青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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69話 vsカオス2・青木の帰還

カオスボールから、試合再開。カオスはまたパスを繋いで攻め込むかと思われたが、今度はバーンが単独で走り出した。

 

「立向居‼︎」

 

バーンに突破された円堂が、彼を振り返って叫ぶ。今の立向居の力では、アトミックフレアは止められない。ゴールで構える立向居は、ゴールに迫るバーンの動きを見極めようと、彼の動きに注目する。

 

「アトミックフレア‼︎」

 

予想通りアトミックフレアを放ってきたバーンは、余裕の表情だった。誰もが、またゴールを決められる、そう思っていた。

しかし、立向居は違った。彼はダイヤモンドダスト戦後……円堂の家に向かう前、青木に話された言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「立向居さん、急に貴方をGKにするだなんて、強引に薦めてしまってすみません」

 

あの青木から話があると言われて緊張していた立向居は、いきなり青木から謝罪され、拍子抜ける。

 

「え? いや、その……」

「円堂さんの問題を解決するには、これしかなかったんです。本当は、ちゃんと貴方に話をしなければならないと思っていたのですが……」

 

青木は下げた頭を上げ、立向居の目を真っ直ぐ見つめる。

 

「でも、私は貴方がすごいプレイヤーだと知っています。ゴッドハンドも、マジン・ザ・ハンドも習得した……きっと、貴方ならまだまだ強くなれると。貴方なら、必ず雷門のゴールを守れると。そう、思ってます」

「……!」

「……頑張って下さい」

 

にこり、と優しく微笑む彼女に、頬を赤らめる立向居。この人、やっぱり綺麗だな……。ぼーっと自分を眺めていた立向居に、青木は今度はニヤリと怪しい笑みを浮かべる。

 

「まあ、せいぜい足掻いて下さいね」

「ぇっ……」

 

ああ、そうだった。この人はこういう人だった。立向居はガクッと肩を落とす。それでも、自分は何故この人にこんなに心惹かれるのだろうか。最後に青木は立向居の頭をポンポンと軽く叩いてから、背を向けて歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(青木さんとも、約束したんだ。雷門のゴールは……俺が守るんだ‼︎)

 

立向居の気が、両手に集中される。それを合わせると、彼の背後から手の形をしたオーラが複数現れた。

 

「ムゲン・ザ・ハンド‼︎」

 

ムゲン・ザ・ハンドはしっかりとアトミックフレアを掴み、見事キャッチに成功した。カオスイレブンも雷門イレブンも、同様に衝撃が走った。一方、当の本人は究極奥義の成功に、喜びのあまり自然と笑顔が溢れた。

 

「で、出来た……!」

 

ピィッ、ピィーッ‼︎

 

ここで、前半終了のホイッスルが鳴り、一応チームの緊張が解けた。ついに究極奥義を完成させた立向居に、円堂と綱海が駆け寄る。

 

「立向居……!」

「やったな!」

「はいっ‼︎」

 

まだ嬉しさが抜け切らないのか、立向居の声は快活そのものだ。やっと、いつもの彼らしくなってきた。ここに青木がいれば、喜んでくれただろうか。彼女の笑顔を思い出しながら、立向居は小さく笑った。

 

 

 

 

ベンチで後半の作戦会議をしているのを、1人の少女が観客席付近の入り口から見下ろしていた。その姿には、観客席で試合を見守る帝国イレブンも、気付かない。少女は、実は試合開始からずっと、雷門イレブンを見つめていた。だが、その視線は鋭く、冷たい。

 

「…………そうか」

 

ずっと雷門イレブンを見ていて、悟った少女は、ポツリと呟いた。雷門には、やはり自分の居場所がないのかもしれない。彼らを案じて駆け付けたものの……案外、心配しなくても大丈夫みたいだ。

もう、このまま見ていようか。少女は自身の肩に手を添える。そのジャージの下には、包帯が巻かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

後半が開始され、雷門は早速鬼道が指摘した穴を突き始めた。穴とは、ネッパーのことである。ネッパーは、この圧倒的な点差から、プロミネンスだけでも勝てる相手だと思い始めたのだ。後半、雷門イレブンはそこに付け込み、ボールを奪う。

そして、豪炎寺の爆熱ストーム。アフロディのゴッドノウズ。綱海のツナミブースト。鬼道、土門、円堂のデスゾーン2。円堂のメガトンヘッド。次々と、雷門のシュートが決まっていく。これに焦りを感じ始めたガゼルが、険しい顔付きで周りを見渡した。

そして、スコアは10対7。再び、カオスからのスタートだ。だが、ツートップでポジションについていたバーンとガゼルが、2人だけでどんどん雷門陣営に斬り込んでいく。凄まじきスピードで、あっという間にゴール前まで攻め込まれてしまった。

 

「バーン‼︎」

「ガゼル‼︎」

 

2人同時に空高く跳躍する。この試合で初めて見る動きに、鬼道は足を止めて怪訝にそれを見る。

 

「何をするつもりだ……⁉︎」

「これが、我らカオスの力!」

「宇宙最強チームの力だ!」

 

叫んだ2人の足に、炎と氷のオーラが纏われた。

 

「「ファイアブリザード‼︎」」

 

そして、2人同時に蹴り出したボールは、炎と氷の力を纏って、ゴールを守る立向居に襲いかかる。対する立向居も、究極奥義で挑んだ。

 

「ムゲン・ザ・ハンド‼︎ ……うわあっ⁉︎」

 

しかし、ムゲン・ザ・ハンドは破られてしまい、ゴールは再び雷門ゴールのネットを揺らした。

雷門イレブンが立向居を案じ、彼の元に集まる。

 

「立向居……!」

「円堂さん、すみませんでした……」

 

やっと習得したムゲン・ザ・ハンドが破られた。その動揺も大きなものだろうに、立向居は申し訳なさそうに肩を落として、謝る。円堂は、そんな彼を励ます言葉を送る。

 

「謝ることはない。次止めればいいんだ!」

「でも……」

「究極奥義に完成なし、だ!」

 

それは、円堂大介の裏ノートに書かれていた言葉だ。それはまるで魔法の言葉のように、立向居の落ち込んだ心を立ち上がらせた。

 

「……円堂さん……はいっ!」

「よーし、気合い入れ直していくぞ!」

「まずは4点、取っていこうぜ!」

「「「「おおっ‼︎」」」」

 

みんなの心を合わせて、再び一つになった雷門イレブンは、それぞれのポジションに戻っていった。そんな雷門イレブンの姿を、観客席で見る少女は安心したように微笑んだ。

 

 

 

 

ところが、試合再開で、カオスの動きが一転した。先程のバーンとガゼルのシュートが彼らを後押ししたのか、プロミネンスとダイヤモンドダストが本当の意味で一つになった。鬼道もリズムが変わったことに困惑し、その隙にどんどん攻め込まれる。一気にディフェンスラインを突破され、再びバーンとガゼルにボールが渡った。そのボールを空中へ運び、2人が跳躍する。

またファイヤブリザードか、と誰もがシュートを決めさせまいとゴール前に立ちはだかろうとする。そんな雷門の様子など気にも留めず、シュートを決めることだけを考えていた2人の目の前に、突然一筋のシュートが飛んできた。

シュートはファイヤブリザードを決めるはずだったボールを弾き飛ばし、サイドラインから出ていった。

突然の邪魔に、着地したバーンが鋭く叫ぶ。

 

「誰だ‼︎」

 

ボールが飛んできたのは、フィールド付近の入り口からだった。暗がりの奥から、小さく足音が聞こえてくる。光が差し込んでいるギリギリの辺りに立ち、それが誰かは分からない。その人物が、その場所からフィールドに立つ円堂に向かって言った。

 

「遅くなって、申し訳ありませんでした」

「え……?」

「何⁉︎ まさか、お前は……」

 

聞き覚えのある声に、円堂は笑顔を、バーンは驚愕の表情をそれぞれ見せる。バーンの隣に立つガゼルは、意味ありげにニヤリと微笑んだ。

 

「来たか。…………青木穂乃緒‼︎」

 

名を呼ばれた彼女は、暗がりからゆっくりと歩み寄った。青い髪をサラリと流し、その赤い目を隠していた前髪は、目が見えるように切り揃えられていた。

 

「青木‼︎」

「青木‼︎」

「青木さん‼︎」

 

雷門イレブンが一斉に彼女に駆け寄る。円堂は彼女に微笑みかけながら、変わらない様子の彼女を見た。

 

「今までどこ行ってたんだよ! 心配してたんだぞ?」

「……私を? 貴方方が?」

「え? 何言ってんだよ、仲間を心配するのは当たり前だろ?」

 

青木は円堂の笑顔を見て、小さく笑みを浮かべる。そして、フィールドから自分を見つめる視線に、意識を向けた。

 

「状況は、何となくですが把握しました。私も、お力添えしたくここへ来ました。……どうか」

「ああ! 監督、良いですよね!」

「ええ。青木さん、木暮くんと交代よ」

 

青木は数日ぶりのユニフォームに腕を通し、スパイクの紐を結び直す。フィールドに立った青木の後ろ姿を見た立向居は、嬉しそうに彼女を見つめた。

 

(青木さん、無事で本当に良かった……。よーし、頑張るぞ‼︎)

 

グローブを打ち鳴らし、気合いを入れた立向居を、青木も横目で優しい視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

カオスからの試合再開、スローインされたボールを、パスを受けようとしたガゼルの前を、一つの蒼い影が駆け抜けた。すぐにガゼルがそれの正体を見ようと振り返る。

 

「青木穂乃緒……!」

「…………」

 

青木はガゼルを一瞥すると、すぐにドリブルに転じる。そのスピードも健在で、阻もうとする前に、突破されてしまう。

 

「ソニックアクセル‼︎ ……ッ」

 

必殺技を決めた青木は、一瞬小さく顔を歪めたものの、すぐに前線にいる豪炎寺にパスを出す。円堂が、ボールをキープした豪炎寺の背中を押すように叫ぶ。

 

「いけーっ! 豪炎寺!」

「こっから先は行かせん! イグナイトスティール‼︎」

 

もちろん、そう簡単に攻めてもらえるわけではない。豪炎寺はこれをギリギリでかわしたものの、次の瞬間に今度は氷が豪炎寺を襲う。

 

「フローズンスティール‼︎」

「ぐあっ……⁉︎」

 

なんと、ほとんど間を置くことなく相手DFの必殺技がボールを弾き、ボールを奪われてしまった。

 

「豪炎寺!」

「っ……大丈夫だ……!」

 

カオスのダブルディフェンスを見た青木は、チッと舌打ちを立てた。どうやら、かなり厄介な壁に当たったらしい。あのディフェンスは、最初の炎のスライディングをかわしても、すぐさま氷のスライディングが襲いかかってくるため、間がほとんどない。

どうしたものか……頭を抱える青木を、遠くから見る目がある。バーンとガゼルだ。

 

「やはり現れてくれたか、青木穂乃緒」

「そうじゃなきゃ面白くねーだろ? あいつがグランを揺する手になるんだからよ」

 

グランを揺する手。彼らの狙いはこれだった。もちろん、サッカープレイヤーとしても、ほぼ初心者から自分たちと渡り合えるほどの実力者に成長した彼女を、仲間として引き入れることは、彼らにとって重要だった。

雷門には、限界がない。だから、ジェミニストームやイプシロン、そして自分たちと互角に渡り合えるほどの力をつけてきた。それは、彼女もまた然り。

しかし、バーンとガゼルにはそれ以外にも彼女を手に入れたい理由があった。それは単に彼女のことを2人が気に入っただけなのだ。だが、雷門を潰してまで手に入れたいと思うのは、何故なのだか分からない。

 

「青木穂乃緒……今度こそ、お前を私のものにしてみせる!」

「グランなんかには渡さねえ……。絶対、俺のもんにしてやる!」


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