやがる。異様な感じだ。まるでこりぁ人じゃあねぇみたいだ)

 

(ジョジョどうしたのかな? もしかして・・・・・・人前で照れてるのかな?)

 

お門違いな考えをするシャルルを他所に、承太郎は周囲を警戒した。何かが自分の脅威足りうる存在で、それが自分自身を品定めしている。そこまではっきりと感覚で理解していた。

 

(だが、今は目の前の事をどうにかしねえとな)

 

スター・プラチナが仁王立ちで現れる。3人を目視し、そしてその場に君臨した。

 

そして、ブザーが闘いの合図を送った。

 

「「叩き潰す!!」」

 

スタートの直後、飛び出したのはラウラと一夏だった。互いに初っ端から瞬間加速で近づいていた。二人の剣が交わる。一閃、また一閃。振るわれるたびに火花を散らす。時にはすくい上げ、時には捻り落とし、まるでそれは侍と騎士の戦いのようにも思えた。

 

承太郎は動かない。タバコをふかしながら二人の様子を見守っている。しかし、シャルロットはそれを許さなかった。

 

急速で近づき、承太郎の懐まで飛んで行き、そのてにもつサブマシンガンを構えた。

 

「・・・・・・」

 

「えっと、一応、防御体勢くらいはとって欲しかったかな」

 

無慈悲に放たれる弾丸。しかし、やはりあのロシア代表との映像と同じく承太郎の体に触れることは無かった。

 

そう、スター・プラチナが瞬間承太郎の前に現れその弾丸を弾いていたからだ。弾丸よりも早く放たれる拳を目の当たりにし、シャルロットは後方に大きく跳んだ。

 

しかし、承太郎は追撃などせず、ラウラ達の戦闘を眺めていた。

 

(うぅ~。僕じゃあ役不足だっていいたいのかい? ジョジョ~)

 

少し涙目になりながら怒った顔をするシャルロットの事など気にもかけず、承太郎は一夏の戦闘を見守っていた。

 

剣術は確かにいや、圧倒的にラウラの方が勝っている。しかもISの技術もそうだ。しかし、彼の持ち前の機転のよさがそれを補っていた。運も作用しているのだろう。そう思うと、彼は一夏の潜在能力に対して関心をした。これなら勝てるんじゃないかと。

 

[ちょっとジョジョ!! 君の相手は僕なんだけど!!]

 

プライベートチャンネルが開かれシャルロットが承太郎に猛抗議をする。それはそうだろう。完全に仲間はずれにされたみたいだからだ。彼女が可哀想である。

 

[んな事言ってる暇があんなら、AIC使われたときに備えて、準備し(スタンバっ)とけ]

 

返ってきた言葉は身も蓋も無い“んな”事発言。涙を流す彼女の姿はあまりにも可哀想だった。フィールド外からも抗議が出る。お偉方は一夏を見に来た者もいれば、承太郎を見に来た者もいるからである。承太郎のそんな態度が気に食わないのか、ブーイングの嵐が巻き起こる。

 

承太郎はさっそくスター・プラチナに予め持っていた拡散高出力マイクの電源をつけ、

 

「やかましいっ!! うっとおしいんだよ!!」

 

目いっぱい怒鳴り散らした。

 

フィールド外はシンと静まり返る。聞こえるのは刃の交わる金属音。怒鳴り声にもびくともしない。それほどまでに二人は集中しているのか。

 

((今反応したら絶対にこっちに矛先が向く))

 

そうでもなかったらしい。

 

 

 

 

ラウラの右手のプラズマ手刀が一夏の喉元を掠めた。すかさず雪片で切り落とさんと振り落とす。上手くその攻撃をかわし、ラウラは左手の逆手に持ったワイヤーブレードを持ち直す。

 

シュヴァルツェア・レーゲンから手に持っているワイヤーブレードが射出口から彼を襲う。機動力を生かし、何とか回避行動をとった。見切ることなどほぼ不可能な変則的に動ぐブレードの雨。一夏は隙を探して回避に専念した。

 

「・・・・・・あった!」

 

ついに見つけた。そう確信した彼は瞬間加速でその懐まで潜り込んだ。

 

「食らい・・・・・・なっ!?」

 

「ふっ、AICの前にはISなどただの銅像に過ぎン」

 

その振り上げようとした雪片が一切動かなかった。それどころか、白式自体が行動を停止していた。エネルギー切れではない。それはまるで空間ごと固められたような感覚が彼を襲った。

 

そうか、これがAICか。彼は内心そう確信づいた。承太郎に口頭で教えられ、その後シャルロットとどのような技術なのかを分かりやすく説明してもらっていた一夏にとって死角は無い。

 

「生憎、僕らは二人でね」

 

「承太郎殿・・・・・・無事でしたカ」

 

AICの途中、シャルロットが乱入し、ラウラを襲ったが、本人にとっては乱入されたことよりも承太郎の安否の方が大事らしい。すぐにあたりを確認した後、その表情には安堵が見られた。

 

「ラウラ、てめぇが一人で良いと言ったんだ。やれるな?」

 

「はイ。このラウラ=ボーデヴィッヒ。必ずや承太郎殿に勝利ヲ」

 

ラウラはそう言うとISで縦横無尽に駆け回り始めた。ワイヤーブレードを巧みに操り、二人を翻弄する。そして集中力が途切れた瞬間二人同時に攻撃が行われた。回避で難を逃れた二人だったが、待っていたのは彼女のレールガン。回避線上に撃たれたその攻撃は一夏の白式を撃ち抜いた。

 

「ガハッ!?」

 

「一夏!?」

 

予想以上の激痛が腹を襲う。もしこれが顔面だったらと思うと背筋を冷たいものが通る。レールガンは一度撃てば再充電に二十秒かかる。二つとも使えば三十秒。その間にけりをつけねば一夏は持たない。

 

しかし、彼女のワイヤーブレードがその侵入を阻む。隙など見受けられはしなかった。

 

それはまるで要塞だ。何者も近づけない要塞そのもの。

 

シャルロットは思考をフルで使用した。どうすれば次のレールガンがくるまでに懐にもぐってこの楯殺しで打ち抜けるのか。どうすれば一夏の零落白夜で切り伏せることが出来るだろうか。勝機は幾つだろうか。千に一つだろうか。万に一つだろうか。

 

 

いや、方法はただ一つある。

 

 

「一夏! 例の行くよ!」

 

「お、おう!」

 

彼女の一言で一夏の動きが変わった。先ほどまで我武者羅な突貫をいくらかしていたときの無骨な動きを一切しなくなった。ただ剣を前に構え、山のように不動な構えをとる。眼前のラウラはすこし疑問視する。今までの彼の行動から全く違った動きをしているからか、次の攻撃予想が追いつかなくなったのだ。

 

「さぁ、行くよ」

 

シャルロットはアサルトマシンガンとショットガンを一丁ずつ構え、引き金を引いた。反動の違うその二丁がラウラを襲った。

 

アサルトマシンガンがワイヤーブレードのワイヤー部分を跳ね除け、ショットガンがブレード部分を穿つ。一夏はその瞬間を見つけ、一気に懐へともぐり、彼女のブレード射出口を叩き壊した。

 

「ぐ、ぐウッ」

 

ラウラの顔に焦りが見えた。思った以上の動きに彼女は驚いたのだろう。額に冷たい汗を掻いていた。

 

しかし、承太郎はそれを見ても何も行動を起こしはしなかった。ただ見守る。スター・プラチナの格納庫にしまってあったジャンプを読みながらだが。

 

一夏を跳ね除け、ラウラはAICを発動した。その瞬間、シャルロットが一夏同様懐に入った。そしてその左手に搭載されてある。己の最大火力兵器であるパイルバンカーを表に晒した。

 

「し、楯殺し(シールドピアーズ)!?」

 

「その通り。いっちょ食らっとく?」

 

放たれた大きな杭は少女の腹へと吸い込まれるように貫かれた。一撃目で肺に残っていた空気が殆ど吐き出された。しかし、シャルロットはそれでは終わらない。もう一発。更に一発と、小さな体に何回もぶち込まれた。

 

「~~~~~~ォェ」

 

もう声を出すための空気すら残っていない中、彼女を襲うのは胃の逆流。消化液が口から戻すような感覚が彼女を襲った。

 

「まだまだ行くよ」

 

「~~~~~!?」

 

また一発。おまけに一発。何回も、何回も放たれる杭。彼女は無意識に承太郎の方へと手を向けた。加勢してほしいのだろう。しかし、承太郎は動きはしない。ただ、彼女を見つめていた。ジャンプは手に持っているが。

 

そんな姿を彼女は意識が薄れる中、追い求めるように手を伸ばし続けた。

 

 

 

 

「さぁ、いよいよだ。スコール」

 

「はい。起動しますわね」

 

観客の声が歓声から悲鳴へと変わった。フィールドは黒色に染まり、禍々しい空気がアリーナを包む。

 

「クククッ、さぁ、貴様ならどうする? 承太郎」

 

男は楽しそうに見下ろしていた。今から始まるのは彼にとっての“パーティー”なのだろう。肩を少し震わせ、その笑いを体で表現する。口元から人間とは程遠い犬のような牙が二本現れる。

 

「DIO様、さぁ、あの男が動きますわ」

 

「あぁ、あの重たい腰を上げるぞ? どれほどの力か、この目に焼き付けてくれる」

 

男はスコールを抱き寄せ、大きく笑う。その笑い声はそこらじゅうに響き渡る。だが誰もそちらを見ようとはしない。そちらへ振り向くことなどしない。

 

何故なら、すでに彼らはそこで大量に血を吸われ、息絶えていたからだ。

 

 

 

 

ラウラの纏っていたISが黒い泥のような何かに変わる。その泥のような何かは見る見るうちに姿を変え承太郎自身見知った姿へと変身したのだ。

 

「・・・・・・千冬、だと?」

 

承太郎はスター・プラチナとともに即座に一夏断ちの元へと跳んだ。その速さは数百メートルを秒単位で突き抜けるほどの速さ。すぐさま彼らの前に立ち、ラウラのブレードから護った。

 

「ちっ」

 

「じ、承太郎!?」

 

あまりにも受け止めた体勢が悪く、承太郎はアリーナの壁へと吹き飛ばされた。壁が壊れ、体がその中に無理矢理ねじ込まれる感覚が彼を襲った。スター・プラチナで護ったというのにこの威力。承太郎は今まで感じていた不安がこれであるのだと確信づいた。

 

「ジョジョ!? 大丈夫!?」

 

「あいつ、千冬姉を!」

 

駆けつける二人。心配をするシャルロット達だが、彼の姿を見た瞬間、驚愕し、声が出なかった。

 

見るからに骨が折れている。体中から血が噴出していた。それはあの水蒸気爆発のときよりも酷いものだった。その血の量は致死量分くらい流れているのではないだろうか。二人の頭に、【空条承太郎の死】というワードが過ぎる。唇は振るえ、失う恐怖を目の当たりにした。

 

「・・・・・・」

 

しかし、承太郎は動いた。何を考えたのか、折れた骨を持ち前の筋肉で無理矢理動かし、力を入れて筋肉で皮膚を閉じ止血をする。そんな力技があってたまるか。一夏たちを他所に、承太郎はラウラの方へと歩みを進める。

 

「じ、ジョジョ! 駄目だよ!! そんな体じゃ、死んじゃうよ!」

 

シャルロットがそう言って承太郎の前に立った。両手を広げ、これ以上の彼の進行を

阻害するために、これ以上彼が傷つかないために。

 

しかし、彼はいつもの彼とは思われないほど優しく、シャルロットの方に手を当て、横にどかした。

 

しかし、一夏も黙っていなかった。後ろから承太郎の肩に手を置き、動きを止めた。

 

「あいつは俺が止める。俺じゃなきゃ駄目だ。あいつは千冬姉の真似をして―――」

 

「・・・・・・喧しい」

 

「―――ッ!?」

 

承太郎の顔が一夏の方に振り向く。その顔を見て、一夏は恐怖で声も上げられなくなった。

 

静かに怒る。それはどれだけ恐ろしいものか誰もがわかっている。

 

普段から怒らない人がいざ怒るととても怖い。それは昔から誰もが知っていることでそういう人ほど怒らせないようにするのは比較的常識となっているところがある。

 

ならば空条承太郎の場合はどうだろうか。

 

常に仏頂面の彼、承太郎は声を荒げて叫ぶことは多々ある。先ほどもブーイングを怒鳴り散らして黙らせた。

 

だが、そんな彼は怒っていようと常に心は冷静でいた。冷静な心を熱い気性で隠し、彼の本質を悟らせない。それを彼は無意識でしていた。

 

だが、今は違う。心も気性も今、臨界点を越えていた。目は見開かれ、眉は内から外へと上がり、眉間には大量の縦皺。血管が浮き上がり、青筋が遠目でも分かるほど。拳の握り方が以前よりも硬く、岩をも砕きそうなほど強く握り締められていた。

 

「てめぇらはどいてろ。あいつは、俺が裁く」

 

「なっ!? 流石にそれは譲れな―――」

 

「雑魚は引っ込んでな。それにてめぇだけが、あいつに用がある訳じゃあねぇ」

 

一夏の胸倉を掴み上げ、ISごと体を持ち上げた。スター・プラチナは力を使っていない。依然見せたラファールを持ち上げたのと同様で、彼は簡単に持ち上げる。

 

「俺はてめぇみてーな直情タイプはほっといた方がいいと思っていたが、デュノアに頼まれたから今まで見てきた。だがよ。てめぇも自分のことだけ考えてんじゃあねぇ」

 

承太郎は一夏を振り投げ、壁へと投げつけた。シールドが全て溶け、白式は粒子となって消えた。シャルロットはすぐに一夏の元へと走る。彼を抱え、承太郎を睨んだ。

 

「どうして」

 

「・・・・・・今のそいつが行ったんじゃ、死ぬんでな。死なねぇ確率が高ぇのは、“未だ戦っていない”俺だけだ」

 

「・・・・・・!? そ、そうか。ジョジョはこの為に」

 

「相棒の始末は、相棒の仕事だ」

 

承太郎はそういい残し、真っ直ぐとラウラの元へと歩く。一歩一歩と噛み締めるように、ふらつく体に鞭をうつ様に、彼はラウラのすぐ目の前まで進んだ。

 

「・・・・・・ラウラ」

 

「・・・・・・」

 

彼女は何も答えない。しかし、同じようにそのブレードをふるいはしない。もし彼以外の誰かなら問答無用で振るったのだろう。そう、あの千冬でさえも・・・・・・。

 

承太郎はタバコを咥え、その先にジッポライターで火をつけた。カチャリッと音を立て、日が点火され、その先端を焼いた。彼は深呼吸をしながら、そのタバコを吸った。

 

「禁煙してたつもりだったが、イライラしてよぉ。悪ぃがやめた」

 

そう言いながら、承太郎はスター・プラチナに構えを取らせた。彼の表情には何故か消失感と、悲壮感が漂っている。怒りと共に表れた強い感情が、まさしく悲壮感だった。別に裏切られたからではない。別に自分と敵対したわけではない。

 

ただ、彼女の今の醜い姿を見るのが耐えられないのだ。

 

「てめぇは、止めたのか? 強くなんのをよ。そんな醜い力使わねぇと、お前の限界は越えられねぇのか?」

 

承太郎は近づく。彼女の元へ。すでにその周囲、射程圏内に入っているにもかかわらずラウラは攻撃をしてこない。それどころか、体を震わせ、うろたえていた。承太郎を認識しているのだろう。彼女は承太郎に怯えていたのだ。

 

「てめぇは俺に言ったな。必ず勝つってよ。だが、それは“そんな醜い力”でって事か? そんなもん、嬉かぁないね」

 

その言葉に、二度肩が跳ねる。そして持っていたそのブレードが溶けて消え、彼女は己の手を見下ろした。黒い。泥のように黒く柔らかい。彼女は小刻みに震えていた。そう、今の自分を否定されたのだ。しかも、己の最も大切な人に、否定されたのだ。

 

「てめぇは何だ? ラウラ=ボーデヴィッヒ。てめぇは俺の最高のパートナーじゃあなかったのか? 俺のパートナーはな、そんな力使わなくても己の力で勝利を掴む!! ラウラァ――――ッ!! てめぇは! そのままでいいのか!!」

 

その叫びに、ピキリッと音がした。紛れも無く音源はラウラのISからだった。顔面を覆われていたその泥がまるで乾いて崩れるように、崩壊をし始めた。

 

そこから現れたのは彼らがであった時と同じあの幼くも純粋な顔。眼帯は外れており、その綺麗な黄色い光を反射し、ラウラのオッドアイが露出した。

 

「じ、承太郎・・・・・・殿」

 

「・・・・・・あぁ」

 

彼女の全てを包み込むような優しい顔へと、自然と承太郎は変わった。ISが崩壊し、その体も承太郎のもとへと覆いかぶさるように落ちてゆく。彼の胸の中へと落ちるラウラを優しく抱きとめた承太郎。そんな彼を見上げる彼女の瞳には涙が溢れていた。

 

「私は・・・・・・私は」

 

「もういい。もういいぜ。ラウラ」

 

今にも泣きそうなラウラを抱きしめる承太郎。もう、あの変な片言な語尾はもう無い。彼女の本心が、承太郎の叫びで目覚めたのだろうか。顔を紅くしながら泣きじゃくる彼女の表情は歳相応のものだった。

 

「今は誰も見てねぇ。泣いちまいな。ラウラ」

 

「あ、あぁ。あぁああああああああああああああ」

 

彼女の泣く叫び声がフィールドを包んだ。いつも五月蝿いものを嫌う承太郎なのだが、今の彼はそんな事もなく、ただただ彼女をあやしていた。

 

しかし、彼女のISは未だ動いていた。

 

搭乗者が消えたとしても、ISは動いていた。目の前の承太郎を切り捨てんと、じりじりと近づいていた。

 

「俺が裁くのはラウラだが、てめぇを裁くのは俺じゃあねぇ」

 

帽子を深くかぶった承太郎。彼がそういうと同時に、彼の後方から一機の白いISが表れた。そう、そのISは。

 

「てめぇを裁くのは! 俺だぜ!!」

 

白式。織斑一夏の専用機だ。

 

上空から切り伏せられたラウラのISは真っ二つになり、そのまま機能を停止した。一夏はそれを確認すると、ISを解除した。体は少し痛みがあったが、動けないわけでもなく。彼は振り向き、近づいていった。

 

「サンキューな。俺もすっきりしたぜ」

 

「だろうな。てめぇにこいつが斬られたらたまったもんじゃあねぇ」

 

二人の後ろでは、その姿を嬉しそうに見つめるシャルロットとエネルギーを供給していたスター・プラチナが存在した。

 

つまりは、承太郎自身が囮となり、その間に無駄な分のエネルギーを綺麗に消費された白式にラファールを中継してスター・プラチナからエネルギーを供給していたということになる。もしあそこで承太郎が切られていれば、この作戦は全ておじゃんだったろう。しかし、彼自身はラウラを深く信用していたようだ。無事作戦は成功し、ラウラを救出できたのだった。

 

「さて、戻るぞ。てめぇら。流石に俺も、辛ぇ」

 

承太郎の胸の中で小さく吐息を吐いて寝ているラウラの髪を二~三度撫で、彼は一夏達と共にアリーナから出るために出口へとむかった。ふいに空へと彼は見上げた。その空は先ほどの曇った心を全て晴らすように青く澄んでいた。

 

 

 

 

「何故、今のうちならば彼を殺せたのでは? DIO様」

 

「確かに、殺せたかもしれん。だが、“殺せなかった”かもしれん」

 

IS学園から少し離れた場所に先ほどの二人はいた。女性は少し不機嫌そうに男の傍に立っていた。

 

男はそんな彼女の表情が愛らしいのか、小さく笑った。その嫌味など一切無い笑いに女性は頬を赤くした。

 

「今はその時ではない。篠ノ乃束を手に入れたその時こそ、我らは承太郎を完全に殺すことが出来る。常に慎重にせねば己の喉を掻き切られてしまう」

 

「・・・・・・御意に。全ては貴方様のご意思に沿って」

 

胸に手を当てながら、女性はお辞儀をする。男はそれをみると再びIS学園へと視線を戻した。

 

「それになスコール。何故このDIOがあの小娘に肉の芽をつけなかったか分かるか?」

 

「・・・・・・理解しかねます」

 

「フフフッ、それは非常に簡単だ。とてもシンプルなものなのだよ」

 

顔を上げたスコールを傍に寄せ、その首筋にカプリと噛み付く。二~三度吸い上げると満足したようにその顔を離す。牙が抜けると少し残念そうな声を上げるスコール。その声に一種の快感を覚えたDIOだが、話を優先した。

 

「やつに肉の芽をつかうと奴は一時的に死んでしまう。それは人工物ゆえだからだ。しかし、奴から血を吸ったのは紛れも無くこのDIOの為だ。奴の血には無数のナノマシンがはいっている。今そのマシンは私の体内に存在しておる。つまりは今の私はこの太陽を克服した存在であるのだよ。完全に」

 

男はそう言って、太陽体を向けた。シューッと焼けるような音が聞こえたと思えばだんだんとその音は消えていく。そう、吸血鬼である彼の血に入ったナノマシンが彼を護っているのだ。スコールは少し目を見開くと次の瞬間片膝をついて頭を垂れた。

 

「おめでとう御座います。DIO様」

 

「あぁ、フフフッ。次に会う時が楽しみだよ承太郎。この太陽を克服したDIOを越えることはもう出来ん! WRYYYYYYYYYYYYYYY!!」

 

奇声のように叫ぶ男はまるで化物だった。もう誰にも彼をとめる事は出来ないのだろうか。そのような事を考えるものはいなかったし、怪しいなどという視線を送るものは存在しなかった。

 

そう、やはり彼の回りに人間はすでに血を抜かれ生き絶え、二人しか立っている者がいないからだ。

 

「では戻りましょう。DIO様。今捕まるのは得策では御座いません」

 

「そうだな。では戻るとしよう。フフフフフッ。フハハハハハハハハッ!!」

 

彼の高笑いは何処までも遠くに響く。しかし、その悪い知らせのように響いたその声が承太郎の元に届くことは無かった。

 

 

 




次回で、第一章【星を持つ青年】は終わりです。ちょうど区切りがいいし。


ってか、今思うと凄いこと考えてたなと思いますよ。

だって、DIO様に太陽耐性つけちゃったもん。まぁ、元からつける予定だったけどもこれは酷い。勝てるのか? 承太郎が。

次の章は何てつけようかなぁ。眠たくて思いつかないや

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