ハーフタイム、みんながベンチに戻って休憩する中、円堂さんが悔しげに呟いた。
「ダメだ……どう攻めても止められてしまう……!」
そう。今回の相手は、雷門イレブンを知り尽くしたメンバーで構成されている。長年一緒に戦ってきた仲間のクセも戦術も、全て彼らは把握している。
ならば、それを逆手に取ればいい。私と響木監督の意見は一致した。
「相手が“知っている”ことを武器にしているなら、こちらは“知らない”ことを武器に戦えばいいのです」
「青木の言う通りだ。鍵は綱海だ」
「えっ、俺?」
「貴方以外に誰がいます?」
私がさも当然という風に言うが、綱海さんはピンとこないらしい。
……あぁ、そういえば綱海さんってバカだったわね。溜息を吐いて説明を加える。
「……わからないなら訊き方を変えます。貴方は彼らの事を、プレイスタイルやその傾向について全てご存知ですか?」
「ふむ……いや、知らねえな」
顎に手を当てて考え込む綱海さん。さて、貴方に考え込めるほどの知能がありますかね?
「ならば、逆もまた然り。同じ事が言えるということです。貴方の動きだけは、相手は計り知る事ができない。つまり貴方の動きには、即座に対応できないんですよ」
「なるほど……要するに、俺が動けばいいってことだな!」
「だからといって闇雲に動くのはやめてくださいよ、馬鹿の一つ覚えじゃないんですから。綱海さん以外の全員が先に動いて、相手の隙を作らせる。そこを突くんです」
「流石青木……絶妙な加減で綱海をバカにしている」
「はっ、えっ!? 今俺、バカにされてたのか!?」
あら、バレちゃった。やっぱり、鬼道さんにはわかっちゃうか……。
そっと視線を逸らすと、「青木ぃぃ!!」と抗議の声が飛んだ。何よ、悔しかったら私を言い負かせるような口撃をしてみなさい。返り討ちにしてやるわ。
「よしっ、みんな! なんとしても勝つぞ! エイリア石の力は必要ないってことを見せるんだ!!」
「「「「おおっ!!」」」」
まだ試合の前半が終わっただけ……2点ならきっと返せる。チャンスはある。フィールドに戻るみんなを見届けて、私もベンチへ腰を下ろした。
後半戦が始まった。細かくパスをまわして繋げるも、風丸さんにカットされ、ボールを奪われる。
「どうした……? 攻めることもできないのか!!」
「行かせるか!!」
すぐさま円堂さんがマークについて、通すまいと立ちはだかる。エイリア石の力で、また風丸さんが彼の横をすり抜けるも……円堂さんがもう一度、風丸さんの前に現れる。その粘り強さに、風丸さんが苛立ったのかーー。
「邪魔だぁぁあああ!!」
怒りに満ちた声。円堂さんの腹に、容赦なくボール越しに蹴り込んだ。
思わず目を疑った。なんて酷い事を……!
倒れた円堂さんを吹雪さんが支えて起こす。円堂さんの前に庇うように立った綱海さんが、風丸さんに抗議の声を上げる。
「てめぇっ、何すんだ!! お前ら仲間だったんじゃねぇのかよ!! 円堂をボールで吹っ飛ばして……なんとも思わねえのか!! そんなにエイリア石が大事なのか!!」
「お前に何がわかるッ!!」
叫んだ風丸さんが、ボールを奪われようとしたところを押し返す。持ち前のフィジカルの強さか、綱海さんは蹌踉めきながらも立ち上がる。
「いや……僕達だからこそわかる!!」
そこへ、吹雪さんをはじめとした、
「俺、このチームが好きだ!」
「そして、サッカーを心から愛する円堂が好きだ! アンタ達と、同じなんだ!!」
「……同じ……?」
木暮さん、財前さんの言葉に、風丸さんが反芻するように呟く。私と吹雪さんも声を張り上げた。
「そうです! 円堂さんのおかげで私は変われた……皆さんのおかげで、私は救われました!!」
「キャプテン達に出会えたから……今の僕があるんだ!!」
風丸さんは、戸惑いに瞳を揺らす。そっと手を当てた場所は、胸元。そこにはーーエイリア石。
「「「パーフェクト・タワー!!」」」
その隙に、三人のブロック技が炸裂する。ボールは綱海さんに渡り、鬼道さんが指し示した先には、ゴールが。
「っしゃあ……波が引いたぜ!!」
「いけっ、綱海!」
「ツナミブースト!! でぇりゃあああああああっ!!」
ゴール前からの超ロングシュート。真っ直ぐ飛んできたボールを、杉森さんが迎え撃つ。
「ダブルロケット!!」
二つの拳のオーラが、波の力を纏ったシュートを弾き飛ばす。ゴールを抉じ開けることはできなかった……が、まだだ。
弾かれたボールへ駆け寄るのは……駆け上がってきていた、吹雪さん。
「ウルフレジェンド!!」
続けざまに叩き込んだシュートに、杉森さんはすぐに反応できず、ゴールネットに突き刺さった。
「やったぁ!」
「よしっ!」
ベンチでガッツポーズをする。やっぱり人は、予測外の事にはすぐに対応できない。それを使えることがわかったからには、もう負けない。
特に、エイリア石の力を絶対と考えている今の風丸さん達には大きく響いたことだろう。ただの人間が、エイリア石の力に対抗し得ることを示したのだから。
「……こんな……筈が……」
「何をしているんです! 何の為にエイリア石の力を与えてやったと思っているのですか!!」
……駄目だ。あの石の呪縛は、思っていたより風丸さん達の心を支配しているらしい。エイリア石の輝きを見つめた風丸さんの表情が、少し落ち着いたものになった。
「そうだ……俺達の力は、こんなものじゃない!!」