青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

78 / 97
74話 笑顔

「よっ」

「くっ!」

「うおっ‼︎」

 

突然瞬間移動をしたせいか、バーンとガゼルが転ぶ。私はなんとか着地し、転びかけたバーンとガゼルを仕方なく服を引っ張って支えてやる。

 

「ほら、しっかり立ちなさい」

「お、おう。悪いな……」

「この私が立たせると思うな」

「ぐえっ‼︎」

 

支えた途端、両手を離してやる。何故離したかって? 逆にずっと掴んでやる筋合いがない。

着いたところで辺りを見回してみると、どこかの部屋らしい。ベッドや机、椅子もある。私の様子を見て、バーンが声をかける。

 

「ここは俺の部屋だ」

「……私を稲妻町に返せ。どうやら最悪の場所に着いてしまったらしい」

「おい! 青木てめえどーいう意味だよ!」

「そのままの意味だ」

「おい、やめろ」

 

ガゼルが私とバーンの肩を掴んで制止する。そうだ。今は、こんなことをしている場合ではなかったのだ。

 

「で? ジェミニストームとイプシロンを助けるってどういうことだ」

「ああ……そうだったな。まず尋ねるが……ジェミニストームやイプシロンが、君たちに負けた後どうなったか知っているか?」

「いや……」

「実は、あの後……彼らは追放なんかされてなかったんだ。この施設の中にある部屋に閉じ込められ、再び使えるようにしているらしい……」

「……? どういうことだ?」

「つまり、特訓させられてんだよ。それこそ、拷問みてーな」

「何だと……⁉︎」

 

バーンが言い放った結論に、私は愕然した。何故……そんなことをするのか。彼らは知らなかったのだろうか。それを、問うてみる。

 

「お前らは何一つ知らなかったのか?」

「ったりめーだろ。だからこうして焦ってんだよ」

「……それで、私に彼らを救出するために協力してほしいと」

「そういうことだ。理解してもらえたか?」

 

まあ……話はだいたい理解したので、ここは頷いておく。私はすぐにガゼルに尋ねた。

 

「いつ始める?」

「………………」

「決めてなかったのか? 意外と考えが浅いな」

「いや……ジェミニストームとイプシロンを助けて……君を雷門に返さなくてはならない。そう考えると、やはり早朝に行くしかないと思ってな」

「へえ……わざわざそんなことまで考えてくれてたのか」

 

私はそれだけ聞くと、床にペタンと座り込んだ。

 

「? おい、何やってんだよ」

「寝る」

「はあ⁉︎ そんなとこでか⁉︎」

 

何故バーンが驚く? 私はポカンとした表情を浮かべて彼らを見つめ返していた。突然、ガゼルが溜息をつき、こちらへ歩み寄る。私の前に立つと、腕組みをして私を見下ろした。

 

「風邪を引くぞ。ベッドで寝ろ」

「断る。私には必要ない。お前ら2人で寝ろ」

「男2人が同じベッドで寝て誰が喜ぶんだ」

「知るか。画面の前の腐女子じゃないか?」

「腐女子って言葉知ってたんだなお前」

 

バーンが首を突っ込んできた。話を続けるのがめんどくさくなり、私は体を横たえた。

それが気に食わなかったのか、ガゼルが私の脇と膝の裏に手を入れ、抱き抱えた。

 

「⁉︎ おい、下ろせ‼︎」

「大人しくしろ」

「ああっ‼︎ おいガゼルてめー何やってんだよ‼︎」

「なんだバーン。羨ましいのか」

「そう……って、ちげーよ‼︎」

 

バーンは何故か真っ赤になってガゼルに叫ぶ。まるでキャンキャン吠える犬だ。可愛いことこの上ない。ガゼルは私をベッドに落とし、起き上がろうとする私を組み伏せる。

 

「どけ」

「大人しく私の命令に従え」

「ふざけるな」

「……お前はこの状況を分かってないな」

 

ガゼルは一つ溜息をつくと、私から降りた。一体何を言いたかったのかしら、彼は? ガゼルは私の隣に体を横たえ、バーンも私の隣に、体を投げるようにベッドに横になる。

 

「おい。お前逃げんなよ青木」

「チッ」

「やっぱ逃げようとしてたな。いーから、ベッドで寝てろ」

「はいはい……」

 

もはや逃げることは出来ないらしい。私は仕方なく諦めて、仰向けになって天井を見た。天井はガラス張りになっているのか、夜空と静かに佇む月が見える。

 

「…………綺麗」

「ん? 空がか?」

 

ボソリと呟いたのを聞き付けられたのか、バーンが私と同じように仰向けになる。隣でガゼルも仰向けになったのが分かった。ガゼルがふと、感慨深そうに呟く。

 

「子供の頃、こうやってみんなで空を見上げたな」

「みんな……?」

「ああ。私とバーンと、レーゼ、デザーム、そしてグランとでな」

「え?」

「俺たち、あんなことやってたけど……ホントは家族みたいなもんなんだ」

 

バーンも、両手を後頭部の下に敷き、懐かしそうに目を細める。

エイリア学園の選手たちは、家族。そこには、ランクも何も関係ない。彼らの口から、そんな言葉が出るなんて意外だった。

 

「青木も、こんな風に夜空を見たことあるだろ?」

「いや……」

「は? どういうことだよ」

 

バーンに問われ、私は静かに目を閉じる。もう一度ゆっくり目を開き、夜空を見つめたまま口を開いた。

 

「私の覚えている範囲では、少なくともこうして夜空を見上げたことはない。ただ、暗くて冷たい天井しかなかった。それは地下だったり、私に与えられた部屋だったり。だけど、光はなかった。だから、こうして何も考えず、ただ夜空に瞬く星が美しいと思えるようになったのは、ここ最近だ」

「そうなのか……?」

「ああ」

「……なんか、悪かったな。変なこと聞いちまって」

「いや……別にいい」

 

こんなことを他人に話すのは、もしかしたら初めてかもしれない。

円堂さんたちと関わって、エイリア学園と戦って、たくさんの人と出会った。その中で、ただただ絶望を背負ってしか生きられないと思っていた私が、こうして誰かのために戦おうと、この力を振るおうとするなんて、思いもよらなかった。

 

「私がこんなに変われたのは……雷門と、貴方方のおかげですね」

「は? 何だよ急に」

「……何でもありません」

 

ガラにもなく、ポツリと呟いてしまう。それが本当にらしくなくて、自分でも笑ってしまう。

 

「……ふふ」

「!」

「……!」

 

思わず、笑い声が漏れてしまった。それを聞きつけた2人が、ガバッと起き上がる。

 

「なあ、今笑ったよな?」

「……何のことかしら」

「今笑ったよな! な、笑っただろ⁉︎」

「空耳でしょう」

「いーや、絶対笑った!」

 

バーンが笑った! とうるさいので、軽く受け流しておく。これはこれで面白いかもしれない。隣で見下ろすガゼルも微笑んでいた。

そういえば、円堂さんたちも、私が初めて笑えた時は、とても喜んでくれた。何故、他人の笑顔を見て喜ぶのだろう。人間という生き物は。

今、円堂さんたちはどうしているだろうか。そんなことを考えながら、静かに目を閉じた。

明日。全てを終わらせる決戦が、始まる。




☆追記☆

あけましておめでとうございますm(_ _)m


【挿絵表示】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。