青き炎、エイリアと戦う   作:支倉貢

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68話 vsカオス・激突

Side無し

それからカオスの襲撃予告を受けてから数日後。円堂たちはカオスを迎え撃つため、練習を重ねていた。ただ、その練習の中には青木の姿がなかった。雷門イレブンはおかしいと薄々思いつつも、彼女がたい焼きを買いに行っているかもしれないという考えの元、気にかけてはいたものの、そこまで気にしていなかった。こうして、青木は帰ってくることがなかった。

しかし、この時彼らは気付けなかった。彼女が、今この瞬間に苦しんでいることを。助けを呼んでいることを。仲間である彼らは、気付くことが出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

そして翌日。ついに、決戦の日がやってきた。

場所は、帝国学園グラウンド。観客席には、帝国イレブンがその戦いを見届けようと、雷門イレブンを見守っていた。

円堂たちがアップを終えた直後、黒いボールがフィールドに落ちてきた。紫色の霧から姿を現したのは、バーンとガゼル、そしてそれぞれのチームからの選抜メンバー……いわゆる、チームカオスだった。

 

「……おめでたい奴らだ」

「負けると分かっていながら、のこのこ現れるとは」

 

強者の余裕、と言ったところか。バーンとガゼルは、出会い頭に嫌味をぶつけてくる。ところが、ガゼルは雷門のある選手を探して円堂たちを見ていたものの、その姿がないと知ると、円堂たちに問うてきた。

 

「青木穂乃緒はどこだ? 彼女はどこにいる?」

「青木は、あれからまだ帰ってきてないんだ」

「お前、また青木を連れて行くとか言うつもりだろ! 青木は、お前らなんかに絶対に渡さないからな!」

 

円堂の冷静な返事に、塔子は闘争本能むき出しでガゼルを指差す。ガゼルは、そんなことなどどこ吹く風だ。

 

ーーまあいい。奴らを潰した後に、彼女をゆっくり探せばいい。

 

ガゼルは小さく溜息をついた後、円堂たちに言った。

 

「円堂守。宇宙最強のチームの挑戦を受けたこと、後悔させてやる!」

「負けるもんか! 俺にはこの、地上最強の仲間たちがいるんだ!」

「ーー勝負だ!」

 

バーンが円堂たちを鋭く睨みつけ、大声を放った。ここに、雷門イレブン対宇宙最強のチーム・カオスの戦いの火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

今回、雷門イレブンは円堂がリベロ、立向居がGKと新体制での初試合となった。

そして、試合開始のホイッスル。キックオフは雷門からだ。豪炎寺がアフロディへと蹴り出し、そこからバックパスを出して、塔子へとボールが渡る。

 

「行け行けーっ‼︎」

 

円堂の声が雷門イレブンを鼓舞する中、ドリブルする塔子の前に、ダイヤモンドダストの選手・ドロルが立ちはだかる。

 

「お前なんかに取られるかよっ!」

 

以前の試合で、ダイヤモンドダストと戦っている雷門は、彼らの実力を知っている。その時はボールを取られることがなかった塔子だが……今回は違った。

こちらが身構える前に、ボールはドロルの足元に吸い付いていた。まさに一瞬の出来事だった。これにより、雷門イレブンの表情が、驚愕の色に染まる。ボールを奪われた塔子も、信じられない様子だった。

 

「どういうことだよ……⁉︎ この前はかわせたのに!」

 

そして、ボールはどんどん雷門陣営へ運ばれ、さらにガゼルへと渡ってしまった。

 

「しまった! あいつ、いつの間に……!」

「今度こそ教えてあげよう……凍てつく闇の冷たさを……!」

 

ガゼルは冷たい笑みを見せ、シュート体勢に入った。

 

「ノーザンインパクト‼︎」

「立向居っ‼︎」

 

円堂の声が飛ぶ中、シュートを前に立向居は身構えた。しかし、立向居のムゲン・ザ・ハンドはまだ完成していない。ならば……と、立向居はマジン・ザ・ハンドの構えを取った。

 

「マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

しかし、それもまるで紙切れのようにあっさりと破られてしまった。カオス、先制点。試合開始数分程度の出来事だった。これが、マスターランクのチームが融合した力か。圧倒的とも言える実力に、雷門イレブンは驚愕する他なかった。

 

「……これぞ、我らの真の力」

「エイリア学園最強のチーム、カオスの実力だ」

 

ガゼルとバーンがそう吐き捨て、ポジションへと戻っていく。ガゼルのシュートを受けて、倒れてしまった立向居を案じ、円堂たちが彼の周りに駆け込む。

 

「立向居、大丈夫か……?」

「は、はいっ……。すみませんでした、止められなくて……!」

 

円堂と綱海に肩を貸してもらい、なんとか起き上がった立向居が、悔しそうに顔を歪める。そんな彼に、円堂と綱海は笑顔で応える。

 

「気にするな! まだ試合は始まったばかりだ!」

「俺たちがすぐ追いついてやるからよっ」

 

円堂たちの笑顔に背中を押され、悔しさで歪んでいた立向居の顔に、笑顔が浮かぶ。そして、今度こそは止めてみせる、という決意の光が彼の目に宿った。

 

「よし、みんな! 点を取っていくぞ!」

「「「「おう‼︎」」」」

 

鬼道が全員を鼓舞すれば、雷門イレブンが応える。まだ、始まったばかり。彼らの目には、諦めの色がなかった。

 

立向居は、もう一度しっかりとグローブをはめ直すと共に、気合いを入れ直す。こうしてグローブを見ていると、立向居はダイヤモンドダスト戦後に、GKとして自分を推してくれた青木の笑顔を思い出した。

 

(青木さん……俺、どうすれば……?)

 

グローブを見て心の中で問うてみても、答えが返ってこないのは分かっている。しかし、立向居は問わずにはいられなかった。

青木なら。彼女なら、こんな自分を心配して何か言葉をかけてくれただろうに。だが、その肝心な少女は、今はいない。

 

(ダメだ……! 今は俺がなんとかしなきゃ! 青木さんばっかりに頼っちゃダメだ!)

 

立向居は自分の頬を叩き、相手の動きを注意深く見始めた。

 

 

 

 

試合再開。雷門がカオス陣営に攻め込み、点を狙う。

豪炎寺からアフロディへと渡る。そこへ、ネッパーが行かせまいと彼を阻む。

 

「ヘブンズタイム‼︎」

 

相手が突っ込んできたところを、アフロディの必殺技が動きを止める。そこを、アフロディが悠々と歩き去っていく……はずだったが、なんと動けないはずのネッパーが、突如として動き出し、ボールを奪ったのだ。

 

「ヘブンズタイムが、破られた⁉︎」

 

土門の驚きの声が飛び、アフロディ自身も驚きを隠せないようで、呆然と立ち尽くしていた。動揺で、瞳が揺れる。

再び攻め込まれようとしたところを鬼道が奪い、豪炎寺がマークされているのを見て取ってから、アフロディにパスを出した。

アフロディはボールを受け取ってから、また突っ込んでくるネッパーを見据えながら、再び必殺技を発動した。

 

「ヘブンズタイム‼︎」

 

しかし、これもまた破られ、ネッパーにボールを奪われてしまった。

 

「ヘブンズタイムが、通じないっ……‼︎」

 

アフロディの表情が、驚愕の色に染まる。そんな中で、雷門イレブンはまた攻め込まれ、まだフィールドプレイヤーの動きの慣れない円堂も突破を許し、今度はバーンにボールが渡った。ゴール前は、完全にフリーだ。

 

「ジェネシスの称号は俺たちにこそ相応しい‼︎ それを証明してやるぜ!」

 

ボールを持ったバーンが、猛然とゴールに迫る。迎え撃つ立向居も、身構えた。

 

「アトミックフレア‼︎」

「マジン・ザ・ハンド‼︎」

 

まだ、究極奥義は完成していない。立向居は再びマジン・ザ・ハンドを発動したが、また破られてしまった。

 

 

 

 

 

こうして、為す術のないまま、点差はどんどん開いていき、10対0。既に何度もゴールを守ろうと立ち向かってきた立向居の息は上がり、その体勢はよろめいている。しかし、ゴールを守らねばという強い使命感が、今の彼を突き動かしていた。そんな彼を嘲笑うかのように、バーンがゴールに迫る。

 

「これで終わりだ! 紅蓮の炎で焼き尽くしてやる!」

 

これ以上シュートを受ければ、立向居がもたない。そう判断した円堂は、突然バーンの前に躍り出た。

 

「アトミックフレア‼︎」

「はぁあああっ‼︎ メガトンヘッド‼︎」

 

円堂が苦労の果てに生み出した、必殺技。メガトンヘッドは確かにアトミックフレアを捉え、拳で殴り返すようにシュートを弾き返した。しかし、力の相反を受けて、円堂の体は吹っ飛ばされてしまった。ボールはサイドラインを転がり出て、取り敢えず危機を脱したことを示した。

彼の身を案じて、雷門イレブンが円堂の周りに集まる。

 

「円堂っ‼︎」

「大丈夫か、円堂‼︎」

「キャプテン‼︎」

「う……大丈夫だ、これくらい……なんでもない!」

「円堂さん……」

 

円堂が仲間の心配を解こうと笑顔を見せるが、立向居はかなりのショックだったらしく、不安げな表情は消えない。円堂のこのディフェンスに、綱海と壁山は発奮した。

 

「よし! 俺たちも負けてられないぜ!」

「これ以上、点はやらないッス!」

 

 

 

 

これを機に、雷門DF陣の動きは良くなっていき、それに影響されてか、前線のFW・MF陣にも気合いが入る。

雷門の勢いが盛んになっきてきたのを見て、ガゼルが小さく呟く。

 

「これが、円堂の力……グランを惹きつけた、円堂の力か……!」

「だが、所詮は悪足掻きだ」

 

それに対照的に、バーンは余裕の笑みを見せる。まだ、得点差はある。雷門が追い付こうとしても、絶対に自分たちは越えられない。

 

 

 

 

 

確かに、雷門の活気がついたのは良かったが、実際の状況はさして変わらなかった。MF陣を上げ、DF陣を下げている所為で、中盤が手薄になってしまい、さらには相手DFのディフェンスで、なかなかゴール前へと突破できない。

鬼道も、なんとか突破口を見つけようと考えを巡らす。一体、どうすれば奴らを攻略できるか。ゲームメイカーとして、この試合を支配するためには、ここで奴らの落とし穴を見つけなければならない。鬼道は、焦っていた。

こんな時、青木がいれば……きっと彼女なら、あの雄叫びを上げてこんな不甲斐ない自分たちを鼓舞してくれるだろう。理由も分からないまま、ふと彼女の言葉が脳裏に反響する。

 

『ゆっくり行けばいいのです。……私も、貴方も。どれだけ時間がかかったっていい。必ず、解決します』

 

本来は吹雪に対しての励ましの言葉なのだが、何故か自分の背中を押してくれる。彼女が放った言葉だからだろうか。ここでふと、鬼道は大海原中戦後に語り合った音村の言葉を思い出した。

 

『この世は、みんなリズムの調和でできている』

 

リズム。それは一定の長さで常にビートを刻み、決して崩れることのない絶対のもの。鬼道は小さくブツブツとリズムを取りながら、カオスの動きをじっくりと見始めた。

円堂がボールを奪おうとネッパーに突っ込んでいく。ネッパーの傍らには、元ダイヤモンドダストのドロルと元プロミネンスのヒートがいた。円堂をかわすために、どちらかにパスを出す。ドロルがパスを貰おうとアピールをするが、ネッパーがパスを出したのはヒートの方だった。

 

「……!」

 

閃いた鬼道は、今度は自分でネッパーに仕掛けていく。また、ネッパーがドロルを無視してヒートにパスを出したところを、鬼道が読み、ボールをカットした。

 

「何……⁉︎」

 

まさか奪われるとは。ネッパーが驚きの表情を浮かべ、ドロルがジロリとネッパーを見る。その内に、鬼道がボールを奪ったのを見て、土門と円堂があの必殺技を放つために走り出す。

 

「いくぞ! 円堂、土門!」

「「おうっ‼︎」」

 

鬼道の合図で、3人が一気に跳躍した。

 

「「「デスゾーン2‼︎」」」

「バーンアウト‼︎ うぉおおっ……!」

 

カオスのGKがシュートを止めようとしたものの、デスゾーン2は確かな威力を持って、ついにカオスのゴールをこじ開けたのだった。


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