青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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超久々の更新です。長らくお待たせしました!


81話 vsザ・ジェネシス2・選手交代

ジェネシスの先制点。最強と思われていた究極奥義ムゲン・ザ・ハンドを破られ、雷門陣の士気が一気に下がる。ジェネシスの力を目の当たりにして、皆意気消沈しているのがわかった。

まずい。敵に対して萎縮してしまっては、勝てるものも勝てないのに。鬼道さんも、仲間の暗い表情を見て、汗を浮かべる。

 

「まずい……究極奥義が破られ、みんな動揺している……」

「っ……、皆さんっ」

「顔を上げなさい‼︎」

 

フィールドに木霊した、凛とした声。その声を振り返ると、ベンチから瞳子監督が私達に鼓舞を送っていた。

 

「今までの特訓を思い出して! 貴方達は強くなっている……。諦めず、立ち止まらず、一歩一歩積み重ねてここまで来た! 自分を信じなさい! そうすれば、貴方達は勝てる……私は、信じているわ!」

「監督……」

 

自分を、信じる。瞳子監督の言葉を反芻し、ぎゅっと胸元のユニフォームを握りしめる。

そうよ、監督の言う通りだわ。いつだって、最後に信じられるのは、自分。その自分を信じないで、何を信じるというの?

一つ息を吐いてから、隣のポジションに立つ豪炎寺さん、そしてその後ろにいる仲間達を振り返る。彼らを信じて、最後まで戦う。そのために私は……今ここに立っているんだ‼︎ お互いの顔を見て、頷き合い、闘志を確認する。まだ、終わらない!

 

「監督の言う通りだ! みんな、絶対勝つぞ‼︎」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

円堂さんの声に、みんなが応える。私も頷いて、決意の表情をみんなに見せた。

 

 

 

 

 

 

 

試合再開のホイッスルが鳴る。豪炎寺さんに軽く流し、豪炎寺さんが上がったのを見て、追随する。

ゴール前までワンツーパスで駆け上がったが、私を警戒してか、ディフェンスに二人がマークしてきた。私は豪炎寺さんに、シュートは打てないとアイコンタクトを送る。豪炎寺さんは頷いて、シュート体勢に入った。

 

「爆熱ストーム‼︎」

 

しかし、炎を纏ったシュートはコースを変えた。その先には、上がってきた円堂さんが。

 

「行けっ円堂‼︎」

「うおおおおおおっ‼︎ メガトンヘッド‼︎」

 

豪炎寺さんの爆熱ストーム、円堂さんのメガトンヘッド。二つの必殺技の威力を掛け合わせたシュートが、相手GKを襲う。しかし彼はこれも、プロキオンネットで難なく止めてしまった。

そしてすぐさま、攻撃に転じられる。

 

「グランに渡すな‼︎」

 

鬼道さんの指示が飛び、上がる彼に円堂さんがマークにつく。だが、グランの余裕は崩れない。

10番の青髪の少女が中盤を突破すると、グランは円堂さんのマークを振り切り、ゴール前でパスを受け取った。

 

「流星ブレード‼︎」

 

追加点を決めようと、容赦なく放たれた流星のシュート。財前さんと壁山さんのダブルブロックも破られ、さらにはムゲン・ザ・ハンドも破られてしまう。またも得点か……と誰もが思ったその時。

 

「とりゃああああああ‼︎」

 

綱海さんがボールに片足を伸ばして、蹴り返そうとしたのだ。綱海さん自身は吹っ飛ばされてしまったものの、ボールは勢いを失い、ラインを転がり出ていった。

 

「綱海さん……」

 

綱海さんのファインプレーのおかげで、追加点は免れた。ゴールネットに寄りかかって逆さまになっている、ちょっとカッコ悪い救世主に、私は安堵の表情を浮かべる。

しかし、私達がせっかく攻め込んでも、カウンターでこうもあっさり攻め込まれ返されると、元も子もない。ゴール前まで辿り着いたからには、点を取らねばならないのに……。

今は防戦に徹した方がいいのだろうか……。私の焦りを感じたのか、豪炎寺さんが顔を覗き込んでくる。

 

「青木」

「!」

「行くぞ」

 

顔を上げて豪炎寺さんを見やる。鋭い目が、どこか心配そうな色をしていた。

 

ーー豪炎寺さんも、私と同じ気持ち……?

 

並走しながら横顔をしばらく見つめていると、その視線が豪炎寺さんのそれと交差する。

 

「……どうした?」

「いえ……。豪炎寺さんも、私と同じ気持ちだったんですね」

「…………ああ、そうだな」

 

豪炎寺さんは私の言葉に、一瞬キョトンとしたような表情を浮かべてから、フッと小さく苦笑した。それにつられて、私も笑みをこぼす。

 

ーー昔の私じゃ、考えられないわね……。

 

そんなことを考えながら、私は思わず自嘲した。しかしそう思えるのは、円堂さん達のおかげ。そんなにも、私は変われたのだ。彼らのためにも、自分のためにも。この勝負、勝たなくては。決意を新たに、私は加速する。

その時、ベンチからもどかしげな視線を感じた。そこに目を向けてみると、吹雪さんが。

 

(吹雪さん……)

 

私達の苦戦を見て、ハラハラしている。今すぐにでも飛び込みたい気持ちを抑えているような、そんな目だった。しかし私はすぐに目を逸らし、自陣へ駆け戻る。

そして、今まさにシュートを打たんとするグランの前に回り込んだ。

 

「させるかッ‼︎」

「‼︎」

 

スライディングで飛び込み、ボールを蹴り飛ばす。ボールはそのままサイドラインを転がり出ていった。グランの驚いたような顔を一瞥してから、立ち上がる。

……危なかった。

 

「青木さん‼︎」

 

ゴールから、立向居さんの声が聞こえる。私は彼を振り返って、小さく手を振った。それを見て、立向居さんも快活な笑顔を見せてくれた。

グランの視線が、背後から刺さる。それに気づかないふりをして、私はフィールドを歩き出した。その時、ベンチから勢いよく立ち上がる吹雪さんの姿を見た。

 

「!」

 

吹雪さんが、真っ直ぐこちらを見つめてくる。吹雪さん……何か、掴んだのかしら? 自分が立ち直れるような、何かが……。

ベンチの吹雪さんはフィールドを見据える瞳子監督に声をかける。

 

「監督っ! 僕を試合に出して下さい‼︎ 僕は、みんなの役に立ちたいんです……‼︎」

 

試合を見守る木野さん達も、驚いて彼を見上げる。瞳子監督の目には迷いの色があったが、吹雪さんの強い視線に頷き、選手交代を告げた。

 

「選手交代! 壁山に代わってーー」

「待って下さい」

 

瞳子監督の宣言を、遮る声があった。私だ。

 

「私が下がります。私のポジションに、吹雪さんを」

「穂乃緒ちゃん……?」

「青木さん……でも」

「監督」

 

選手交代を申し出た私に、みんなが注目する。その全てを無視して、私は監督に頼んだ。

 

「お願いです、監督。私を吹雪さんと交代させて下さい。……残念ながら、少々ガタがきてしまいまして」

「え?」

 

私は苦笑を浮かべると、思わず膝をついた。

 

「青木⁉︎」

「穂乃緒ちゃん!」

 

私を案じて、近くにいた吹雪さんが駆け寄ってくる。フィールドにいたみんなも、私に集まってきた。

そう。私はここに来る前に、様々な無茶をしてきた。厚い鉄壁を壊したり、ロボット達を粉砕したり。おかげで手足は完全にボロボロ。それでも懸命に力を振り絞り、なんとかここまでやってきたが、ついに、両足に力が入らなくなってきてしまったのだ。

少し赤みを帯びている手の甲を見て、吹雪さんは目を見開く。どうやら、私の事情を察したらしい。

 

「まさか、あの時……⁉︎」

「っ……はい。ここに来るまで、ロボット相手に素手で挑んできた自分がバカでした。……不覚です」

 

私は瞳子監督を見上げて、もう一度懇願する。

 

「お願いです、瞳子監督。下げるなら私を下げて下さい。フィールドにケガで使えない選手を残すよりも、今は戦える人を残した方がいいでしょう……?」

 

瞳子監督はしばらく黙っていたが、突如声を張り上げた。

 

「選手交代! 青木に代わり、吹雪!」

 

私は吹雪さんと円堂さんに支えられ、なんとか立ち上がる。マネージャーの三人に私を預けると、円堂さんが私を見つめて怒ってきた。

 

「何でもっと早く言わなかったんだ! 無茶するな!」

「すみません。今回ばかりは私の力量不足です。これからはロボット相手でも打ち負けない、強靭な肉体作りを心がけます」

「そーいうことじゃなくて!」

 

あら? 違うの?

 

「青木は自分自身に嘘を吐きすぎだ! そのせいで身体が壊れちゃったら、それこそ意味がないだろ? もっと自分を大事にしろ!」

「そうだな、確かにお前は自分の剛力に頼りすぎている。力任せだけが、解決の道じゃないぞ」

 

円堂さんに加わり、鬼道さんまで私を怒る。いや……これは怒るというか。

 

(心配……して下さっているのかしら)

 

私がいつも無茶をして、突っ走っていると、彼らは言う。その後ろにいるメンバーも、うんうんと頷いていた。吹雪さんに至っては、苦笑で誤魔化している。

……私自身は、あまりそんな自覚はないのだけれど……でも、皆さんに心配をかけてしまったことに違いはない。

 

「……すみませんでした」

「気をつけろよ?」

「はい、気をつけます」

 

私が頷いたのを見て、みんながポジションに散っていく。最後に残った吹雪さんが、チラリと私を振り返った。

 

「……吹雪さん」

「穂乃緒ちゃん、僕、頑張るよ。見ててね」

「はい。見させていただきます。……ベンチ(ここ)で」

 

私は吹雪さんの背中を見送りながら、木野さん達に誘導されてベンチに座らされた。すると木野さんは突如私のスパイクを脱がせて、レガースまで取ってしまう。

 

「⁉︎ あの……木野さん?」

「……青木さん」

 

晒された私の足は、赤みを通り越して紫色になっていた。どうやら、内出血していたらしい。

しかし、木野さんの雰囲気がいつもと違う。ていうか、何だかおどろおどろしい……。

次の瞬間、木野さんは私をキッと睨みつけてまくしたてた。

 

「もうっ! 女の子がこんなになるまで戦うなんて、おかしいでしょ⁉︎ しかも赤くなるどころか内出血なんて‼︎ 青木さんだって力は強くても女の子なんだから、もっと自分の身体を大切にして‼︎ このまま無茶し続けたらサッカーどころか歩くことさえ出来なくなっちゃうわよ! いい? 今度大怪我したら、試合に出るの私が許さないからね‼︎ わかった⁉︎」

「………………は、はい……」

 

木野さんの気迫に負けた私は、しどろもどろになりながらコクンと頷いた。……木野さんって、意外と怖い。


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